転生して来た勇者なのにそんな扱いですか？〜魔王がいないのでとりあえず王様ぶっ飛ばします！〜

第11話 戦闘開始

ザクッ………ガチン…………ザクッ…………ガチン………ザクッ…………ガチン

静かであったスライムの巣穴に響く鈍い音と甲高い音。

ザクッ………ガチン………ザッ…ザッ…ザッザッ

「……嘘、刺さんない」

音の発信源はシエロであった。
短剣を壁に刺し、鍬を魔鉱石に引っ掛けゆっくりと元いた穴から下に降りて行く。しかし途中で短剣が壁に刺さらず、焦っていたシエロ。

「その距離なら飛べよ」

「いや、もうちょい…もうちょい」

勇者の情けない姿を見てヨヨは呆れる。
ヨヨは飛べと言うが地上までは5、6メートルはあるだろう。
まだ飛ぶには早いとも思う距離。
俺は安全に安全にと地上に向かって壁をつたって降りようとしているが

パキーン！

と甲高い音が俺の短剣から聞こえた。

さっきまで自分の体重を支えてくれていた短剣はとうとう折れてしまったのだ。
アスティーナでもらった短剣の先は岩の壁に持っていかれてしまい、剣を持っていた左腕は宙ぶらりん状態。
折れた短剣は壁を刺せるほどの剣先も無い、ただのガラクタになっていた。

「勇者にこんな短剣持たせんなよ！」

短剣の使い方が悪いのは分かっていたが、勇者に渡すなら無敵の剣でも寄越せよとリュードたちを思い浮かべながら折れた短剣を遠くへ投げ捨てる。

右手の鍬で魔鉱石にぶら下がるだけになった俺。
まだ4、5メートルはあると思うがこうなったら飛び降りるしか無い。

「よし、行くぞ………大丈夫かな？」

俺は勇気を振り絞って鍬を魔鉱石から外し、地面に向かって落ちていく。
空中では死の恐怖を抱きながら地面が近づくのを凝視していた。
だが足が地についた時には何事もとも無かったかのようにけろっとしていた。

「そんぐらいじゃ怪我しないだろ」

「はぁはぁ、嘘…普通に着地出来た。そんぐらいて。5メートルはありますよ」

「だったそんぐらいだ！ジルでも壁2、3回蹴れば降りて来れるぞ」

「マジですか？」

俺は元いた穴を見上げながらヨヨの言ったことを想像してみる。
農民のジルがやれることなら自分でもと思ってはみたが、自分の弱々ステータスでは足を滑らせただけで落下死という未来しか見えなかった。

「ジルって農民なのにすごいんですね」

「いや、ウレールの奴なら誰でもできると思うぞ。お前だ……待て、気配を感じる。多分だがいるぞ」

ヨヨは俺に何か言いかけたが、途中で言うのを止め、あたりを見渡し始める。

「……いたぞ！」

「………えっと……どこですか？」


ヨヨは光り輝く魔鉱石の1つを指差し、俺に構えろと指示してくる。
俺も驚いて構えてはみるが……何もいないではないか？
たしかに何か石がすれるような音はした気がしたが。

シエロはヨヨがいたと言ったものを認識してなかったが、それには理由があった。
シエロが思い浮かべていたのは青い丸まったゼリー状の魔物。
元いた世界でのゲームによく出てくる一般的なスライムだったのだ。
その目の前にある大きな魔鉱石がウレールの人間が言うスライムとシエロは攻撃が目前に来るまでは全く気づかなかったのだ。

ヨヨが指差した魔鉱石。
大きな魔鉱石だなと思ってぼーと見ていた俺だが、ある変化に気づく。
目の前から小さな魔鉱石が俺目掛けて飛んでくるのが見えた。

反射なのか、俺はその魔鉱石を認識した途端に体を伏せており、魔鉱石の直撃を回避していたのだった。

だがまだシエロは状況を理解はできてはいない。
今何が起きてそうなったのかは、スライムの概念が定着しているシエロには理解出来る訳もなかった。

「ヨヨ様！今何が？」

「ボケっとすんなよ。ほれ次来るぞ！」

ヨヨはさっきと同じ魔鉱石を指差し、体勢を整えろと言う。
俺はヨヨの言う通りに今度はしっかりと魔鉱石を凝視する。
するとどうだ。魔鉱石だと思っていた結晶からニョキニョキと腕のような物が生えてきたではないか。その生えてきた腕の先にはには小さな魔鉱石が握られており、魔鉱石はその腕で思いっきり小さな魔鉱石を俺めがけて投げてきやがった。

「マジかよ」

最初から投げる動作を目視した俺は反射ではなく、自分の意思でガードすることを選んだ。腕を上げ、飛んでくる小さな魔鉱石を迎える。

この時の俺はこの一瞬の動作は誤りだと思った。俺の体力はステータスを見ても8しかない。だいたいの攻撃で最低1は食らうのがゲームなどのお約束。回復もない俺には1だとしても致命的。避けれるのなら避けるべきだったと刹那せつな的に思っていた。

ガードで上げた腕に魔鉱石は当たり、ゴトッという音を立てて地面に落ちる。

「………あれ？そんなに痛くない？」

飛んできた魔鉱石は確実に正面から当たった。
だがその攻撃は想像を遥かに下回る痛みしかなかった。
骨が軋《きし》むレベルの勢いだと思っていたのに小石をぶつけられて痛！ってなるぐらいにしか痛みがない。

「全然痛くない……そうだ体力！」

俺は体が大丈夫なことを確認した後、すぐさまステータスプレートを確認する。
自分のダメージを確認するためだ。だが

「あれ？……変わってない？」

ステータスプレートの体力表記は変わらず8。

体に問題はない。そして体力が減るわけでもない。
おかしなことが起こっていると思ったが、俺はそれを見て一つの仮説を立てた。

あの魔鉱石の攻撃ぐらいならノーダメージなのかもしれない。

そうだ、ここはLv1でも戦えるって言われたところなんだ。
こんな石っころ1つでダメージ食らってたらかなりの無理ゲー。
なるほど……なるほど！！！

俺が自分の立てた仮説に納得していると、さっきまで見つめていた魔鉱石の他に8体もの魔鉱石が動き始めた。
だがどんなに増えようと石を投げつけてくるだけなら問題無い！

「ダメージ無いなら怖くないじゃん！いくぞ石っころども！！うりゃーーー！」

「あ、待てよシエロ！」

ヨヨが何か言いかけていたが、シエロはヨヨの話を聞かず、ただまっすぐに魔鉱石の群れに飛び込んで行くのであった。