全てを極めた最強の俺が次に目指したのは、最弱でした。

第一章 過去の出会い編

第9話: 深まる絆、揺れる心

静寂が支配する夜だった。試練を乗り越えた後の疲労が全身に重くのしかかる中、悠斗と緋奈は森の中の小屋で一夜を過ごすことになった。薪がパチパチと音を立てて燃える暖炉の光が、薄暗い部屋を優しく照らしている。

悠斗は壁に寄りかかりながら、深いため息をついた。

「全く、アスラの奴どこ行ったんだよ……無茶しやがって。」

悠斗の隣で、緋奈が膝を抱えたまま、小さく頷いた。

「本当に、心配ですね……。ですが、アスラさんはきっと戻ってきます。あの方はそういう方ですから。」

その言葉に悠斗は苦笑を浮かべた。緋奈の信頼には何か根拠があるのだろうか。それともただの願望なのか。どちらにせよ、その優しさが悠斗の心を少しだけ和らげる。

「……緋奈、お前って、どうしてそんなに人を信じられるんだ？」

悠斗がふいに問いかけると、緋奈は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに目を細めて微笑んだ。

「人を信じることは、怖いことでもありますけど……。でも、私は信じたいんです。そうすることで、自分自身が救われる気がするから。」

その言葉は静かで、どこか儚げだった。悠斗は思わず黙り込んでしまう。緋奈が抱えている過去に触れることはできないが、彼女がどれだけ辛い思いをしてきたのかを感じ取るには十分だった。

「……お前は強いな、緋奈。」

悠斗がつぶやくと、緋奈は小さく首を横に振った。

「強くなんてありませんよ。ただ、悠斗さんや皆さんがいるから、私も頑張れるだけです。」

その時、冷たい夜風が窓の隙間から吹き込み、部屋を一瞬だけ冷たく包んだ。緋奈は思わず肩を震わせる。

「寒いか？」

悠斗が声をかけると、緋奈は小さく頷いた。

「少し……。でも、大丈夫です。」

「無理するなよ。お前、すぐ体調崩すんだから。」

そう言うと、悠斗は立ち上がり、自分の上着を脱いで緋奈の肩にそっとかけた。

「これで少しはマシだろ。」

緋奈は驚いたように悠斗を見上げたが、すぐに微笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、悠斗さん。」

彼女の微笑みを見て、悠斗は少しだけ照れくさそうに視線をそらした。そのまま彼も隣に腰を下ろし、再び背を壁に預ける。

暖炉の火が揺れる中、二人は静かに時を過ごした。しかし、疲れがピークに達していた緋奈は、徐々に瞼が重くなり、ついにそのまま悠斗の肩に頭を預けてしまった。

「おい、緋奈……寝たのか？」

悠斗が声をかけるも、返事はない。すやすやと寝息を立てる緋奈の姿に、悠斗は困ったように笑った。

「仕方ねぇな……」

悠斗は緋奈の体をそっと横に倒し、ベッドの上に運んだ。彼女の銀髪が暖炉の光を受けて輝くのを見て、悠斗はしばし見惚れてしまう。

「お前、本当に不思議な奴だよな……」

そう呟きながら、自分も横に寝転がる。だが、横たわった途端、緋奈が眠ったまま悠斗に手を伸ばし、その胸元をぎゅっと掴んだ。

「……悠斗さん、行かないでください……」

その寝言に、悠斗は心臓が一瞬止まりそうになった。思わず赤面しながらも、彼女の手をそっと握り返す。

「行かねぇよ。どこにも行かない……」

そう言って、悠斗は緋奈の眠る顔を見つめた。穏やかで、どこか安心しているような表情だった。悠斗はそんな彼女を守ることを心に誓いながら、静かに目を閉じた。