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第十六話 変化する世界
しおりを挟む一周回って開き直って、僕たちは毎日セックスした。
楓の両親が帰ってくるまで、楓の家に入り浸ったのだ。
事情を知っている母さんは毎日帰りの遅い僕を見てニヤニヤしていたが。
携帯電話も買ってもらった。家に帰ったらあった、というのが正しいけど。
最新型のスマートフォンだ。僕のほうがスマートではなかったので使い方は全然わからない。母さんと楓に教えてもらってようやくある程度使えるようになった。
登録されているのは両親と、そして楓。ほかに友人がいないので、今のところ登録はそれだけだ。
少し変わったことがあるとすれば、避妊を毎日ちゃんとするようになったことと、家に帰ってからも電話したりできるようになったこと。
話すことなんて他愛のないことばかりだ。
今度行ってみたい場所や、してみたいこと。
好きな食べ物や動物の話。──ちなみに僕はハムスターが好きだ。前はそうでもなかったのだけど、どことなく楓に似ている気がしたから。
楓は大きな動物全般が好きらしい。アルパカに乗ってみたいと言っていた。小さいからできないこともなさそうだと思う。乗っている姿はきっと可愛い。アルパカにはいい迷惑だろうけど。
楓は小学生が背伸びしてセーラー服を着ているような見た目だ。ゴールデンレトリバーみたいな大型犬にでも乗れるだろう。
電話ではそういうことを話す。
学生カップルとして健全な時間はそこにあるのだ。
二人きりでいればどうしても最終的にセックスにつながってしまう。だが電話越しという物理的に遠い距離であれば、そういう話にはならない。
個人的には好きな時間だ。ご飯を食べて、風呂に入って、眠くなるまで勉強していただけの時間が楽しいものになったから。
学校から帰る時も遠くで待ち合わせをやめて、最初から、学校を出る時から一緒に帰るようになった。
今別れるつもりなんてないし、バレてもいいと思ったのだ。
案の定少しからかわれたりもしたけど、案外祝福ムードというか、悪くない空気だった。
僕が思っていたよりも世界や人というのは懐が深くて、関わりを持とうと思えばそんなに悪いものじゃないのだと知った。
今まで見えていた景色とは違う。
何もかもくだらないと思っていたのが馬鹿らしくすら思える。かつての自分なのに。
僕たちには少しだけ友人のような存在が出来始めていた。
教室で少し話すだけの関係性で、友人とは呼べないかもしれないくらいのレベルだ。未だに連絡先は知らない。
外部をシャットアウトしていた今までと違い、僕と楓は学校でも一緒にいることが増えたからなのだと思う。
単純に話しかけやすくなったのだろう。
楓は化粧も含め、大きく変わった。
以前までの野暮ったい長い髪を少し切って、顔がよく見えるようになった。僕の方もそうして欲しいと思う。楓はそもそも可愛いのだ。今まで隠していただけ。顔がよく見えるようになって余計にそう思う。周りから見ても可愛い方だ。客観的に、惚れているというフィルターを除いてみても可愛い。周囲の反応を見ても分かることだった。
僕たちを繋いだ張本人、吉田は楓の変わりようを見て変な顔をしていた。
吉田から見ても可愛く思えたのだろう。罰ゲームのはずだったのに、褒美に近いことをしてしまったのだと気づいたのだ。実際僕は吉田に感謝している。
変な話だ。いじめのターゲットにしてくれてありがとう、と心から思っている。
ショッピングモールの前日から髪を切ってはいたらしいが、二人で美容室に行ったときにもっと顔が見えるようにした。僕の方も同じ店で切ってもらった。ちょっとおしゃれ風になったらしい。楓と母さんからの評価だ。
感性が鈍めの僕はよくわからないのだけど、一応毎日その髪型を維持している。
はっきり言って面倒くさい事この上ないのだが、楓は嬉しそうな顔をするので維持するほかない。
要するに、僕たちは少しだけ垢抜け始めたのだ。
色気づいた、といえばそれまでだけど。
女子の友人が増えたと楓は喜んでいた。学校で本を読んでいない。
友達がいないから本を読んでいたと言っていたから、今は読む理由がないのだろう。
男は全てシャットアウトしていた。堂々と僕と付き合っていると公言している。
