1 / 2
1.Sneaking Slime
しおりを挟む
午前一時。とある化学会社の研究所は、夜の闇にその存在を誇示するかのように光り輝いていた。化学、製薬、エネルギーやIT分野はもちろんの事、金融分野や通運、人材派遣と幅広い分野に携わる複合企業。果ては政治や軍事への影響力も大きい、国家の一端を担うレベルの企業──その名はヴィスコンティ・グループ。様々な分野にまつわる研究を進めている支社でもあり、当然警備は厳重である。
「任務を復唱する。研究所設備の完全破壊、研究データの奪取。そして最重要人物、ウベルト博士の無力化。生死は問わず」
『確認。無線の逆探知を防ぐため以降の通信は行わない。通信機を破棄し、任務完遂後定刻通りポイントRに到達せよ、Over』
遠くの森で、1人の男が闇夜に溶け込むかのように身を隠していた。全身を黒のスニーキングスーツで覆った男は研究施設をじっと見つめて、潜入経路を考案。やがて、小型の無線機を破壊し、彼は行動を開始する。中肉中背、着ている服を除けばどこにでも居るような男だった。
「……世界を丸ごと変える研究、か」
力が強大であるほど、その闇は深くなる。国をも揺るがす大企業ともなれば、その暗部は根深い。『彼』が潜入しようとしている研究所には、ある疑惑があった。『世界を激変させる兵器』の研究が行われていると。その研究が成功した暁には、国はおろか世界中が脅威に晒される。スパイとして『彼』は各国からの協力を経て、この研究所に忍び込もうとしていた。
(先遣隊の連絡が途絶した事を考えると、警備はより厳重になっているだろう)
5日前、既に研究所にスパイを送り込んでいた。しかし、研究所に近づいたタイミングで何者かからの襲撃を受けてコンタクトが取れなくなっている。次は無い。必ず成功させなければ、今度こそ潜入不可能になる。諸外国政府の
上層部はある判断をした。──『無貌』に、任務を依頼する事を。
(どれだけ厳重な警備でも、必要な出入口というものはある。空調と排水、どちらから攻めたものか)
裏社会でも一部の人間しか知らない存在。いかに困難な任務でも帰還することで知られるフィクサーとして名を馳せる者。しかし、そのコードネームが浮かび上がるものの、目撃証言として挙がる姿は全く異なる。ある時は浮浪者にも似た老人とも、ある時はやり手のビジネスマンを思わせる風貌とも、またある時は年端もいかない少年ともいわれていた。
そのため、誰一人としてその姿を確認できたものは居ない、半ば都市伝説として扱われるような存在だった。誰かが冗談半分に言った。『フェイスレスは、自分の姿を変える事の出来る人間なのではないか』と。
(ここからだな……排ガス設備の一部を地中のパイプラインに隠している。逆流して侵入ができるだろう)
森の中に隠されていた、排気口の一部。警備員も居ないような、直径1インチにも満たない細いパイプ。彼はそこに近づいて、目を閉じる。誰も信じていない笑い話のような噂。──それは、事実だった。彼の頭が熱せられた飴細工のようにドロリと溶けだし、ピンク色の液体へと変貌して地面に広がってゆく。
肩から腕、上半身が人間らしい形を失い、粘性の強い液状へと変わる。腰元、そして足先はもはや呑み込まれるように、出現したピンク色の水溜りに沈んでいって。ついに、『彼』の身体全てが融解し、地面に広がってしまった。
現れた『スライム』は──人間どころかネズミのような小動物ですら侵入が困難な配管へと、しゅるしゅると侵入していった。
