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孤独な錬金術師

第四話 イチカ

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 俺はレームにしがみつき、何度も射精する。
 レームは俺の頭を優しく撫で、愛おしそうに抱き着いてくれた。
 もう覚えていない母親のように、優しく受け入れてくれる。
 この山奥の、誰もやってこない廃城で、二人きりの幸福な時間。

 すっかり夢中になってしまい、当初の目的を忘れていた。
 あくまでこれは新たなホムンクルスの精製のための行為だった。

「ご主人様、私、妹が欲しいのです……」

 いつだったかレームはそう言った。
 俺は正直何とも言えない気持ちになった。
 二人だけでもよかった。人とのかかわりがなかった俺は、はっきり言って人づきあいが苦手だ。
 自分に従うホムンクルスならいいじゃないか、と思ったりもするがそれでもだ。

 それでもレームの願いは極力聞いてやりたかった。
 彼女はホムンクルス、精巧な人形といってもいい。
 だが俺は完全に彼女に依存している。万能の石を持ち、ありとあらゆる知識を持っていても、寂しさだけは消えなかったからだ。

 結局何がしたかったんだろうな、と時折考えることがある。
 知識が欲しくて、そのために生きてきて、その先は考えていなかった。
 心の奥底では自分が賢者の石を精製できるとは思っていなかったのだろう。

 ホムンクルスは生殖機能を持たない。
 これは賢者の石をもってしても実現できない部分だ。
 あくまで一世代限りである。ただそれでも膨大な寿命を持ち、必要であればいくらでも伸ばしてやれる。


「この瞬間だけは慣れないな」

 フラスコに血を垂らす。
 そのために指をナイフで切るのだが、この痛みは何度やっても慣れない。
 もっともそれも意識さえすれば一瞬で治る。

 今の俺は不老不死だ。自動修復の速度も尋常ではない、
 恐らく上半身を吹き飛ばされても死にはしないのではないだろうか。

 人里に降りて適当に暴れるだけで国の一つや二つ潰すのもわけはない。
 魔術師としては二流の俺でさえそれだ。一流が使えばどうなるかは論じるまでもない。
 それが『賢者の石』の力。それだけの代物を精力増強剤のように使っている。

 俗世には極力関わりたくない。
 俺の存在は世界の構造を変えるほどに影響力を持つ。

 俺はこのまま、ずっとこの城で静かに暮らせればそれでいいのだ。

「準備はできたな。そうだな、名前はどうしようか」

「そうですね、『イチカ』はどうでしょう。私がゼロ、レームですので」

 安直なネーミングだ。だがそれでいい。
 俺のためではなく半分はレームのためのホムンクルスなのだから、彼女の思う通りにさせてやる。

 ホムンクルスはある程度の指向性を持たせて精製できる。
 俺が操作できない部分は、性格、そして髪色だ。
 だが性格の根本たる部分はいくらでも操作できる。

 淫乱、従順、それはレームに対しても、そして勤勉。
 この城での家事はレームがやってくれている。
 その負担を減らせるようにしたい。本来なら気にせずやらせればいいのだが、俺はそこまで鬼畜ではないようで、負担にならないよう綺麗に使用しているのだ。

「それじゃあ『イチカ』を製造しよう。どんな感じのがいい?」

「そうですね……私を姉として慕ってくれると嬉しいです」

 ホムンクルスであるレームが自分の意志を持ってくれているのは嬉しい。
 製造する前は意志のない人形だと思っていたが、それはいい方向に裏切られた。


 巨大なフラスコの中にそれは現れる。
 金髪の長い髪、体型は幼女に近い。レームが妹を望んだので、ある程度幼い見た目にしたつもりだったのだが、思ったよりも幼い容姿になってしまったようだ。
 先ほどまで液体に満たされていたフラスコの中にはイチカだけが残される。

「お前の名前は『イチカ』だ。そうだな……俺はご主人様でいい。こっちはレーム。お前の姉だ」

「ご、ご主人様、これからよろしくお願いします。お、お姉さまも……」

 全裸の幼女はレームとは違い、引っ込み思案な性格のようだった。
 根本以外はランダム、というよりも俺の精神の一部なのだろう。
 俺が与える血液や精液が影響しているのだ。

 レームはその引っ込み思案を可愛く思ったのか、胸を押さえキュンとしている。

「レーム、色々教えてやってくれ。お前の妹なんだからな」

 可愛くないとは思わない。というより容姿は整いすぎているほどだ。
 おっとりとした美人のレームとは違い、絵画や彫刻のように美しい。
 個人的な好みはレームのようなタイプだが、一般論的にはイチカのほうが人気かもしれない。
 だがはっきり言って巨乳好きな俺としては少々物足りないかもしれない。

 はい、と満面の笑みで返事をして、レームはイチカに毛布を掛ける。
 流石に最初は、と思い、レームも俺も服はしっかり着ている。
 それも適当なものではなく、レームには綺麗な白いドレス風の衣装を着せているし、俺は錬金術師としての正装をしている。
 いかにも錬金術師然とした恰好で、この数十年の間に何回かしか着たことがない。
 人前に出る時は着るが、そもそも人前に出ないので機会がないのだ。

「イチカが着れそうな服はあるか? ないのなら買ってこないといけないな」

 レームの服はわざわざ買ってきたものだ。
 まるで妻でもできたかのような気分で、浮かれて数十年ぶりに外出したのだ。
 当然イチカのサイズの服はないのは分かっている。

「私のしかありませんね……」

 予想されている返答だ。
 つまり、外出しなければならない。

「ご主人様、行きましょう。買い物に」

 俺は恐らくすごい顔をしていただろう。わかっていても非常に面倒だった。
 金はいくらでもある。錬金術師なのだから。
 ただ面倒なうえ、下手をすればもっと面倒なことになる。

「仕方ない、行くか。レーム、お前も一緒に行くんだからな。そこでついでにお前の服も買おう」

 回数を少しでも減らすためまとめ買いだ。
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