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第八話 比翼の鳥 後編
しおりを挟む「サ、サクヤ、大丈夫か……?」
サクヤはイッてしまった後、ぴくぴくと痙攣し続けていた。
顔を両手で覆い、足はだらりと前に伸ばしたまま、犬のような、はっはっ、という短い呼吸を繰り返している。
下腹部から胸までが波打つように動いていた。
「だ、大丈、夫、だけれど、体がへんっ!♡」
息の切らし方が尋常ではない。過呼吸気味というか、少なくとも正常ではないように思え、心配する。
「だ、大丈夫か、ホントに!? 病院、救急車!?」
急いで携帯を探していると、サクヤがそれを止める。
顔から片手を離し、俺の右手を掴む。そこから覗く顔はひどいもので、汗ばんでおり、眼鏡の下からは涙を流していた。
「ち、違う、イッてる、イッてるのっ!♡ ずっとイッてるのっ!♡」
え?一瞬何を言っているのかがわからず、思考も行動も停止した。
「さっきの、さっきので! だからダメだって言ったのにっ! ユウに舐められたらこうなるってわかってたから!」
顔をぐしゃぐしゃにし、上ずった声で軽く叫ぶ。
「び、敏感なんだな……」
思わずそう言ってしまう。俺のへたくそなそれでここまでなってしまうとは思わなかった。
「ユウが好きなの、大好きなの、だから────っ! ああ、んんん!♡」
ビクンッと体を浮かし、足をしっかりと閉じ、両手で自分の肩を抱きしめるようにする。
表情は苦しそうなものであり、プルプルと震えていることからまたイッてしまったのだろうと思った。
ただ今は触ってもいないというのに、なぜ。
サクヤは普段とはまるで別人だ。普段の冷静で強めの語気はどこへ行ってしまったのだろうと思うほど、か細くかすれたような、それでいて濡れているような声を出し続けている。
以前に言っていた、甘える方も素であるという発言を思い出す。つまり、これも素なのだろう。
「イッたのか……?」
「うん、うん♡ ユウ、抱きしめてぇ……♡ 怖いの、浮いているような、そんな感じなの」
涙を流しながら懇願され、ドキッとしながらも少し心配に思う。
寝ているサクヤを起き上がらせ、背中側から抱き着く。
その細く軽い体を抱いていると、愛おしい気持ちが沸き上がってくる。
思わず顔をサクヤの頭頂部に押し付けてしまう。
「ユウ、頭、撫でて欲しいの……いい子いい子って」
「サクヤ、意外と好きだよな、これ。昔はよくやってもらってたもんな」
「うん……最近じゃしてもらえないから……」
サクヤはこれが好きだった。だったというのは、それを最後に見たのは小学校の頃だからである。
思えば、小さいころからサクヤは褒められるのが好きで、その時にはいつも頭を撫でてもらっていた。サクヤの両親はそういう人たちであり、大して褒められることをしていなかった俺は、それを羨ましく思ったものである。
真面目な委員長、というものの原点はこういうところにあったのかもしれない、と思った。
誰かに褒められたくて、そのために努力してきたのかもしれないと。
そのまましばらく撫でていると、サクヤは少々落ち着きを取り戻す。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい、取り乱してしまったわ。でも、ありがとう」
「いや、別にいいけどね。でもすごかった、触ってないのにイケるもんなんだな」
「私も驚いたわ。ただユウにされるとこうなるかも、とは思っていたの。私は感度が高いみたいだし、気持ちも高まってしまっていたから」
「やっぱりそうなんだ。なんとなく、感じすぎじゃないか、とは思ってたんだけど」
「ええ、他の子たちと話が合わなくて気づいたわ。みんなはそんなに感じないって言ってたから」
それは誰のことなんだろう、いつも一緒にいる女子たちだろうか、気になる。
だがそれを言ってしまうとサクヤは拗ねるだろう。
