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第壱章“世界”
第壱節“勇者、起床”
しおりを挟む私の名前は朝比奈 月詠
平々凡々の女子高生だった
私は2年前の15歳のある初夏の日に、ジェットコースターに揺られているような感覚と共にこの世界に落っこちてきた
始めに目にしたのは紫色のローブを着た沢山の男性達だった
彼らは私を目にすると―――――――――――酷く顔を歪めた
今思えば、私が黒の髪と黒の瞳という魔族の特徴をしっかり備えていたためだと思うが、そんな事情など、知らない私は見知らぬ場所と人達の態度に酷く怯えたものだ
さらに、間が悪いことに当時の私はこの世界の言葉が解らなかった
魔導師達は私に言葉が伝わらないと解ると何かを唱えながら、手の中にある紙に何かを書いていった
それは姿形を変えて、空中で私が読める字になった
所々文法的に可笑しかったが、要は「魔王を殺せばお前の故郷に帰れる」そう書かれていた
そして、失敗作として国の外に放り出されてからは死と隣り合わせだった
当時の私は魔法のまの字も知らない人間、さらにはどの属性にも属さなかったため、魔法が上手く使えなかった
しかし、これは推測だが、素養として魔力量が高かったのだろう私は、無意識に魔法を使い、ギリギリで亜人や人族の農具や武器を弾き飛ばして、死を回避していた
そして、私は文字通り傷つきながら、吐きながら、走り続けた
だが、それも長くも持たなかった
少し強い騎士や魔獣に会えば、私はすぐに怪我を負った
走って、走って、走って―――――――――――辿りついたそこには忘れ去られた神殿があった
私はその神殿に隠れて騎士と魔獣達を鉢合わせた
ヤツらが戦っている間に私は神殿の奥へと入り込み、そこで一つの杯を見つけた
黒曜石のような黒い石で出来た杯
その中に星の煌めき、星雲の彩が揺らめく美しい杯に私は何故か手を出した
杯に触れた時、私の身に変化が起きた
黒茶であった私の髪は穢れ無き純白へ
私の茶の瞳は美しい紺紫と黄金の朝焼け色の瞳へ
変わり果ててしまった
それは運命だったのだろうか、それとも、この“星”が仕組んだものだったのか私は解らない
私は変わり果てた姿に驚いたが、後ろから聞こえた物音に―――――何故か、目の前にあった杯を取って、神殿内の死角に隠れた
現れたのは、ズタボロの騎士だった
おそらくは魔獣にやられたのだろう。騎士は何かを呟きながら、私を探していた
私は身を隠しながら、騎士の動向を伺っていた時に気が付いた
騎士の言葉が解るようになっていたのだ
騎士は仕切に「あの魔族め」「俺が殺さなければ」「魔族は殺さなければ」と呟く彼に私は驚き、同時に恐ろしくなった
あの騎士は確実に私を殺そうとしている
そんな極限状態で私が思いついたことは只一つだった
――――――――――――殺さなければ、殺される
今までも似たような環境だったが、他はこの男と違って確実に私を殺す
どうすればいい、どうすればこの危機的状況から逃れられる?
その答えは1つしかない
私は近くにあった巨大な石を握りしめて、決意した
――――――――――今、思えばこの時点で私は星の魔法を使っていたのだろう
騎士がこちらにどんどん近づいてくる。だが、その寸前で魔獣が出てきたのだ
おそらく、殺したのではなく、気絶していたらしい魔獣は起きてみたら戦っていた騎士がいなかったため、探しにきたのであろう
魔獣はおそらく極限まで飢えていたのであろう、そして、次の獲物を仕留めるほどの体力は残っていないため、体力が削がれている騎士を狙ったのだろう
騎士と魔獣が戦う音を響かせ、騎士の悲鳴が轟いた後、辺りは静かになった
やがて、何かの肉を咀嚼するような音が響き、それが終わると、今度は引きずるような音が響いた
私はその音が終わるまで、息を潜めて隠れていた
その音は国の外に放り出された後も、よく耳にして、その光景をよく見ていた
そのため、私は気づかれることもなく、その場を後にすることが出来た
それからは黒髪の所為で追われることは無くなった
だが、黒髪時代の名残で、髪を隠す癖がついていたが、髪色がバレて追いかけまわされるという事態にならなくて良かった
さらにあの杯を手に入れてからといもの、この世界の言葉が理解出来るようになったのだ
これは流石の私でも素直に喜んだ
