罰ゲームで告白した子を本気で好きになってしまった。

火野 あかり

文字の大きさ
上 下
15 / 19

第十五話 揺らぐ足元

しおりを挟む

「いらっしゃい! 楓ちゃん、でいいのよね?」
「は、はい。お、おじゃましましゅっ!」

 ──か、噛んだ……。
 多分、楓は気づいていない。勢いよく頭を下げてお辞儀した。
 
 いきなり玄関にいた母さんは楓を見つけるなり、甲高い声で歓迎した。そのせいで心の準備ができていなかった楓は声を上ずらせ、噛んで、そのうえガチガチに緊張してしまっている。
 普段ろくに履いていないスリッパを履いて、玄関先に花まで飾っている。化粧も見たことないくらい厚化粧だ。
 玄関の電球まで新しいものに変えたようでいつもと色が違う。いつもは普通の白い光なのに、今日の光はオレンジ色の暖色系。
 あからさまに張り切っている。楓の家を知っているようだったし、馬鹿にされないようにしているのだろう。僕たちはともかく大人には大人の事情が存在するということ。
 
「と、とりあえず上がって? 緊張しなくていいから」
「う、うん、いや、はいっ!」
「なんで僕に敬語……?」
「そうよ、遠慮しないで? な、なんなら私もお母さんって呼んで?」
「お母さん……」
「間に受けないで!? 母さん、余計なこと言わないで……」
「なによもう、いいじゃない、夢だったの、こういうの!」

 このままだといつまで玄関に居ることになるのかわからないので、母さんをリビングに押し込んで、僕たちも続く。
 楓はどう見ても緊張していた。
 考えてみれば、僕たちは対人スキルが高いほうじゃないのだ。
 知らない大人と会う、──しかもそれが彼氏の親──であれば緊張も無理はない。なにせ、僕すら緊張している。
 ──楓の両親と会うとき、僕は日本語を話すことができるのだろうか。

「楓ちゃんはすき焼きって好き?」
「は、はい……」
「良かった。それで、どんなのが好き? 一応全部用意したのよ。牛なら関西風と関東風、こっちの地域なら豚の方がメジャーかしら? 私出身は東京だからこっちに来て驚いたわ」
「え、母さんってこっちの出身じゃないの?」
「江戸っ子よ。中学入学に合わせてこっちに来たの」
「マジか……」
「わ、私はどれでも好きです! うちのお父さんは豚だって譲らないですけど……」
「じゃあどっちもにしましょう? 実は今日ちょっと奮発して良いお肉買ってきたのよ」

 母さんが他県出身だと初めて知った。個人的には衝撃の事実だ。

 リビングの中はきれいに整頓され、全て掃除されていた。
 普段出しっぱなしになっている調味料も棚にしまわれている。
 ──父さんが家にいる時みたいだ。母さんは父さんがいないとどうにもやる気がしないと言っていたことがある。
 エプロンまでしている。あったんだ、そんなもの……。
 食卓テーブルの上には四人分ランチマットのようなものが敷かれている。もちろん初めて見るものだ。絶対に今日買ったものだと思う。
 ケチな印象が強い母さんだったが使うときには使うらしい。こういうのには反対しにくい。良くも悪くも僕のためでもあるから。
 すごい。知らない家みたいだ。

「て、手伝います!」
「あらー、いいのよ? お客さんはゆっくりしてて」
「そ、そういうわけには……」
「いいんだよ。楓が手伝ったら母さんがすることなくなっちゃうから」
「楓ちゃんは料理得意なの?」
「い、一応……そ、そんな大したものじゃないですよっ!?」
「楓の料理はすごいよ。残念ながら母さんの負けだと思う」
「佑樹、あ、あんた親に向かって! ──あんた、下の名前で呼んでるのね?」
「あっ」
「あら、あらあら! 思ったより進んでるのね? 佑樹のことだから未だに苗字で呼んでると思ったわ。──この前のショッピングモールってもしかしてデートだった?」
「は、はい……」
「急に服が欲しいとか言い出したから何事かと思ったけど、そういうことだったの!」

