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しおりを挟む「うまいじゃん。明日歌ちゃん料理得意なんだ」
「はい。将来お嫁に行った時のためです。姑に文句言われないように」
「妙にリアルだから止めろや」
「全然文句言えないよ。まあ、菜流の方が愛情込もってて1番だけど?」
得意気に微笑みながらシスコン発動。
星渚さんにとっての1番は菜流だと、十分知ってます。
「ほら、碧音君も食べて」
まだキッシュに手をつけていない碧音君に、手に持ったタッパーを差し出す。
「……」
「あ、もしかして食べさせてもらいたい?あーんってやってあげようか?」
「自分で食う」
私が食べさせてあげようと口に近づけたキッシュを奪い、控え目に一口、口に含み―――。
「待ってストップ!唇を赤い舌でゆっくり舐める姿が、煽情的で色香漂う美少年」
碧音君の仕草が一々色っぽいから、心臓が暴れて困る。一眼レフカメラであらゆる角度から撮影したい。
「変な解説つけるな黙れ」
「ぐふっ」
碧音君に残りのキッシュを口にこれでもかという程押し込まれ、慌てて落とさないようにキッシュに手を添えた。
キッシュのせいで、喋ろうとしても口をもごもご動かすだけで言葉にならない。
「こら、碧音。喉に詰まるかもしれないだろ」
「こいつはか弱くない」
「刹那ー、それある意味間接キスだけどいいわけ?」
「あ」
顎でクイッと星渚さんは私を指し示すと、碧音君はげ、苦々しい表情に早変わり。
「碧音君との間接キス!」
キッシュを飲み込みやっと喋られるようになったので、即座に言葉を返した。
「うっわ……」
「しちゃったもんは仕方ないよね」
「っぎゃははは、ウケるわ」
皐月がくしゃっと顔を崩し、ケラケラ笑いつつもう1切れキッシュを食べ始める。
「それより碧音君、美味しかった?」
そう、大切なのは味の感想だ。
手を握り締め碧音君を食い入るように見ると、碧音君はぎこちなく視線を横に逸らす。
「どうだった?」
再度、尋ねてみる。
「……かった」
「え?」
よく聞こえなかった、更に碧音君に耳を近づけ今度は聞き逃さないようにと、集中。
「…………美味しかった」
「っ本当に?!」
今、あ、碧音君が美味しいって。
「だから、美味しかった」
「え、ねえもう1回ちゃんと顔見て言って」
「調子乗んな」
碧音君に詰め寄ったけど、顔面を手の平で押し戻されてしまった。
は、鼻が潰れます息が出来ない。
「碧音、離さないと明日歌ちゃん窒息するよ」
テレパシーで伝わったかの如く藍さんがストップをかけてくれたお陰で、新鮮な空気を肺に送ることが出来た。
危ない危ない。
「お前らコントしてんの?なあ」
そして何も言わず傍観していた皐月と星渚さん、薄情だ。
「―――そうだ」
「何だよ星渚」
突然思いついたと言わんばかりに、声を出す。
「明日歌ちゃん、お菓作りが得意なだけじゃないよね?」
「はい。和洋中作れます」
しかしそれがどうしたと言うのだろう。他の皆も、ハテナマークが浮かんでいて。
「俺ら夏休み中に3日間合宿するんだ。大きなライブのイベントがあってさー、そのために合宿すんのが恒例なの」
「まさか、星渚」
話の内容に見当がついた皐月が星渚さんに目配せするが、私はよく把握出来ない。
「で、練習は勿論ほぼ1日中やるから飯をどうにかしなきゃいけない」
うん、ここまできて段々話が見えてきたかも。
「今まではコンビニで買ってきてた。でも、さすがに3日連続じゃ不健康だし、金かかるし飽きるし?たまに俺らで作るけど、面倒臭かったんだよ。だから明日歌ちゃん、作ってくれる?」
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