転生蒼竜チート無双記

れおさん

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7話 「新たな感情を引きつれて」

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 目の前には信じられない光景が広がっている。仲間があれほどの精鋭である仲間が殺され方をしている。
 それだけなら驚くことはない。だってここは戦場だ。仲間の死など普通にあり得ること。乗り越えるべきことだ。
 だが、目の前で殺される仲間は真っ二つに切り裂かれて死んだ。
 すべてを真っ二つに切り裂かれて森の中に消えていく。
 それはどんな熟練戦士だろうと経験がしたことがなかった。
 あれほどの硬い鎧を着た騎士が_
 あれほど硬い鱗と骨格を持ち、そのうえ重要部に鎧が着せられたドラゴンが__
 血しぶきをあげて目の前から消える。
 その犯人は__
 自分たちが乗っているドラゴンと同じ顔をしていた。

 「これで15匹……」

 だがそれはドラゴンの顔をした悪魔や死神にしか見えなかった。
 太陽を背にして逆光でシルエットのようになったそれはただ眼光を輝かせて自分の視界に瞬く間に近づいてきた。
 そしてやっと姿が見えた時、その竜騎兵は素直にこう思った。
 悪魔は、死神は宝石からできているのではないかと。
 太陽の光を受けて輝くその透き通ったあまりにも美しい青色は空の深い青にも、海の青にも見えた。
 それがその竜騎兵の最期だった。
 目の前が青から赤に染まった。その赤はやがて視界を埋め尽くしてその後光を閉ざして暗闇に落とした。
 
 「これで20匹……。まだかかってこないならどこまでもやってやるぞ」

 左手でボウガンを構えて少し離れた奴に向かって狙い撃った。

 「このボウガンの威力試させてもらう!」

 狙いを定めて打ち抜いた瞬間、その竜騎兵の動きが止まった。まさに空中で制止してしまった。
 いきなり動きのなくなったことに不審がった騎士がドラゴンの顔を見ると_
 口に大きな矢が突き刺さって血が滴っている。
 そして瞬く間に墜落した。そのドラゴンは即死だった。騎士もあの高さから落ちてしまえば命はないだろう。

 「あの人すごいんだな……威力パネェ」

 このシュウの開幕先制攻撃はあまりにも大きな恐怖と損失を相手に与えることになった。
 しかし、恐怖したのは相手だけではない。

 「あれが彼の動き……!?」

 メオン率いる鎧甲部隊もその空戦いや、一方的な攻撃の様子に大きく恐怖した。
 見上げる空からは血の雨が降り、彼らの鎧や顔にも降り注いで汚していく。血に濡れることは慣れっこだ。ただこのような場合を除いて。

 「彼が敵だったらこの国は何をしようが一発で壊滅させられていただろう。彼が敵でなかったことに本当に感謝するしかない」

 目の前でにらみ合っている軍勢も空戦の惨劇を目のあたりにして戦意喪失していて、攻めてくる様子は全くない。
 この調子なら森で不測の事態に対処するために構えているエルミーユも何もすることなく我々と同じように空戦の様子に絶句していることだろう。

 「お待たせしました」

 ティナが合流。彼女も血の雨に服を濡らしている。

 「ああ。ティナか。見たか……?あの彼の動きを。あのものが敵でなかったと感謝するしかないな」

 「はい……。それだけでなく彼は私が信用していなことすら見抜いていて、この戦闘で私達に見せてくれているようです。行動で」

 「疑う余地はない。相手にあれほどの損失を与えて内通者だというのもおかしい話だものな……。彼の能力をもってすればそんな回りくどいことをしなくてもこの国は終わっている」

 「はい。彼が頑張ってくれている間に戦意が喪失している目の前の部隊を叩きましょう。我々の損失0で相手をせん滅できます。エルミーユもきっと呼応して動いてくれますので」
 
 「OK。よし、お前ら行くぞ!」

 ティナとメオンも目の前の相手と対峙すべく戦闘に身を投じた。

 「これで50……!」

 どんなに斬って血と脂に濡れようが自分の持つこの剣は全く切れ味が落ちる様子はない。
 どんなことにも恐れを知らないはずのドラゴンですら尻込みし、乗り手の指示を無視して引き返そうとする。
 右手の剣で切り裂き、左手のボウガンで撃ち抜く。
 恐怖におびえた相手は動き出しも防御も甘い。なお潰すのが楽だ。
 どんなに相手が攻めてこなくてもここはクレマリー領土内。領土侵犯をしている以上容赦はしない。
 ティナに言われたことを忠実に守るだけだ。

 「こ、こんな奴に……我々が……我々のようなエリートがお前らみたいな原住民にコケにされてたまるかああああああああああ!」

 一人の将兵が部隊を率いて突撃してきた。
 一斉に繰り出されるドラゴンの火球と振り下ろされる武器の攻撃。
 それがすべて命中した。
 火球の煙が舞い上がり焦げ臭いにおいが立ち込める。

 「ざまぁみやがれ!」
 
 しかし、その高揚は煙が少しずつ晴れていくごとに絶望に変わった。

 「ああ……嘘だろう……」

 もちろんのこと何一つ傷なんてつくことはない。あの石頭二匹の攻撃よりも何も感じることなんてなかった。あいつらの攻撃なら火球は一応熱風くらいだったがな。

 「悪かったな。原住民にはエリートのことなんてわかんねぇよ。でも原住民にも分かることがある。領土侵犯をしているはお前らの方だ。そしてこの俺を容赦なく殺そうとしている。なら俺につぶされても文句はねぇはずだな」

 ボウガンのテストは済んだ。リースの言っていたような不安は一切なかったし、完ぺきだと報告してあげなければならないだろう。
 リースに言われた通りボウガンを捨てて両手で剣を握って構えた。

 「俺はエリートが大っ嫌いなんでね。知りたいとも仲良くなりたいとも思わねぇ。かといって関わりがなければそれでいいと思ってた。それでもお前らがかかわってくるなら容赦はしねぇ」

 渾身の力と最大スピードでその部隊を一斉に切り裂いた。

 「ちくしょおおおおおおおおおおお!お前のような得体のしれん怪物にいいいいいいいいいい!」

 「なぁ知ってるか?知識をつけられる生き物にとって一番恐ろしいのがその知らない_無知ってことなんだぜ?」

 口から血を吐き出しながら叫んだ絶叫とともに部隊はあっけなく全滅した。

 「悪魔とでも死神とでもいうがいい。こういう世界に来た以上俺は容赦はしねぇ。それにお前らみたいなエリートが俺は死ぬほど嫌いだ。お前らがけんかを売るならどこまでも買ってどんな方法を使おうが潰してやる。それはあのころから変わらねぇ俺の信念だからな」

 吐き捨てるようにそう言った。見渡すとほぼ北の山脈の方に残りの部隊は消えていく。先ほどの攻撃で全く効果がなかったことで本当に攻略不可能と判断したようだ。
 空戦は勝負がついた。あとはあの三人に任せよう。
 たぶんセリアは出てきていないはず。というかティナが意地でも出させないように下手したら閉じ込めているかもしれない。

 空から見ても地上戦も完勝にしか見えなかった。
 どの戦闘も優位に展開していてこちらの兵で力尽きているといった者は見えない。

 「勝ち……だな」

 そう思った時だった。

 森の一角からものすごいスピードで槍が飛んできた。全くその予想ができていなかったため反応が遅れ、俺に命中した。
 そしてさらに信じられない出来事がある。
 今まで、いや数回しか戦闘していないがこれまですべて武器をはじき返すか逆に粉々にしてきたのに今回は__
 自分の体に槍が刺さっている。深々とではないが突き刺してきた。しかしそれだけでも衝撃の体験だった。
 痛みはない。鱗に少し刺さっただけで出血もない。が、こうして他者に意図的に傷つけられる恐怖を今初めて味わった。

 「そう甘くないらしいな……。それにしてもあの方角からか」

 地上戦はほぼ決着した。残りのところも戦闘終えた部隊の援護が入ってどんどん勝負がついて事実上目の前でにらみ合っていた部隊はすべて全滅した。

 「よし、被害はなさそうだな……」

 「はい。理想的な勝ち方です。言うことはありません」

 「それもすべて彼のおかげだな」

 そう言って軍をまとめようとしていた二人だった。

 「!? 危ない!」

 メオンがさっと軍の最前列に立ち、盾を構えた。すると目の前からものすごい勢いで回転する斧が飛んできた。
 盾にものすごい勢いであたってもなお勢いが落ちず、盾を切り裂こうとする。メオンが気合を入れて盾を持つ手で斧の勢いに負けずに振り払うと斧はその場に落ちた。
 そしてその斧を見てティナとメオンは絶句した。
 そして間髪入れずにその絶句させた斧の持ち主の声が聞こえてきた。

 「へぇ、メオンまでいんのかよ。面白れぇ。随分とコケにしてくれたようじゃねぇか。こっちの部隊散々だぜ?なかなかいい挨拶もらったよ」

 「ヴィ……ヴィルシス!?」

 メオンと同じように将軍用の分厚く派手な装飾の鎧を着た者。しかし、メオンとは違ってあまりにも大きく鋭利な斧を持っている。
 メオンは大きな驚きの中にわずかながらに恐怖を含んだ引きつった表情をしていた。
 その反応はティナも同じだった。驚きと恐怖が二人を襲っていた。

 「ふん。お前のような雑魚には興味ないんだよ。俺の目的はそこにいるティナにしかない。おい、ティナ!出てこい!いるんだろう?あの適切かつ相手に対していやらしい兵の動かし方はお前にしかできないからな!」

 「あ、あなたが一体に私に何の用ですか」

 メオンの背中から恐る恐るティナが顔を出した。それを見ると満足そうな顔で今までとは違った声色でティナに話しかけ始めた。

 「おいおい、ここで何してるんだよぉ。お前がいなくなって寂しいったらありゃしない。お前以上にきれいで頭もいい女はあの国にはいない。お前を見てからお前以外の女には興奮すらしないってきたもんだ。責任とってくれよぉ」

 甘ったるい声で気持ち悪いことを平然と述べているが、メオンとティナ含めた地上戦を行ったすべてのクレマリー王国の兵が恐怖に震えていた。

 「わ、私はあなたのような男とはいたくありません。それはあの時から変わりません。これからも変わることはありません」

 「あ?エリート女どもにいじめられていたのを助けてやったのどこのどいつだと思ってんの?あの時一人で肩身狭くつらそうにしてたのをさぁ!」

 語尾を荒げるだけで、敵味方関係なくすべての兵士が震えあがる。

 「まさかだとは思うが、メオンに抱かれたってことはねぇよなぁ!?もちろんお前は今でも誰の手も付けられてない処女のはずだよなぁ?俺が最初で永遠にずっと俺の所有物になる予定だもんな」

 「昔も今も変わらず誰にもあなたにも特別な感情を抱いたことはありません。そしてあなたに対しては特にいえることはこれからも一切あなたに特別な感情を抱くことなどありません」

 そのティナの言葉に怒りが頂点に達したのか、顔を真っ赤にさせて斧をとった。

 「ならお前らのその周りについている奴らすべて皆殺しにして、何もかも恐怖で動けなくなったお前を持って帰ることにしよう。メオンも昔から俺に反発してばっかりで腹が立つ存在だったしな。ちょうどいい」

 「私とやるつもりかいいだろう」

 「あ?槍でどんだけ強かろうが斧持った俺に勝てなきゃ意味ないだろ。だからお前はいつまでたってもあの国じゃ弱虫だったんだよ!」

 メオンは分かっている。勝てる相手ではないと。こいつの斧の使い方は尋常ではない。でも、ここは騎士として守らなければいけない。この国の軍師を_兵士たちを。

 「行くぜメオン!せいぜい楽しませろよぉ!?」

 そうとびかかろうとした瞬間だった。

 「待ちなさい」

 相手の動きを止めるような透き通った声。それは森の一角から放たれた。両軍のすべての注目を集めた方向からは

 「まず私を倒してからにしなさい」

 白狼の姿に変身したエルミーユの背中に乗って現れたセリアの姿だった。
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