 母さんの追及に屈した楓は顔を赤くしながら答えてしまう。
 思っていた以上に母さんは知りたがりだった。
 昨日の夜僕に聞いたときは抑えていたというのか──。

「──もうキスくらいはした?」
「か、母さん! 楓も答えなくていい──」
「し、しました……」
「楓!?」

 楓の返答を聞いて、母さんは僕の方を目を丸くしてみる。
 え? そう聞こえそうな顔だった。

「ゆ、佑樹意外とやるのね……?」
「わ、私小学校の時からずっと、ずっと佑樹くんが好きだったんです……こ、高校も追っかけて同じところにしました……」
「え?」
「私ね、本当は南高受かってたんだ……でも離れたくなくて今の学校にしたのっ! だ、黙っててごめんなさいっ!」

 僕の志望校だったところ。あのバカップルが通う高校。県下一の偏差値を誇る進学校だ。僕は落ちてしまったけれど、楓は受かっていた。
 ちょっとだけ複雑な気持ちだ。だが、楓が辞退しても僕は補欠合格にもならなかった。つまり、僕のせいだ。楓は何も、少しも悪くない。
 楓の人生は僕のせいで少し歪んでしまったらしかった。
 ズキンと心臓が痛む。久しぶりに罪悪感を胸に抱いてしまった。

「楓……って母さん!?」

 ふと楓のとなりの母さんを見ると、立ったまま号泣していた。
 せっかくしたのであろう、あまりしない厚化粧が落ちて、黒い涙のようなものを流している。
 ──不気味だ。夜道で遭遇すれば悲鳴を上げるのは確実。

「よ、よかった、よかっだねぇぇぇ!」
「ど、どうしたの!?」
「だっであんだとぼだぢもいなかったからぁっ!」
「わ、私も泣きそうっ!」
「楓まで!?」

 ああ、ダメだ。もう僕の力では収拾をつけられない……。
 わんわん声を上げて泣く母さんと楓を僕は見ていることしかできなかった。
 途中、母さんが楓に抱きついて、楓の方も抱きついていた。
 な、何が起きてるんだ? 言っていることはわからないでもないけど、そんなに? そんなに心配させてたのか? ──なんだろうな。適当な人だと思っていたけど、存外僕は愛されているようだった。

 二人が泣きやむまでしばらく待った。
 大きく膨らむ背中と荒い呼吸を見ていると僕の方も少し涙ぐんでしまう。でも、親の前で泣くのは恥ずかしいから頬の内側の肉をかんで誤魔化す。

 泣き止んだ二人の目元は真っ赤だった。母さんは化粧のせいで化物の様相をしていたし、楓はぐずった子供のようにも見えた。前髪も涙を拭ったせいか、母さんと抱き合っていたせいかぐちゃぐちゃだ。

「お、落ち着いた……?」
「大事に、大事にしなさいよ? これからだって楓ちゃんよりいい子にはもう会えないわよ?」
「そ、そのつもりだよ。ぼ、僕の方も初恋だったし……」
「ずっと心配してたけど、良かった。──あんた昔から要領悪かったから」
「──母さん。僕、楓と結婚する」
「私は賛成だけど、楓ちゃんのご両親はわからないわよ? 結婚っていうのはね、家と家を繋ぐことでもあるんだから」
「お、お母さんは反対しないと思います、知ってるから」
「知ってる?」
「しゅ、修学旅行の写真とか買ってるのバレてる……」
「痛いっ! 何!?」

 母さんは僕の背中を思い切り叩いた。
 バシン、と大きな音がする。
 痺れるような痛み。さっきこらえた涙がこぼれそうになる。

「愛されてるね!」
「あ、愛してますっ!」
「楓!? なんか空気に飲まれてない!?」
「あんたは?」
「あ、あ、──そういうのは二人の時に言う!」
「あーあ、男らしくない。こういう時はバシっと言いなさいよ!」
「お母さん、孫は何人欲しいですか!?」
「楓! どうした!?」

 高ぶりすぎて、楓がもう分からなくなる。
 母さんは相当楓を気に入ったらしく、少ししゃがんで顔を擦り付けたりする。
 
「と、とにかく食べよう! この話は一旦終わり!」
「息子の惚気を聞きたい母の気持ちは?」
「そ、それは今度! 変な感じだろ!?」
「えー、聞きたい!」
「年を考えて年を!」

