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36.
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――……
「今日は最後だしなぁ」
携帯で夕飯のメニューを検索中。
最終日だから冷蔵庫にあるもので豪華な料理を作りたい。今日は藍さんも食べてくって言ってくれたしね。
サイトをじっくり読んでいき、メニューを目で追う。
トマトの冷製パスタにロールキャベツに……うーん、迷う。
碧音君には何としてでも、苦手な野菜を食べてもらわなきゃ。
星渚さんは洋食が好きで、藍さんは和食、皐月は美味しければどんな料理だっていいらしい。
「臨時家政婦も大変だ」
これも違うあれも違う、とサイトを読み漁る。そうだ、冷蔵庫の中身を確認しないと。
むくり、上半身を起き上がらせた、ら。
「ぎゃぁー!あお、変態!」
「は?」
バッ、直ぐに顔を両手で覆う。上半身裸の碧音君がいたからだ。
指の隙間からチラッと覗いてしまうのは仕方ない。
「碧音君いつからいたの?気づかなかったんだけど」
「俺だって床に寝転がってるお前に気づけるわけないだろ」
確かに碧音君の位置からじゃ、ソファが邪魔になって私は見えなかったかも。冷たいフローリングの床が気持ちよくて、ごろごろしてたのだ。
「ていうか、上脱いで……っは!まさか」
「今すぐ下らない妄想止めろ」
「じゃあ何で脱いでるの!」
一応私だって乙女だから堂々と直視出来ないよ。もう一度言う、乙女だ。
「汗かいて気持ち悪かったから。ここに替えのTシャツ置きっぱなしだったし」
そう言って、ソファに置いてあったTシャツに腕を通した時。
「……?」
そっと顔を覆っていた手を退かす。碧音君の背中に、大きいものから小さいものまで傷痕や痣が所々あるのだ。
大分時間が経った古傷のようだけれど。
「見んな変態」
「ごめん、つい」
「ついって何だよ」
碧音君が新しいTシャツに着替え終わったため、傷も全てすっぽり隠れてしまった。
碧音君の上半身と生着替えが見れたという嬉しさより、今は傷の方が気になる。碧音君のことだ、聞いてもはぐらかすに決まっている。
「碧音君、夕飯は豪華にするから待っててね」
「野菜少なめで」
「たっぷり夏野菜使う予定だから」
「うわ。止めろ」
「あははっ、健康のためだよ」
当たり障りのない話しか出来ない。ただ学校で怪我したとかの理由なら問題ない。
でももし違ったら碧音君を困らせるから。今はこれでいいと思う。
「ロールキャベツはいかが?」
「肉オンリー」
「肉団子になっちゃうじゃん。キャベツぐるぐる巻きにしておくね」
碧音君は口パクで『意地悪』と言ってリビングを出ていった。たまに子供っぽくなるよね。
「よし!」
準備しますかね。検索したメニューをぱっと覚えて、冷蔵庫から食材を取り出した。
―――テキパキと準備を進めて、食材を美味しいメニューに変身させていく。完成したところで皆を呼んだ。
「今日はいつになく豪華じゃねえか」
「合宿最終日なので」
「これを1人で作っちゃうんだからさすがー」
「明日歌ちゃん、これは?」
ほくほく白い湯気の立つスープを指差す藍さん。
「それは和風トマトスープです」
「珍しいね?俺、そういうの食べたことないかも」
藍さん、大丈夫です。意外といけるんだこれが。
「トマトの味はそこまで濃くないから安心してね碧音君!」
テーブルに並んだ料理を見て、野菜の多さに僅かに顔を引き吊らせていた碧音君。
「明日歌ちゃんの料理はどれも美味いからねぇ」
「星渚さんってば、褒めても何も出ませんよ?」
「さあ食べようか」
無視された。ちょっと冗談でぶりっ子しただけなのに、星渚さんが清々しい程スルーした。
藍さんもいてさすがに皆がテーブルだと狭いから、ソファの近くにあるローテーブルに私と藍さん、ダイニングテーブルに他の3人が座ることに。
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