上 下
138 / 155

137.

しおりを挟む


お母さんも『しつけ直さないとねぇ』とどこか狂気を孕んだ瞳で俺をじとりと見てきて。


あ、嫌だ。ガタガタと震え出す体。


「おら、こっち来いよ」


「や、お父さっ」


「さっさと来いよ!」


ぐいっと強引に腕を引っ張られダン!!床に叩きつけられた。背中が、痛い。


「痛い目にあわないとー、お前はーぁ、やっちゃダメなことがー、分からないんですかぁ?」


「っ!いっ……」


言葉の区切りに合わせてドン、と重い蹴りを入れてくる。お父さんやめて。


「ごめ、んなさ………」


「もっとちゃんと謝らないとダメだろー?」


「ご、ごめんな、さい……っ」


「ごめんなさいもまともに言えない奴は、ちゃあんと反省するまで閉じ込めるからな」


――――閉じ込める。その台詞を聞いた瞬間サッと血の気が引いた。


嫌だ、それは嫌だ。けれどこんな願いはお父さんに届くわけもなく引きずられ部屋の押し入れに押し込まれた。


強く腕を掴まれ『離して、痛い』訴えても聞く耳をもってくれなくて。視界が、体が、暗闇に飲み込まれていく。


「やだ、ごめんなさいお父さん!」


「ここに入ってしっかり反省しろよ?」


押し入れに入れられてもなお殴られ無情にもピシャリ、戸を閉められてしまった。


「……や、嫌だ」


湿っぽくてカビ臭い暗闇が怖くて仕方ない。


お父さんとお母さんはたまにこうして俺を狭い押し入れに閉じ込める。


そして俺が出られないようにと戸に自分達で買ってきて取りつけた鍵をかけるんだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


こんな狭い場所に何時間も閉じ込められるなんて、俺嫌だよ。どくどくどく、激しく脈打つ心臓。


思うように力の入らない手でドンドン戸を叩くけどこの暗闇から解放されることははくて。


今日はどれくらいここに閉じ込められなきゃいけない?何十分?何時間?


たとえ実際の閉じ込められていた時間が2、3時間だったとしても、もっとずっと長い間闇の中に放置されてる感覚がする。


夏だからか湿っぽさも増していて、気持ち悪い。


前は昼から太陽が顔を隠す時間まで閉じ込められた、今日も同じくらいなのかな。


それとも、更に長かったらどうしよう。


容赦なく蹴ったり殴られたりされた体よりも、心の方が痛い。


あの時、ちゃんと足元を見ていれば……いや水を飲もうなんて考えなければこんなことにはならなかったんだ。


自分のせいで、こうなってしまった。俺が、俺のせいで。


「…………ごめんなさい」


ごめんなさい、ごめんなさい。


戸の向こうでは俺の存在を忘れてテレビを見たり好きなだけ寛いでいる2人がいるんだろう。


微かだけど、時々笑い声が聞こえてくる。


俺はいつまでたってもそっち側にはいけなくて。家族なのに、何で壁があるのか。はっきりと境界線が引かれているのか。


お母さんやお父さんに聞いたって、答えてくれないと思う。黙ってろって、怒られる。


「ごめんなさい……許して、ください」


俺の声なんか聞いちゃいないって分かってても言わずにはいられなくて。


何回も謝れば許してもらえる、この考えはいい加減なくすべきだとは思うけれど。バカみたいにごめんなさいと繰り返すことくらいしか、結局は出来ないんだ。


学校でクラスの子がよく言う。


『宿題ちゃんとやらなかったからってゲーム没収された』『夜遅くまで起きてたら怒られてこれからは9時には寝ろって言われてさあ』『俺だって、遊んで遅くに帰ったせいで1週間ゲーム禁止だよ!』と。


その程度で不満そうに文句を言う理由が理解出来なかった。


9時に寝なきゃいけないくらい、たった1週間ゲームが出来ないくらいで何でそんなに文句言うの。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

愛を知ってしまった君は

梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。 実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。 離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。 妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。 二人の行きつく先はーーーー。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...