 子供みたいにねだる母さんを見るのは複雑だ。
 楓は相変わらず変な感じだし、母さんはもっと変。
 
「お、お母さん……」
「楓、おばさんとかでいいんだよ? ま、まだ楓の母さんでもないし……」
「まだ? まだってことはいずれ?」
「そ、そうなるかもしれないけど……──って、誘導するな!」
「母さんは楓ちゃんにお嫁に来て欲しいなぁ……婿に行ってもいいよ?」
「う、うん……僕も結婚したいよ。楓がいい」
「佑樹くん……」
「母さん邪魔かな?」
「まぁ割と……?」
「生みの親に向かって!」
「ど、どうすればいいんだよ!?」

 三人ですき焼きをつつくも、会話は楓と母さんだけ。
 僕の方はどうしていいかわからない。
 楓……君はそんなに話せるのにどうして友達がいないんだ? 僕は楓の両親相手にこんなふうに喋ることはできないよ? 
 人工的にも思える色艶から高い肉なのはわかるけど、味がしない。味を理解することなく胃に落ちていくのだ。
 
「それで、どこまで行ったの?」
「ショッピングモールです……」
「違う違う、そっちじゃなくて」
「あっ……そっちですか……? ──え、えっちしました……」
「楓ぇ! なんで言っちゃうの!?」
「え、え? ホントに? え、え?」
「母さん、忘れて!?」
「ホントに? ホントにしたの?」
「はい……さっきも」

 母さんは椅子から落ちた。というより、椅子ごとひっくり返った。
 床に落ちたあとも呆然とした様子で天井を眺めていた。

「佑樹、ホント?」
「──う、うん」
「お、大人になったんだ……なんか複雑な気持ち……嬉しいけど寂しいような」
「怒ったりしないの? こ、高校生でそんなことして」
「お母さんとお父さんが初めてしたの、私が中学一年生の時……怒れるはずないでしょ」
「は!? え!? ──え!?」
「お父さん部活の先輩でね。二個上なのは知ってるよね? それで仲良くなって、そのまま……」
「き、聞きたくない! 親のそんなの!」
「それで結婚したんですか? ──素敵!」
「か、楓も忘れて!?」
「私なんだか希望ができたよっ? やっぱり好きなら大丈夫なんだよっ!」
「か、かもしれないけど……ああ、忘れたい……父さんの顔見れないよ」

 親のそういう話は聞きたくない。
 母さんは倒れた時頭でも打ってしまったんだろうか。救急車を呼ぶ状況がやってきたのかもしれない。
 父さん……ちょっと引く。いくらなんでも中一に手をだすってどうなんだ?
 でも結果が僕だし、何とも言えない話だ。言うならば自分のルーツ。──複雑。
 
「怒りはしないわ。でも避妊はするのよ? わかってるよね、それくらい……?」
「もちろん。うん、うん」
「──あんた、何回かはそのまましてるでしょ」
「いっ、いや……?」
「お、一昨日初めてして、その日も昨日もそのまましちゃいました……あっ、さ、さっきしたのはちゃんとしました! 証拠もありますっ!」
「楓、出さないで!?」

 カバンからさっきのコンドームを取り出そうとしているのを止める。
 あんなにどっぷり入ったものを母親に見られるなんて、最悪だ。もうこの家にいられないくらい恥ずかしいっ!
 