排気ガスを無毒化するフィルタ、無数のメッシュ。配管に張り巡らされ、唯一入り込めそうだった小動物ですら追い返される細い配管。しかし、スライムと化した『フェイスレス』にとってはあまりにも容易い侵入経路であった。ついに、ピンク色のスライムは研究所の中央へとその身体を忍び込ませてゆく。
────薬液をこぼしたら、すぐにでも分かってしまいそうな真っ白な研究室の廊下。シンと静まったそこに、ぽとり、と水滴が垂れる。鮮やかなピンク色をした液体。天井の通気口から、どんどんと垂れ落ちてくるソレは、どんどんと床に広がり続ける。全ての液が床に落ち切った後、ピンク色の水たまりはブルリ、と揺れて。
突如、螺旋を描きながら液体は立ち上る。一本の柱のようになった後、徐々にその表面が変化してゆく。床に近い部分は二股に分かれて、脚のように。二本の線が伸び、太さを増してその先端が5本の指を作る。『フェイスレス』が、液体の状態から人間の形を取り戻しつつある。だが、そこから先はというと。
空気を入れられた風船のように、ぷっくりと胸元の部分に膨らみが現れる。元の姿は短い髪だったものが、今や腰元まで伸びるかのような銀髪がすらりと伸びて。ぱちり、と開いた瞳は輝く紫色。艶やかなリップを、『自分』の小さく綺麗な手でなぞる。
「っふぅっ……♡♡」
そこに現れたのはおよそ研究室という場にそぐわない、全身を紫色のピッチリスーツにつつんだ長身の美女。あまりに身体のラインにフィットした構造のスーツだったため、爆乳とも言えるほどの乳房、そしてその先端の乳首の形が浮き出るほど煽情的な服装。そして股間のワレメ、そのスジも形がはっきりと分かる。
「久しぶりの潜入任務で『変幻』するのもご無沙汰だったもんね、能力のチェックも兼ねて、少し楽しんでも……♡♡♡ ──んぅっ♡♡」
声帯の構造すら変化させている『彼女』は、透き通った女性の声でそう呟くと。むんず、と自分のおっぱいを乱暴に握りしめる。両手で搾るように、包み込むようにして揉みしだいてゆく。今いる場所が監視カメラの死角である事を理解しているためか、余裕の笑みを浮かべながら。
「ひゃんっ……♡♡ やっぱり、このぐらい敏感な方が気持ちいいよねっ……♡♡♡ そう、ねっ……♡♡♡ このカラダの名前、決めてもイイ、かもっ♡♡♡♡」
敵地でありながら自慰を始める、突拍子もない行為。だがこれにも理由はある。『彼女』が、依頼者から監視されていないかを確かめるためだ。通信機こそ破棄したが、何らかの手段で彼女の行動を把握している可能性はある。誰からの追跡をも嫌う『フェイスレス』は、任務開始直後にこのような行為を行う事で依頼者からあえて正気を疑われ、通信を飛ばしてくる可能性を考えて。わざと、女体に変化した後にオナニーを始めるのが常だった。
「前にシた時は、ちっぱいロリっ娘だったからっ……♡♡♡ おっぱいじゃイけなくて、おまんこぐちゅぐちゅにしないといけなかったしっ……♡♡♡♡ そうだ、この娘──じゃなくて、『私』の名前はリーラ……♡♡♡ リーラにしよっと♡♡♡♡」
──とはいえ、『彼』がこの行為を愉しんでいるのも事実だった。乳首をクリクリと攻めながら、おまんこのスジ、そしてクリトリスをスーツの表面からぐり、と指先で弄る。甘い声を上げながら、彼女はビクビクと身体を震わせて。
「あんっ♡♡♡ オッパイとおまんこ、同時に弄るのひゅきっ♡♡♡♡」
顔を火照らせ、凛とした顔つきをだらしなく緩ませて。彼女の絶頂は、もうすぐ。
──その瞬間。パン、と炸裂音が響く。ほぼ同時に、バチバチバチと電気の弾ける音。
「なっ……!?」
