罰ゲームで告白した子を本気で好きになってしまった。

火野 あかり

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第九話 門限って、なんだっけ

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「んっ、むぅ、はぁっ」

 キスの最中、楓は何か声を発していた。
 僕の耳は何を言っているのかまでとらえきることができない。
 舌を絡めあっていると楓の体が弛緩し始め、僕の背中に回されていた手の震えも収まっていく。
 勇気が出た、と言うことなのだろうか。
 わからなかったが、僕の腰は少しずつ前進を始めてしまった。
 体を折り曲げるような窮屈そうな体勢を自ら進んでとりにいく。

「んぐっ! んぅぅっ!」

 あと数センチで全部入るかと思った矢先、僕の亀頭は違和感を覚える。
 今までとは少し違う硬い感触の場所を見つけたのだ。そこに到達すると楓は大きな声を上げた。
 僕と口を合わせているので言葉としてはわからない。
 音は振動なのだと理解できる震えだけが僕の口の中に響いた。
 弛緩していたはずの体は再び強張り、腰に回されていた手は爪を立てる。

「あ、──ひっ! ぃぃっ! 一番奥当たってるっ、当たってるっ!」

 楓の膣内の最奥部に到達した感触だったのだ。
 残念ながら僕のすべてを包み込むことはできないらしい。
 それでも十分すぎた。入るかどうかとすら思っていたのだから。
 限界サイズのようであり、当然締まりは最高に良い。引きちぎられそうなほど締まるのだから。
 こんな場所を気持ちよくないと言える奴の顔を見てみたい。
 僕なんて挿入した時からずっと射精しそうだというのに。
 
「変、変っ、変な感じ、苦しいよ、苦しいっ! 無理やり広げられてるっ! おへそ、おへそのとこまで入ってるっ!」

 ──かもしれない。
 僕のペニスの全長を考えれば、深度そのものは本当に入っていそう。
 触ればわかるのかと思い、楓の下腹部を撫でてみるもわからない。

「撫でないでぇっ! ぞわぞわするからだめっ! き、き、気持ちいいのかもっ、あああっ、わかんないっ!」
「だ、大丈夫!?」

 楓の様子がおかしい。
 普段のそれとは違って錯乱しているように見える。
 言葉の呂律も怪しいし、動きもうねうねとしていた。
 楓の中の僕のペニスは握られるような感覚に襲われていた。
 ぎゅ、ぎゅ、と強くなったり緩んだり。
 元が痛いくらいの締まりなのに強くされると悶絶しそうになる。

「ひぃ、ひぃっ、苦しい、おっきすぎるっ!」
「ぬ、抜くねっ!?」

 様子がおかしいので一旦全部を引き抜くことにする。
 この時の僕は気づいていなかった。
 挿入の時は耐えられても、引き抜くときに耐えられるかは別な話だということを。
 ぞりぞりぞり、とカリに走る刺激。
 楓の膣内は凶悪で、挿入時にはぎりぎり耐えられるような刺激を与えてくるのに、出ようとすると一瞬で射精を促そうとする。
 返しがついたような構造になっているのだと初めて理解した。

「あああっ!」
「ゆ、祐樹くんっ!?」
「だ、ダメだ、出れないっ!」
「出れないって!?」
「出る、出ちゃいそう、中でっ」

 引き抜くときの方が快感がすごかった。
 挿入時を一とするなら、引き抜こうとするときの刺激は十。
 慌てた僕はなぜか元の場所に戻すように突き入れてしまう。
 少し引き抜こうとしただけなのに頭が真っ白になってしまった。
 ──罠だった。最高に気持ちのいい罠。
 一度入れてしまうともう逃げられない、逃げたいという気持ちも失せる罠だ。
 
