ちょっぴりダメな子供部屋お姉さんは、幼馴染の男の子と遊びたい 

火野 あかり

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第三話 子供部屋お姉さんと大乱闘

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「くらえっ! 赤は追尾だぞっ!? 私の前をチンタラ走ってるんじゃねぇ!」
「はいバナナガード。――また一位。ことねーちゃんはあれだね、アイテムに頼りすぎだね。ドリフトとかもっといろいろあるから、このゲーム」
「二十連敗……え、ある? ゲームでここまで一方的なのある?」
「よくあると思うけど……? レースゲームとか技術系は特にね」
「――やめだ。経験値が違いすぎる。このまま続けても勝てる気がしないっ! あっくん強すぎっ!」

 コントローラーを置き、ことねーちゃんはベッドの上にぼふんと仰向けで倒れこんだ。
 俺はすかさず視線を向ける。ハーフパンツから覗く足を凝視するためだ。
 
 エロい足だ……。
 白いふとももがむちむちしてる。
 ――ありがとうございます!

 部屋の中には操作を待つゲームの軽妙なBGMだけが妙に響いていた。
 無言にはなったが、気まずい空気でもない。昔に感じていたような穏やかな空気だったからだろう。

 しかし、ことねーちゃんの発言でほんのり険悪な空気になる。
 殺伐とする寸前のピリッとした空気だ。

「――あっくんの持ってきたゲームにさ、苦手なの入ってないの? 私でも勝てるやつ。あっくんをボッコボコにできるやつ」

 ボソリと聞こえた声を聞き、俺は先程までの考えを後悔していた。

 こんなに負けず嫌いだったっけ?
 そうだった気もする……正月の人生ゲームとかでも騒いでた。
 なんでか生涯未婚で終わることが多いんだよな、この人。
 祝い金の払いを渋ってたのを思い出した。

「ないこともないよ。でも全部それなりにやりこんでるしなぁ」
「勝利だ。私は勝利が欲しいんだ! リアルでも負けっぱなしなのにゲームでまで負けたくないっ……私は敗者だ! 君の望んだ英雄じゃない!」

 は、反応しにくいこと言うなぁ……。
 そしてまたゲームセリフの引用がある……。

 苦手なゲームね……どちらかというと苦手というのならないことはないけど、俺の持ってるゲームだしあまりないとも言える。

 ――仕方ない、勝たせてあげよう。
 昔ならともかく、俺も少しは大人になった。
 ゲームで負けるくらい悔しくないしッ!

「じゃあ、これは?」
「お、おおっ! それは例のアレ! 玲ちゃんの家でめっちゃやったやつ!」
「玲ちゃん?」
「あっくんも誕生会で会ったことあると思うよ? ほら、髪短くてスポーツ系の! 大学入ってからは伸ばしてるけどね。今は私より長いくらいかなぁ」
「わかんないな」

 誰?
 ことねーちゃんの友達って言っても、多分誕生日会だとかでしか会ったことないだろうし、俺はその辺の人たちとはあんまり話さなかったからわからん。
 いたような、いなかったような……。

 例のアレとは、いろいろなゲームのキャラクターが勢ぞろいした例の対戦ゲームだ。
 俺はどちらかというと苦手な部類のゲーム。友達間だと俺が一番弱かったのである。俺も所有者ではあったのに。みんな持ってたから条件はイーブンだったのだ。

 真面目にやればことねーちゃんには負けないだろうけど、今回は手を抜く。
 まさかこんな年で接待を学ぶとは思ってもみなかった。

「黄色いネズミはいただいたっ!」
「じゃあ俺は緑の恐竜でも使おうかな。久々だなぁ、このゲーム」
「おいおい、恐竜がネズミに勝てると思っているのかい? あっくんはあれかな? このゲームよく知らないのかな?」
「字面だけならネズミに勝ち目はなさそうだけどね……」

 確かに黄色い電気ネズミは強い。
 このゲーム、特にこのハード版ならば最強かも知れない。
 
 技にスキがないし、リーチが長いうえ、敵が落ちそうなときに復帰を防ぐことも得意だ。
 
 強キャラを躊躇なく選ぶとは、この子供部屋お姉さんは本気で勝ちたいらしい。

「アイテムは?」
「どっちでもいいよー。あ、地雷のやつは好き」
「じゃあそれだけアリにしようか。別に強くないけどね、あれ」
「連鎖したら面白いじゃん? どかんどかーんって」
「ならステージも神殿かどこかにする? あそこ下の方は連鎖できた気がする」
「いや、【終点】で。CPUもいらない。――一騎打ちだっ!」
「ほ、ほう……強気だね」
「お姉さんは結構やりこんだよ? 女の子の間でも流行っててね。私はクラスで一番強かったんだ。持ってないのに。持ってないのに最強とか、天才じゃない!?」

