つつ(憑憑)

九文里

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遺産相続

とくよう(特養)

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 「施設の職員は、よくやっていた、なにせ、わしみたいに体の不自由な人間100人以上を10人やそこらで面倒見ないといけなかったからの」

「決まった時間に食事して、お風呂は2日ごとに入って、トイレに連れて行ってもらって」

「夜中、寝てる時でも体位を変えてもらわないと、褥瘡じょくそうといって床に当たっている所の皮膚が腫れてくるのじゃ」

「真夜中だろうと、トイレに行きたくなったら職員を呼び出して連れて行ってもらわねばならぬ」

「そのうち、わしは自分は人に迷惑をかけるだけの要らない存在だと思う様になってきた。」

「かつては、何千人も人を使っていたのに、それが人の世話が無ければ生きられなくなった。」

「わしは、せめて夜中にトイレに行かない様に水をできるだけ飲むのを止めた」

「するとある時、体がだるくなり、手足が痺れる様になった。脱水症状が出始めたんじゃ」

「わしは、それで体を壊して死ねるかもしれないと思った」

「しかし、わしの異変にすぐに気が付いたのが当時施設の職員だった桜子さんじゃ」

「桜子さんは、わしが死んでもいいと思っている事も見破っていた。それで、とにかく何かとわしに話かけてきて、水を飲ませ様としてきた。それでもわしは、水を飲まない様にしてた」

「わしは、自分で自分の事を要らない人間だと思っていたから桜子さんにもあまり返事をしなかった。でも、桜子さんは夜中でも何回も見に来てくれた」

「そしてある夜、わしは、トイレに行きたくて仕方なくなった。職員を呼び出そうか我慢して迷っていた。布団の中で漏らす事も絶対したくなかった。そのうち、冷や汗が出てきて漏らしてしまうと思った時、桜子さんが様子を見に来てくれたんじゃ」

「桜子さんは、わしがおかしいのに気付いてトイレに行きたいのか尋ねてきた。わしは、そうだと答えると桜子さんはわしを車椅子に乗せてトイレに連れて行ってくれた」

「そして桜子さんは、わしに『ありがとう』と言った」

「トイレに行きたい事を言ってくれてありがとうと」

「その日から、わしは、桜子さんの夜勤の日は、安心して水を飲む様になって、桜子さんを呼び出してトイレに行く様にした」

「そして桜子さんと話ていると楽しいと思うようになり、人間らしさを取り戻した感じがした」

「それで5年ぐらい経った頃、桜子さんは結婚してな、それでも仕事は続けていて、やがて子供が出来た。萌萌ちゃんじゃな」

 ソファーに座っている桜子と萌萌が顔を見合せた。
 そして、童士は淡々と語りを続ける。

「ところが、ある日桜子さんに仕事が続けられなくなる出来事が起こった」
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