「今、誰だ、と思ったでしょう。教えないわ。プライバシーの問題だし、他の子のことなんて、ましてや性のことなんて考えてほしくないから」
ムスッとしているのであろうことは簡単に想像がついた。
軽く口を膨らませるような、大きくは膨らませない、ほんの少しわかるくらいの膨らみである、その表情。
想像すると、少しにやけてしまう。
「……お互い嫉妬深いな」
そう、俺だってサクヤに他の男のことなど考えてほしくない。
「いいじゃない。自分だけのものにしたいと思っても」
後ろを向いたまま、少し小さめな声で言う。
「心配しなくても、俺を好きになるのはサクヤくらいなもんだ」
「わからないわ。こんなにかっこよくて頼りがいのある男、そんなにいるものではないから」
「……残念ながら、それは過大評価だと思うぞ……」
「浮気は許さないわ。私以外に欲情することも嫌」
「不意打ち的なものに関しては許してほしい」
「ダメよ。たとえ目の前にユウ好みの美女が全裸で現れても、その辺の壁を見ているのと同じ状態でいてくれないと」
「ごめん、約束できないかも……」
「それは冗談よ。ただ手を出さないで欲しいだけよ。射精も私だけにして。どんなに求められても、どんなプレイでもするから、だから、だから見捨てないでね……?」
きゅん、とし、抱きしめる力を強くする。
サクヤはいったい何を心配しているのだろうか、こんな、こんな愛おしいサクヤを手放すなど、とても考えられないのに。俺の方がよほど愛想をつかされないか心配だというのに。
サクヤは心配性なのかもしれない。区切りがつくたびに、少し悲し気にそう言ってくるのだ。
「ありえない。ありえないから心配しないで。俺の方こそ頼むよ、離れないでくれ……」
「大丈夫、私もありえないから。ユウ……キスをしましょう」
サクヤはいつものようにそう言った。
昨日初めてサクヤと交わって以来、何度したかもわからないキスをしよう、と。
抱きしめたままサクヤをベッドに優しく倒し、枕の位置まで頭を右手に乗せながらゆっくり運ぶ。
そして上からのしかかる様に、サクヤの唇にむしゃぶりつく。
ロマンチックさなど欠片もない。強いていうならば、開け放ったカーテンから月明りが煌々とさしていることがわかることくらいであり、それも電気をつけっぱなしにしている部屋にはそれほどの影響を与えない。
外を見る余裕などなく、ただ目の前の大好きな、愛おしい人と繋がりたいと思った。
くちゅくちゅと舌を絡ませ、お互いの唾液を交換するようにする。
眼鏡をかけたままでもできるほどに上達しており、多少は顔を見る余裕もできていた。
この至近距離で目が合い、少し口元が緩む。
サクヤの真っ黒な瞳は細かな精彩を放っており、吸い込まれるような、という表現がふさわしい。
口を離すと、銀色に光るねっとりとした糸がお互いの口から伸びる。
その先、サクヤの真っ赤な口の中の舌は、名残惜しそうにこちらに伸ばされたままだった。
先ほども出したばかりだというのに、俺のチンポは既に臨戦態勢で、のしかかったままの体勢でも腹につきそうなほどになっている。重力の影響など、この衝動の前には些細な問題だった。
上に着ていたままだったシャツを脱ぎ捨てる。
そして再びキスをし、そのまま腰をこすり合わせ、挿入する。
お互いに準備は十分すぎるほどであり、今か今かと待ちわびていたのだ。
サクヤの声が俺の口の中でかき消され、この二日でしたセックスの中で最も静かな、それでいて愛を感じるような、そんな状態になる。
お互いがお互いにしがみつき、ゆっくりと腰を動かす。
昨日初めて交わってから、俺たちは寝ていない。そのまま学校に行き、今に至るのだ。
すでに体力は限界であり、腰は抜けたようになってしまっているし、足にも力が入らなかった。
サクヤも同じような状態のようで、背中に回している腕にはそれほどの力を感じない。
部屋の中には俺たちが出す音、キスをするクチュクチュという音と、ゆっくりと液体まみれの股間をこすりつけあう、ネチョ、ネチョという音だけが響く。
サクヤのオマンコの中は何度入れても気持ちいい。
