上 下
4 / 24
第一章 過去の出会い編

第3話:魔物を斬る理由

しおりを挟む
魔物の唸り声が響く中、悠斗は大剣を構えた。目の前にいるのは「影狼」と呼ばれる魔物だ。黒い毛並みを持つ巨大な狼で、通常の個体よりも明らかに大きく、その目は深紅に輝いている。

「緋奈、後ろに隠れてろ」

悠斗の低い声が緋奈に指示を飛ばす。彼の背中は、揺るぎない強さを象徴するかのように堂々としていた。

「でも、私も戦えるようにならないと……」

「バカ言うな。お前が無事じゃなきゃ意味がない」

悠斗の目には、彼女を守り抜くという強い意志が宿っていた。

影狼が悠斗を見据えたまま一瞬動きを止める。そして、突然地面を蹴りつけ、矢のような速さで突進してきた。

「遅い!」

悠斗は冷静に大剣を振り上げ、斬撃を放つ。剣から放たれた衝撃波が影狼の足元を狙い、その動きを止めた。しかし、影狼はすぐさま跳ね上がり、悠斗の横をすり抜けようとする。

「なるほど、頭は悪くないな……」

悠斗は冷笑を浮かべながら、大剣を片手で持ち替え、その鋭い斬撃で影狼の後脚を狙った。刃が皮膚を掠め、黒い血が飛び散る。

「悠斗さん、すごい……!」

緋奈はその光景を見つめ、彼の圧倒的な技量に息を呑んでいた。しかし、影狼の攻撃は止まらない。その赤い目が緋奈を捉えた瞬間、悠斗の顔色が変わった。

「緋奈、伏せろ!」

悠斗が叫んだ刹那、影狼が緋奈に向かって突進してきた。緋奈はその場に倒れ込みながらも、必死に棒を構える。

「くそっ……間に合え!」

悠斗は全力で駆け寄り、影狼と緋奈の間に割って入った。その瞬間、影狼の鋭い爪が悠斗の肩を掠め、血が滲む。

「悠斗さん!」

緋奈が叫ぶが、悠斗は一切動じることなく、影狼に向けて剣を振り下ろした。その斬撃は重く、確実に影狼の胴体を捉える。魔物の断末魔が響き、巨体が地面に倒れ込む。

影狼の動きが完全に止まると、悠斗は剣を地面に突き立て、ゆっくりと息を整えた。

「大丈夫か、緋奈?」

「悠斗さん、肩が……血が……!」

緋奈は涙目で彼に駆け寄ったが、悠斗は軽く笑って首を振った。

「これくらい、なんてことない」

そう言いながらも、彼の顔は苦痛に歪んでいる。しかし、その強さを隠すように振る舞う姿は、緋奈の胸を打った。


村に戻った二人は、村人たちの歓声に迎えられた。

「魔物を倒してくれたんだな!」
「本当にありがとうございます!」

村人たちは感謝の言葉を次々と口にし、悠斗と緋奈に温かい食事を振る舞った。しかし、悠斗はどこか浮かない表情をしていた。

「悠斗さん、どうしたんですか?」

緋奈が尋ねると、悠斗は苦笑いを浮かべた。

「俺が守るのは当然だが……お前が危険な目に遭うのは不本意だ」

「でも、私も戦いたいんです。村を守るために」

緋奈の言葉には揺るぎない意志が込められていた。悠斗は彼女のその強さに感心しつつも、同時に危うさを感じた。

「戦うことだけが守る手段じゃない。まずは、生き延びる術を身につけろ。それからでも遅くはない」

「生き延びる術……」

緋奈はその言葉を噛みしめながら、小さく頷いた。


その夜、悠斗は村の外れで一人、星空を見上げていた。彼の肩の傷はすでに応急処置が施されていたが、その表情はどこか険しい。

「……俺が最強だったとしても、一人で全てを守れるわけじゃない」

彼は自分の限界を感じ始めていた。どれだけ力があっても、人々の生活全てを守り抜くことは不可能だ。それでも、彼は手を伸ばさずにはいられない。

「最弱を目指す、か……。まだその意味が分からないな」

ふと背後から足音が聞こえた。振り向くと、緋奈が立っていた。

「悠斗さん、何か考え事ですか?」

「お前か……いや、大したことじゃない」

緋奈は彼の隣に座り、同じように星空を見上げた。

「綺麗ですね、この星空」

「そうだな。だが、俺には眩しすぎる」

その言葉に、緋奈は首を傾げた。

「どうしてですか?」

「俺は力を振るうことでしか生きられない。お前のように、人のために純粋に動ける人間が羨ましい」

悠斗の言葉には、どこか孤独の影が見え隠れしていた。

「私は……強くなんかありませんよ。ただ、誰かの役に立ちたいって思うだけで。でも、そんな私に力を教えてくれる悠斗さんは、すごい人だと思います」

緋奈の笑顔は、悠斗の心を少しだけ軽くした。その銀髪が月明かりに照らされ、まるで光そのもののように輝いて見える。

「……お前が強くなりたい理由は分かった。俺もその力になると決めた以上、途中で投げ出すつもりはない。ただし、俺の教えは厳しいぞ」

「分かっています!」

緋奈の目には、再び希望の光が宿っていた。その純粋さに、悠斗は再び自分の決意を固めた。

「よし、明日から本格的な訓練だ。覚悟しておけよ」
「はい!」

二人の声が夜空に響き渡り、その音はどこか希望に満ちていた。悠斗と緋奈の新たな旅路が、ここから本格的に始まるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...