驚きの声を上げたのは、発射型電撃銃を撃った警備員の男の方だった。不審な侵入者に対して放ったはずの電気銃。通常であれば標的に電極が刺さり、相手に電撃を与える事で無力化させる、スタンガンの効果を放つはずだった。──だが。撃ったはずの背中に刺さるはずの電極は、なんと『彼女』の身体に穴を開けてしまう。そして異常な事に、そこから血が吹き出したりもしない。ぽっかりと穴が開いただけ。
「もう、イイとこだったのに邪魔しないで欲しいなぁ……それに、この国の法律じゃテーザー銃は違法でしょ? でも、ちょうど良かった。流石に研究所内部の情報までは持ってなかったから、キミから教えて貰おっかな♡♡♡」
撃たれたはずの『リーラ』は。痛みに表情を歪めるような気配も見せず、むしろニヤリと笑って。ぐっ、と脚に力を籠めると、ぴょんと跳ねた瞬間。20m以上はある警備員との距離を一瞬で詰め、瞬時に警備員のテーザー銃を蹴り飛ばして弾く。一瞬の出来事に、警備員は慄き後ずさる。
「ぐ、ぬぅうっ!? ば、化け物っ……!?」
「えぇ、酷い事言うなぁ……そんな事言って、私を見つけた時しばらく撃たなかったでしょ。──私の身体が、そんなにエッチに見えた?」
身体を変貌させることが可能な『彼女』にとって、感覚器官は文字通り全身にある。360度あらゆる方向を視る事は容易であった。文字通り後ろにも目があるかのように、始めから警備員が近づいて銃を構えていた事には気が付いていたのだ。そして、警備員が撃つことを一瞬躊躇したことも知っている。無論、人を撃つことへの抵抗もあっただろうことは理解していた。だが、あらゆる男を魅了する自らの姿の美しさを理解していたのも『彼女』であって。
「ほらぁ……♡♡ アナタなら分かるでしょ。ココ、ちょうど監視カメラに映ってないの。だから私と一緒に、イイことシましょ♡♡♡」
リーラの身体が近づいた瞬間。警備員は、強烈な匂いを感じた。甘い蜜をどろどろに溶かしたような、濃密な香り。それを知覚した瞬間。強い酒を飲んだ時のような、頭がぼやける感覚に襲われる。全身が、股間が熱い。その場に立っていられなくなり、警備員はよろめきながら壁に倒れこんでしまう。
「うふっ……♡♡♡ 一度嗅いじゃったらもう手遅れ♡♡ 私のフェロモンが身体のナカに入った瞬間、男のヒトは私に逆らえない、本能と肉欲に従うだけのオスになっちゃうの♡♡」
「はぁ゛っ……ぅ、ぅう゛っ……!?」
穿いている制服の中で、自分の肉棒が信じられないぐらいに怒張しているのが分かる。どく、どくと脈打つそれを、無防備な警備員のチャックを開き、あっという間にズボンから取り出してしまう。そして彼女は、笑いながら彼のペニスを握り、しゅ、しゅっと上下に扱き始める。
「ぅあ゛ぁっ……! ゃ、やめ゛っ……!」
「どうかしら♡♡♡ スライムに手コキされる感覚っ♡♡♡♡ ほんとのセックス……いえ、それ以上に気持ちいいでしょっ♡♡♡♡」
変幻自在の肉体を持つリーラ。警備員の男根を包み込むリーラの手の平は、女性の膣内を再現したかのように内側にヒダヒダと、生温かい感触を与えていた。ぎゅう、と時々膣壁が圧迫し、彼の精液を搾り取ろうとする。理性を溶かされた彼は、与えられる快楽にただ悶え、呻くことしかできない。
「にぎ、にぎっ……♡♡♡ ぎゅっ、ぎゅぅ~っ……♡♡♡♡ あはっ♡♡♡ おちんちん、早く射精したいって泣きそうに我慢汁だしてるっ♡♡♡♡」
「あ、あうぅ゛っ……」
手で弄られるだけで、こんなにも気持ちいいなんて。射精したい。我慢なんてできない。彼の頭を占めるのは、早くこの地獄のような責め苦から解放されたいという一心だった。そして。
「は、ぁあ゛っ……! ぅうっ……!」
「んぅう゛っ♡♡♡ んくぅう゛っ♡♡♡♡ あはっ♡♡ おちんちん、びゅるる~って射精しちゃったねぇ……♡♡♡♡」
