上 下
20 / 23

第20話 触と食

しおりを挟む
宙を舞うスライムはウネウネと体から触手を複数出し、シエロに向かって触手を伸ばす。
シエロはその攻撃を壁蹴りでなんとかかわしてみせる。
スライムの触手攻撃は地面に突き刺さり、地面には複数の穴が出来上がる。

あんなん食らったらヤバすぎるだろ!
……なら何でさっきは大丈夫だったんだ?
いや、大丈夫ってほどでもなかったか、スゲー痛かったし。
でも普通にあれを食らってたら俺の体にも穴が……怖い怖い、考えるな。
今はあいつをどうするかを考えないと。

シエロは自分が穴だらけになる姿を想像してしまったがすぐにその想像を振り払う。
最初に食らった攻撃で腹に穴が開いてなかった事を考えれば、あの攻撃はかなり痛くても体は耐えられるという事実だけは確かなことだったのだ。

攻撃力やら防御力やら、ステータスプレートに数値が書いてあるが、ウレールのステータスなんてテキトーに決まってる。
あんな穴の開くような攻撃食らったら防御力8の俺なんか即死のはず。
ゲーム脳で考え過ぎてたんだな。
俺は勇者んだ、そんな簡単にくたばってたまるかよ!

「スライムだろうが容赦しないかんな!喰らえ、アシッド!!」

シエロは手のひらから大量の酸を放出。
スライム目掛けて放出される酸は見事にスライムを捕らえた。

よし、これであいつは溶けるだろう!

シエロは酸を浴びたスライムがどうなっているかを凝視していた。だがスライムは

「おいおい、嘘だろ?」

一本の触手を回転させ、盾のようにして酸を防いでいた。
防ぎ終わると、酸によって溶け始めている触手を体から分離させるのだった。

「そんなのありかよ………グッ!?」

スライムに気を取られて周りを見ていなかったシエロはスライムから伸びた他の触手に気づかず、側面から触手の攻撃をモロに喰らってしまったのだ。

攻撃で穴が開くわけでは無かったものの、触手攻撃を受けた左腕と左足は動かすことが出来ないほどの激痛が走っていた。

クソ痛い……やばい飛びそう。

体は何故か頑丈なシエロだが痛みだけはどうにもならず、スライムの攻撃は身体的にというよりも精神的にシエロの意識を削っているのだった。

さっきからこんなに攻撃喰らってるのに、なぜほとんど怪我がないんだ?
壁にめり込んだりして額を切ったりはしてるがほとんど致命傷にはなってない。
俺は本当に平気なのか?。
俺もう死んで夢でも見てるのか?

現実で起こっていることは夢のようなことばかり。
運良く水死体にならなくて済んだと思えば、あの強力なスライムと戦うハメに。
運良いのか悪いのか分からない。
そもそもこの洞窟にはクリスタルスライムしかいないって言う話だったじゃないか!
話が違うじゃないか……うわ。

シエロは触手の猛攻をダッシュで逃げながら頭をグルグル回していた。
スライムの攻撃は手を休めることなくシエロを狙い続ける。
シエロが避けて触手が地面に突き刺さる度、爆発したかのような破裂音が響き渡る。

「おい、お前。話出来るんだろ?。今すぐ攻撃やめろー!」

俺は触手から逃げながら大声でスライムに頼み込んでみる。
でもスライムは攻撃を辞める気配が全くない。
なら戦うしかないけど酸は効かない、鍬はさっきの水で流されたし。どうしよーーー。
そうだ、あいつらがいる。

「ヨヨー、おいヨヨー!。そうだアリス、アリース!。あっ、レームって女神でも良いですよ。レームさーん、見てませんかってどぅあ」

シエロは神を信じないと心に誓っていたにも関わらず、窮地だからしゃーなしと知ってる神の名前を連呼する。
しかし誰からの返事も無く、シエロは触手に足を掴まれてしまった。