変な優越感があった。むずむずするような変な感覚だけど不快感はない。──多分嬉しいのだ。
「佑樹くんと付き合い時始めてから、人生全部上手くいってる気がするよ」
「僕の方もだ。友達っぽいのも出来始めたし」
「私もっ。高校に入ってから初めて友達できたっ! ──で、でも佑樹くんが一番好きだよ?」
「当然僕も。不思議だよね。ちょっと見た目が変わったくらいでこんなに」
「だね。──浮気しないでね? 佑樹くん前よりかっこよくなっちゃったから……」
「しないよ。楓の方も気をつけてね? 最近モテるでしょ?」
「全然? 男子とかどうでもいいもん。見た目だけで来るって……気持ち悪い」
「──意外と辛辣だね?」
楓は真顔で言った。だからこそ本気のように見えて怖い。
あからさまな嫌悪感。吉田も含め、地味で可愛くないと思っていただろう男子が寄ってくるのは気分のいいものではないのだろう。
「気持ち悪いよ。今まで馬鹿にしてたくせに」
「まぁ……だね。僕も周りの変わりようには驚いてる」
「ちょっと気味悪いよね。──友達できてから余計に佑樹くんのこと好きになったよ」
「そうなの?」
「うん。だって佑樹くんは私が変わる前から好きだって言ってくれたもんっ。可愛い可愛いって」
「だ、だって可愛くて……」
「そう、それ。──ね?」
「僕の方もそうかも……楓以外かっこいいなんて言ってくれないからね」
「佑樹くんほんとに気をつけてね? ──か、かっこいいって友達言ってたからっ!」
「はぁ? ないない、ありえないよ。僕なんて全然」
「ひ、人のものだと思うと欲しくなる人っているのっ! それに佑樹くんかっこいいもんっ! クールなのに優しくてっ!」
「あ、ありがとう……でも浮気とかはないから。母さんたちには悪いけど、楓が一番大事なんだ。僕を変えてくれて、世界を広げてくれた。そ、それにその……気持ちいいこともしてくれるし」
「もっと気持ちよくするっ! お、おっぱいもちょっとおっきくなってる気がするっ! 張ってるっていうか、小学生のときに感じた変な感じするもんっ」
「楓がおっきくなったら、今よりしたくなっちゃうから困るかも……今でさえ全然我慢できてないのに」
「そっちのほうがいい。わ、私も気持ちいいもんっ。佑樹くんすごすぎだよっ? 前は毎日ひとりえっちしてたけど、今は一回もしてないもん。──お、思い出したときはすっごいぬるぬるしちゃうけど……我慢してるっ」
「今日もいい? 僕の方も我慢できないんだ。毎日というより、ずっとしてたい。楓の体温とかすごく安心するんだ。ひとりじゃないって思えるというか……」
「わかるよ? あったかくて安心するよね。このために生まれたんだって思うもん。好きな人とするために生まれたんだって。ほ、ほんとは何もつけないでしたいんだけどっ。佑樹くんの赤ちゃんなら欲しいからっ……」
「明日楓の両親帰ってくるんだよね。──挨拶してもいいかな。結婚したいって言いたい」
「──うん。私も会って欲しい」
「頑張るよ。認めてもらえるように」
「お母さんは平気だけど、お父さんがわかんないんだよね……」
「大丈夫。何回か殴られるつもりだよ。うちがちょろすぎなだけだから」
「え……殴られるの?」
「僕が父親なら殴りたくなると思うよ。というかそれに耐えられるような男じゃないと嫌だ」
「意外と古風なんだね?」
「なのかなぁ……?」
父親にとってはそういうものじゃないかと思う。
楓には言わないけど、土下座もするつもりだ。僕の頭で楓との関係を認めてもらえるなら安いものにも程があるくらいだから。
「佑樹くん、す、好きだよ? 真剣に好きだって思ってくれてるんだよね?」
「好きだよ。──いや、愛してる。僕の人生に楓がいてくれないのは嫌だ。絶対に嫌だ」
「う、うん……な、泣きそう」
「泣かなくていいよ? これから何回でも言うつもりだから。──結婚してくれる?」
「うんっ! 小さい頃からの夢だもんっ!」
「もっと、もっと早く好きになりたかった。そうしたらもっと長くいれたのに。僕はもう楓がいない人生なんて考えられない。母さんも言ってたけど、楓以上なんてきっといないんだ」
「私も。私は佑樹くん以外好きになったことないけど、それでよかったと思う。私に優しくしてくれたのは佑樹くんだけ。困ったときや危ない時、いっつも助けてくれた。──間違ってなかったっ!」
外だというのに、楓は僕に抱きつく。
