全てを極めた最強の俺が次に目指したのは、最弱でした。

第二章 幻影の都市ヴァルフォート編

第17話: 暗闇の中で響く叫び

ヴァルフォートの夜は再び静寂に包まれていた。しかし、その静けさの裏には緊張感が漂っている。宿の中、悠斗はベッドに横たわりながら、今日一日の出来事を振り返っていた。謎の衛兵たちとの戦闘や、街に漂う不気味な雰囲気……どれも気になることばかりだ。

「緋奈、今日のあの石板のこと、どう思う？」

隣のベッドにいるはずの緋奈に話しかけるが、返事がない。

「緋奈？」

悠斗は上半身を起こし、周囲を見渡した。部屋は暗闇に包まれている。ランプの微かな明かりが机の上で揺れているだけだ。

「……どこ行ったんだ？」

胸の奥に嫌な予感が広がった。緋奈がこんなふうに黙って部屋を出て行くことは考えられない。急いで身支度を整え、外に出る。

宿の外に出た悠斗を迎えたのは、しんと静まり返った夜の街だった。石畳の道を進みながら、耳を澄ます。しかし、人の気配どころか風の音すら聞こえない。

「緋奈……おい、どこだ？」

闇の中で悠斗の声が響く。しかし返事はない。焦りが胸を締め付ける。

その時、微かに響く声が聞こえた。遠く、助けを求めるような女性の叫び声。

「緋奈！」

悠斗は声の方向へと全力で走り出した。

声が導いた先は、街の外れにある古びた教会だった。壁は苔むし、扉は半分崩れかけている。どう見ても使われていない建物だ。それでも中からは、確かに声が聞こえる。

悠斗は剣をしっかりと握りしめ、慎重に扉を押し開けた。中に足を踏み入れると、湿気のこもった空気が鼻をつく。

「緋奈……いるのか？」

闇に覆われた教会の中を進むと、突然、目の前に現れたのは拘束された緋奈の姿だった。彼女は柱に縛り付けられ、口元に布を巻かれている。

「緋奈！」

悠斗は駆け寄ろうとする。しかしその瞬間、背後から襲いかかってきた影に気付いた。

「くっ！」

悠斗は咄嗟に剣を振り上げ、防御の構えを取る。目の前に立ちはだかったのは、黒いローブに身を包んだ数人の人物たち。その瞳は血のように赤く輝いていた。

「お前ら、何が目的だ？」

悠斗の問いかけに、ローブの一人が不気味な笑い声を上げる。

「この娘は特別だ。我らが儀式の供物として最適なのだよ」

「儀式だと？ふざけるな！」

悠斗は怒りをあらわにし、剣を構え直した。ローブの者たちは笑いを止め、次々と魔法陣を描き始める。

「この娘を取り戻したいのなら、力を示せ。我らを倒してみせよ！」

「上等だ」

悠斗は勢いよく飛び出し、敵に斬りかかった。ローブたちもまた、魔法や刃で応戦する。

戦いは熾烈を極めた。敵の放つ魔法の一撃一撃が、悠斗の動きを封じ込めるように襲いかかってくる。それでも彼は諦めなかった。

「緋奈を、返せ！」

剣を振り抜き、ローブの一人を撃破すると、残りの者たちは怯んだ。その隙を突き、悠斗は柱に向かって駆け出した。

「緋奈、大丈夫か？」

拘束を解きながら声をかけると、緋奈は涙目で彼を見上げた。

「悠斗さん……ありがとうございます」

その声に力が戻ったことを感じ、悠斗は微かに微笑む。

「さぁ、ここを出るぞ」

緋奈を抱き上げ、教会を出ようとしたその時、背後から新たな敵の気配が現れる。

「逃がすと思うなよ」

振り返った悠斗の前に立っていたのは、異様なほど大柄なローブの男だった。その手には大剣が握られており、その圧倒的な存在感が二人を圧迫する。

「悠斗さん……！」

緋奈が叫ぶ。しかし悠斗は彼女を庇うように前へと出た。

「安心しろ。俺が何とかする」

剣を構え直し、悠斗は敵と対峙する。闇の中、再び激しい戦いが始まるのだった。