ちょっぴりダメな子供部屋お姉さんは、幼馴染の男の子と遊びたい 

火野 あかり

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第二話 子供部屋お姉さんとゲーム

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 男子高校生にとって、女子の――年上であっても――部屋に入るというのは人生の中でもビッグイベントだ。
 それは俺にとっても例外ではなく、足が浮いたような感覚を覚えながら踏み出した決死の一歩だった。

 ――童貞を卒業できるかもしれない。それも憧れのお姉さんと。

 早とちりにも程がある考えだが、男子高校生である俺は都合のいい方で物事を考えた。
 エロ漫画とかなら全然ありうる話だ。
 というかよく見る。近所の幼馴染お姉さんと、みたいなやつ。

 ことねーちゃんのせいで俺の性癖は年上好みに矯正されているのである。
 だから当然期待してしまうのだった。

 心臓が飛び出していきそうなくらい高鳴っているのがわかる。
 が、ピンク色の妄想は現実の前にすぐ吹き飛び、残酷にも真っ黒に塗りつぶされた。
 部屋の中を見た瞬間の出来事だ。

 がっかりするなぁ……。
 俺はことねーちゃんの私服といい、この短時間でがっかりしすぎだろう。

 でもこれはがっかりだ。とてつもなくがっかりだ。
 精神的に萎えていくのがわかるくらいがっかりだ。

「部屋汚っ!」
「あっくんは私のお母さんかな……?」
「一般的な感想だよ!」
「極めて合理的な配置になってると思うけどなぁ。あれもこれも、何もかもが私の手中にあると言ってもいい。素晴らしい配置だよっ」

 ことねーちゃんはなぜだか誇らしげだが、部屋の中はひどい有様だった。
 いたるところに空き缶やお菓子の袋などのゴミが散乱しているのだ。
 いや、いたるところにというのは言いすぎだが、それでも結構な散らかり具合である。

 あちらこちらにある服も脱いだ服なのか洗濯された物なのか区別が曖昧だ。何しろ適当に山積みにされている。

 幼き日に見たキレイな部屋がなにかの幻想だったのではと疑いたくなってしまう光景。

 大まかな配置は子供の時から変わっていないらしく、古い勉強机が部屋の端に設置されていて、となりにはいつの間にやら漫画だらけになっている本棚。部屋の入り口真正面にはシングルベッドが置いてあった。

 俺が知らないものとしては、ベッドの前にテレビが置いてあること。
 それそのものはいい。昔とあまり変わらないと言えば変わらないからだ。
 だがしかし――。

「あのさ、もしかしていっつもベッドの上で生活してない? この辺だけやたらと物が充実してるけど」
「朝目が覚めて……――ホントは大体昼くらいだけど……テレビをつけて、布団の中でゴロゴロスマホをいじり、ソシャゲのログインボーナスを漁ってからもう一眠りする。私はそういうことに幸せを感じる人間なんだ……」
「びっくりするくらいダメ人間!」
「なんてことをっ!」

 ベッドとテレビの間にすべてがある。ある意味小さな世界だ。
 完全にベッドの上から動く気がないことをこれでもかとアピールしているようにすら思えた。

「実際さ、部屋の中で移動することってあんまりなくない……? みんなだってベッドか机周りにモノ固めてるでしょ、絶対」
「うぐ……」

 俺は否定する言葉を持たない。
 なぜならば自分の部屋もそんな感じだった。俺の場合は机周りにものが多いタイプだ。

「だとしてもゴミくらい片付けよう……?」
「それに関しては面目ない……あっくんも片付け手伝って? 誰かに見られてないとやる気にならないんだよねー、これが。第一私の部屋なんだし別にいいじゃん? お母さんもうるさいんだよぉ」
「普段は好きにしたらいいと思う。でも今は俺がいるし……ゴミやら何やら気になるよ、さすがに。――てか俺も片付けんの!?」
「反応遅いね? そうだなぁ……何かやる気になってもらう方法……あ、その服の山のどっかにブラジャーとかあるよ」
「なん……だと……?」

 ブラジャー? ブラジャーって……。

 一瞬何を言われたのかわからない。俺の日常では聞くことのない単語だからだ。
 意味を理解したとき、乱雑に積まれた服の山が、途端に黄金に輝く宝の山に見えた。

 ブラジャーってあれか、あの胸の!?
 ことねーちゃんのあれをしまってる魅惑のあれのことか!?
 そしてブラジャーとかって、とかってことは……? ――その下も?

 白いシャツに透けている水色のそれに再び目が行く。
 よく見れば少し動くたびにぷるぷる震えているようにも思えてしまう。

 く、くそっ、ずるいぞ!
 興味あるに決まってるじゃないか!

「おやおや、しばらく見ないうちにすっかりエロ坊主になってしまわれて……ま、あっくんくらいの年の男の子は仕方ないよね。えっちなことで頭がいっぱいだって聞いたことあるし。言っておくけど、おっぱい見てるのまるわかりだからね? 視線が下すぎ」
「み、み、見てない!」
「えー? これでもぉ?」

 ことねーちゃんは胸の下から両手で持ち上げて、上下にぷるん、ぷるん、と軽く揺らす。
 視線を背けていたはずなのに首が自然に曲がって行って、最終的に揺れる胸をガン見する状況になった。

 天国……天国だ。
 ぽよんぽよんじゃないか……。

 十七年という年月しか生きていなくても確信した。この記憶は一生頭に残るだろう、と。

 ――片付けくらいやってやる。いくらでもやってやる。今の俺は、無敵だ!

