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三十八話 「小さき救世主」

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上から降ってきた落石を避ける為急いで馬車を進ませる
発見が早かったお陰でどうにか馬車に当たる前に落石を躱す
だが落石は一つだけでなく次から次へと降ってきた
避けるのが難しい落石はアレッサの魔法で破壊してもらい回避
それでもまた新たな落石がまるで馬車を狙っているかのように襲いかかってくる


『どうして突然こんなに落石が・・・!』


アレッサ一人では流石に落石を全て捌き切ることが出来ず、やがて処理し切れなかった落石が馬車の車輪に衝突して破壊されてしまった
その衝撃によって馬車のバランスが崩れ転倒する
幸い崖に落ちることはなかったが依頼人は御者台から投げ出され、馬も怪我をしたのか脚を引きずっていた
馬はまだ治癒出来るが馬車はもうこれでは使い物にならない


『大丈夫ですか!』

『あ、あぁ・・・』


依頼人にも大きな傷はないようで一安心していると、頂上側から複数の人影が姿を現す


『ヒッヒッヒ、しぶとく逃げていたようだがここまでだ』

『盗賊・・・そういうことか』


ガラの悪い男達は下卑た笑いをしながらこちらに視線を向けてくる
不自然に落石が馬車目掛けて降ってきていたのはこいつらが狙ってやっていた事だったのか


『しかし積み荷だけ奪うつもりだったが女までついてくるとはツイてやすね!』

『男の方はどうしやすか?』

『見逃して俺達の事を言いふらされたら面倒だ。適当に始末しておけ』


相手が盗賊という時点で分かってはいたがやはり話し合いなんて受け入れてくれる雰囲気ではない
今まで魔物とは何度も戦ってきたけど人間と戦うのはアッシュもアレッサもこれが初めて
手合わせ等ではなく正真正銘生死をかけた戦いだ
護衛を受けた時点で当然こういった可能性も頭にはあったが、人間同士で命のやり取りをする覚悟がまだできていなかった
だからといって覚悟ができるまで相手が待ってくれるわけがない
少しでも躊躇えば取り返しがつかなくなってしまう

盗賊側の戦力は殆どが戦士系でその背後と石を落としてきた場所に弓を手にしているのが何人かいる
魔法を使ってくる心配はなさそうだがとにかく数が多い
目の前にいる盗賊だけでも十人以上はおり、そこに上の者達を数に入れると二十人は確実にいるだろう
これだけの数と飛び道具もある相手に制圧するだけでもかなり分が悪いというのに、更に面倒な相手が増える


『おい、あいつら二人を食い殺せ。今日のお前の食事だ』


どうやら盗賊側にもテイマーがいたようで獣型の魔物、グリズリーブラッドを命令して連れてやってきた
血の匂いを嗅ぐと力が増し凶暴になる魔物で、男はそれを利用して血を吸わせたと思われる布を嗅がせ無理矢理凶暴化させる
グリズリーブラッドの鋭い爪を見てアッシュは橋が落ちていた場所にあった木片の事を思い出した
橋を落とした犯人も恐らくこの盗賊達、橋を落とすことで利用者をわざとこちらに誘導して金品を強奪していたというわけか


『いけ野郎共!』


頭目が号令をかけ子分達をけしかける。先頭にはグリズリー
こうなったらもう覚悟とかそんな事考えている時間はない
依頼人には上から矢を当てられないよう倒れた馬車に隠れてもらいアッシュは剣を抜く
既にアレッサも魔法発動の準備を始めていたのでアッシュとクウが前に出て時間を稼ぐ
グリズリーの相手はクウに任せアッシュはそのすぐ後ろにいる盗賊の相手
互いの距離が次第に縮まっていき剣が交わろうかというその刹那、グリズリーと盗賊数人が突風によって吹き飛ばされ崖に落ちていった


『なんだ!何が起きやがった!?』

『今のは・・・アレッサがやったの?』

『う、ううん。まだ私は魔法を使ってないよ』


アレッサの魔法かとも思ったが本人はまだ発動前でそれを否定した
混乱する盗賊達と同じ様に一体だれがやったのかと周囲を見渡していると、どこからともなく声が聞こえてくる


『人がせっかく気持ちよく寝ていたというのにピーチクパーチク喧しい奴らめ・・・』


上空の方から声が聞こえてきたので視線を向けると、そこには翼をはためかせ宙に留まりこちらを見下ろす姿があった


『あの姿は・・・もしかして!』


逆光でシルエットしか分からなかったが、その姿は紛れもなくアッシュが長年会ってみたいと夢見ていたドラゴンの姿そのものだった
盗賊に襲われている真っ只中だというのにドラゴンとの対面に高揚してその姿から目を離すことが出来ない
しかしアッシュはドラゴンがこちらに向かってくるにつれて違和感を覚え始める
最初は遠近感のせいだろうと思っていたが、遠近感は関係なく純粋にサイズが小さいだけだったという事に気づかされた


『なんか・・・小さい?』


姿形は紛うことなきドラゴン。だが頭の中で思い浮かべていた姿とはあまりにもかけ離れていた為つい口に出してしまった
それを聞き逃さなかったドラゴンはアッシュの元まで一瞬で距離を詰めてくる
そのあまりの速さに目で追うことはおろか反応することすらできなかった


『おいお前!今オイラの事を小さいと馬鹿にしただろ!お前も細切れにしてやろうか!』

『ご、ごめんなさい。馬鹿にしたつもりはなかったんです。ただドラゴンは皆大きいものだと思っていたのでつい』

『ふんっ、オイラはこういう種のドラゴンなんだ』


ドラゴンにも様々な種族があるんだなと反省しつつ、念願のドラゴンとの会話ができたことにアッシュは感激していた
そんなアッシュを放ってドラゴンは盗賊達の方に向き直る
盗賊達はいくらでも攻撃を仕掛ける時間があったというのに誰一人として微動だにしなかった
動いた瞬間このドラゴンに命を取られると本能的に感じ取ったのだろう
理由はなんにせよ敵意は盗賊達にのみ向けられており、アッシュ達を襲う気配はなかった
ふと盗賊達の顔を見てみるとこれから自分達の身に起きる出来事を悟ったのか全員が絶望の表情を浮かべていた


『さて、全員始末してやるから覚悟しろよ』


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