上 下
16 / 70

十六話 「魔導士の苦悩」

しおりを挟む
突然倒れてしまったアレッサを担ぎ、急いで一階層の安全区域まで戻ってきた
意識がないだけで他に外傷などは見つからなかったのでとりあえずアレッサが目を覚ますまで待つことにした
昨日と似たような展開にアッシュは原因を考えていた
共通するのは倒れる前に魔法を使用していた事
以前は空腹で倒れたのかと思っていたが今回の事を考えるとどうもそれだけではないようが気がしていた

自分の体力回復も図りつつ待っていると、暫くしてアレッサが目を覚ます
アレッサはアッシュを見ると開口一番に謝ってきた


『アッシュさん、すみません』

『僕は大丈夫ですよ。アレッサさんの方こそ大丈夫ですか?これお水です』

『ありがとうございます・・・』


水を受け取るとゆっくりと飲み始め、呼吸を整えていると少し落ち着いたように見えたので先程疑問に思っていた事尋ねてみた


『あの、アレッサさんが魔法を使う度に顔色が悪くなっていったように見えたんですが今回のと何か関係しているんでしょうか?』

『実はアッシュさんに言っていなかったんですが・・・私魔力の操作がまだ上手く出来ないんです』

『魔力の制御ですか?』


アッシュの目から見たらアレッサの魔法は特に問題ないように思えた
寧ろ初級の魔法とはいえあれだけの威力がある魔法を扱えていたので魔力の操作と言われてもいまいちピンとこなかった
アレッサの例えでは何度も使っていたファイア・ボール、あれを発動するのに必要な魔力消費量が1だとする
魔力操作が出来ている者であればその消費量で済むが、魔力操作が不完全な者が発動させようとする場合必要な魔力が倍近くになってしまうんだそう

体内に秘められている魔力を一点に込めて放つ、これが魔法発動の基本動作
魔法を使う際にはいかに魔力を込める効率がいいかが重要で、体内にある魔力を上手く扱うことができないと先程のアレッサのようにすぐ疲れが出てくるらしい
最短距離でゴールに行けば疲れずに済むのにわざわざ遠回りしているせいで余計な体力を使っているという感覚に近いのだろうか

そして魔力量の限界が近づいてくると視界がボヤけ始め、魔力が完全に尽きると気を失う
この状態を魔力枯渇マナロストというそうだ
さっきのアレッサはその魔力枯渇の一歩手前
どれ位消費しているかなどは感覚で分かるみたいだが初のダンジョンといことで少し舞い上がり管理を誤ってしまったみたいだ


『黙っていて本当にすみませでした。アッシュさんを危険に晒してしまうかもしれないのに』

『まぁ大した実害はなかったので僕は気にしていないですが、急に倒れたから心配しちゃいましたよ』

『うっ、すみません・・・』


とはいえアッシュも異変に気づきながらも止めることはしなかったのだから反省しなくてはいけない
アレッサが言っていたように状態確認等はしっかりしておかないと他のパーティメンバーの命を危険に晒す事になるかもしれないのだから

魔導士の魔力が尽きかけた際に回復の補助をしてくるのアイテムがある
それはマナポーションというアイテムで飲むことで消費した魔力を回復、自然回復を待たずに魔法を使うことができる
だがこのマナポーションがまた値が張るアイテムで、アッシュが常用しているポーションの五倍程の価格だ
希少な薬草の使用やマナポーションを作れる者の少なさから高価なアイテムとされているらしい
駆け出し冒険者がそんなアイテムを常に持ち歩くのは厳しく、魔力操作がまだ完璧でなく消費が激しいアレッサが使っても焼け石に水状態になってしまうんだとか
あと単純に死ぬほどまずいらしい
効果特化で作られている為味の方が壊滅的なんだそうだ
そこでアッシュはある物を渡した


『あの、良かったら食べて下さい』

『これは何ですか?』

『マナベリーという実です。食べれば少しですが魔力を回復できるらしいですよ。マナポーション程の効果は期待できませんので気休め程度かもしれませんが』


本来マナポーションの材料の一部として使われる素材
ヒール草同様効果は落ちるがそのままでも使用することができる
朝待ち合わせ場所に向かっている際にたまたま見かけたので買っておいてが正解だったようだ
アッシュからマナベリーを受け取るとアレッサは一つ取って口に入れた


『どうですか?』

『甘酸っぱくて美味しいです。それに少しだけ楽になった気がします』


マナベリーを全て食べ終える頃にはアレッサの顔色が戻ってきていたので確かな効果あったみたいだ
とはいえ全快には程遠い状態なので流石にこれ以上はダンジョンにはいられない
魔物がいないところを選んで極力戦闘を回避し、アレッサのペースに合わせて出口の方へと歩いていった


『ダンジョンを出たら組合所に行って魔石の換金をしましょう』

『はい』


一波乱はあったものの大事にならずに済んだ
アレッサとは一時的にパーティを組んだ関係、換金を済ませたらこの関係も終わりだ
今までパーティを組んでいい思い出なんか一つもなかったが、アレッサとのパーティはなんだか楽しかった
アッシュは少し名残惜しさを感じながらもダンジョンをあとにした


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

処理中です...