「て、手伝ってもいいよ」
「スケベは人間の生み出した文化の極みだよ……こんなことでやる気になってくれるなんて」
「文化……なのかな?」
「ある程度は文化な気もするよ?」


 現代のゴールドラッシュ気分だった俺は気合を入れて片付けた。
 金の鉱脈を見つけるために、ゴミの山を掘って掘って掘りまくったのだ。

 二人で片付けをある程度して部屋はスッキリした様子を取り戻す。
 細かい掃除はとりあえず置いておいて、ゴミ掃除と整頓だけをした。

 ことねーちゃんは片付けの途中からだらだらとし始め、後半はベッドで俺を応援しながらビールを飲むという驚きの片付けスタイルをとっていた。
 さながら主人と奴隷のそれだ。

 なんてダメな年上なんだ、と思いながら片付けをするも、俺の頭はことねーちゃんの下着探しで満たされかけていたのであまり気にはならなかった。
 しかし、結果は――。

 くそ、ブラジャーなかったし……。

 積極的に服を片付けたのに、下着が見つからなかった事に舌打ちしそうになった。
 母さんや妹のルリのものとは価値が違う。彼女たちのはただの布だが、ことねーちゃんのものは宝石に匹敵する。

 つかみたかった、その宝……。
 背中側でひとつなぎになる大秘宝なのに。

 だが見つからない以上は仕方ない。
 俺は潔く諦めて、本人が着ているものを見ようと努力することに方向性を変えることにした。
 隙だらけな以上、どこかでボロを出すだろう。
 何とかして脳内ストレージに保管して帰る。それが今日の目的だ。
 ことねーちゃんの言うとおり、俺の頭はエロいことでいっぱいである。毎日男磨きに精を出しているくらいだ。――文字通り。

 決意したあと、今更聞きたかったことを聞いてみる。

「そういやさ、なんで俺を呼んだの?」
「見かけたからだよ? 何日か前から気になってたのさぁ。懐かしいなぁって思って」
「ならもっと前に声かけてくれればよかったのに」
「うーん……気まずいもん。ちょっと見ないうちにあっくんおっきくなってたし」
「もしかして、ニートだから気まずかったとか?」
「NEET! Not in Education, Employment or Training!」
「な、なんでいきなり英語?」
「横文字にするとね、だいたいのものは深刻度が薄まるんだよ……」

 遠い目でそう言ったことねーちゃんの発音は妙に良かった。

 深刻度は薄まっても、状況は何も変わらないと思う……。

 ことねーちゃんはテレビの前にあったゲーム機を指さし、話題をそらすような態度で言った。
 
「ゲームやろうよ、ゲーム。こっち帰ってきてから押入れ漁ってみたら見つけて、懐かしくなっちゃって」
「うわっ、懐かしい! 何年ぶりに見たろ、このハード! 俺の家のはもう壊れちゃったんだよなぁ」
「そうなんだ? うちのはまだ大丈夫だったよ。昨日やってみたから保証するよ」
「ソフトなにあるの?」
「一人系が多いんだよねぇ。ほら、私一人っ子だし。対戦系は少ないかも」
「そっか……いや、待てよ、ソフトだけは俺の部屋にまだあるはず。ちょっといろいろ持ってくるね」
「全部持ってきちゃってもいいよ! そして全部置いていっていいよ! 私いっつも暇だから!」

 暇だからって……。
 またまた反応しにくいことを。

 俺は家の押入れにしまいっぱなしだったゲームソフトをありったけ持って、ことねーちゃんの家に再びあがる。

 久しぶりに見たそれは少年の日の思い出だ。いや、今も少年なんだけどさ。
 懐かしいソフトを見ているといろいろなことを思い出す。

 そういやことねーちゃんって意外とゲーム好きなんだよな。
 ……あんまり上手くなかった気もするけど。

 幼少期に少しだけ一緒に遊んだ記憶を、同じく脳みその押入れから引っ張り出す。そのときはなにかのレースゲームだったはずだ。

 ハードが出たばかりの頃に発売されたゲーム。海外製造された品物で、やたらと難易度の高いレースゲームだ。当時はストーリーモードでさえクリアできなかった。
 あの豚みたいな魔王早すぎじゃない? と今思い出してみても思う。

「わっ! すごい! 男の子のゲームだ! こういうのもやってみたかったんだぁ! クラスの男の子たちみんなやってたよ! なんだぁ、あっくんも持ってるなら昔から誘えば良かった!」
「確かにことねーちゃんのソフトはかわいい系っていうか、戦う感じのじゃないね」

 ことねーちゃんは持ってきたソフトを喜々として見ていた。
 俺の持っているゲームは複数人で遊ぶことを前提としたものがほとんどだ。
 多くは友人たちと遊ぶためのものだったからである。


 部屋の片付けを終えて、俺たちはゲームを始めた。
 最も有名なレースゲームだ。ある程度の年代までならば誰でもやったことがあるだろう。
 赤い帽子のキャラクターがメインキャラ。諸事情によりあまり言ってはいけないけど。

 電源をつけると懐かしい音がする。最新のゲームでは味わえない、少しカクついたポリゴンのキャラクターたちは、あの頃と同じように笑顔だった。

 少し安心する。ことねーちゃんもそうだけど、変わらないこともいいことだ。
 変化は大事だけど、変わらないでいてくれたほうがいいものもあるのだと俺は知った。

 俺は床にあぐらをかいて座り、ことねーちゃんはベッドを椅子のようにしてプレイする。
 俺のような思春期の少年は、たとえ他意がなくとも女性のベッドに座ることはできないのだった。

 平気な顔で女子のベッドに座れるようになるのはいつのことになるか。
 ――彼女欲しいなぁ。

 ゲームの中のキャラクターと同じように、コントローラーを持って体を左右に動かして、夢中でレースゲームに興じることねーちゃんを横目で見ながら、俺はそんな事を考える。
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