やがて、私が原始に満ちていた魔法、光、闇、風、火、土、水の6つの属性とは全く違う、“星”の属性と相性が究極的に良いという点を見つけた
それを見つけてから、月日が幾ばくか過ぎて、その間に私は星の魔法とその性質を知り、その魔法を使うようになった
そうして、私は出会った――――――――――――創世の世にて数多の神性道具を作り上げた種族、小人。彼らは私を見つけると、その珍しい特性を知って、数多の道具を私に授けた
まずは物を自在に収納出来る魔法の船、その名は方舟
姿は純白のデカイ舟だが、その内装は近代的だった
どうやら、私の記憶を見れる道具があり、そこで私の記憶にあったアニメや映画に感化されてそう作り上げたらしい
小人に色々と方舟の操作方法を教えてもらっている時は少しはしゃいでしまった
………………………………小人はそれ以上にはしゃいでいたが
幾つかの新しい武器と小人が過去に作った神性道具を数個貰い、私は数々の国を見て回り、魔王を殺す以外に元の世界に帰る方法を探した
世界を回ってまで探したが、その方法は見つからなかった
そもそも、異世界から何かを召喚する魔法、というもの自体が知られていなかった
しかし、魔王を殺す覚悟が無かった私は、当てもなく世界を周り、人々に不幸を撒き散らす魔獣を殺しながら、魔王を殺す覚悟を決めた
その頃には、私の名が知られ始め、私のことを“勇ある者”つまりは“勇者”と呼ぶようになった
覚悟が出来た私は魔王を殺すために城に乗り込んだ
魔王の城には誰もいなかったため、逃げたのかと思ったが、玉座の間で彼らは私を待っていた
待っていたのは魔王と―――――――――闇神ロキ
前記していたようにこの世界には光、闇、風、火、土、水といった属性があり、それぞれに神がいる
光神バルドル、風神フレイ、火神テユール、土神ユミル、水神フレイア、そして、闇神ロキ
彼らはこの世界を創造した神として崇められているうえに、様々な亜人を創造した創造神としても名高い
まずは人族、これは全ての神が協力して造り上げたため、一人一人違う属性を持つ種族
光人族、光の神バルドルが造り上げた調和と平和を好み、また数多の種族の中で最も美しく、光の魔法が得意な種族
獣人族、風神フレイが造りあげた森の中で生き、気まぐれな風と共に行き、風の魔法が得意な種族
鬼族、火神テュールが造り上げた種族、額に二つの角を持ち、灼熱のマグマを耐え抜き、とても好戦的で、火の魔法が得意な種族
土人族、土神ユミルが造り上げた種族、小人を参考にしたため、背が小さく、鍛冶と土の魔法が得意な種族
水人族、水神フレイヤが造り上げた種族、水の中に住み、水中と陸上では別々の姿を持ち、水の魔法が得意な種族
魔族、闇神ロキが造り上げた種族、他のどの種族よりも魔力が高く、様々な分類がなされる、闇の魔法が得意な種族
以上がこの地に住まう種族の全てだった
多種多様な種族がおり、それぞれの地で暮らしていたのだが、何故か魔族だけは他のどの種族からも嫌われていた
魔王が目の前におり、何故か闇神ロキも隣にいる
闇神ロキは何故か水晶を握っており、何故かこちらを可哀そうなものを見るように、愛しいものを見るように私を見つめていた
闇神ロキは唐突に水晶を持ち上げ、そして何かを映し出した
それは、私のこれまでの努力を木端微塵にした内容だった
私を召喚したのは、闇神ロキ以外の神が考案した召喚術のテスト
私に魔王の殺害を依頼したのは、ただの気まぐれ。元の世界に返す術式は考案すらされていない
私の頭は真っ白になった
何故、何故、何故……そんな言葉が頭の中で繰り返され、次に沸いたのは激しい憎悪と憤怒だった
何故、そんなことをした、何故、私だったのだ
だから、全てを壊そうと思った
星属性の槍の中で最高峰の槍、星槍“終焉の星”
それはこの世界のリセットを許された槍
この腐りきった世界を壊すのには、丁度良い槍だった
私は五つの鍵を外すべく、槍に集中したが、最後の最後で闇神ロキに一つ目の鍵を閉じられたため、グングニルの全力パワーで世界を破壊することが出来なかった
八つ当たりに魔王を倒そうと思ったが、それも出来なかった
私は満たされた虚無感から、気力が切れ眠ることとなった
***
微睡みの中にあった意識が浮上し、意識が浮かぶ
だが、体が上手く動かない
目を開けるのに精いっぱいの力を流し込んで、私は目を開ける
霞む視界何かが映る
黒い何かの中に赤い何かが見える