──周りの目なんてどうでもよかった。
僕の方も抱きついて、二人で少し泣く。
周囲を歩く人は僕たちを見て笑ったりする。──どうでもいい。楓さえいれば周囲の目線なんてあってもなくても変わらない。
外気の寒さなんて気にならないくらい、楓は暖かい。僕を受け止めてくれる小さな体が愛おしくてたまらない。
「好きだよ、楓」
「私も佑樹くんが好きっ!」
見られていようとなんだろうと、何もかも気にならないくらい口にしたい。
とても恥ずかしい光景だろうと思うけど、誤魔化す気なんて欠片もならない。
楓が、楓だけが救いだ。楓だけが僕の生きている意味なのだ。
「佑樹くん、家、家行こっ? 私もうだめ、佑樹くんと赤ちゃん作りたいっ!」
「僕もだっ!」
手をつないで、少し早足で楓の家に向かう。
今すぐ楓と二人きりになりたい。理性なんてどうでもいい。
家に着いて、僕は玄関先で楓を押し倒した。
体の疼きが抑えられない。何もしていないのに勃起してしまっている。
体は冷えているのに、下半身だけが変に熱い。
──楓を妊娠させたい。本能がそう言っている。
息切れしたように呼吸が荒れていた。
楓も顔を真っ赤にして息を乱していた。
「か、楓、僕、今日避妊したくない、──妊娠して欲しいっ!」
「わ、私も佑樹くんの赤ちゃん欲しいっ!」
「いい? ぼ、僕おかしくなりそうなくらい興奮しちゃってるよっ!?」
「うん、いいよっ! なかにいっぱいびゅうびゅうして欲しいっ!」
よその家の玄関先で、制服のまま体をまさぐり合ってキスをする。
──ああ、本当にケダモノみたいだ。
動物と同じ。繁殖活動をしたくてたまらない。
自分のズボンを片手で膝のあたりまで下ろして、楓のスカートの中に手を突っ込む。
ぬるりと滑り、指に熱い液体が絡みついた。
「ぐちょぐちょになってる……」
「だ、だってっ、え、えっちしたいっ、ゆ、佑樹くんのおちんちんっ、そのままほしいっ!」
「僕もダメだっ、もう入れさせて」
「きてっ……」
興奮がおかしなほど高まっている。
ペニスからはだらだらと汁が垂れて、玉の方まで濡れているのがわかる。
久しぶり、といっても数日ぶりの避妊無し。コンドームをつけている時よりも大きく固く反り返ってしまっている。
しゃ、射精しそう。まだ挿入してもいないのに。
長くつながっていたいのに興奮しすぎている。
パンツを横にずらして、割れ目にぐにぐに押し付けて膣口を探す。楓の膣口は小さいので注意しないとわからない。
熱くなった割れ目の肉が亀頭を挟む。柔らかくてぬるぬるしていて、意識を集中していないと外側の刺激だけで射精してしまう気がした。
亀頭に引っかかりを覚える。
──見つけた。ようやく繋がれる。
腰を少し前に出すと、楓は僕を包むように受け入れてくれた。
熱い熱い肉の壁。細かな突起が絡みついて、気持ちよくしてくれる。
も、もうコンドームしたくない……。
全然違う。いつもでさえ気持ちよすぎるのに、生でしていると口を閉じていられない。
ぐ、ぐ、と腰を押し付けて、楓の奥へ入れていく。
ぷりぷりしたひだがひっかかり、恥ずかしい声が出る。
「あっ、楓っ、気持ちいいよ、すぐ出ちゃいそうっ」
「ゆ、佑樹くんのいつもよりおっきいっ! あっついのぐりぐりきてるっ、き、きもちぃっ! な、なかでびゅうってしてっ、お、おまんこのなか、佑樹くんの精子でいっぱいにしてっ!」
「あうっ! ふぁっ!」
「んっ、あっ! びゅ、びゅるって奥にっ! あったかいよぉっ、うれしいっ!」
「あっ、あっ! すごい出るっ、止まんないっ」
「出して、出してっ! あ、あかちゃんつくろっ! いっぱい、いっぱいえっちしてっ!」
「する、今日はずっと、動けなくなるまでするっ」
「は、はげしいぃっ! 奥ごりごりっ、あっ、だめ、だめぇっ、それ弱いのっ、きもちぃっ、い、イッちゃうっ、い、イくっ、いぃぃ、イくっ、イくっ!」
「ぼ、僕もまた出るっ……」
無意識に楓の肩を掴み、腰を押し付けてしまう。
すごい、楓が僕の全部を飲み込んでくれている。最初は全然入らなかったのに。
奥のこつんとしたところに亀頭が引っかかる感覚がスイッチになり、すぐに二度目の射精が始まった。
イッてしまっているせいか、楓の中は熱く、蠢くように僕のペニスにへばりついてくる。
一分の隙もなく、ぷりついたひだが僕の射精を促していた。
し、しぼられるっ!