 ――負けず嫌いだから周りが気を使ったとか、そういうオチじゃないことを祈ろう。
 
「PKサンダー!」
「それ違うキャラ!」

 案の定ことねーちゃんはお世辞にも上手いとは言えなかった。
 なんとなく程度にはセオリーを理解しているっぽい動きはするが、なんでここでこの技? みたいな行動が多いのである。
 
 まぁ普通にやれば負けることはないと思われた。
 だがそれではことねーちゃんはまた不機嫌になってしまうだろう。

 ――やはり接待プレイだ。

「うわっ、操作間違えた!」
「隙ありぃっ! ――なにぃぃぃっ!? 謀ったな貴様!」
「なんで自爆するのさ! 落ちそうなとこで頭突きしたらそりゃ落ちるよ!」

 俺がわざと隙を見せたのに、ことねーちゃんは追い打ちをかけようとして自ら落ちていった。
 
 だ、ダメだ! 接待すらできない!
 なんでこんなに下手なんだ!?
 俺が接待されてるとかそういうのじゃないだろうな!?

「もう一度! 後生!」
「別にいいけど……キャラ変える」
「お、ゴリラだねぇ。じゃあ私もゴリラっぽいやつ……こいつだ!」
「人間じゃん! そういやそいつもレースゲームのキャラなんだよ」
「え!? アメコミかなんかのキャラじゃないの!? このムキムキヘルメット!」
「このハードが出たときくらいのゲームだよ。めちゃくちゃ難しいゲーム」
「へぇ……十年越しくらいに真実を知ったよ。――ならなんで殴ったり蹴ったりするんだろ? レーサーって殴り合いしなくない? 私が知らないだけで本物のレースは殴り合いするの?」

 い、言われてみれば……。
 荒くれ者っぽいやつばっかりのゲームだったからあれかな、ゲーム外でケンカしまくりの設定なのかな。

「それは俺も分かんないな。強そうだから? だってムキムキだし」
「私はこういうムキムキ系好きじゃないなぁ。同じ人間じゃないみたいだから」
「ゲームのキャラだからね?」
「リアルでも好きじゃないよ。私はあっくんみたいなのが好きだなぁ」
「俺……? それってどういう……」

 俺のことが好きなのか!?

 ――そんなことはないのはわかってる。
 これは体型だとか身長だとかそういう話だろう。
 勘違いして浮かれたりなどしない!
 童貞だからって舐めるなよ!?

 ――と思っても頭の中が真っ白だ。
 家に来る前に期待したことが頭をよぎってしまう。
 
 このベッドで俺は初めてを迎えるのか?
 いや、この思考はどっちかって言うと女子の発想だな。

 ことねーちゃんがいつも寝てるベッド……もはやエログッズだ。良い匂いするし。

 ゲームの画面なんてもう見えない。
 ことねーちゃんの横顔だけが妙に輝いて見えた。

 もしかして、本当に今日俺は大人になるかも知れない!?

「今だっ! 油断したなっ!? 隼キックっ!」
「ズルっ! そこまでして勝ちたいか!?」
「勝ちたいよぉ!? それに勝負の世界に汚いも何もないのだ! 勝者! それだけが絶対正義よっ!」

 純情な高校生男子の気持ちを弄びやがって!
 女子に好きなんて言われたことないから、嘘でも嬉しいけどっ!

「あ、死んだ……」
「勝ったっ! ようやく勝ったよっ!」

 そりゃあもうボッコボコにされた。
 見てない間にダメージを蓄積されて、大技で吹き飛ばされたのだ。

「な、なんて卑怯な」
「いぇいっ!」

 こんな手に引っかかって負ける俺も俺か……。
 作戦だと分かっていても憎めない気分だ。

 満面の笑みで俺にピースサインを投げつけてくる姿を見ていると、俺はもう勝てる気がしなくなってくる。
 
 その顔はずるい。ずるすぎる。
 そんな笑顔、スマッシュヒットするに決まってるじゃないか。
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