私の耳に何かが入る
だけど、私の体は力が入らない
………………………………………………………………苛々する
体が思い通りに動かない、ということはこんなにもイラつく事柄だったとは
私は腕全体に力を込めた
「――――――――ぬがぁ!!!!!!!」
「ごふぁっ!!!!!!?」
「あへ?」
何か固い物を殴り飛ばしたような感触を感じた私は隣を見る
黒い影はなくなっていた
私は全力を使って、やっとのことで起き上がった
その頃には目の霞も取れて、見えるようになった
耳も何かが塞いでいるような感じが無くなって、正常に聞こえるようになった
私は足を動かして、立てるようにした
まるで小鹿のような足に私は寝ていたベッドに手をついた所で気が付いた
絢爛豪華な調度品が誂えてあるその部屋で自分が寝ていたことに驚いた
そして、先ほどの黒い何かがその理由を握っているのかと感じ、先ほどの黒い何かを探した
黒い何かはすぐに見つけることが出来た
黒い何かは気絶した魔王だった
私はポカンと口を開けて、その光景を見ていると、誰かに頭を触られ、その瞬間に意識が飛んだ
次に目覚めた時、私の隣には何故か闇神ロキがおり、私が方舟を発動させようとする前に闇魔法で身動きを封じて、ロキは私に話しかけてきた
それは、私にとっては途方も無い話だった
私が眠りついてから、千年の時間が経っているらしい
それを聞いた時、私は嘘だと思った。だが、ロキがある場所に連れて行った時、千年経っているということを理解した
そこは緑豊かな森だった
沢山の森を住処とする魔獣や獣、普通の樹などが生息する大きな森だった
その森に生えている木々はどれもこれも大きく、それなりに健康な木にしか憑依することが出来ない森乙女と呼ばれる魔獣が目視だけでかなりいた
さらに、花乙女も生息していたため、この森はかなり豊かな森であることを認識した
ロキはそのまま私の手を引いて、一本の巨大な樹木の前に連れてきた
その木の太さは、王城などを支える支柱を5本合わせても少し余裕があるくらいの太さで、すぐに私はこの木が長い間、生きてきていることを理解した
ロキが何やら木に話しかけると、木の幹に顔が生えた
その木は年老いた、森賢者だった
私が驚くと同時に、森賢者は寝ぼけ眼でゆっくりと目を開けて、私をその瞳に映すと目を見開いて固まった
私が怪訝な顔をすると、森賢者は顔を綻ばせて言った
――――――――――「もう一度会えるとは思ってもみなかった」と
だが、私はその言葉に疑問を抱えた
これほどの長い年月を生きている知り合いの森賢者はいたが、私が森に留まっている間に切り倒された者しかいない
それに、森賢者はあの若木以外、危険な魔獣であり、貴重な資源でもある森賢者は狩り尽くされ滅んでしまったはずだ
だからこそ、今だ生きているこれほど大きな森賢者を私は知らない
私は「私の知り合い?」と聞くと、森賢者は悲しそうな顔をした
そして、森賢者は自らの体を裂き、木の中にあるものを見せた
そこには、水が湧くように出てくる杯が鎮座してあった
そして、私はその杯に覚えがあった
それは小人(ドヴェルグ)が、私が最初に手に入れた神性道具である“星杯”を元にして作り上げた神性道具、“聖杯”だった
それは持ち主に斉限りなく魔力を与える神性道具だった
私はそれを、死にかけの若い森賢者に与えた物の筈だった
森賢者は茫然とする私の顔を見ながら言った
「貴方様のおかげで、この森は息を吹き返し、森乙女、花乙女などの種族が生き残ることが出来ました
また、私達、森賢者も、まだ少ないですが、滅びの危機から脱することが出来ました」と
その言葉に私は1年前の情景が頭の中に浮かんだ
様々な魔獣や種族が暮らしていた森、それを切り崩し、資源として手に入れようと攻め込む者達
必死にそれらと戦う彼らを守るために私も参戦した
次々に失われていく命に祈りながら、最後に生き残った魔導師に空洞の呪いをかけられた死に行く定めを背負ってしまった森賢者
私は彼を生かすために貴重で危険な神性道具を迷わず差し出した
森賢者の出来てしまった空洞に設置した神性道具は私が思った通りに森賢者を生かした
だけど、それは一年前の出来事の筈で、こんなに大きな木ではなかった筈だ
私がそう森賢者にぶつけると、森賢者はまた悲しそうな顔をして、ロキを詰った
しかし、ロキは「此処に来た方が時間の流れがよく解るからね」と森賢者に返していた
森賢者は裂かれている箇所を元に戻し、再び私と向かい合った
森賢者はあれから千年の年月が流れた、と語り始めた
私が去ったこの森がどんな風に復活して行ったのかを、森賢者、森乙女、花乙女がどういう風に栄えて行ったのかを語ってくれた
また、この森の噂を聞きつけて、新たな森を住処とする魔獣が集まってきたことも
だけど、その殆どを私は聞き逃していた
本当なら、私はそれを喜びながら聞いていただろう
だけど、あの時の私は、私の歩む先が見えなくなっていた
森賢者と別れ、ロキと共にあの部屋に帰ってくると、部屋の外が慌ただしかった
私が疑問に思っていると、ロキは私に此処にいるように言って、部屋から出て行った
私は近くにあった椅子に座り、千年という言葉の概念を必死に噛み砕いた
自分自身が宙ぶらりんになったような感覚を得たまま、私はこれからのことを考えた
そうしている内に、部屋に誰かが入ってきた
それはロキと魔王だった
私は意外な人物に目を見開いたまま、固まった
魔王の方も目を見開いたまま固まっていた
唯一、ロキだけがニヤニヤ笑いながら、私達を見ていた
私は魔王を見つめたまま、私が魔王を殺すためにこの城に乗り込んできたことを思い出した
言うなれば、私は強大な力を持つ暗殺者のようなものだった
………………………………………………………………………………暗殺者と違って、忍べてないが
だからこそ、私は何故、魔王が私をこうして残しているか解らなかった
魔王から見れば、私を殺しておいた方が良い人物の筈だ
そして、魔族から見ても、私は殺しておいた方が良い人物の筈だ
以上の事柄を考え、彼らは私が持つ神性道具を欲しているのではないのか、と考えついた
だが、これは小人が作った神代の兵器だ
それに神性道具は非常に危険な道具だ
だからこそ、これは小人に返したい
私はそう決意を固めて魔王とロキを見つめて言った
「殺したいなら殺してもかまわないけど、私が持つ神性道具だけは小人に返してくれると嬉しい
それに、これらは私専用に誂えてあるので、魔(サタナス)族には扱えないと思う
殺した後に手首を切って、そこら辺に放置しておけば彼らが取って行くから、そうしておいてくれればいいよ」
私がそう言った時、室内の空気が何故か固まった
***
闇神ロキは頭を抱えてこれからのことを考えていた
隣では魔族の王にして、闇神ロキの子であるルシフェルが、魂が抜けきった表情をしていた
その光景にロキは悲しそうにルシフェルを見つめた
俗に魔王と呼ばれる彼がこんな表情をしているのには訳がある
ルシフェルは千年前に、とある1人の少女に恋をした
純白の髪に美しい紺紫と黄金の朝焼け色の瞳を持つ少女だった
顔の造形自体、美しいと言えるものではなかったが―――――――――ルシフェルは彼女の生きざまに恋をしてしまっていた
最初は魔族を差別することなく助けまくっている純白の少女がいるという話からだった
その少女に助けられた魔族の子供とその親族から噂が広まり、当時のルシフェルやロキの耳にも入るようになった
ルシフェルとロキはその少女に興味が出て、暇な時はよく観察をしていた
やがて、彼女が森賢者の最後の生息地である森を守るために戦う光景を見た時、ロキは純粋に彼女を美しいと感じた
そして、一緒に見ていたルシフェルは、その美しい少女に恋に落ちてしまった
焼け残った森に対して、落ち込む彼女を見た時のルシフェルはすぐに彼女の前に魔法で転移して、抱きしめて求婚してしまいそうだった
ルシフェルはそれ以降、彼女を暇さえあれば見つめ続け、魔(サタナス)族は彼のその様子にさすがは魔族の王だと言って苦笑した
生態系の調整で、本当に愛し合った者同士でしか子供を持たないようにしていた魔族は、愛を貴ぶ種族に早変わりしていた
そのことに対して、ロキ自身は後悔していない
だが、今回のルシフェルの場合は相手が恋愛に対して鈍感過ぎている
しかも、あの様子で告白すれば「自分の能力を引き継ぐ子供を産ませようとしている」と勘違いさせそうだ
例え、魔族の繁殖事情を話しても、数年は子供を持てないだろうし、一歩間違えれば仮面夫婦の出来上がりだ
だからこそ、ロキは考えていた
彼女をこの世界に定住させる方法、そして、ルシフェルと結婚させ、あわよくば彼女とルシフェルの子、ロキにとっては孫にあたる存在を抱きしめたい
それに、ルシフェルは千年間ずっと心変わりすることなく彼女を思い続けた
今更、失恋すれば、千年ずっと引きずっていきそうだ
それに魔族もルシフェルが彼女を千年思い続けていることは有名だ
婦女の間では、ルシフェルと目覚めた彼女を題材にした本が過去に何冊か出ている
魔族にとっては、あの2人が結ばれることは決定事項なのだ
ロキは咽び泣くルシフェルに同情の視線を向けた
寝起きの彼女に殴られ失神し、彼女が目覚めて普通の会話をしようとしたら、殺されること前提の話をされているのだ
泣かない方が可笑しい
だが、いつまでもぐずぐずしていられない
ロキは立ち上がり、ルシフェルの頬を挟んでこちらに向けた
「ルシフェル、君はいつまでも泣いている暇はない
彼女は今、宙ぶらりんの状況なんだ。帰りたい故郷に帰れず、憎しみを向ける相手もいなくなったこの時――――――――彼女をこの世界の住民にしなくてはいけない!」
「か、神よ……」
「まずはどうにかして、彼女をこの世界に愛着を持たせるんだ」
「あ、いちゃく……?」
「そうさ、愛っていうのは―――――――とっても素晴らしいものだから!」
“愛”を自らの力として吸収するロキは、正しく愛を貴ぶ神だった
何よりも“愛”が大好きな神様は、“愛”は最強だと叫び、事実、ロキは神々の間では最強だと噂されていた
他の神を一気に相手に出来る最強の神
それが、闇神ロキだった
ルシフェルは目に溜った涙を拭った
そして、闇神ロキに涙が無くなり、決意に満ちた目を向けた
「―――――――――その通りです。我らが神よ」
「ふふ、さすが僕の息子!とってもカッコイイよ!」
涙を拭った魔族の王にそうロキは返し、彼女にどうこの世界に愛着を持ってもらうかを話し合った
話し合いは進み、ある程度、彼女が此処に馴染んできた時に計画を決行することに話はついた
それまでは、ロキの罪悪感で千年守ってきたということにすることとなった
その理由なら、彼女も納得するだろう
ロキはそう結論付けた
元々、彼女がこの世界に来てしまったのも、ロキを除く他の神々がロキに対抗しようと他の世界に興味を持ってしまったのが原因だ
そこを説明すれば、ある程度は理由になる
ロキは嬉々として彼女がいる部屋に行き、彼女の部屋の前で、表情を変え、罪悪感に満ちた人の顔をしながら、部屋に入った
純白の君をこの世界に居つかせるために
結論から言うと、疑われつつも納得はしてくれた
と、いうよりも彼女は最初からロキを疑っており、ロキの説明と謝罪を「そういうことにしておこう」と豪語し、ロキの頬を引き攣らせた
ロキは一生懸命説得したが、最初から信じていない彼女は渋々(?)納得してくれた
部屋から出てきたロキは疲れ果てた顔をしていた
だが、準備は整った
後は、彼女がこの世界に愛着を持ち、ルシフェルと結ばれ、子供を産み、幸せそうに子育てをしてほしい
ロキは部屋から遠ざかると、「っしゃーーーーーーーーー!!!やってやろうじゃないか!!!!孫をバルドル達に見せびらかしながら可愛がってやる!!!!!!!」と叫んで自分自身に活を入れた
周りの魔(サタナス)族は皆が皆、ロキを応援しており、何人かは「孫はいいですぞぉ!」「この間、ハイハイを始めました!」「ワシんとこなんかは12人目の孫が生まれたわい!」「俺は初孫にじーじって呼ばれました!」と孫自慢をしていた
ロキは決意の炎が揺らめく瞳を持ってルシフェルのもとに行こうとした時、メイド長がやってきて、半年間の予定が書かれてある紙を渡してきた
ロキはそれに目を通し―――――――――固まった
他の魔族もそれに目を通して、固まった
ただ一人、メイド長だけが、コイツら馬鹿か、という目をして見ていた
ロキは紙を握りしめ、微笑んだ
「―――――――――――ルシフェルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!」
ロキはルシフェルの名を叫びながら、廊下を全力疾走し、ルシフェルを見つけると紙をルシフェルに突き出した
ルシフェルは驚きながらもそれに目を通し、顔を青ざめた
「なっなっなっ!!!!!!?」
「さ、三ヶ月後にっっっ!!!!!!
――――――――――此処にそれぞれの勇者が来る!!!!!!」
ロキがそう叫ぶと、城中の魔族の悲鳴が轟いた
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