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「初めまして。波江さんのこと話には聞いてました。俺は紀藤星渚、君と同い年。よろしく」

「どうも、高瀬皐月です」

「私も藍からmidnightの皆さんの話はよく聞かせてもらってました。会えて嬉しいです」

波江さんがチラリと藍を見ると、それだけで波江さんの気持ちが分かったかのように藍も笑う。

藍の手は、彼女の手と繋がれたまま。素敵。

「えっと、ごめんなさい。あなたは……」

「私は橘明日歌です。midnightのファンです」

先に頭を下げると律儀に波江さんまでお辞儀をしてくれた。

私の方が年下なのに、なんて謙虚なんだろ。

「星渚、碧音は?」

藍は辺りに視線を走らせる。

「刹那ならドラムの調整がどうとか言ってライブハウスの中に入ってる。2、3分すれば来るよ」

「刹那碧音君って、ドラム担当の子ですよね」

「そ。無愛想だけど機嫌が悪いわけじゃないから。仲良くしてやって」

「素でそういう奴なんすよ」

私と初対面の時も碧音君、表情変えなかったもんな。懐かしい。

「あれ碧音じゃね?」

皐月の目線を追うとライブハウスの出入口から人に紛れて出てくる1人の黒髪少年。

遠目からでも分かるくらいの色気を振りまいている。本人はそれに無自覚だけど。

「刹那、こっち」

星渚さんが手招きすると碧音君がこちらに気づきやって来た。

「初めまして、刹那君。波江春です」

「こちらこそ」

思った通り波江さんが来てくれたというのに別段驚いた顔もしない。

私なんて会えたことに対しての喜びで興奮気味の自分を落ち着かせるのに必死なんだぞ。

波江さん相手には少しくらい笑ったらどうですか。

碧音君自身も会いたいって言ってたでしょ。今度愛想笑いの仕方でも教えようか?と、思っていたら。

「来てくれてありがとうございます。会いたかったです」

碧音君の台詞はこっちがびっくりする程直球で、素直だったのだ。

「ふふっ。私も会えて良かったです。チケットも買ってもらっちゃって」

「あ、碧音君が!!素直っ……」

「俺が言いたいことはっきり言って何が悪いんだよ」

「珍しいからびっくりしたの!」

「俺はいつでもお前に本音言ってやってるだろ」

「それは数々の暴言のことでしょうか。え?あれ冗談でしょ?」

「都合のいい解釈だな」

碧音君、そこは否定してくれても良かったんじゃないか。ダメージ半端ないよ。

「あはは、面白いね」

そんな私達を、口に手を添えて控えめに笑う波江さん。

仕草が大人の女性っぽい。私も真似してみようかな。

「俺達は控え室に行かなきゃいけないからもう行くね。2人は入場が開始されたら入って」

「明日歌、しっかり波江さんをエスコートしろよ!」

「お前よりか弱いんだからな」

「私もれっきとした女子だそれくらい覚えて」

そりゃ波江さんと比べたら私の女子力なんて底辺かもしれないけども。

「春、ライブ楽しんでって。明日歌ちゃんも春のことお願い」

「もちろん!任せて」

波江さんの手を名残惜しそうに離し、関係者だけが通れるドアから室内へ入っていった。

「私責任をもって波江さんのサポートしますから。困ったことがあったら言ってください」

「頼もしいですね。ありがとう」

「私年下なので敬語は使わないでください、名前も呼び捨てで構いませんから」

「じゃあ明日歌ちゃんって呼んでもいい?」

「ぜひ!」

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