ぬるぬるとした液体で溢れていて、サクヤの熱い体温が集約されたような熱さ。
キツく、それでいて絡みついてくる。
柔らかく、ぬるぬるとしたような、にゅるにゅるとしたような。
ジョリジョリとしたような、ツブツブとしたような。
そんな様々な感覚が入れるたび違う快感を与えてくれるのだ。
カリの隙間までしっかりと、なぞるような、ぞりぞりと削るような。そんな快感に脳みそが溶けていく。
サクヤは奥の方が好きであり、そこを突くと身をよじらせ悶える。ただあまり強くすると痛いらしく、俺は細心の注意を払って動いていた。それを意識することが俺の快感の歯止めになっていたのだが、回数を重ねるごとにわかってきて、今では特に意識しなくてもできるようになった。
その結果最初の頃よりも気持ちよく、早漏気味な俺はさらにその傾向を強めていた。
キスをやめ、サクヤの顔を見つめる。これはもうイキそう、という合図になりつつあった。
「サクヤ、少しだけ激しくしてもいいか?」
先ほどの件もあり、少し心配だった。
「うん、ユウのチンポでもっと気持ちよくなりたいわ」
いつもとは違う、少しだけ砕けた口調と声でそう返答してくれる。
体を密着させ、サクヤの顔の横に自分の顔をつけ、腰の動きを少し激しくする。
ぞくぞくと快感が昇り、金玉が上がっているのがわかる。
ねちょねちょという音が加速し、パンパンという音が混じり始める。
「う、く、イキそう……」
俺がそう言うと、サクヤは全身を俺に巻き付ける。
足を俺の腰に回し、背中の腕に力を込めて。
そして俺の耳元で囁く。
小さく、かすれた細い、甘い声で。
「好き好き大好き、好き好き好き好き好き好き♡」
「チンポきもちぃ、精液欲しい、いっぱい欲しい♡」
「オマンコイキそう、ん、イクイクイクイクイクイク!♡」
ぞわぞわ、と頭から背筋を伝ってチンポに伝わり、俺はその不意打ちで射精する。
「が、は」
という声になっていないような声を上げてしまう。
サクヤは足をさらにギュッと締め、俺はサクヤの奥に一滴残らず射精する。
二人ともが一切の声も、一切の身動きすらできず、絶頂の快感を味わった。
一生の内でも一番の長さとも思えるような数秒が終わってしまう。
そのまま入れっぱなしで俺たちは眠ってしまったようだった。
どうやら抱き合ったまま寝ていたらしく、朝起きた時にはかなり至近距離にサクヤがいた。
「おはよう、ユウ」
「あ、ああ、おはよう」
平常時で抱き合っているという状況は少し緊張する。
「流石に疲れていたのね、私も今起きたの」
時刻は朝七時、普段サクヤは六時に起こしに来るので、それよりも一時間以上遅い。
「さぁ、そろそろ用意しないと、学校に遅れてしまうわ」
「これからは用意というか、後片付けする時間も考えないとな……」
サクヤのベッド、シーツは大惨事である。
中に一度出しただけではあるが、それでもサクヤが吹いた潮や汗などがこびりついてしまっている。
もっと言えばフローリングも似たような状態だ。
「そうね……それにまたではあるのだけれど、下に降りるのに勇気がいるわ」
「多分だけどそれは大丈夫じゃないか? 昨日俺の家の方で飲んでたはずだし」
「ならいいのだけれど……そう言えば、昨日口走ってしまった件だけど、そういう目で見ているのがわかった時は覚悟して置いて」
恐らくは、自分が感度が高く、周りの女の子はそうではない、という話のことだ。
「大丈夫だって。サクヤ以外に興味ないし」
「本当よ? もし破ったらどうなるか、覚えておいて」
サクヤはそう言って、恥ずかしそうな、そんな顔をする。
やっぱりかわいいな、と思う。
俺みたいなやつが誰かに取られることを本気で心配してくれているのだから。
嫉妬深くて、少し寂しがり屋で、そして甘えん坊なことは俺だけが知っている。
一生離れられる気がしない。もっとも、そんな気もない。
朝日の中で輝いているサクヤを見て、強くそう思う。
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