「クソ、アシッド!」

シエロは自分の足を溶かさないように体から離れた位置に酸を放つ。
直撃したスライムの触手はまたも体から切り離され、シエロは解放されるのだった。

「………」

「クソ、らちが明かない」

「……キカナイ…………トメル」

「効かない?……止める?……なんだ?」

黒いスライムはまた変なカタコトを話し出し、急に触手を引っ込める。

俺に攻撃が効かないとか思ってくれたのだろうか。
もしかしたらチャンスかも知れない。
触手が出て無い今のうちに一気に距離を詰めてアシッドを喰らわせるか?
逃げ出してくれるならそれでも良いが……どう出る?

シエロはスライムの行動を様子見するか、又は自分から仕掛けるかの二択に悩んでいた。

すると先に動き出したのはスライムの方であった。
地面を思いっきり跳ね、シエロに向かって一直線に飛んでくるのだった。

突然のことに驚きはしたが、真っ直ぐ向かってくるスライムならこっちも全力で酸を出してやれば良い。

「喰らえ、アシッ……!?」

シエロはスライム目掛けて酸を放とうとするがスライムの突進スピードは想像以上に早く、シエロはスライムに取り憑かれてしまったのだ。

「しまっ……うっ……あがが」

シエロの顔に飛びついたスライムはシエロの口を塞ぐのであった。

やばい……これはやばい。

スライムは完全に俺の呼吸を止めに来てる。
剥がそうとしてもツルツル滑って上手く引き剥がさない。

酸を出そうにも、今攻撃すれば自分の顔も溶解してしまい、倒しても自分が助かる見込みが全くない。

限られた時間は長くても数分。
その数分でなんとかしなくては窒息死させられる。
どうするどうするどうするどうする。
俺にできることは酸を出して胃と肩を治すぐらいしか………くそ、やばいやり方を思いついたが……そんなことやれるか?。
……いや時間がない、どうせ死ぬの待つだけならやるしかないんだ。

「ナニ………イキ……!?」

スライムはシエロのやっていることに驚く。
シエロの決断、引き剥がすでも攻撃するでも無い。
スライムを食べてしまうことだった。

口にくっつくスライムを一気に飲み込むシエロ。そしてステータスパネルですぐさまアーツを発動させる。

体に取り込んだスライムは、体の中から逃げようと試みていた。
内臓を直接攻撃されるシエロの激痛は想像を絶する痛みだった。
だがスライムはシエロの内臓を突き破ることは出来ない。
それはスライムが今強固な壁に阻まれたアシッドの海の中に閉じ込められた状態だったからである。

シエロがステータスパネルで発動し続けているアーツは2つ。
1つは酸攻撃のアシッド。
そしてもう一つは使い道など全く無いと思われてたアーツ、胃を元に戻すであった。

胃の中にスライムを閉じ込めてアシッドを胃の中で大量に放出。その後胃を元に戻すで胃が破れる前に回復。それを交互にステータスパネルで実行していたのだ。

胃の中で暴れてようとするスライムに何度白眼を向かされたか分からないが、涙を大量に流しながらもシエロは自分の決めた作戦を実行し続けるのであった。

アシッド……胃を元に戻す………アシッド……胃を元に戻す。
MPが少ないシエロは連続でアーツを発動してもすぐMP切れを起こすと思い。それぞれの技を感覚的に間を置いて発動するのだった。

酸で溶けかかってるとはいえスライムの暴れようはすごいものだった。
痛みに耐え、MPが切れるまでに頼むから倒れてくれと俺は願い続けた………





「………コイツデイイカ………マタイツカヒツヨウナラバワタシハ……………カンシャシロヨ………オマエニシテヤル………………◼️◼️◼️◼️◼️◼️………………ヨシ……」

「………」

胃の中で消えてゆくスライム。
だがそんなことは知らず、シエロは完全に失神していたのだった。

手元に表示されたままのステータスプレートはシエロの知らないところで変化を見せるのであった。
















スキル:◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

処理中です...