16 / 24
第二章 幻影の都市ヴァルフォート編
第15話: 幻影の都市ヴァルフォート
しおりを挟む
悠斗と緋奈が断絶の地を抜けて数日が経った。果てしなく広がる荒野に耐えながら進んだ先に、一筋の希望のように現れたのは、古代文明の名残を感じさせる壮麗な都市「ヴァルフォート」だった。高い石壁で覆われた都市は、悠久の時を経てもなおその荘厳さを失っていない。
「ここが、ヴァルフォート……か」
悠斗が遠くを見つめながら呟く。緋奈は隣で静かに頷いた。
「はい。伝説によれば、この都市は“幻影の都”とも呼ばれているそうです。訪れる者によって景色が異なるとか」
「それって本当なのか?」
「分かりません。ただ、悠斗さんにはどう見えるのでしょう?」
悠斗が改めて目を凝らすと、遠くから見える都市はまるで光の膜を纏っているようだった。門から吹き出る薄紫の霧が空気に溶け込む様子は、どこか神秘的だ。
都市に向かう道中、緋奈は何度も悠斗に視線を送ってはすぐに逸らしていた。彼の足取りは確かで、迷いのないように見える。だが、自分の中にはどこかモヤモヤとした感情が渦巻いていた。
(悠斗さんは本当に私の気持ちに気付いているのでしょうか……)
緋奈の胸には、自分でも整理できない感情が幾重にも絡み合っている。彼を信頼している。彼とともに戦いたい。だが、それだけでは説明できないこの感覚。自分自身を持て余してしまうほどに、彼女の心は揺れていた。
「どうした、緋奈?」
悠斗の声にハッとして、緋奈は顔を上げた。
「いえ……少し考え事をしていただけです」
「ならいいけど、疲れてるなら無理すんなよ」
そう言って歩調を緩める悠斗に、緋奈は小さく微笑んだ。
(優しいですね、悠斗さん。でも、それがかえって意地悪なんですよ)
心の中でそう呟きながら、緋奈はその背中を追い続けた。
都市の門に辿り着くと、そこには数人の衛兵が立っていた。彼らは外部からの訪問者を厳しくチェックしている様子だった。
「何者だ」
「ただの旅人だ。ここに用があって来た」
悠斗が冷静に応じると、衛兵の一人が険しい目つきで緋奈を見た。
「そっちの娘は?」
「俺の仲間だ。何か問題でもあるのか?」
「いや……ただの確認だ。いいだろう、通れ」
衛兵たちの視線をやり過ごしながら、二人はようやく都市の中へと足を踏み入れた。
ヴァルフォートの中に入ると、広がっていたのは異世界のような光景だった。石畳の道には水晶のように輝く街灯が立ち並び、空には魔法陣のような模様が薄く浮かんでいる。建物は古代の遺跡を思わせるものばかりだが、その中には明らかに近代的な要素も混ざっていた。
「これがヴァルフォート……」
悠斗は驚きの声を漏らしたが、その隣で緋奈はどこか落ち着かない様子だった。
「悠斗さん、ここには何か……変な気配がします」
「変な気配?」
「はい。視線を感じると言いますか……まるで、見られているような」
緋奈の言葉に悠斗は警戒心を高めた。周囲を見渡しても、人々は普通に生活しているように見える。だが、その裏で何かが蠢いているような違和感があった。
その夜、宿を見つけた二人は部屋を分けて休むことにした。だが、緋奈はどうしても眠ることができず、窓辺に立って夜空を見上げていた。
(私がこんなに悩んでいるのに、悠斗さんは平然としている……私の気持ちなんて、気付いていないのかもしれない)
胸の内に湧き上がる不安。彼女は悠斗を信じたい気持ちと、彼の隣に立つ資格があるのかという自問自答の狭間で揺れていた。
その時、ふいにドアがノックされた。
「緋奈、起きてるか?」
悠斗の声だ。緋奈は慌てて窓から離れ、ドアを開けた。
「どうしました、悠斗さん?」
「いや、なんか寝付けなくてさ。お前も眠れなかったんじゃないかと思って」
彼の気遣いに、緋奈の胸が軽く締め付けられる。
「そんなことありません。ただ、少し風に当たっていただけです」
「そっか。でも、無理すんなよ。今日はもう休め」
悠斗が去った後、緋奈は一人部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。彼の優しさが嬉しい半面、それが距離感を曖昧にしているようで苦しかった。
