つつ(憑憑)

九文里

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宿貰い

1000円下さい

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 楓香と撫子は、門の前で警官が来るのを待っていた。
 男も門の中に立って動こうとはしない。逃げる気はないようだ。
 暫くすると白い原付バイクに乗った警官がやって来た。
 楓香は、角を曲がって警官がやって来るのを見つけて、手を上げて合図をする。
 警官は、気が付いたらしく、こちらに真っ直ぐやって来て、二人の目の前で止まった。
 
「お待たせしました。富貴さんですか。どうしましたか?」
 バイクを停めて、若い警官が恭しく話し掛けてくる。

「この人です。門からどいてくれないんです」
 楓香が警官に言った。

「どの人です?」

「だから、この人です」
 楓香は、振り向くと門の中には誰も居ない。

「あ、あれ。居なくなってる」
 
「まあ、いつの間に消えたのかしら」
 撫子も、門を見て驚いた。

「何処か行ったみたいですね」
 
 それから、警官は楓香と、撫子に簡単に事情を聞いてバイクに乗って帰った。

「なんにせよ、良かった」
 男の異様な行動に不安は残っていたが、楓香は門を潜り中に入った。撫子も続き、門扉を閉めて家の中に入って行った。

 そして、夕食をり、お風呂に入り、何時もの日常を過ごした。楓香は、二階の自分の部屋に戻り、布団に入る頃には、もうあの男の事は薄れて来ていた。

 しかし、この後嫌でも思い出させられる事がおこる。

 深夜12時ぐらいだ、部屋の中に突然、窓をバンバンと叩く音が響いた。寝ていた楓香は、心臓が止まるぐらい驚いて飛び起きる。

「な、なに。こんな時間に」

 バンバン、バンバンと続けざまに窓が叩かれる。

 楓香は、恐怖で凍りつき窓から離れて固まった。

 すると窓を叩く間に何か音がするのに気が付いた。よく聞くと人の声のようだ。

「1000円払って下さい。門を通ったので1000円払って下さい」

 1000円!あの男だ。門に立っていた男が通行料を取り立てに来たんだ。
 一階の屋根に登れば、二階の楓香の部屋の外側に来れる。
 男は、再び戻って来て、二階の楓香の部屋まで通行料を取りに来たのだった。
 男は、止む間もなく窓を叩き続ける。
 楓香は部屋を出て一階の母の部屋に飛び込んで撫子を起こした。
 撫子は眠そうな声で、どうしたの、と尋ねる。

「あいつが私の部屋の窓を叩いて1000円取りに来た。門を通ったからって」

 撫子は、楓香のただ事では無い様子を見て、取り敢えず一緒に楓香の部屋へ行くことにする。

 楓香の部屋のドアを開けて中をのぞくが、シーンとしている。

「何も無いわよ」
 撫子は、部屋に入りカーテンを引いて窓を開ける。外をみるが暗闇に一階の屋根が広がっているだけで誰も居ない。

「誰も居ないわね」

「本当?何処か行ってしまったの」

 撫子は、一階の自分の部屋に戻り、楓香は自分の部屋で布団の中に入った。
 しかし、目を瞑ってもさっきの出来事がぐるぐると頭の中を巡る。

 すると、突然バンバン、バンバンとまた窓を叩く音が耳をつんざいた。

「1000円払って下さい、1000円払って下さい」
 窓の外から声がする。

 楓香は、またも跳びあがり固まった。どうしたらいいか分からず部屋を出た。そして、また一階の母の部屋へ。

「お母さんまた来た」
 楓香は、撫子の布団に潜り込む。

「まあまあ」
 撫子は、体をずらして楓香を迎え入れてあげた。

 楓香は、眠れずにグルグルと考えがまとまらずに巡っていた。
 言う事がおかしいし、急に姿を消したと思ったら、また現れる。何より、やることが常軌を逸している。とても普通の人間とは、思えない。もしかしたら、人間ではないんじゃないか。
 楓香は、これから先どうなるのか不安で眠れなかった。
 


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