竜皇女と呼ばれた娘

Aoi

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魔法学校編

あれから五年

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ヴァイオレットがイグニスの元で育てられから早五年
あれから特に問題が起こることもなくスクスクと育ち、今では自分の足で走り回れるようにまで成長した


『お父さーん!』
『おいヴァイオレット、あんまり遠くへ行くんじゃない』


ヴァイオレット達はあの後洞窟から棲み家を変えて生活を送っていた
洞窟内ではヴァイオレットの成長を妨げる恐れがあると判断してのことだ
そして今日はイグニスと共に食料の調達にやって来ている
イグニスの影響かヴァイオレットは肉が大好物
森の中を探検しながら獲物を探していると、やがて食事中の無警戒なウサギを見つけた


『いた!お父さんいつもみたいボワーって火で倒して!』
『ここは森だから火は使えん。それよりもヴァイオレット、今日はお前がやってみろ』
『えっ、でも私やったことないし無理だよ』
『やる前から無理だと決めつけるな。まずは挑戦してみることが大事なんだ。最近魔法を学び始めただろ。魔法を上達させるには実戦で経験を積むのが一番手っ取り早い。失敗してもいいからやってみろ』
『……分かった。やってみる』


普段はイグニスに任せっきりで自分で狩りを行うのは今回が初めて
緊張しながらもウサギに狙いを定め教えてもらった通り体内の魔力を手に集中させいき標的であるウサギに魔法を放つ


『ふぁいあぼうる!』


ヴァイオレットの放った火の魔法"ファイアボール"はウサギに向かって真っ直ぐ……とはいかず、途中で軌道が逸れて木にぶつかり消滅した
それに驚いたウサギは森の奥へと慌てて逃げていった


『やっぱりダメだった……ヒック……』
『これしきの事で泣くんじゃない。失敗してもいいと言っただろ。諦めずに続けていればそのうち自分の手足のように魔法が扱えるようになる。さぁ次の獲物を探すぞ』
『うん……』


その後もヴァイオレットは魔力の限界が来るまで獲物に向かって魔法を撃ち続けた
結局その日は自分の力で獲物を捕まえることができずイグニスが今日の食料を調達した


『さぁ早速飯にしよう。腹減っただろ』
『うん!今日はたくさん動いたからいっぱい食べる!』
『ちょっと待ちなさい』


ヴァイオレット達が狩ってきた獲物を調理し始めようとしたタイミングで空からもう一頭の竜が現れた。バシリッサだ


『あ!お母さん!』
『ふふ、今日も元気ねヴァイオレット』


バシリッサはイグニスだけに子育てをさせるのは不安で仕方がなかったのでこうして頻繁に様子を見にきている
それもあってか物心がついた頃にはヴァイオレットからお母さんと呼ばれるようになった
しかしイグニスはそれをよく思っていなかった


『ヴァイオレット、コイツをお母さんを呼ぶのはやめろと言っているだろ』
『えー、だってお母さんはお母さんだもん』
『私は可愛い娘にお母さんって呼んでもらえて嬉しいわよ。さっ、早くご飯の準備をしちゃいましょ』


そう言って材料の方に目をやるが、用意されているのは肉肉肉。全部肉だ
野菜が一つもないことが分かるとバシリッサは思わず溜め息をつく


『もう、またヴァイオレットに肉だけ食べさせようとしていたのね。ちゃんとバランス良く食べないとダメって何度も言ったでしょうに』
『好きな物を好きなだけ食わせた方がヴァイオレットも嬉しいだろう。なぁヴァイオレット、お前もたらふく肉を食いたいだろう?』
『うん』
『ヴァイオレット、好き嫌いせずに食べないといつまで経っても大きくなれないわよ』
『えぇ、それはやだなぁ。んー……野菜は好きじゃないけど頑張って食べる』
『偉いわね、全部食べられたらご褒美にデザートを上げるわね』
『デザート!?やったー!お母さん大好き!』
『ふんっ、もので釣るとは卑怯な奴め』


ヴァイオレットは肉の次に甘い物に目がない
文字通りバシリッサの甘言にまんまと乗せられたヴァイオレットは普段好んで食べない野菜を進んで食べ完食しデザートを堪能した


『ん~♪プディンうまうま~♪』
『ヴァイオレットそれ大好きだものね。けどこれは人間の町でしか作られていないから手に入れるのが大変なのよね』
『人がたくさんいるんだよね。私もいつか行ってみたいなぁ』
『その為にはちゃんと人の言葉が喋れるようにならないとね』


成長していく過程でイグニス達の会話を聞いているうちにヴァイオレットは人間の言葉よりも先に竜の言語を喋れるようになってしまった
なので現在魔法の練習と並行して人の言葉を勉強中なのである


『ふぁ~……』
『そろそろおねむの時間のようね。今日は魔法をいっぱい使ったみたいだしゆっくり休みなさい』
『うん、おやすみぃ……』


イグニスとバシリッサに挨拶を済ませるとヴァイオレットは早々に眠りについてしまった
覚えたての魔法を連発した疲労で限界だったようだ
ヴァイオレットが寝たことを確認するとバシリッサが口を開いた


『それでどうだったの?』
『あぁ、やはりヴァイオレットは五歳にして既に人並み以上の魔力量を有している。しかもまだまだ成長途中で底が見えん』
『アナタがそこまで言うなんて珍しいわね。親バカってやつかしら』
『茶化すな』
『冗談よ。けどそうね……このまま放置していたら強大すぎる力に壊されてしまうわ。どうにかしてあげないと』
『そうだな、まだ幼いヴァイオレットには大変だろうが頑張ってもらう他あるまい』


日に日に魔力が増え続けるヴァイオレット
このままではいずれ自身の力で身を滅ぼしてしまうことを危惧し、イグニス達は心を鬼にしてヴァイオレットを鍛えることを決意した

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