「そうなのよね、最初は生ばっかり……お父さんも生が好きだったわ。気持ちよさそうだから止められないのよね……」
「母さん!?」
「私の方も気持ちよくて、我慢できないんですっ……」
「好きな人だとそうよねぇ……嬉しいし気持ちいいしで」
「も、もうやめて! ホントに父さんの顔見られなくなる! 母さんも!」

 もう見られなくなりそうだ。少なくとも中学生相手に避妊なしでしていた、と印象はついてしまった。父さんも中学生だったわけだからわからないでもないけど。というかわかる。
 実際、幸せだし、気持ちいいから。
 
「成長したのね……まだまだ子供だと思ってたのに」
「ご、ごめん……」
「怒ってはいないのよ。どちらかというと嬉しい方が強いの。だけど、母親としては複雑というかなんというか……いいわ。でも本当に妊娠はさせないでね? 水島さんに申し訳が立たないし、あなたたちの関係も終わっちゃうわ」
「うん……」
「わ、私も我慢するっ。こ、これからはちゃんとコンドームしよ? ──た、たまにはなくてもいいけど……」
「楓ちゃん、それはダメよ? それくらい我慢できる男じゃないと選んじゃダメ。大事なら我慢しなきゃ」
「は、はい、お母さん……」

 楓は母さんの言うことなら聞きそうな空気がある。
 心酔しているというか、そんな空気。

 ど、どういうことだ。
 避妊に関しては異存があるわけではないけど……。
 
「な、なんで母さんにこんな話してるんだ……?」
「で、でも、せ、先輩だよ……?」
「だ、だけど……」
「本当に避妊は大事よ?」
「それはわかってる。今の僕らじゃ育てられないし、高校生だ。これから大学もあるし、就職もしないといけない。だ、だけど母さんにそういうの知られるのは……父さんにも言うだろ?」
「うん。お父さんもそれそのものには怒らないと思うわよ。しょっちゅう電話で『佑樹に彼女はできたか?』って聞いてくるし」
「父さん……ちょっと微妙。イメージが変わっちゃったよ」
「まぁまぁ。お父さんはちょっと性欲が強いだけで、かっこいい男よ?」
「遺伝……なんだね? 佑樹くんも性欲強いみたいだし」
「か、母さんの前で言わないで!?」
「やっぱり佑樹のも大きいの? お父さんのもすっごい大きいのよ。それに何回してもがっちがちで」
「す、すごいですっ! 口にも全然入らなくて……コンドームも一番大きいのじゃないとだめで……何回してもかちかちですっ!」
「遺伝ね。楓ちゃんもほかの男じゃ満足できない体にされちゃったんだ。同じものだとは思えないと思うわよ? 高校に入ってお父さんと別れたあとも忘れられなくて、結局復縁を迫ったのは私の方だもの」
「わ、私は佑樹くんだけとしかしないのでっ!」
「ちょ、ホントにやめて……明日から母さんに向ける顔がわかんない……楓も正直すぎだよ」
「人間だって動物よ? 仕方ないじゃない。本能だもの」
「で、でも……」
「え、えっちは悪いことじゃないでしょ……? どんな人だってしたいと思ってると思う」
「そ、そりゃそうだけど……でも親に知られるのはちょっと……」
「もう遅いでしょ? あなたたちがしてるのは知っちゃったし」
「じゃ、じゃあこれからもしていいの?」
「止めはしないわ。止められないのは知ってるからね。ちゃんと避妊するならだけど」
「変な話だ……普通は親に隠れてするものだと思う」
「そうね……私たちも学校の備品庫とかで隠れてしてたわ。親がいると家ではできないからね」
「な、生々しい」
「そ、そういうところもあるんだ……今度探してみる?」

 顔が興味津々だ。
 トイレでしている時も全身を真っ赤にして喘いでいた。
 心底気持ちよさそうな顔と声で喘ぐ楓の姿は、僕のペニスを必要以上に喜ばせてしまうので心臓に悪い。
 もしかして外でするのが好きなのかもしれない。
 へ、変態かな?

「僕は家の中とかのほうがいいかな……落ち着かないよ、外は」
「えっ、でもさっきすっごい興奮してたよね……? 壊れちゃうと思ったよ……?」
「やっぱり血筋なのかしら……? 楓ちゃん、覚悟したほうがいいわよ」
「は、はいっ! でも私のほうもその、したいので大丈夫というか、う、嬉しかったりします……」
「ほどほどにね? 佑樹がしたがってもいつも受け入れる必要はないのよ」
「僕がケダモノみたい!?」
「し、してるときはそんな感じだよ? はぁはぁしながら、気持ちいいって激しく」
「か、母さん、今日のことは忘れてくれないかな? ほら、ゴミ出し忘れる時みたいにさ」
「無理ね。重要度が違うし」

 楓……どうしてそんなことを言ってしまうんだ。
 既成事実? 逃げられないように? ──ありそう。
 親の前でここまで言われて適当な対応なんてできるわけがない。
 策士、なのか?


