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しおりを挟む勘違いしていいなら、私の好きなものを選んでくれたって思っても許される?
知っててくれたのかと、嬉しくなった。
「本番、星渚さん達も誘ったら来てくれるかな?」
「は?来なくていい」
「折角だしさ。菜流も誘ってみよう。皆で応援しに行く」
「……俺から連絡しとく」
「ダメ、嘘ついて言わないつもりでしょ」
「チッ」
やっぱりね。舌打ちしたってことは肯定と受け取れる。油断も隙もないのは碧音君じゃないか。
「ちゃーんと時間も場所も正確に伝えておくね」
「大学生は忙しいから来ない」
「結構ノリノリで観に来てくれるんじゃない?特に皐月とか皐月とか皐月」
「異論はない」
ないんだ。否定されなかった皐月どんまい。
「実際、来てくれた方がやる気も出るよね?」
「モチベーションは下がんないけど」
星渚さん達は自分にも厳しい分、他人に対する評価もシビア。ライブが上手くいけば褒めてくれるだろう。
逆につまらないとキッパリダメな部分を指摘する。
碧音君が1番このことを分かってるだろうから、やる気を削いだりしないよね。
「碧音君、そろそろ行かないと電車遅れるかも」
「行くか。暑い中歩くの怠いし嫌だけど」
ペットボトルを捨て、涼しい木陰とさよならした。
―――――――――――――――
――――…………
「俺、次から入ってやるんで」
「え!?刹那君入れんの?」
「問題ありますか」
「いやいやだってさあ!2日目で合わせられるとは思ってなかったから」
岡谷先輩は目を見開き口をパクパク。碧音君は岡谷先輩を一瞥してスティックを弄っていた手を止めた。
「今日から合わせていかないと間に合わないでしょう」
「……すごいっ……」
吉野先輩の感嘆の息と共に自然と口から出た一言。
私もこうなると予想はしていたのに、いざ本人に言われると自分の耳を疑う。
碧音君はこの曲を元から知っていたと話していたが、それでも。一晩で仕上げてきたと言うのか。
「……と、とにかく刹那君と合わせよう。ちょっと岡谷、いつまでもポカンとしてないでやるよ?」
ハッと我に返り雨宮先輩が声をかける。白石先輩は私の隣で楽譜を何回かペラペラ捲っていた。
『1日で、これを?』とでも言いたげで、半信半疑な表情で。
「明日歌、ちゃんと聞いてて」
「うん。了解」
演奏はどうだったかと後で聞かれるらしいから、注意深く耳を傾ける。
やはり碧音君のドラムが加わると別格。私の好きな、碧音君のドラム。
勿論先輩も注意された箇所は直されていて。
「―――手を伸ばせば届きそうな君なのに、叶わない―――」
教室の前を通りかかる生徒が演奏している姿を瞳に映しては顔を輝かせ格好良いー、と小声で話して去っていく。そうだよね、格好良いよね。
「―――I miss you―――」
「…………やべえ!!超すげえ感動した!刹那天才だわ」
「私、一度もリズムずれなかったよ」
「皆良かったんじゃない?」
岡谷先輩がすぐ碧音君に駆け寄って肩を組む。
「刹那、俺完璧だったろ?」
「良くなりましたね。つか、呼び方」
「ん?ああ、だってもう俺ら仲間じゃん。よそよそしいのは止めようぜ」
「はあ。勝手にどうぞ」
なかなか離れようとしない岡谷先輩に碧音君は鳩尾にスティックをグリグリ刺すことで抵抗していた。
痛いでしょ。
「明日歌、感想は」
「全然良かった!初めて合わせてこれなら問題ないと思う」
あと4日、これからバンドがどう変わるか楽しみだ。
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