警備員の男が堪えられず、溜まった精液を放出してしまう。全身が感覚器官であるならば、手で作った性器ですら『リーラ』は感じる事ができる。蕩けた喘ぎ声をあげながら、彼女も同時に絶頂の感覚に酔いしれる。ぷしっ、と直前まで弄っていたおまんこから潮を吹きだし、リーラも官能を愉しんでいた。──だが、彼女の目的はそれだけではなく。
「──なるほどねぇ。流石は天下のヴィスコンティ・グループ。侵入者が各所を同時鎮圧しないと中央を攻撃できないよう、コントロール系は分散しているって訳か」
警備員の精液から読み取ったのは、彼の記憶。この施設の内部情報、警備についての詳細。施設の各地点に並行して侵入しなければ、機密となっている研究室中央部には侵入ができない、というセキュリティに関する重要事項を瞬時に掠め取る。警備員は、苛烈な酔いの感覚と絶頂の余波の中、何とか声を上げる。
「き、貴様……!? 何故それを……」
「はーい、もうキミは良いからさ。そこでしばらく眠ってなよ。ふ~っ……」
「なっ……ぅ、ぁ…………」
彼の顔にリーラが吐息を吹きかける。辛うじて意識を保っていた彼だったが、彼女の吐息に含まれる麻酔作用の影響で、ぐらりと頭が揺らいで倒れる。そのまま、静かに寝息を立て始めた。
「しかも……データ管理センターはかなり別の区画にある、と。これは『1人で』全部やるのは無理かなぁ」
何かを考えこむように目を閉じたリーラは。『無貌』が配管に侵入した時と同じように、精神を統一させ自らの姿を溶かす。ぽたり、ぼたりと全身がスライムへと変化し、白一色の研究室の廊下へと広がってゆく。ぶるり、と震えたそれは。今度は、自然と二つの赤と青の球体に、均等な体積で分離していった。
赤色の球はぽよん、ぽよんと跳ねながら。青色の球は、静かにさざ波を起こしながら。そのスライムたちは、リーラが人間の姿を取った時と同じように変化してゆく。ただし、身長は彼女よりも小さな体躯。健康的な肌色をした脚を付け根まで晒して、赤と青のレオタード衣装に身を包んだ、リーラよりも幾分か幼い少女たちがその姿を現す。
「ぷはぁっ……♡♡ それじゃ、アタシたちの出番って訳ね! ローサはデータセンターに侵入するから、ブラウはセキュリティの破壊をお願いっ!」
「……心配です。ローサ姉はいつもやり過ぎるから、不必要な破壊工作までしてしまいそうで」
緋色の髪をツインテに縛って、桃色のレオタードを着た少女ローサは、いかにもこれからの任務が楽しそうといった表情でぴょんぴょんと跳ねる。そんな彼女を諫めるように、『妹』であるブラウはポニーテールを揺らし、不安げな表情をする。妹のブラウの方が、わずかにおっぱいが大きい。
「そんな事言わないでよ~! どうせこの研究所は全部破壊する予定なんだし!」
「……ローサ姉も『ブラウと同じ』って分かってるから、失敗するかも、なんて心配はしてないですけど。時間は大事です」
「分かってる! ちゃちゃっと終わらせちゃうから!」
きゅ、と内股になったローサは。一瞬、自分のお股の感覚を味わって。──次の瞬間、姿が一瞬で消える。
「ボクも、行きますか」
ブラウも同様に自分の胸元を軽く触り、ナニカを確かめた瞬間。逆の方向に一気に踏み出す。
──そして、『双子』による研究所への大規模攻撃が始まった。
「任務を復唱する。研究所設備の完全破壊、研究データの奪取。そして最重要人物、ウベルト博士の無力化。生死は問わず」
『確認。無線の逆探知を防ぐため以降の通信は行わない。通信機を破棄し、任務完遂後定刻通りポイントRに到達せよ、Over』