「途中何度も喉つまりしそうになったよ……」
「ごめんなさい……でも佑樹くんのお母さんに嘘つけないよっ。いきなり嘘つきなんて思われたくないもん……」

 一旦僕の部屋に避難した。母さんの視線が痛いからだ。
 どんなふうにセックスしているのかまで親にバレるのは、どうしようもないほど恥ずかしいのだと知った。
 楓は食べたあとの片付けもきっちりしていて、母さんは心底感心していたように見えた。
 いつもはぼんやりしている小動物のような印象があるけど、料理だとかそういう家事に関してはてきぱき動くのだ。顔も真剣そのもの。
 
 部屋の中は昨日の夜掃除したので綺麗なはずだ。見られて困るものは日記くらいなもの。あれは相当恥ずかしい内容が書いてある。
 楓といて良かったことや楽しかったこと、嬉しかったこと、──可愛く思ったことなんかが書いてある。
 机の中にしまいこんであるので、楓が漁らない限りは見つかることはない。

 楓を勉強机の方へ誘導し、自身はベッドに座る。楓をベッドの方へ座らせるとそういう空気になってしまう気がした。

「きょ、今日はおとなしくしよう。絶対母さん聞き耳立ててる」
「うん。聞かれるのはちょっといやだもんね。──佑樹くんの部屋……嬉しい。佑樹くんの匂いする」
「く、臭い?」
「ううん? いい匂いだよ? ほんのりちょっとだけ男の子っぽい匂いもするけど。お兄ちゃんの部屋もこんな感じの匂いしてた」
「男っぽい? 何の匂いなんだろう?」
「た、多分精液……佑樹くんの嗅いでわかっちゃった……あっ、わ、私は好きだよ!?」
「え、え? ホント? 全然わかんない……そして楓、変なこと言ってる」
「どきどきするから嫌いじゃないの……本人にはわからないんじゃないのかな? それに私鼻いい方だと思うから。調味料とかもわかるんだ。だからかも」
「急に怖くなってきた……外でもわかる?」
「ううん、さすがに。密室だからだよ。いつもは洗剤の匂いする」
「楓はなんか甘い匂いするよ。ミルクっぽいようないい匂い」
「ミルク? なんだろう、ボディクリームかな」
「なにそれ? 化粧水?」
「違うよ。お風呂上がりに塗るやつで、保湿とかするやつ。私のミルクっぽい匂いするかも」
「へぇ……そんなのあるんだ」
「男の子はしないよね。女の子的には普通のアイテムだと思うよ?」
「化粧とかいろいろあるもんね。楓は化粧とかしないの?」
「し、してるよ……? 佑樹くんと付き合うようになってから、ちょっとだけだけど。学校で怒られないくらいしかしてないから気づかなくても仕方ないと思うよ。──ちょっと悔しいけど」
「ごめん……そうなんだ」

 付き合う前は顔なんて見たことがなかったから、比較するものがない。
 化粧をしているといってもほとんどベースのままだろうと思われた。派手な化粧だったら僕でもわかる。
 
「顔近い時が増えたから、すっぴんをじっくり見られると恥ずかしいじゃない?」
「そのままでもいいんだよ? 今日の母さんみたいな厚化粧は嫌いだ。素の顔と全然違ったでしょ?」
「うん……佑樹くんのお母さんいい人だね。明るくて優しくて。い、いろいろ知られちゃったけどっ」
「下世話なおばさんでごめん……」
「面白い人でいいと思うよ。──佑樹くんのお父さんを見る目はちょっと変わっちゃうかもしれないけど……」

 無理もない。僕だってそうだ。
 正直聞きたくなかった話だ。両親の性事情なんて。
 
「ホント、変な話だ……」

 ベッドに倒れ込んで天井を眺めてみる。
 いつも見ている天井が妙にくすんで見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...