竜皇女と呼ばれた娘

Aoi

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魔法学校編

仕切り直し

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ヴァイオレットが試験官を気絶させた事で他の試験官が集まってきて一時試験は中断、周りの視線がヴァイオレットに集中する
ヴァイオレットからしたらちょっと懲らしめただけなので、この程度で気絶するとは思いもしていなかった


『これって試験どうなっちゃうのかな?おじいさんから教わった方法をまだ実践してないのに……』
『また随分と派手にやってくれたなおい』
『あっ、えーっと……』
『ケーニッヒだ』
『そうそうケーニッヒ先生!ねぇ試験はどうなるの?』
『あぁそれなんだがな、お前さんを担当していた試験官はあのザマだろ?他の試験官も他の受験者にかかりっきりで気づいた時にはもう終わった後みたいだから誰もお前達の様子を見てないんだ。だから話し合った結果もう一度模擬試合をやってもらうことになった。ロータスがいつ目を覚ますか分からないしな』


試験官を気絶させた事については特に何も言われなかった
ただの威嚇行為のようなもので傷一つつけてないし当然といえば当然である
今まで泣かしてきた受験者の事を考えれば髪の毛のみで済ませてやっただけ有難く思ってほしいくらいだ


『それで試験官なんだが……』
『あっその事なんだけどさ、相手はここにいる一番強い人にしてよ』
『はぁ?どうしてだよ』
『だってこの模擬試合っていうのは私達の実力を見るものなんでしょ?申し訳ないけどさっきみたいな人が相手だととてもじゃないけど本気出せなくて……』
『お前、それ他の奴の耳に入ったら敵作ることになるからあんまり言うんじゃないぞ?』


オストンで出会った老人から聞いた話ではこうやって強い試験官を自分の方から指名し、その試験官に勝利することで試験の合格をもらえるとの事だった
ロータスという男でそれが出来ていればこんなことしなくて済んだが、あまりにも役不足だったのでこうせざるを得なかった


『まぁお前の言い分も分からなくはない。にしてもなぁ~今日招集した試験官はロータスと然程実力は変わらないし俺は戦闘向けの魔法は使えないんだよなぁ……』
『じゃあ特別に試験は通過ということで……』
『それは出来ない』
『俺がその嬢ちゃんの相手をしてやろうか』


二人が会話をしているところにどこからともなく現れた謎の人物が突如介入してきた
他の試験官達は試験官と一目で分かるよう服が統一されているがその者が身に着けている防具を限り試験官ではないことは見て分かった
ヴァイオレットが様子を窺っていると謎の人物の言葉にケーニッヒが答えた


『オルド、お前こんなところで何やってるんだ。仕事はどうした』
『いやぁついさっき任務から帰ってきたところでね。今日入学試験があるってのを聞いたから未来の後輩になりそうな人材を見ていたんですよ先生。そしたら面白そうな受験者がいるじゃねぇですか』


どうやらケーニッヒとこのオルドという人物は顔見知りのようだ
ヴァイオレットから見てこのオルドという男は佇まいだけで先程戦ったロータスとは格が違うということだけは感じ取れた


『それでさっきの話の続きだが、俺でよければ相手してやるがどうだ嬢ちゃん、俺じゃあ力不足か?』
『おいおい、何を勝手に……』
『いいよ、さっきの人よりは頑丈そうだし』
『おい!決めるのは俺なんだっつの!』


ケーニッヒの言葉を聞かず二人は開始位置へと立つ
両者がやる気満々で止められないと分かるとケーニッヒは大きく溜息をついた後、審判役として二人の戦いを見守ることに決めた


『いいか?俺が止めと言ったら止めるんだぞ。従わなかったらヴァイオレットは即刻不合格にするしオルドの方はお前の先輩に言いつけて過酷な任務につかせてやるからな』
『おぉおっかないねぇ。分かったよ先生』
『私もそれでいいよ』
『それじゃあ……始め!』


ケーニッヒの開始の合図と同時にオルドがヴァイオレットに接近してくる
重そうな防具を身に着けているがそれを全く感じさせない身のこなし、魔法で身体能力を底上げしているのだろう


『まずはお手並み拝見だ!』


ロータスは相手から距離を取った状態を保ちつつ戦うスタイルだったがオルドはその真逆、自分からガンガン距離を詰め相手の懐で戦う生粋のインファイターだった
一瞬で目の前までやって来るとヴァイオレットに次々打撃を浴びせていく


『オラオラオラオラ!』
『おぉ、凄い連打』


底上げされた身体能力から繰り出される一撃一撃が鋭く重い
技を繰り出す瞬間に魔力を拳や足に集中させているのがヴァイオレットには分かった
激しい動きをしながらの緻密な魔力操作も大したものだが、この動きを維持し続けられているのはやはりその肉体にあった
服の上からでも分かる鍛え上げられた筋肉、身体能力を上げてもそれに伴う体が出来上がっていないとすぐに体に軋みがくる
こうして戦っているだけでもこの人物が相当な努力家なのはしっかりと伝わってきた
だがそれでもヴァイオレットには未だ一撃を入れることが出来なかった


『さっきから攻撃をいなしてばっかだが反撃してこなくていいのか?これはあくまでお前の試験だぞ』
『それもそっか!じゃあお兄さんの真似させてもらうね』


そう言うと先程まで受け一辺倒だったヴァイオレットは一転攻勢に転じ、今までオルドから受けていた攻撃をそのままお返しするかのように同じ技で攻撃を仕掛けた


『俺の真似だと?随分と舐められたもんだな!』


自分の使っている技が通用するわけがないとオルドはヴァイオレットの攻撃を躱していく
だがそれが徐々に難しくなっていき、次第にヴァイオレットの攻撃がオルドを追い詰めていった


『くっ……!』


全く同じ技、だがオルドが繰り出したものよりも更に鋭く重い一撃が襲いかかってくる
まるで自分の方が格上であることを思い知らせるかのように
そして遂にオルドの防御を破りヴァイオレットの連撃が直撃していく
攻撃を食らい続けているオルドからは段々と力が無くなっていき、とどめの一撃をヴァイオレットが放とうとしたところでケーニッヒから終了の合図が出た


『そこまで!』


合図と同時にヴァイオレットは動きを止める
ヴァイオレットの攻撃で立っていられたオルドは攻撃が止んだことでその場で倒れ込んでしまった
そのあまりの一方的な試合に周囲には暫く沈黙が流れた

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