遠くの森で、1人の男が闇夜に溶け込むかのように身を隠していた。全身を黒のスニーキングスーツで覆った男は研究施設をじっと見つめて、潜入経路を考案。やがて、小型の無線機を破壊し、彼は行動を開始する。中肉中背、着ている服を除けばどこにでも居るような男だった。
「……世界を丸ごと変える研究、か」
力が強大であるほど、その闇は深くなる。国をも揺るがす大企業ともなれば、その暗部は根深い。『彼』が潜入しようとしている研究所には、ある疑惑があった。『世界を激変させる兵器』の研究が行われていると。その研究が成功した暁には、国はおろか世界中が脅威に晒される。スパイとして『彼』は各国からの協力を経て、この研究所に忍び込もうとしていた。
(先遣隊の連絡が途絶した事を考えると、警備はより厳重になっているだろう)
5日前、既に研究所にスパイを送り込んでいた。しかし、研究所に近づいたタイミングで何者かからの襲撃を受けてコンタクトが取れなくなっている。次は無い。必ず成功させなければ、今度こそ潜入不可能になる。諸外国政府の
上層部はある判断をした。──『無貌』に、任務を依頼する事を。
(どれだけ厳重な警備でも、必要な出入口というものはある。空調と排水、どちらから攻めたものか)
裏社会でも一部の人間しか知らない存在。いかに困難な任務でも帰還することで知られるフィクサーとして名を馳せる者。しかし、そのコードネームが浮かび上がるものの、目撃証言として挙がる姿は全く異なる。ある時は浮浪者にも似た老人とも、ある時はやり手のビジネスマンを思わせる風貌とも、またある時は年端もいかない少年ともいわれていた。
そのため、誰一人としてその姿を確認できたものは居ない、半ば都市伝説として扱われるような存在だった。誰かが冗談半分に言った。『フェイスレスは、自分の姿を変える事の出来る人間なのではないか』と。
(ここからだな……排ガス設備の一部を地中のパイプラインに隠している。逆流して侵入ができるだろう)
森の中に隠されていた、排気口の一部。警備員も居ないような、直径1インチにも満たない細いパイプ。彼はそこに近づいて、目を閉じる。誰も信じていない笑い話のような噂。──それは、事実だった。彼の頭が熱せられた飴細工のようにドロリと溶けだし、ピンク色の液体へと変貌して地面に広がってゆく。
肩から腕、上半身が人間らしい形を失い、粘性の強い液状へと変わる。腰元、そして足先はもはや呑み込まれるように、出現したピンク色の水溜りに沈んでいって。ついに、『彼』の身体全てが融解し、地面に広がってしまった。
現れた『スライム』は──人間どころかネズミのような小動物ですら侵入が困難な配管へと、しゅるしゅると侵入していった。
排気ガスを無毒化するフィルタ、無数のメッシュ。配管に張り巡らされ、唯一入り込めそうだった小動物ですら追い返される細い配管。しかし、スライムと化した『フェイスレス』にとってはあまりにも容易い侵入経路であった。ついに、ピンク色のスライムは研究所の中央へとその身体を忍び込ませてゆく。
────薬液をこぼしたら、すぐにでも分かってしまいそうな真っ白な研究室の廊下。シンと静まったそこに、ぽとり、と水滴が垂れる。鮮やかなピンク色をした液体。天井の通気口から、どんどんと垂れ落ちてくるソレは、どんどんと床に広がり続ける。全ての液が床に落ち切った後、ピンク色の水たまりはブルリ、と揺れて。
突如、螺旋を描きながら液体は立ち上る。一本の柱のようになった後、徐々にその表面が変化してゆく。床に近い部分は二股に分かれて、脚のように。二本の線が伸び、太さを増してその先端が5本の指を作る。『フェイスレス』が、液体の状態から人間の形を取り戻しつつある。だが、そこから先はというと。
