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プロローグ:孤高の最強

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夜空に広がる満天の星々。その輝きはどれも等しく美しいはずだったが、ある星だけがひときわ目立つように光を放っていた。人々はそれを「天星(てんせい)」と呼び、時代を超えた神秘の象徴として崇めていた。

しかし、その星が生み出すのは畏敬だけではなかった。その存在を目にするたび、人々は己の無力さを思い知らされる。「最強」と呼ばれる存在も同じだった。

天城悠斗。
彼は幼い頃から周囲と決定的に異なっていた。彼の身体には常人の何倍もの力が宿り、どれだけ過酷な環境下でも生き延びることができた。普通の剣は彼の手で瞬時に錆びつき、魔法は彼を前にして無力化される。彼が通った後には、全てが彼の力の証明となるような結果だけが残った。

しかし、その圧倒的な強さに憧れる者たちの視線を浴び続けるうちに、悠斗は次第に孤独を感じ始めた。

「お前は特別だ。誰にも負けることはない」

幼い頃、父が放ったその言葉は、悠斗の人生を決定づけた。周囲の期待を背負い、悠斗は強くなることを当然と受け入れてきた。勝つことがすべてであり、負けは許されない。彼は一度も敗北を知らなかったし、それを恥とも思わなかった。

だが、年月が経つにつれ、その「当然」が徐々に彼の胸を重くしていった。

「またか……」

ある日、大規模な魔獣の襲撃をたった一人で食い止めた帰り道、悠斗は無意識に呟いていた。周囲の歓声や感謝の声が響く中、それに応える気力も湧いてこない。英雄としての役目は果たした。それでも、心は満たされない。

「この強さに意味はあるのか?」

その疑問は彼の中で徐々に膨らみ、やがて答えを探すための旅へと彼を駆り立てた。

旅の途中、悠斗はある村にたどり着いた。そこは静かで平和な場所だったが、貧しいながらも住民たちは互いを助け合い、穏やかに暮らしていた。悠斗はそこで一人の少女と出会う。

彼女の名は霧島緋奈(きりしまひな)。

緋奈は村で唯一の「守り手」だった。武術の心得も浅く、魔法もほとんど使えない彼女だが、その小さな身体で村人たちを守ろうと必死に努力していた。悠斗は彼女の姿に興味を抱き、言葉を交わすようになる。

「なぜ、そんなに弱いままで戦う?」
悠斗の問いに、緋奈は微笑みながら答えた。

「弱さは、誰かを頼る理由になるの。それが、私の生きる強さだから」

その言葉に悠斗は衝撃を受けた。彼にとって「強さ」とは孤独を生むものであり、すべてを自分一人で背負う覚悟の象徴だった。しかし、緋奈の考え方は真逆だった。

悠斗は彼女との出会いをきっかけに、自分の追い求めていた「強さ」に疑問を抱くようになる。そして、ふと思った。

「最弱を目指す」という選択肢は、ありえるのだろうか?

月夜の下、悠斗は剣を手放した。
この刃が切り裂いてきたのは敵だけではない。自分自身の心もまた、深く傷つけられていたことに気づくのが遅すぎた。

「最強でいることは、本当に幸せなのか?」

その問いを胸に抱き、悠斗はもう一度、旅立つことを決意する。彼の目指す先は、「最弱」という未だ見ぬ世界だった。

だが、その道が簡単なものではないことを、彼はまだ知らない。

最強の存在が最弱を目指す――その先にあるのは、真の強さか、それとも……。
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