「か、楓の中から出られない……出ようとすると出ちゃいそう」
「が、我慢できない?」
「できない。ちょっと動いただけなのに出そうになった……どうしよう……」

 外に出すのなんて簡単なことだと思っていた。
 いつもする自慰だってある程度はコントロールできるのだ。
 でも楓の中では無理だった。出来ちゃった結婚なんて、と馬鹿にしていたが無理もない話だった。

「──あ、赤ちゃんできちゃうかもよ?」
「うっ、そ、そういうのダメ、出ちゃう」
「こ、言葉でも出ちゃうんだ……」
「なんでだろう、興奮するんだ、楓がそういうこと言うと」
「わ、私の中気持ちいいっ?」
「すごい、思ってたよりずっと」
「じゃ、じゃあ中でぴゅってしちゃう? ──一応今日は大丈夫な日だよっ?」
「だ、ダメだって……」
「で、でも出られないってっ」
「が、我慢して抜いてみるっ」

 力を入れて我慢しながら引き抜く。
 勝負は一瞬だ。一瞬で引き抜けばなんとかなる。
 ぐっと腰を持ち上げ、引き抜く。

「はぁっ」
「ああんっ!」

 僕の思い切りに体は反応せず、ほんの少し引き抜いて、また奥の方へ戻ってしまう。
 定位置のようになった楓の奥の方で停止し、再び思い悩む。
 ──やばい。やばいやばい。
 もう自分の体がコントロールできていない。
 楓の膣内の感触を最大限に楽しんでしまっている。
 一突きしただけで全身から汗が噴き出す。
 尋常じゃない。何だこの感覚。
 蟻地獄に落ちた蟻のように抜け出すことができない。
 楓は少し体を持ちあげ、僕の肩甲骨の辺りにしがみ付きながら耳元で言う。

「ね、ねぇ、もうえっちしよ? まだ苦しいけどっ、わ、私もね? 気持ちよくなってきてるのわかるのっ。出っ張ったところがね、がりがりって私の中削るのすごいきもちよかったよっ。祐樹くんのお、おちんちんも気持ちよくなろっ?」
「──中に出してもいいの?」
「うん……出したいならいいよ? ──は、初めての時はそっちのほうが嬉しい、かも……」

 抱き着かれてそんなことを言われて。
 僕のペニスは楓の膣内で大きく跳ねた。
 楓は僕の胸に顔を押し付けたまま抱き着いていた。
 許可を得た気がして、僕の腰は上下に動き始める。
 もう僕の体は完全に僕のコントロール下にないようだった。
 楓を覆い隠すように倒れ込んで、布団に肘をついて腰だけを動かす。
 きっと今の僕の姿は惨めであさましいのだろう。
 普段気取っているくせに、へこへこと腰を振り、だらしない顔をしながら性交に夢中になっている。
 勉強で得た知識なんて何の役にも立っていない。
 ペニスから与えられる快感で理性も何もかもを失っているのだ。
 ──幸せだ、幸せだ。気持ちいい、気持ちいい。
 今の僕は性欲で動く獣でしかない。気持ちよさが欲しくて、楓と一つになりたいとしか思っていない、自分の精を楓の奥に吐き出したいだけのただの獣だ。
 腰を動かしていると楓の入口の狭さを感じる。
 指で作った輪で根元を強く押さえられているような感じ。
 動くたびにその場所が変わり、中の快感とは別種のものをくれる。
 楓の膣内は僕のペニスを絞るようだった。
 一回上下するのに数秒をかけるも、あっという間に昇りつめそうになる。
 射精しそう。
 もう引き抜いても無駄だと分かる。
 引き抜こうにも途中で僕は射精してしまうだろう。
 ならいっそ。ならいっそ楓の奥に出したい。
 楓の中で移動する僕のペニスは動くたびにびくびく震える。
 限界なんてとうに超えているのを射精しないように強引に抑えているだけなのだ。多少立派なものを持っていても、経験値がまるでない。目の前の快感にあらがう術を何も持っていないのだ。
 たった数センチの可動域。
 大きく引き抜いて突き刺してという動きは僕にはまだできない。
 ほんの少し引き抜いて射精しそうになって、また突き刺して少し落ち着かせてを繰り返すしかできないのだ。
 楓が気持ちよくなれるように。そう思っても能力が伴わない。
 布団と体がこすれる音、楓の喘ぎ声、そして僕自身と楓の荒い息が部屋に響く。
 ──音のない部屋に響く、いやらしい音。
 楓の中が心地よすぎて言葉が何も浮かばない。何かをしゃべる余裕が全くない。
 ペニスからやってくる快感で脳みそがとろけているのがわかる。
 だんだんと自然に腰の動きが早くなってしまって、それに比例して快感が上り詰めてくる。

