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十一話 「少女の手助け」

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クウとの初ダンジョン探索を行ったあの日から一週間が経過した
あれからというものダンジョンに潜りゴブリンやコボルトを倒して魔石を集める毎日を過ごしている
最初の頃よりもクウとの連携に磨きがかかり、魔物を倒す効率も上がっていき一日あたりの討伐数が増えていった


『ゴブリンとコボルト合わせて十七体か。今日も記録更新だね』


アッシュは回収した魔石を携え換金する為に組合所へと向かった
ゴブリンやコボルトの魔石は高価ではないが、これ位の数を集めれば人一人と従魔の生活費は賄うことができる
生活水準の方もほんの少しだけ上がり、毎食一番安い定食を食べられる位にはランクアップした
干し肉はやパンもまともなものを買えるようになったしこれも全てクウが従魔になってくれたお陰だ
組合所に到着するといつもの様にナタリアさんに魔石の換金のお願いする
換金が終わるのを待っている間、他の冒険者がアッシュを見かける度にヒソヒソと呟いていた


『おい見ろ、泥かけだぞ』

『なんでも気に食わねぇ奴がいたら泥をぶっかけてくるんだろ?』

『おちこぼれと言われすぎてとうとうおかしくなっちまったか』


あの後グレイ達からの仕返しはなかったが、その代わり他の冒険者に絡まれるというトラブルが何度かあった
大方グレイ達が言いふらしたりしたんだろうが、その度にクウが絡んできた相手をグレイ達と同じ目に合わせていた
今は無闇に人に向かって泥を吐かないよう言い聞かせたのでそういったトラブルは無くなった
だがその件が原因で何故かアッシュの方に悪い噂が立ち、おちこぼれという渾名から新たに"泥かけのアッシュ"というなんとも不名誉な渾名が加えられてしまった
実際泥をかけたのはクウの方だが従魔の責任は主人の責任
行為自体は事実だしお陰で絡んでくる者が減ったのでその渾名を甘んじて受け入れることにした


『お待たせしました。ゴブリンの魔石12個、コボルトの魔石5個で合計銀貨9枚になります』

『ありがとうございます』


査定額の方も今までの記録を更新。最近は僅かだが貯金をできるようになってきた
今使っている短剣が大分ガタがきていて新しい剣が欲しかったのでその為の貯金だ
貰ったお金を財布の中に大事にしまっていると、アッシュと同じく換金に来ていた別の冒険者が突然受付の人に向かって怒鳴り声を上げた


『ふざけんな!たった金貨三枚だと!?ボッてんじゃねぇぞ!』

『で、ですがこちらの査定額は専属の鑑定士が鑑定して算出された額ですので・・・』

『だからそれに納得がいかないっていう話だろうが!』


組合所全体に響き渡る程の声を張り上げる男性
金貨三枚というと一枚あたりが銀貨十枚になるので単純にアッシュの三倍以上の査定額だ
先程魔石を出しているところを見かけたがホブゴブリンやオークの魔石が殆どで、倒した魔物とその数から考えると妥当と思える査定額だった
その冒険者を担当していた女性の方を見ると胸元には新人の証とされるワッペンが付けられている
たまにこういうガラの悪い冒険者が査定より多い額を貰おうと企み、新人の受付を狙って難癖をつけるという揉め事が発生することがある
女性はこういったケースに遭遇するのが初めてなのだろう。小刻みに肩を震わせ目には涙が溜まっていた
同じ冒険者として見逃すわけにはいかない。そう思い男の方に声をかようとしたその時、受付の奥にある扉が勢いよく開かれた


『おい、一体何の騒ぎだ?』

『く、組合長・・・!』

『ゲッ・・・・』


扉の奥から現れたのはガラの悪い冒険者よりも大柄な隻眼の男性
この男はこのルートの町にある冒険者組合を管理している組合の長ボーゼス
ボーゼスもグンダと同じく元冒険者で、現役時代には六つのダンジョンを攻略しているらしい
七つ目のダンジョンに挑んでいる際に右目と右腕を失い今はこうして組合を管理する立場にいる
右目は失ったまま眼帯で隠されているが右腕は職人の手によって作られた義手を装着しており、引退したあとでもその実力はこの中の誰より上である
普段は組合所に居ないことが殆どだが今回はタイミングが良かったようだ
受付の女性が事情を話すとボーゼスは鋭い目つきで男を睨んだ


『テメェ、うちの新人にイチャモンつけたみてぇだな。俺らが不正してるって言いてぇのか?』

『あ、いや・・・そういうわけじゃ・・・』


ボーゼスの圧によって男は先程までの勢いが完全に失われた
関係ないアッシュまでもその迫力に思わず身震いしてしまいそうだった


『いいか、次同じことやってみろ。縛り上げて魔物の餌にしてやるからな。分かったらとっととこれ受け取って消え失せろ』

『あ、あぁ・・・悪かったよ』


お金を受け取ると男は組合所を出ていった
平静を装っていたが内心はかなり怯えていただろう
似たようなことをやっていたのだから自業自得だ
ボーゼスは新人にお礼を言われるとひと仕事終えたかのようにまた扉の奥へと消えていった


『やっぱり組合長は凄いなぁ・・・さっ、僕等も帰ろうか。宿に着いたらご飯にしよう』


組合所での用事を済ませたアッシュは宿に戻ろうと出口へと向かった
すると出口のところで小さな女の子とすれ違った
この場所に少女一人で来るなんて珍しかったから少し様子を窺いに戻ってみると、少女は受付でナタリアに深刻そうな表情で何かを訴えていた


『お願い!ミィを見つけて!』

『えっと・・・お嬢ちゃん?ここはお金を払わないとお願いを聞いてあげられないの。ごめんなさいね』

『お金ならあるよ!』


そう言うと女の子はポケットからお金を取り出してテーブルに並べていった
だがその金額は明らかに依頼を申請できる最低額に達していない
ナタリアもどう対応したものかと困っていた
その様子を見てアッシュは女の子の元に近寄って行った


『君、誰かを探しているの?』

『あ、アッシュさん』

『お兄ちゃん誰?』

『僕はアッシュって言うんだ。良かったら君の話を聞かせてくれないかな?』


できるだけ怖がらせないよう少女の目線に合わせてしゃがみ、優しく問いかけると少女はここに来た理由を話し始めてくれた


『私が飼ってた猫のミィがいなくなっちゃったの。もう二日も帰って来ないんだ・・・いつもは何処か行っても夕方には絶対帰ってきてたの』

『そっか、それは心配だね。僕でよければ探すの手伝ってあげるよ』

『いいの!?あっ、じゃあこれ』


アッシュが手伝う旨を伝えると少女は先程のお金を差し出してきた
だがアッシュはそのお金を受け取るのを断った


『お金はいいよ。僕が個人的に君のお手伝いをしたいんだ』

『お兄ちゃん・・・ありがとう!』


ダンジョンから帰ってきたばかりで疲れはあったが困っている少女を見過ごすわけにはいかない
アッシュは少女を連れ猫がいそうな場所へと向かった


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