ペニスの奥から絞り出そうとする動きをされて、ペニスは喜んで精液を吐き出していた。
──脳がとろける。
子作りを意識すると同じ射精でも感覚が違う。
一回目は尿道に詰まってしまったような感じで思うように飛び出なかったのに、二回目はびゅっびゅと勢いよく出た。
感覚が鋭敏で、全身すべてがペニスになってしまったような、痺れにも似た快感で満たされる。
息の仕方がわからない。ペニスの脈動と同じタイミングで呻き声がこぼれてしまう。
──僕の精子は楓の子宮にちゃんと届いているだろうか。
「あかちゃんできそうっ、たぷたぷしてるよっ!」
「ま、まだだよ、まだまだ出したりないっ」
「べ、ベッドいこっ……? やっぱり裸でいちゃいちゃしながらえっちしたいっ! キスしたりすりすりしながらあかちゃん作りたいよっ……」
「楓っ!」
「わ、わわっ! お、おちんちん入ったままでだっこだめっ、奥、奥っ! うぁっ、入りすぎるっ、おちんちんで持ち上げられてるっ!」
繋がったまま、楓を持ち上げる。
軽くて小さな楓の体を持ち上げるのは難しいことではなかった。
亀頭が押しつぶされるような感覚で、顔がこわばってしまう。
足に絡みつくズボンは玄関に乱暴に捨てた。
一歩歩くたびに刺激が登ってくる。
楓は僕の首に腕を回し、必死な顔でしがみついていた。
階段が苦痛だ。片方ずつ脚を上げるたびに、ピストン運動をしているような状態になる。
緊張で体がこわばっているせいか、ただでさえきつい締りがさらにきつい。
で、出そう……。階段途中なのに、膝ががくがくしている。
「ああっ……佑樹くんすきっ、こういうえっちもすきっ、頭とろとろになってるっ……ずっとイッてるっ……! おなかきゅんってするよっ」
「ご、ごめん、部屋つく前に出ちゃいそうっ……」
「いいよっ、いつでもびゅってっ、びゅってしてっ! すきだよっ、すきっ」
「僕も好きだっ……ああっ」
階段の壁に楓を押し付けて、立ったまま射精する。
足腰に力が入らなくて、階段の踏み板に尻餅をついた。
「ま、まだどくんどくんしてるっ……へ、へんなとこであかちゃん作りしちゃったね……」
「う、楓の中がギュウギュウで、ごりごりしてるから」
「き、気持ちいいっ?」
「最高だよ。全然収まる気がしない。──わ、悪いけど歩いて部屋行こ? 腰に力が入らないんだ」
「わ、私は最初からそのつもりだったんだよっ? なのに佑樹くんえっちしたまま行こうとするから……」
「抜きたくなくてね……」
楓の温度から離れたくなかった。
単純な性欲だけでなく、僕に芽生えた新しい感情、愛情が離れるなと命じていた。
──妊娠させてしまうかもしれない。
まずいという気持ちよりも愛する人との間に子を成したい気持ちが先行する。
みんなどうやって我慢しているんだ?
部屋に入って母さんにメッセージを送り、楓をひん剥いてすぐに始めた。
声を抑えるなんて考えもせず、快楽に夢中になって股間を擦り付け合わせた。
体の中にあった精液全てを最後の一滴まで注ぎ込んで、動けなくなってセックスが終わったのは夜中の三時だった。
僕たちは息すらろくにできず、言葉すら交わさないまま眠りについた。
お互いに手を握り締めてまどろみに落ちたのだ。
意識をなくす直前、楓が手に力を込めたのだけが妙に印象深かった。
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