「楓、楓っ、も、もう出そうっ」
「ああっ、わ、私もきもちいいよっ、幸せだよっ」
「うう、ううっ」
「あ、赤ちゃん、赤ちゃんできちゃうっ」
「だ、ああっ、出るっ!」

 どぱっ!
 押さえていたものが我慢の壁をぶち抜いて爆発する。
 楓を思ってしていた自慰よりもはるかに多い量が飛び出ていくのがわかる。ティッシュなんかでは受け止められない量なのは確実だ。
 尿道にひっかかるような固い精液。液体よりも固体寄りで、一本で繋がっているように感じた。
 これが本当の射精。好きな人の膣内でするもの。

「あっ、ああっ」
「ふわぁ、ああっ、ど、どくどくしてるっ、あっついっ! 祐樹くん気持ちいいっ!?」
「うぁ、うう」

 声が上手く出ない。呻きのようなものだけが喉を通っていく。
 腹筋が痙攣しているような動きをしているのがわかった。
 
「いいよ、全部出しちゃおっ、我慢しないで全部……」

 楓が僕の背中をさすっていた。
 初めて同士なのにどうしてこんなに違うのだろう。
 こんな小さな体なのに僕を受け止めてくれる。
 どうして僕は今まで一人で居たのか、もっと早くに楓に声をかければよかった。そうすればきっと温かい気持ちで居られたのに。
 涙が出そうになった。
 
 びゅるびゅるといつまでも射精が終わらない。
 考えてみればこんなに我慢しての射精は初めての経験だった。
 間違いなく人生で一番長く、そして最高に気持ちのいい射精。
 僕が情けない声を出しながら射精している間、楓はずっと僕の背中を撫でていた。
 胸の下ではどんな顔をしているのだろう。
 かっこ悪すぎて嫌われてしまったかもしれない。
 自分自身でもこんな風になってしまうとは思わなかった。
 こんなに余裕なく、切羽詰まった状態になるなんて。射精なんて反射のようなもので、気持ちよくても自分の制御できる範囲でしかないと思っていたのに。
 長らく続いた射精が終わり、ようやく頭の中がしっかりとしてくる。
 体を起こして楓の顔を見ると少し苦しそうな顔をしていた。
 体の下は圧迫感があったのだろう。
 いかに自分本位でしてしまったのか、罪悪感が沸いてくる。
 しかし、そんなことを考えていても僕のペニスは楓の中で硬いまま次を待っているようだった。

「ご、ごめん、僕だけこんな……かっこ悪い」
「ううん、気持ちよかったんだよね?」
「う、うん……」
「だったら全然いいよ? 嬉しいよ? それにね、私も最後の方は気持ちよかったんだっ。一人でするのと違ってぞわぞわする感じ。──やっぱりえっちは違うんだなって思ったよ?」
「でもイッたりはしてないよね?」
「だって、──は、初めてだもん。祐樹くんのおっきいから、気持ちいいより苦しいほうがまだ強いよ。──慣れたらすごい気持ちいいんだろうね。おっきいほうが気持ちいいって聞くし」
「今度は楓も気持ちよくしたい……」
「それはちょっと恥ずかしいよ……私も最初すごい取り乱しちゃったもん。中で気持ちよくなっちゃうとね? ──変になりそうになる。浮いてくような感じで怖いの」
「楓、好きだよ」
「ん、私も好き。──ついにえっちもしちゃったね?」

 楓は胸を隠しながら言う。
 もう行為までしているのに恥ずかしいらしい。
 僕は楓の手をどけて、胸を触る。

「あっ、だめだよ、恥ずかしいよ」
「可愛い、可愛いよ楓」
「ち、乳首はだめっ、今敏感だからっ」

 小さな豆のような乳首。
 寝そべっている楓の胸はほとんど平面だ。
 最初ピンク色だった乳首は硬く、少しの赤みを帯びている。
 楓が自慰の時に触っていると思うと僕も気持ちよくしたいと思う。

「あっ、あっ! むずむずしちゃうっ!」

 僕の手を払いのけようとしていたが僕は手を止めない。
 ぐにぐにと柔らかい感触の胸と相反するような乳首の硬さ。サイズと柔らかさは意外と関係ないのかもしれない。楓の体はどこを触っても柔らかくて気持ちいい。
 挿入したままの腰が再び動いてしまう。
 さっきまでと違い楓の性器からは精液が漏れ出し、少し汚い音がする。
 僕のペニスは想像以上に楓の中を圧迫しているようだ。
 
「ゆ、祐樹くんまたしたいのっ? 男の子って一回で終わりじゃないの!?」
「違うよ、僕は楓でいつも五回くらいはしてたんだっ!」
「そ、そんなにっ!? ああっ、はぁっ、深いよぉっ! 祐樹くん、ちょっと待って、ああっ、そこだめっ! きもちいい、きもちいいからっ! そここすっちゃだめっ! 変になっちゃう、なっちゃうっ! びりびりするっ!」
「一緒に、一緒に変になろう、僕は楓と気持ちよくなりたいんだ」
「削るの、削るのだめっ、ほんとにぃ、へ、変になる……! は、初めてできもちよくなっちゃだめなの、普通じゃないのっ!」
「僕だって初めてだけど気持ちいいから大丈夫っ」
「違う、そうじゃなくてっ! ──え、え、えっちな子だって思われたくない、嫌われたくないの!」
「思わない、嫌わないよっ! それに僕はその、少しえっちな楓が好きだ!」
「でも、でもっ!」
「一緒に気持ちよくなりたいんだ、これからもしたいっ」
「うん、うんっ! いい? 変になってもっ、きもちよくなってもいいっ!?」
「いいよ、僕も変になりそう、楓の中が気持ちよすぎてっ」

 両手を繋ぎ合わせて、今度は体を起き上がらせたまま腰を動かす。
 楓が気持ちいいと言っていた場所をひたすらにこすり上げる。
 僕の精液のせいかヌルヌルがさっきより強い。
 奥より若干手前の所が楓の良いところらしい。
 気持ちいいからなのか最初よりもさらに締まりはきつく感じ、自分の顔が腰を動かすたびに歪んでいるのがわかった。
 
「ああっ、すごい、すごいっ、気持ちいいっ! はぁ、んぁぁっ、変になる、ふわふわするっ! 怖い、怖いよぉっ! 抱きしめてっ!」
「ぼ、僕もまたっ! ──中に、もう一回中に出していいっ!?」
「あ、赤ちゃんできちゃうよっ!? さっきみたいにいっぱい出したらっ! で、でも私も今やめて欲しくないっ、すごいの来そうなのっ!」
「ご、ごめん、出る出るっ、一緒に、一緒にっ」
「んんっ! 来る、来るっ! すごいの、すごい気持ちいいのが来るっ! ぎゅって、ぎゅってして!」

 楓が手を伸ばしてくる。
 体を丸く曲げ、楓の両肩を掴んでキスをする。
 余裕なんてものはない、必死で何も考えずにするキスだ。
 キスとほとんど同時に精液が飛び出てしまった。
 射精しながらも楓の気持ちいいところは擦り続ける。精液を擦り付けるようにだ。
 
「んむぅ、んーっ! んーっ!」

 楓の方も僕の体にしがみ付いて何かを叫んでいた。
 
 二人ともびくびく震えながらしばらくそのまま過ごす。
 どくどくと噴き出す精液の快感に身震いが止まらない。
 快感が強くて口の中まで気が回らない。それは楓も同じようで、僕たちは舌をくっつけあったまま動けなかった。
 ペニスの脈動の回数が減ってきて、ようやく舌を動かす余裕ができてくる。しかし楓のほうはそうでもないようで硬直したままだ。
 口を離しても楓は硬直したままだった。
 遠くを見るような目をしていて、時折びくびくと痙攣する。
 呆然自失。
 楓はそんな様子だった。
 
「楓、大丈夫?」
「──いい。気持ちいいの。ふわふわする……頭の中真っ白だよ……」
「そんなに?」
「うん……えっちすごい、もっとしたい……」
「ぼ、僕ももっとしたい、楓と一つになっていたい」

 放心状態だったのに、僕が次を求めると楓はぎゅ、と中の締まりを強くする。
 うねうねと一人でに動いている膣内はきっと楓の意志で動いているわけではないのはわかる。
 ──全然収まる気がしない。
 自慰の時でさえこの倍の回数はしているのだ。
 本人を前にして、自慰などもうしたくないほどの快感を得ている今我慢などできるわけがなかった。
 
 ──日付が変わるまでずっと繋がったまま、僕は楓の中にすべてを吐き出した。
 一度も破ったことのない門限を破った。でもそんなのはどうでもいい問題だった。
 今までにした自慰の最高回数をはるかに超えて、精液以外も出た気さえする。
 一度快感を覚えてしまったお互いの体は、疲れ果てるまで繰り返しそれを求めてしまった。
 汗だくの体を重ね合って、性器を擦り合わせて互いに絶頂を繰り返した。
 終盤楓の体はとても敏感になって、繋がっているときにお腹を撫でるだけでも簡単に絶頂した。

 行為を終えた後、ベッドに隣り合わせで寝そべる。
 ろくに息もできない状態だ。
 シーツは僕たちの汗や体液でびっしょりしていて、体に張り付く感触が少し気持ち悪い。
 楓も僕も汗だくで髪が顔に張り付いている。
 ──ひどい姿だ。きっと僕もだろう。
 
「えっちすごいね……こんなに気持ちいいとは思わなかったよ。──もうひとりえっちできないね、こんなの知っちゃったら」
「──僕も」
「ほんとに赤ちゃんできちゃうかもね。祐樹くんのでお腹いっぱいだよ。タプタプしてる気がするもん」
「ご、ごめん……初めてあんなに出た」
「ね、最後にもう一回キスしよ? 最初と最後はキスしたいな」
「うん」

 寝そべったまま、向かい合わせでキスをする。
 唇を重ねるだけのキスだ。
 キスが終わった後に、自分たちが如何に恥ずかしい姿を見せあっていたのかに気づいたのか、楓は急激に顔を赤くして反対側を向いた。
 僕には見えないというのに、顔を両手で覆って体を丸めていた。
 耳は赤く染まっていて顔が見えなくとも恥辱が伝わってくる。
 
「──恥ずかしい?」
「は、は、恥ずかしいよっ! 私あんな……! すごい声出して、気持ちいい気持ちいいって…… ゆ、祐樹くんのせいだよっ!」
「ぼ、僕っ!?」
「だって祐樹くんが気持ちよくしたんだもんっ! 何回もだめって言ったのにっ!」
「か、楓ももっとって言ってたろ?」
「い、言ったけどっ! あんなに気持ちいいと思わなかったんだもん!」

 楓の肩を掴んでこちら側に倒す。
 本当に恥ずかしかったのだろう、半泣きだった。

「失望しないでね?」
「失望なんて、する要素がないよ」
「──おっぱいとか」
「可愛いし柔らかいから好きだよ?」
「──性欲が強いのは?」
「大歓迎だよ?」
「ほんとに?」
「性欲に関しては僕も強いみたいだからね」

 自分でも驚く程だった。
 何回したのかさっぱりわからないくらい。
 ──気持ちよかった。夢のような時間だった。
 
「わ、私は誰にでもってわけじゃないよ? ──祐樹くんだからだよ?」
「僕だってそうだよ。楓だけ。そもそも人にこんな気持ちになったのは初めてなんだ」
「そ、そうなんだ……ちょっと嬉しい」
「──女の人の体には興味があっても、人そのものは好きになれなかったんだ。楓が本当に初めて。僕の方こそ嫌われないかと思ってビクビクしてるよ。嫌われるのが怖くて誰とも関わろうとしなかったんだから」
「私もそう。──怖いよね、嫌われるのって」
「──怖いよ。楓には特に嫌われたくない」
「大丈夫だよ、嫌いになんかならないよ。あ、でも祐樹くんが私を嫌いになるならわからないかも」
「僕が?」
「──浮気とか」
「友達もいない奴が浮気なんかしないよ」
「好き好きって誰かが来たら?」
「そんなことあるわけないよ」
「なくはないと思うけどなぁ。頑張り屋さんが好きって子は結構多いよ?」
「僕より頑張っている人はたくさんいるよ。というか、みんなそれなりには頑張ってるからね。だからわざわざ僕を選ぶような人はいないよ」
「私は選んだのに……?」
「楓くらいだよ、多分ね」
「そうでもないと思うけどなぁ……──キスする?」
「急だね」
「キスはね、永遠の愛を誓うときもするんだよ? ほら、結婚式とか」
「そうだね、確かに」
「だからね、私たちもしよ?」
「──だね。これからもずっと一緒にいよう」

 寝そべったままお互いの顔を掴んで。
 顔を離すと楓は僕の顔を見てくすっと笑う。
 
「こういうのも結構恥ずかしいね……」
「慣れてないからね、僕たち」
「まだ裸だしね」
「楓、僕やっぱりもう一回したいかも……」
「げ、元気すぎるよっ! ──い、いいけどっ……」

 結局もう一度セックスをして、楓の家の風呂を借りて家に帰る。
 腰にも足にも力が入らない。膝がガクガクしていた。
 さすがに一緒に入ったりはしなかった。僕としては一緒に入ったりもしてみたかったのだけど、楓は恥ずかしい、と言う。直前までお互い裸で誰にも見せられないようなことをしていたのに。
 片付けは自分がするから大丈夫、とのことだった。
 シーツには様々な汚れが付いてしまっていて、とてもこのまま眠るわけには行かない。
 残ったシミが僕たちがしていたことを示すようで、お互いに顔を赤くした。

 帰り道は浮足立っていた。
 足腰の痛みやだるさはあったが、冷たい外の空気が心地いい。
 射精後の倦怠感や罪悪感はなく、むしろ真逆のものが心を充満している。
 ──初めてあんなに射精した。十回以上もしたのは確実に初めてだ。
 楓とのセックスは気持ちよくて、心が満たされているのがわかった。

 家に到着したのは深夜の二時を回っていた。
 当然しこたま怒られたが、友達の家にいたと言ったら母さんはなぜか泣いて喜んだ。
 僕の家は父さんが単身赴任中なので普段はいない。
 母さんは友達の話をしない僕を長年内心心配していたらしい。
 それでも怒られるには怒られた。だがしかし、連絡すればこれからはある程度自由にしていいとも言われる。携帯電話を持っていない僕は、このご時世なのにテレホンカードを持っている。
 男の子は門限を破るくらいでちょうどいいのよ、とよくわからないことを言われるのだった。

 その日の晩はすぐに寝た。
 よほど疲れていたんだろう、僕はベッドに入るなり眠りについてしまった。
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