お狐様が一目惚れした贄(夫)

愛原有子

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第十話,試験当日

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 試験の当日,由貴は本番ギリギリまでずっと練習してしました。

「由貴よ,努力することはいいことだが,体を壊しては元も子もないぞ。」

「ごめんね,氷織。このくらいにしておくね」

30分くらい休憩していると,ようやく時間になり,みんなが会場に集まりました。

会場は舞台の上に調理用のキッチンが左右に置かれており,いかにも対決用の配置になっていました。

左に由貴,右に雨月様が立ち,両方が配置につくと,舞台を見渡す中央の席に座っていた指揮官が立ち,声を張り上げました。

「これより,雨神こと雨月様と人間の若君,由貴様による,氷の神こと氷織様の花婿を決める試験を行う!」

指揮官はそう叫ぶと,尻尾のような太い毛のついた杖を天井に掲げて言いました。

「第一種目は料理対決じゃ!それでは,配置につき調理開始じゃ!」

指揮官はそういうと,天井に掲げた杖を風を切るように思いっきり振り下ろしました。

指揮者の掛け声で対決がスタートし,制限時間30分で由貴は慎重に手際よく料理を作っていきました。

雨月様も不器用ながらに錦に教えてもらった簡単な料理を作っていました。

「終了!」

指揮官の指示に二人は手を止めて,それぞれ作った料理を家臣たちに寄って運ばれていきました。

毒味役が一口食べ,両方問題なく通過し,指揮官が雨月様の料理を一口食べると,話し始めました。

「うむ…雨月様の料理は至って普通じゃ。
ただ…うまいが栄養にちと偏りが出ておる…」

雨月様の料理は錦が火織の好物を教え込んだだけだったので,料理はバラバラで栄養が偏ってしまったのです。

次に指揮官は由貴の料理を口にすると,声を上げました。

「んっ…!」

毒味役は焦って指揮官に尋ねました。

「し…指揮官!どうなさいました!」

指揮官は近づこうとする毒味役に,手で合図をして話し始めました。

「なんでもない…これは…なんたる美味か。
センスもさることながら,隠し味もなかなかのものじゃ。まるでどこかの料亭のようじゃ。」

由貴が作った料理はどれも手の込んだセンスをしており,素材の味をそのまま活かした海鮮料理でした。

由貴の料理に満足した指揮官は箸を置き,正面を向いて言いました。

「第一種目は由貴様の勝利じゃ!」

その声かけに会場は盛り上がっていきました。

「くっ……」

雨月様と錦は唇を噛み悔しそうにしていました。

第一種目目に決着がつくと,第二種目目に入りました。第二種目は第一種目と異なり,四段階に分かれていました。

一段目は茶の淹れ方

二段目は礼儀作法

三段目はファッション披露

四段目は伝統行事の氷の湖での舞

でした。

ステージに移動するために,指揮官が杖を天井に掲げた瞬間,移動の魔法を使いました。

光に包まれて,移動した会場は左右に畳の座敷のようなところに座っており,ここでは一段目の茶の淹れ方と二段目の礼儀作法などをみました。

雨月様は甘やかされてはいても,家柄的に礼儀作法などは小さい頃から叩き込まれていたので,楽々こなしていました。

由貴も元生贄といっても,いいところの息子で,神様に失礼がないように最低限のマナーは教わっており,教われなかった部分は何度も練習して覚えました。

お互い知識があったので,序盤の礼儀作法は引っかからずにクリアしました。

       続く

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