(悠斗さん……私は、どうしたらいいのでしょう)
彼女の問いかけに答える者は、誰もいなかった。
「ここが、ヴァルフォート……か」
悠斗が遠くを見つめながら呟く。緋奈は隣で静かに頷いた。
「はい。伝説によれば、この都市は“幻影の都”とも呼ばれているそうです。訪れる者によって景色が異なるとか」
「それって本当なのか?」
「分かりません。ただ、悠斗さんにはどう見えるのでしょう?」
悠斗が改めて目を凝らすと、遠くから見える都市はまるで光の膜を纏っているようだった。門から吹き出る薄紫の霧が空気に溶け込む様子は、どこか神秘的だ。
都市に向かう道中、緋奈は何度も悠斗に視線を送ってはすぐに逸らしていた。彼の足取りは確かで、迷いのないように見える。だが、自分の中にはどこかモヤモヤとした感情が渦巻いていた。
(悠斗さんは本当に私の気持ちに気付いているのでしょうか……)
緋奈の胸には、自分でも整理できない感情が幾重にも絡み合っている。彼を信頼している。彼とともに戦いたい。だが、それだけでは説明できないこの感覚。自分自身を持て余してしまうほどに、彼女の心は揺れていた。
「どうした、緋奈?」
悠斗の声にハッとして、緋奈は顔を上げた。
「いえ……少し考え事をしていただけです」
「ならいいけど、疲れてるなら無理すんなよ」
そう言って歩調を緩める悠斗に、緋奈は小さく微笑んだ。
(優しいですね、悠斗さん。でも、それがかえって意地悪なんですよ)
心の中でそう呟きながら、緋奈はその背中を追い続けた。
都市の門に辿り着くと、そこには数人の衛兵が立っていた。彼らは外部からの訪問者を厳しくチェックしている様子だった。
「何者だ」
「ただの旅人だ。ここに用があって来た」
悠斗が冷静に応じると、衛兵の一人が険しい目つきで緋奈を見た。
「そっちの娘は?」
「俺の仲間だ。何か問題でもあるのか?」
「いや……ただの確認だ。いいだろう、通れ」
衛兵たちの視線をやり過ごしながら、二人はようやく都市の中へと足を踏み入れた。
ヴァルフォートの中に入ると、広がっていたのは異世界のような光景だった。石畳の道には水晶のように輝く街灯が立ち並び、空には魔法陣のような模様が薄く浮かんでいる。建物は古代の遺跡を思わせるものばかりだが、その中には明らかに近代的な要素も混ざっていた。
「これがヴァルフォート……」
悠斗は驚きの声を漏らしたが、その隣で緋奈はどこか落ち着かない様子だった。
「悠斗さん、ここには何か……変な気配がします」
「変な気配?」
「はい。視線を感じると言いますか……まるで、見られているような」
緋奈の言葉に悠斗は警戒心を高めた。周囲を見渡しても、人々は普通に生活しているように見える。だが、その裏で何かが蠢いているような違和感があった。
その夜、宿を見つけた二人は部屋を分けて休むことにした。だが、緋奈はどうしても眠ることができず、窓辺に立って夜空を見上げていた。
(私がこんなに悩んでいるのに、悠斗さんは平然としている……私の気持ちなんて、気付いていないのかもしれない)
胸の内に湧き上がる不安。彼女は悠斗を信じたい気持ちと、彼の隣に立つ資格があるのかという自問自答の狭間で揺れていた。
その時、ふいにドアがノックされた。
「緋奈、起きてるか?」
悠斗の声だ。緋奈は慌てて窓から離れ、ドアを開けた。
「どうしました、悠斗さん?」
「いや、なんか寝付けなくてさ。お前も眠れなかったんじゃないかと思って」
彼の気遣いに、緋奈の胸が軽く締め付けられる。
「そんなことありません。ただ、少し風に当たっていただけです」
「そっか。でも、無理すんなよ。今日はもう休め」
悠斗が去った後、緋奈は一人部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。彼の優しさが嬉しい半面、それが距離感を曖昧にしているようで苦しかった。
(悠斗さん……私は、どうしたらいいのでしょう)
彼女の問いかけに答える者は、誰もいなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる