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第二十話 お膳立て 中編

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「とりあえずサユリを誘ってみようかと思うの。週末買い物に行きましょう。ちょうど新しい冬服を買いたいと思っていたところでもあったのよ。ユウの好みなのを買いましょう。どんなのでもいいわよ?」

「普通のでいい、っていうかそんな変なのは選ばないから! それじゃあ俺も冬服買わないといけないのか、そう言えば」

 今は秋口。半袖はそろそろ厳しい季節である。

「そろそろ本格的に寒い時期だもの。じきに冬が来てしまうわ」

「そんなに外出るわけでもないから去年のでも良いっちゃ良いんだけどな……」

「ダメよ。私だって新しい服を着ているユウを見てみたいわ」

 今は夜。俺の部屋で会議中だった。
 サクヤは相変わらず微妙なデザインのパジャマを着ていた。
 服を買う前はサクヤの母に今年の流行なんかを聞く。デザイナーであるサクヤの母に聞けば大概間違いはないのである。

「まぁ……いいけどさ」

 サクヤは黒田サユリに電話する。

「拍子抜けするほどあっさりと了解してくれたわ。勿論、ユウもいると言ったのだけれど」

「いや、よかったんじゃないか? じゃあ俺も遠藤に伝えとくかな」

 俺のほうはメッセージを送る。
 サクヤは電話が多いのだが、俺はそれほど電話はしない。

「うおっ!? すごい早い返信だ。しかもテンション高い……」

 遠藤の返信は普段からは考えられないほどのテンションだった。
 元々文章などでは饒舌なのである。

「貴重な土曜日が半日くらいなくなってしまうけれど、きっとその後ユウが埋め合わせしてくれるのよね? 物理的に私を埋めてくれるのよね?」

 嬉々とした表情を浮かべている。

「なら一晩中相手してもらおうかな」

「喜んで」

 望んでいた回答なのか、サクヤはにんまりと笑顔を浮かべる。

 その後は空気がそっち方向に進み、いつものように行為に励む。
 日付が変わるまで何度も、何度もサクヤの中で果ててしまう。毎日のようにしているというのに、一向に飽きる気配がない。お互いがお互いを貪りあうように求めてしまう。
 いつまでも余裕ができない。それは多分、お互いがそうだ。

 今日はしっかりとコンドームを装着していた。
 俺が射精し終わって付け替えている間、サクヤは俺がたっぷりと射精してしまった精液を、コンドームから直接口に流し込んでとろけた顔をしている。

「サクヤ、その、飲むのは汚いんじゃないか?」

「汚くないわ……♡ 子宮がぞくぞくするの♡ ユウの精液好きぃ……♡ 久しぶりに飲めて嬉しい……♡ おいしい、ユウのだと思うと最高に♡」

「……」

 嘘は言っていないのだろうと思う。そういう顔じゃない。
 心底嬉しそうな表情だった。

 自分がサクヤのを舐めて不快感がないのと同じなのだろうと思う。
 それどころか性欲が増してしまうほどだ。


 そして翌朝。

「39.2℃……」

 風邪を引いた。しかも相当強烈なものを。

「ユウ、今日は学校休みなさい。タクシー代置いとくから病院行くのよ」

 タイミングの悪いことに今日は母が親戚の葬式でいないのだ。
 昨日の夜急に連絡がきたらしい。
 そして父はすでに仕事に行ってしまっていた。

「市販薬しかないけどとりあえず飲みなさい。あったかくして寝るのよ。学校には連絡しとくから!」

 そう言って母はばたばたと家を出ていく。

 這い上がるように二階に戻る。
 そしてそのままベッドに倒れこみ、寒気のこみあがる体を温めるため布団を深くかぶる。

「寒い……」

 誰もいない部屋でつぶやく。
 意識がもうろうとしていて、視界がぐるぐると上下に回転する。
 寝そべっているのに浮いているような、そんな地に足突かない感じ。

 死ぬかも。そんな言葉が頭をよぎる。
 寝ているように頭が働かない。

 そしてそのまま死ぬように眠りに落ちる。

 しばらくして全身が汗だくで、その不快感から目を覚ましてしまう。
 全然体は良くなっていない。
 脳みそが焼け切れているような、頭の回らなさ。

 寂しい。心細い。
 苦しい。死にそう。

「サクヤ……」

 ぼそっと、ぼやけた視界のまま天井を眺め、つぶやく。
 いるわけがない。今日は学校のある日なのだ。

「どうしたの? 何か食べる? 大丈夫? ユウ」

 少し横を向くとサクヤがいた。

「幻覚……」

 熱のせいか、いつもの光景を無意識に想像してしまったのか。

「幻覚じゃないわ。さっきユウのお母さんに聞いてきたのよ」

 幻覚じゃない?

「え? なんでサクヤが? 学校は?」

「お母さんが休んでもいいって。どのみち推薦で行けるような学校に行く気もないし、あまり出席日数は関係ないもの。だから今日はつきっきりで看病してあげるわ」

 多分、母が気を利かせて連絡したのだと思った。最高のサービスである。それでも。

「移すからいいって……」

「大丈夫よ。ユウが発症しているということは、私も感染自体はしてるはず。ほとんど一緒にいたんだから。私のほうが病気の耐性は強いのかもしれないわね。だからもうそれほど関係ないわ、多分。とにかく、ユウは自分のことだけ心配していればいいのよ」

 複雑な気分だった。
 帰らせた方がいいのはわかっていても、寂しい。
 サクヤの言葉に甘えてしまいたい気持ちが強い。一緒にいて欲しいのだ。

「とりあえず病院に行きましょう? タクシーを呼ぶから」

 サクヤの付き添いで病院に連れていかれる。
 何とも情けない姿だと思うが、自分一人だとろくに動けもしなかった。

 病院で点滴を受け、そのまま少し眠る。
 サクヤはその間中ずっと手を握っていてくれた。
 温かくて安心する、そんな温度だった。

「少し良くなった気がする……」

「点滴の効果ね。結局風邪の時はあれが一番効率がいいと思うの」

 病院での対応はすべてサクヤがやってくれたらしい。自分はと言うと、ほとんど記憶がない。ずっと意識がもうろうとしていたようだった。
 ちなみにただの風邪だったらしい。

 点滴のおかげで少し体が軽くなった。それでも熱はまだ高いままである。

「ユウ、薬を飲む前に何か食べましょう。おかゆでも作るわ」

「食欲ない……」

「わがまま言わないの。食べなきゃ治るものも治らないわよ。ユウには早く元気になって貰わなきゃならないんだから」

 眉をひそめて不機嫌そうに言う。
 こうなってしまった以上サクヤの言うことに従うことにする。
 言っていることに間違いはないからだ。
 体のつらさも早く解消したい。

「大丈夫? 食べられる?」

「うん、大丈夫。おいしいよ」

 サクヤは料理が上手い。というよりはできないことのほうが少ないタイプだ。
 付き合えてよかったと思う理由の一つでもある。

「私、味のないおかゆって苦手なんだけれど、ユウは平気なの?」

「そういうもんじゃないのか? 特に不満に思ったことはないな」

「味気ないというか、とろけたご飯といった感じじゃない。消化にはいいのでしょうけれど、気分的にはあまり元気にはならないわね」

「自分で作ったわりに酷評だな……」

「個人的な好みの問題よ。病人食としては優秀だと思うわ」

 何とか完食し、重い体をサクヤに支えてもらいながら部屋に戻る。

「じゃあユウ、しっかり寝るのよ。私は片付けをしてくるから」

 ベッドに俺を下した後、隣に座っていたサクヤは一階に戻ろうとする。
 離れようとする手を掴み、意識が弱っているせいか、心も体も弱っているせいか、普段なら言わないことを思わず口走ってしまう。

「サクヤ、ここにいて……」

 無性に心細かった。
 一人になりたくなかったのだ。

 その発言を聞き、サクヤは目を丸くしていた。

「め、珍しいわね、ユウがそんなこというなんて。やっぱり弱っているのかしら」

 サクヤはうろたえたような、それでいて少し嬉しそうな顔を浮かべていた。
 そしてそのままベッドに戻り、起き上がっていた俺を再び枕まで倒す。

「ユウも普段から甘えていいのよ? こういう時じゃなくても」

 優しい笑顔だった。髪を指で耳のほうまで流し、俺の顔を覗き込む。

「恥ずかしい……」

 俺にだってプライドがあるのだ。
 甘えたくてもそう簡単にはできない。

「素直じゃないんだから。別に軽蔑したりはしないわ。というより嬉しいくらいよ。それに。えっちの時は結構甘えてくれる時もあるじゃない」

「あ、あれはなんというか、その……」

 事実なので何も言い返せない。

「好きな男が自分にだけ甘えてくれるなんて、最高じゃない。嫌いな子もいるのかもしれないけれど、私は好きよ。それに、ユウは母性をくすぐるタイプなの。甘やかしたくなるというか、そんな感じよ」

「ちょっと複雑な気持ちだ……」

「最近は男を感じることが多いけれど、それでも可愛いわ。それじゃあ勇気を出して言ってくれたユウの為に、今日は目いっぱい甘やかしてあげる。赤ちゃんにでもなったつもりで甘えてね」

「そばにいてくれるだけで大丈夫だよ、でも手を握ってて欲しいかな。なんか体が回ってる感じなんだ」

 体力もないため、性的なことにさける余裕はなかった。

 それを聞いて、サクヤは俺の手を握りながら額を俺の額につける。
 冷たい感覚が心地いい。

「ユウ、心配になるくらい熱があるわね」

 そう言うとサクヤはさっき買ってきたらしい熱を冷ますシートを俺の額に貼る。
 点滴の間ずっと手を握ってくれていたと思ったのはどうやら俺の勘違いだったらしい。

「起きている今のうちに体も拭きましょう。べたべたしてるでしょう?」

「お願いしていいか……」

 今更裸を見られることに抵抗はなかった。
 それに汗のせいで服が張り付いていて気持ち悪いのもある。

「着替えも用意するわね。体拭くものも用意しなきゃならないから一度手を放すわよ?」

「勿論、仕方ない……」

 そんなことでごねたりしない。するタイプだとしても今は元気がない。

 少ししてサクヤは洗面器に入ったお湯とタオルを何枚か持ってきた。
 何とかして服を脱ごうと四苦八苦するも、汗で張り付いてなかなか脱げない。

「ユウ、私がするから大丈夫。おとなしくしていていいのよ」

 服を脱がされている途中は、脱がすことはあっても初めてだな、脱がされるの。なんてことを考えていた。

「ごめんな、こんな面倒かけて」

 体を拭かれていて、申し訳なく思う。
 情けなさで涙が出そうなほどだ。

「いいのよ。その代わり私がなったときはお願いね。こんなことがきっと一生続くのよ。いいじゃない。もう予行演習できて。私はこうやって助け合うことは素敵だと思うわ」

 サクヤの顔は本当に嫌がっていないように見える。
 うっすらと笑みを浮かべ、まるで聖女か何かに見えるほど。

「さぁ冷えないようにこれを着て。次は下よ」

「し、下は大丈夫だって……」

「ダメよ。それに今更恥ずかしいってこともないでしょう?」

「サクヤだって恥ずかしいって言ってたじゃないか……」

「状況が違うわ。これは立派な介護よ。今はユウに性的なものを求めているわけではないもの」

「じゃああまり触ったりしないでくれると助かる……多分汚いし」

「別に汚くはないとおもうわ。それに汚れていても綺麗にするためにするのだから、何も問題はないの」

 サクヤは言いながらパンツごと引きはがしてしまう。
 俺のチンポは下を向いたまま沈黙していた。
 それを見たサクヤは少しだけ残念そうな顔をする。

「流石にね……」

「いえ、当然よ。そもそも高熱が出ている時点で生殖能力の危機と言ってもいい状況なのだから。無事だといいんだけど……ユウの精子が死んじゃったらどうしようかしら」

「そんなことになるの!?」

「知らなかったの? 熱は少なくとも精子には良い影響はないのよ。それでも射精そのものは可能みたいだけれど、私を孕ませてはもらえなくなっちゃうのよ」

「怖いな……今後はちゃんと風邪予防するよ」

「そうね。もうユウだけの体じゃないのだから」

「……それは男のセリフじゃないか?」

「言ってみたかったの。ユウもいつか私に言ってね。私を孕ませたときに」

「意外と早いかもしれないな……」

 その後はサクヤに任せて体を拭いてもらう。
 想像以上に汗をかいていたようだった。

「これでよしね。私まで汗かいちゃった。ちょっと上脱がせてね」

 俺が止める暇もなく、サクヤは上を脱ぎ始める。
 逆に珍しいサクヤの下着姿。
 ピンク色のブラジャーの下には真っ白で大きなふくらみが見える。

「ユウ、どうしたのそんなにじっと見て。触りたいの?」

 俺は無言で頷く。
 ただ、チンポは特に反応をしてはいなかった。

「そうだ。こういうのはどうかしら?」

 ブラジャーを外して、俺の顔の上におっぱいを差し出す。

「結構ひんやりとしているから意外といいかもしれないわよ」

 実際冷たさがある。
 頬に当たる柔らかい冷たさ。
 手をあげて揉んでしまう。火照った体を冷ますような温度で、夢中で揉みしだく。
 そしてぷくりと膨らんだ乳輪と乳首に吸い付く。
 グミのような弾力のある硬さ。こんな状況と体調だというのに興奮し始めている自分がいた。

「あ、乳首♡ ユウ、赤ちゃんみたい♡ よちよち、ママのおっぱいでちゅよ♡」

 サクヤは赤ん坊に向けるような口調で話す。
 本当に子どもに戻ったような、そんな気分になる。
 多分、今日は甘えたい気持ちが強い。やっぱり弱っているのだろうか。

 舐るようにサクヤの乳首にむしゃぶりつく。
 少しだけ汗の味を感じた。

「ん!♡ 赤ちゃんはそんなえっちな吸い方しないわ!♡ ユウ、だめ! それ以上されるとしたくなっちゃうから!」

「サクヤ、俺したい……」

 布団の下ではすでに大きくなってしまっていた。
 体調が悪いというのにチンポだけはあまり関係がないようだ。

 布団をめくったサクヤはズボンの下で膨らんでいる俺のチンポを見て、一瞬驚いた後嬉しそうな表情に変わる。

「えっちは──ちょっと難しいわよね……病人にさせることじゃないし……そもそも射精自体大丈夫なのかしら……」

「大丈夫。風邪の時もしたことあるから」

「……そうなの。じゃあ手と口、どっちでして欲しい?」

「……両方」

「ええと、それは二回ということ?」

「出しても元気なら……」

「何回でも、何十回でもしてあげる。ユウがして欲しいなら、どんなことでも」

 本体が元気がない状態だというのに、股間だけが異常なほど元気だ。びくびくと、これからされることに期待してしまう。

「起き上がるのはつらいだろうから、ユウはそのまま寝ていて。全部私に任せていいからね。自分が気持ちよくなることだけ考えていてくれればいいのよ」

 俺が小さくうなずくと、サクヤはにっこりとした笑顔をこちらに向けた。
 ズボンを少しだけ、ちょうど股間だけが露出するように脱がされる。

 横に倒れこみ、顔の横におっぱいが配置される。
 重力に少し負けて、片方がベッドに付いていた。
 乳首はぷっくりと膨らんでいて、普段ピンク色のそれは充血しているのか赤みを帯びている。

「好きにしていいのよ。今日は甘えていい日なの」

 そう言いながらサクヤは俺の頭を撫でる。
 なにか、懐かしい気持ちになっていた。

 サクヤの言うままに、おっぱいに顔をうずめる。
 柔らかい感触に顔が包まれ、安心感にも包まれた。
 乳首に吸い付く。赤ん坊のように、情けなく、みっともなく。それでも甘えるのをやめられない。サクヤにくっついていたい。

「ん、可愛い♡ もっと甘えて♡ おっぱいちゅーちゅーして♡」

 サクヤは俺の頭を自分の胸に押し付ける。
 体からは甘い良い匂いがするが、呼吸そのものが苦しい。それでも抵抗する気にはならない。酸欠気味になっても離れたくなかった。それに、サクヤにそんな意志がないことがわかっているので危機感はない。

「あ、ごめんなさい、思わず抱きしめてしまったわ。苦しかったわよね? 大丈夫?」

「大丈夫……安心してたから」

 再び自分からサクヤの胸に顔をうずめる。
 サクヤは再び頭を撫でてくれる。

「いい子いい子。おちんちん苦しそうね。今楽にしてあげるから」

 びくびくと、腹の上で上下していた。
 昨日の夜何度かサクヤとセックスしたというのに、こちらだけは回復していた。本体はその分弱ってしまっているのに。

 サクヤはそのままの体勢で、俺のチンポを手でさする。
 白くて細い、柔らかい指。射精はできないような、もどかしい刺激。
 それでも────

「気持ちいい……」

 声が出る。おっぱいに顔をうずめながら、小さく。
 精神も性欲も満たされているような、そんな安心感。

 指をすりすりと這わせ、しごくのではさする。
 亀頭を掌でぐりぐりと押し、時折握りなおして、オナニーの時のように上下にしごかれる。

「ちゃんとできているかしら? 正直、あまり自信がないの。ほとんどしたことがないから」

「気持ちいいよ。多分このままされると出ちゃう」

「服が汚れちゃうから、射精するときは私の口にしてくれると嬉しいわ」

 その間もしごかれ続ける。
 丁寧にしっかりと全体を刺激されていた。

 射精感がこみ上げ、サクヤの乳首に吸い付く。

「あんっ♡ どうしたの? もう出ちゃいそう?♡」

 吸い付いたまま頷く。精液が尿道に上がり始めているのがわかる。
 サクヤの手によっての刺激のため、自分では快感の制御ができない。

「あっ、おちんちんびくびくしてきてる!♡ だめよ、お口にぴゅっぴゅしないと!♡」

 サクヤは急いで起き上がり、チンポから手を放す。
 乳首が口から離れてしまい、寂しい気持ちになるが、一切抵抗はしない。起き上がることすら一人だときついのだった。
 それでも残った左手で俺の右手を握っていてくれる。

 限界寸前だったチンポがサクヤの口に吸い込まれる。
 サクヤは俺に背を向ける形で咥えていて、顔は見えない。
 顔が見たい。
 顔を見ながら達したい。

「あ、で、出る……」

 亀頭の周りをざらざらとした舌が円を描くように動き回る。
 右手で竿をしごき上げ、その状態で舌が這いまわっていた。
 熱い温度がチンポを包み、激しい刺激が射精を促す。

 びゅっ!と射精が始まり、そのままびゅるびゅるとサクヤの口の中に放出してしまう。
 昨日の夜に何度もサクヤの中で放出したというのに、それでもなお大量に。

「ん、んん、んんん!♡」

 口で俺の精液を受け止めながら、サクヤは背中をびくびくと痙攣させていた。
 俺の右手を握る力が強くなる。どうやらイッてしまったらしい。

 射精中でもサクヤの舌は止まらない。残っているものもすべて吸い出すように舌を絡め、口を上下させる。

「イ、イッちゃった……♡ やっぱり空気に触れていない方が精液美味しい……♡ おまんこに響く味がする……♡」

 ごくんと音を立てて精液を飲み干し、サクヤは若干ろれつの回らない言い方で言う。
 全身が細かく揺れていた。
 射精後でもチンポは硬いままだった。違和感もなく、次の刺激を待っている。
 サクヤの唾液の影響で、電灯に照らされ輝いていた。

「ユウ、ごめんなさい。ユウがこんな状態なのに、私、もう我慢できないの。こっちにも精液飲ませて欲しい……♡」

 立ち上がったサクヤは、履いていたジーンズごとパンツを脱ぎ、全裸になる。
 割れ目からは白い液体がぼたぼたと塊のように落ちていた。
 昨日は中出ししていないので、おそらくはサクヤの愛液だと思った。
 ピンク色に染まった割れ目を見て、チンポがさらに硬さを増す。体は快感を覚えてしまっている。好きな人と体を重ね、一つになる快感を。何物にも代えがたい充足を。

「軽蔑、しないで? 私がこんなに淫乱なのはユウのせいでもあるのよ? 毎日あんなに気持ちよくされて、しかも全部バレているのだから余計に我慢できないわ」

 寝そべったままの俺の上にサクヤは乗ってくる。
 全身を紅潮させて、切なげな表情で荒い息を吐いていた。
 チンポの上に乗り、自分のオマンコを擦り付ける。
 割れ目の間にチンポが挟まり、温かい愛液でにゅるにゅるとする。
 裏筋の辺りに硬く勃起したサクヤのクリトリスが擦り付けられていた。

「あ、んっ♡ おちんちん、かちかち……♡」

「ク、クリトリスが当たってる……♡ おちんちんかたい、おっきい……♡ きもちぃ……♡」

「ふぁぁ♡ おまんこきもちぃ♡ 好き、好きっ♡ ユウのおちんちんすりすりするのきもちぃ♡ あ、ひ、んんんっ!♡ イク、イクイクっ!♡ やっ、やぁだぁっ!♡ やだやだやだやだ、えっちでイキたいのにっ!♡ でも動くの止められない、イク、イ、クッ!♡」

 サクヤは発情し切った顔で腰を振っていた。
 慣れない動きで、小さく、くいくいと腰を前後に動かす。
 愛液がどんどん流れ落ち、滑りが異常なほどいい。
 にゅるにゅるとひだが絡みつき、チンポの下半分だけ挿入しているような快感が走る。
 このまま続けられると射精してしまう。そう確信した瞬間、サクヤの表情が変わる。

 苦悶の表情にも近い、余裕のない表情。
 何度も見た表情だ。それは絶頂するときの顔だった。
 眉を八の字にゆがめ、目を閉じながら口元からはよだれを垂らし、短く荒い息を吐いている。
 冬場なら断続的に白い息が出るであろう息遣い。全力疾走をした後の息によく似ていた。ただ、それでもこんなに色っぽい息遣いではないはずである。

 腰を細かく動かす。かくかくと、小刻みに高速で前後に動いていた。
 オマンコの外側をすべて擦り付けるように。

 直後、びくんっ、と跳ね上がるように動き、俺の足の側に体をそらす。
 一際大きな喘ぎ声と、噴出する愛液で、サクヤがイッてしまったのを理解する。
 チンポには生温かい液体がかかり、根元だけでなく玉のほうまでがぐっしょりとしていた。

「ごめ、なさい……♡ 一人で先に……♡ 今度はユウも気持ちよくするから許して……?♡ ユウは動かなくていいの。全部任せてくれていいから♡ おちんちんだけ気持ちよくなろ?♡」

「きっと風邪だって、ぴったりくっついて、何回もらぶらぶえっちしてれば治るから♡ 一緒にきもちぃ汗かいて治そ?♡ おちんちんで私の発情おまんこくちゅくちゅして……?♡ 私の病気もユウのどろどろ精子たくさんぴゅっぴゅしてもらえたら治るから……♡」

 サクヤはそう言いながら、自分のおまんこにチンポをあてがう。
 全部がぬるぬるした液体で覆われており、スムーズに穴まで誘導される。
 そしてサクヤはゆっくりと腰を下ろしていく。柔らかい肉が吸い付くようにまとわりつき、じょりじょりとした刺激がチンポから伝わる。
 いつもよりも熱く感じる。自分の体温なのか、サクヤの体温なのか。

 サクヤは俺のほうに倒れこみ、布団をかぶる。お互いに顔だけが外に出ている状態になる。
 腕と膝で体を支えて、俺の方には極力体重をかけないようにしてくれているようだった。
 密着しているのは互いの股間と腰だけの状態である。
 布団の中は二人の体温で高温状態だった。ましてや俺は熱が出ているのだ。
 サクヤは大丈夫だと言っていたが、それでもこの距離で密着していれば風邪にかかるのではないかと心配になる。発症していないだけにしろ、全裸で過ごしている時間が長ければ当然危険である

 だがこの状態になってしまったサクヤは無敵だ。普段の精神状態であっても抵抗できないのだから。
 切なげな表情を浮かべ、俺の上で小さく腰を振る。体そのものは密着していない。両腕と膝を使って少し浮いている状態だからだ。それでも倒れてはきているため、顔はかなり近い。俺の顔のほとんど隣と言ってもいい距離に顔がある。小さな喘ぎ声をあげながら何かを呟いていた。

 おっぱいは俺の胸部分に押し当てられている。例え少し浮いていても、サクヤのサイズだと存在感があった。ふにふにと、柔らかい肉の塊が形を変えながら押し付けられる。
 チンポからは強い刺激がゆっくりと伝わってきていた。オマンコの中は完全にほぐれており、温度とぬめり、そして細かくしごき上げてくるヒダの形状が伝わってくる。

 熱でぼーっとしている頭がさらにぼんやりとする。
 快適な快感に身を任せる。

「はぁはぁ♡ あ、んっ、きもちぃ、きもちぃ♡ おちんちんでおまんこの中すりすりされてるだけなのに、なんでこんなにきもちぃの♡ 頭、おかしくなりそう!♡ ユウとエッチする以外もう何もしたくない♡ きもちぃ、かたいので奥こんこんされるの好き、きもちぃ♡」

 サクヤは俺に言っているのか、それとも独り言なのかわからないことを耳元で言う。
 必死で体重を支えながら、腰を小刻みに上下させ、生暖かい息を首元に吹きかけていた。

「ああ、イク、もうイッちゃう♡ まだ入れてもらったばっかりなのに、もうイク!♡ 私が気持ちよくしてあげなきゃいけないのに、自分だけ勝手にイッちゃう!♡ ごめんなさいごめんなさいっ!♡ 嫌いにならないで、次はユウもちゃんとぴゅっぴゅできるようにするからっ!♡」

 こちらを見ながら懇願する。
 普段の顔から想像もできないほど緩み切った表情。よだれをこぼしながら、半泣きのような顔をしていた。
 しかしその状態でも腰の動きは止まらない。
 まだ挿入してから一分経ったかどうかというところだ。女であるサクヤに適用されるかはわからないが、男であればかなりの早漏である。
 強烈な性欲をずっと隠して、抑えてきたのだ。その反動かもしれない。実際、俺は気づかなかった。ずっと隣にいたサクヤの本性に。

「大丈夫だよ。怒ったりしないからイッていいよ」

 頭を撫でてやる。さらさらの髪が指を心地よくすり抜けていく。
 目を合わせながら、精一杯の笑顔を見せる。サクヤが上にいて、さらに性的に興奮しているが故の暑さなのか、風邪の熱のせいなのか、もうわからない。

「ちゅー。ちゅーしたい。ちゅっちゅしながらイキたい」

 真剣な目である。状況を理解しているのかは謎だ。
 そもそもなんで平日の昼間からこうしているのか、忘れてしまっているのだろうか。

「いや、俺風邪ひいてるんだけど……」

「大丈夫だから、べろちゅーしよ? えっちはいちゃいちゃしないとだめなのよ? 私べろちゅーしないとイケないの」

「それは嘘だろ……」

 そもそもさっきもイッていたし、そうでなくてもしていないことも多い。ただ最初の一回だけは確かに求めてくることも多い気がした。

「ん!」

 俺の返答を口でふさぐ。強引に唇を合わせ、舌を入れてきたのだった。
 サクヤは完全に体重を俺に預け、俺の両肩にしがみ付く。俺を動けないようにして腰を上下させている。

 流れ込む甘い唾液を味わいながら、お互いのざらついた舌を絡めあう。サクヤの長い黒髪が俺の顔の横に垂れさがり、視界は真っ黒、サクヤの顔しか見えない。お互いの鼻息で、顔の周りにできた髪の密閉空間は高温だった。
 眼鏡が俺の顔のほうに落ちてきていたが、もはやそれほど気にはならない。多少の痛みなどどうでもいいのである。

 次第にサクヤの鼻息が荒くなる。腰の動きが激しさを増し、布団をかぶっているため音は聞こえないが、きっとくちゅくちゅという、いやらしい音が響いているはずだ。
 俺の太ももにはサクヤから流れ出したのであろう温かい液体が流れていた。

 唇を離し、顔を少し上げてサクヤは言う。
 今日一番の切なげな顔だった。口元は唾液でてかてかとしていて、普段はピンク色の唇は真っ赤に染まっていた。唾液が垂れ、それが俺の顔に落ちてくる。

「イク♡ イッちゃう♡ 抱きしめて、ぎゅってして♡」

 かすれたような、小さく細い声。
 本当に余裕がないのだと伝わる。
 多分熱のせいだ。普段なら言わないこと、やらないことをしようと考える。

「あああっ、きもちぃ、もうだめ、イクっ♡ 汗だくでえっちするの好き、体くっつけるの好き♡ あっ、おちんちん、ぴくってした♡ 幸せ、生でえっちするのが一番幸せ♡ 一番おまんこきもちぃ♡ あ、あ、あ、イク、イクッ!♡ きもち、きもちぃぃっ!♡」

 サクヤの動きが一番激しくなったタイミングで、ぎゅっと抱き寄せ、耳元で囁く。普段俺がされているように、優しく小さな声で。

「可愛いよ、サクヤ。好きだ、愛してる。だから、いっぱいイッていいんだよ。どんなサクヤでも幻滅したりしないから。好きだ好きだ、愛してる」

 普段は言わない。
 恥ずかしいし、照れ臭いから。

「んんんっ!♡ ずるっ、そんなの言われたら、あ、イクイクイクッ!♡ ひ、すご、すごいのくるっ!♡ あああんっ!♡ ああああっ!!♡」

 サクヤは全身を俺に押し付け、その後に腰を思い切り俺のチンポに押し付ける。
 中の様子がおかしいと思うほど締め付けられる。ねじ切られそうなほどのしまりだった。
 そしてその後に少しだけ開き、サクヤは大きな声を上げて絶頂した。
 全身を細かく痙攣させ、本当に気持ちいいのだと思う甘い声を、耳元で、はぁはぁという荒い息とともに吐いていた。
 俺の両肩にしがみ付く力は強く、肩を折られてしまうのではと思うほどだった。

「ふー♡ ふー♡ きもち、きもちぃすぎ、イッてる、ずっとイッてる♡ 死ぬかも、あたま、へんっ!♡ おちんちんに殺されるっ!♡ ああっまたイクっ!♡ 怖い、怖いよぉユウ♡ もっとぎゅってして、あたまなでなでしてぇ!♡」

 背中側にあった左手をスライドして、そのまま俺の顔の横のサクヤの頭を撫でる。
 頭を撫でるとサクヤはびくっと反応し、チンポが強く締め付けられた。

「ふう、んん♡ 好き、好きぃ♡ あ、またイキそう、おまんこへんっ♡ ずっときもちぃ♡ 動いてないのにイッちゃう♡ ん、ひぃ、頭動かないよ、きもちぃのしかわかんないっ!♡」

 がくがくと震え、耳元で聞こえる声は軽い絶叫になっていく。
 もはや快楽を通り越してしまっているのではないかと思う。ぜぇぜぇと苦しそうな息遣いで何度も絶頂に達していた。

 それから五分ほど、サクヤは絶頂を繰り返す。
 イッた刺激でまたイクというサイクルであり、体のどこに触れても反応するため、うかつに触れない。
 お互いに汗でびしゃびしゃで、さっきサクヤに拭いてもらった意味はもうない。

 サクヤは普段から敏感だ。性格的には図太いというか、少なくともそこまで細かいことを気にするタイプではない。それでもどちらかと言えば几帳面な方ではあるが。
 だが体は違う。少し怖くなるほど敏感だった。

「落ち着いた……?」

 呼吸が少し元に戻ってきているのを確認して、声をかける。
 ぜぇぜぇがはぁはぁに。それでも呼吸自体は荒いが、イキ続けるループからは脱却できたようだった。

「し、死ぬかと思ったわ……急にあんなこと言うから」

 普段の口調を取り戻す。荒い息混じりではあるものの、ある程度正気のようだった。
 セックスの時のサクヤは完全に別人のようである。
 どちらも素であるとサクヤは言っていたが、どうも最近はこちらが素な気がしてきた。
 甘えるのが好きな、普通の可愛い女の子なのではないかと。少なくとも、俺にとってはそうなのだった。

「サクヤだってやるだろ。ちょっとやってみたかったんだよ」

「あんなこと言われたらイクに決まってるじゃない。でも、あんなイキ方したの、初めて。本当に頭が壊れたのかと思ったわ。耳が妊娠するって聞くけど、本当にそんな気がしたの」

「サクヤ、一応言っていい? 終わったような感じだけど、俺ずっと焦らされっぱなしなんだけど……」

 中に入ったまま、かれこれ十分ほど待たされていた。
 いつもよりも長く、すでに限界を迎えそうだった。絶対いつもよりも出る量が多いことを確信している。

「え、あ、だめ、今はダメ絶対ダメ! まだ余韻が残ってるから!」

「俺だって我慢できないんだよ。それに、サクヤが言い出したことだろ? 責任、とってくれよな」

 驚いた顔でこちらを見るサクヤに笑顔を向ける。

「い、いや、今その顔はいやーっ!」


 その後はたっぷりとこってりと、サクヤの中に騎乗位で三回射精する。
 サクヤは途中からぐったりと放心状態のようになっており、動くのは俺に代わった。
 下から何度も突き上げ、それに合わせて喘ぎ声をあげながら絶頂を繰り返していた。
 俺が射精するたびに大きな絶頂をし、そのたびにここまでにしようと懇願していた。だが我慢を続けていたせいで、全くそんな気にはならない。
 汗をたくさんかいたせいか、体調も少し元に戻ってきていたのである。
 三回目の射精を終え、ようやく落ち着きを取り戻す。それに付き合わされたサクヤは、俺の上で力なく倒れている。
 その姿はどちらが病人かわからなくなるほどだった。

「ユ、ユウ、このまま寝そべっててもいい? 腰が、腰が抜けてるの。ユウがあんなに激しくするから……」

「ごめんな、我慢できなかったんだよ。サクヤが可愛すぎるから」

「……ずるい。こういう時にだけ言うんだから。普段から言って欲しいのに」

「普段は恥ずかしい……」

「素直じゃないんだから。私ほど素直にとは言わないけれど、ちょっと素直になって欲しいわ。愛情確認みたいなものは必要だと思うの」

「善処するよ」

「それでユウ。もしかして体調回復してたりするんじゃない? 途中からすごい元気に見えたのだけれど」

「多分。熱も下がってると思う。すごい汗かいたからな」

「やっぱり、風邪の特効薬は汗だくで何回もえっちすることなのね。気持ちよくて、しかも風邪まで治るなんて、最高ね」

「いや、場合によっては死ぬ気もするんだけど」

「今回は結果論的に正解だったわけね。私が発情しなければ未だ寝込んでいたかもしれないわよ」

「何とも言い難い恩の押し売りだな……でも助かったよ。正直心細くてさ。恥ずかしいかっこ悪い所見せちゃったよ」

「いいのよ。私だってどんな姿を見せられても軽蔑したりしないわ。というより、もっと見せて欲しい。かっこつけてるのも可愛いけれど、弱いところを見せて欲しいわ。それを受け止めたいの。そっちの方が愛って感じがするもの」

「じゃあ……これから遠慮しないぞ? かっこ悪くても捨てないでくれよな」

「今更よ。ユウがかっこ悪いのは今に始まったことじゃないもの」

 サクヤは笑いながらそう言った。

「ちょ、ちょっとショックだぞ?」

「嘘よ。冗談。世界で一番かっこいいわよ」

 ちゅ、と軽めにキスをされる。
 なんというか複雑な気持ちだ。さっきまでよりもソフトだというのに、さっきよりも恥ずかしい。

「ユウ、私はもう大丈夫だから降りるわね。それより、この惨状を何とかしないとまた悪くなるわ」

 汗でびっしょりの布団、寝間着、シーツ。その他もいろいろな液体で汚れている。

「ユウははシャワーでぱっと汗を流してきて。体を冷やさないようにね。あと、今日はドライヤー使わないとだめよ。部屋に持ってきて。乾かしてあげるから」

 サクヤは唐突に真面目モードに切り替わる。
 こうなってしまうと、有無を言わせない。

「シーツとかは私が処理しておくから。着替えも持ってね」

「う、うん……」


 その後、サクヤは普通の看護を始める。
 シャワーから上がった俺の髪を乾かし、綺麗にしたベッドで寝かせる。
 全裸であることを除けば普通だった。

 サクヤもシャワーを浴び、服を着て登場する。

「服、着てるんだな……」

「? 当たり前じゃない。どこの世界に全裸で病人の前に来る人間がいるのよ」

 お前だ! そう突っ込もうか迷ったが、ほんの少しタイミングを逃したためスルーする。

「いや、パンツとかすごいことになってたろ?」

 大量の愛液が変色させるほどついていたはずだ。

「今日は替えの下着を持ってきていたから」

 さらっと流すように言う。俺に目を合わせない。
 ここで一つ疑問が浮かんだ。

「サクヤ、まさかお前、最初からそのつもりで?」

「い、いえ? 何の話をしているのかしら。病人相手にえっちしようなんて、思うわけないじゃない。万が一、万が一ユウがしたいって言ったときのために持ってきただけよ?」

 明らかに取り繕っていた。
 サクヤは嘘がそんなに上手じゃない。声が上ずるのですぐにわかるのだった。

「……変態」

「ええ、そうよ! ユウが思ったより元気だったらえっちしてもらおうと思って、期待していたのよ! みんなが勉強しているときに、いちゃいちゃえっちしたかったの! それでも、思ったより重病だったから諦めたのよ、最初は。でもやっぱりしたくなって、このざまというわけね。風邪でぼーっとしてるときなら生でしてくれるかもとも期待したわ。そこは上手くいって嬉しいわね」

 開き直ったサクヤは赤い顔で、半分笑いそうな表情を浮かべながら言う。

「昨日もしたのに……」

「昨日は昨日よ! 今日は今日! 毎日したいの。じゃないとユウがムラムラしてほかの子のこと見たりするかもしれないし、それが嫌なの。そして、単純に私がしたいの」

「最後のなければなぁ、可愛い、で済んだのに」

「仕方ないじゃない。それに、私がそういうの興味ない、って言ってたらどう思うかしら? ユウはきっと毎日悶々とすることになるのよ。彼女がいるのに手が出せないんだから。そういう意味では私は優秀だと思うわ」

「う、確かに」

「でしょう?」


 それから、おとなしく寝ていた。時折会話をしながら。
 サクヤは本を読んだり、勉強をしていた。こういうところで学力の差が出るのかと感心した。

 夕方になり、父が帰ってくる。

「ユウ、元気か? ──って元気なわけないわな。いろいろ買ってきたから」

 父は部屋に入るなり、そんな冗談のようなことを言う。
 多分、俺の顔色が悪くないからだろう。熱はすっかり下がり、他の症状もほとんどない。
 いまいち納得はいかないが、サクヤとのセックスが何かしらの効果を及ぼしたのかもしれない。多分、病院の点滴のおかげだろうけど。

「お、お前、彼女に看病してもらうなんて、あと、二、三年早いぞ!」

 勉強机に向かうサクヤを見て父は言う。それは自分でもちょっと思っていた。贅沢な状況だと。

「もしかして、学校休んだのかい? 勉強もあるだろうに、大丈夫なのかい?」

 父は心配そうだ。当たり前である。別に必須だったかと言われればそうでもない状態で休んだわけなのだから。

「大丈夫ですよ。どのみち受験の範囲は全部予習済みなので。学校は行っても行かなくてもそれほどは」

 サクヤの言葉に父は目を丸くする。
 俺たちは高校二年生。そして、俺たちの通う学校は進学校だ。二年の十二月終わりには受験の範囲の大半を終える。その後は受験勉強がメインになり、自分に必要な選択科目を受けるのが通常の流れなのだ。
 サクヤは学年でも三位以内に入るが、そういう生徒はすでに受験の範囲を予習し終えているのである。
 三年生の夏までには、二次試験を含めたすべての受験勉強を終え、確認作業に時間を割くのだ。

「うち、進学校なんだぜ。サクヤくらいになればそんなもんだよ」

 自分のことではないのに、鼻が高い。ちなみに俺はと言うと、多少先は予習してあるものの、それほどではない。多分、ぎりぎりまで受験勉強は続くだろう。

「受験勉強って三年の夏休みからやるもんじゃないのか……?」

「いや、それじゃ遅いんだよ。天才だけだって、そういうのは」

 愕然としている父に寝たまま返答する。

「ユウも実はそんな感じだったりするのか?」

「サクヤほどじゃないけどね」

 父は少し悩んで、明るい表情で言う。

「頑張れ! もう俺から言うことはない、勉強に関しては全くな!」

「あ、でもサクヤちゃん、流石に帰った方がいいぞ。今日はもう俺もいるし、君も風邪ひかせるわけにはいかないからね」

「父さんの言うとおりだ。サクヤまで風邪ひいたらあれだから」

「多分大丈夫だと思うけれど、一応そうするわね。じゃあユウ、また明日。しっかり寝て治してね」

 サクヤが部屋を出るなり、父は言う。

「羨ましい話だな、まったく……」

「この話をしたら学校中の男に嫉妬されて、最悪入院まであるな」

「なんでさ?」

「そりゃあ、リンチだろ。父さんの時代は結構あったぞ」

「進学校入って初めてよかったと思うよ。流石にそこまで気合入ったのはいないからさ」


 夜中になって案の情熱がぶり返す。
 携帯に何かメッセージが来ていた気もするが、それを見る余裕もなく、そのままその日は寝た。
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