空気を入れられた風船のように、ぷっくりと胸元の部分に膨らみが現れる。元の姿は短い髪だったものが、今や腰元まで伸びるかのような銀髪がすらりと伸びて。ぱちり、と開いた瞳は輝く紫色。艶やかなリップを、『自分』の小さく綺麗な手でなぞる。
「っふぅっ……♡♡」
そこに現れたのはおよそ研究室という場にそぐわない、全身を紫色のピッチリスーツにつつんだ長身の美女。あまりに身体のラインにフィットした構造のスーツだったため、爆乳とも言えるほどの乳房、そしてその先端の乳首の形が浮き出るほど煽情的な服装。そして股間のワレメ、そのスジも形がはっきりと分かる。
「久しぶりの潜入任務で『変幻』するのもご無沙汰だったもんね、能力のチェックも兼ねて、少し楽しんでも……♡♡♡ ──んぅっ♡♡」
声帯の構造すら変化させている『彼女』は、透き通った女性の声でそう呟くと。むんず、と自分のおっぱいを乱暴に握りしめる。両手で搾るように、包み込むようにして揉みしだいてゆく。今いる場所が監視カメラの死角である事を理解しているためか、余裕の笑みを浮かべながら。
「ひゃんっ……♡♡ やっぱり、このぐらい敏感な方が気持ちいいよねっ……♡♡♡ そう、ねっ……♡♡♡ このカラダの名前、決めてもイイ、かもっ♡♡♡♡」
敵地でありながら自慰を始める、突拍子もない行為。だがこれにも理由はある。『彼女』が、依頼者から監視されていないかを確かめるためだ。通信機こそ破棄したが、何らかの手段で彼女の行動を把握している可能性はある。誰からの追跡をも嫌う『フェイスレス』は、任務開始直後にこのような行為を行う事で依頼者からあえて正気を疑われ、通信を飛ばしてくる可能性を考えて。わざと、女体に変化した後にオナニーを始めるのが常だった。
「前にシた時は、ちっぱいロリっ娘だったからっ……♡♡♡ おっぱいじゃイけなくて、おまんこぐちゅぐちゅにしないといけなかったしっ……♡♡♡♡ そうだ、この娘──じゃなくて、『私』の名前はリーラ……♡♡♡ リーラにしよっと♡♡♡♡」
──とはいえ、『彼』がこの行為を愉しんでいるのも事実だった。乳首をクリクリと攻めながら、おまんこのスジ、そしてクリトリスをスーツの表面からぐり、と指先で弄る。甘い声を上げながら、彼女はビクビクと身体を震わせて。
「あんっ♡♡♡ オッパイとおまんこ、同時に弄るのひゅきっ♡♡♡♡」
顔を火照らせ、凛とした顔つきをだらしなく緩ませて。彼女の絶頂は、もうすぐ。
──その瞬間。パン、と炸裂音が響く。ほぼ同時に、バチバチバチと電気の弾ける音。
「なっ……!?」
驚きの声を上げたのは、発射型電撃銃を撃った警備員の男の方だった。不審な侵入者に対して放ったはずの電気銃。通常であれば標的に電極が刺さり、相手に電撃を与える事で無力化させる、スタンガンの効果を放つはずだった。──だが。撃ったはずの背中に刺さるはずの電極は、なんと『彼女』の身体に穴を開けてしまう。そして異常な事に、そこから血が吹き出したりもしない。ぽっかりと穴が開いただけ。
「もう、イイとこだったのに邪魔しないで欲しいなぁ……それに、この国の法律じゃテーザー銃は違法でしょ? でも、ちょうど良かった。流石に研究所内部の情報までは持ってなかったから、キミから教えて貰おっかな♡♡♡」
撃たれたはずの『リーラ』は。痛みに表情を歪めるような気配も見せず、むしろニヤリと笑って。ぐっ、と脚に力を籠めると、ぴょんと跳ねた瞬間。20m以上はある警備員との距離を一瞬で詰め、瞬時に警備員のテーザー銃を蹴り飛ばして弾く。一瞬の出来事に、警備員は慄き後ずさる。
「ぐ、ぬぅうっ!? ば、化け物っ……!?」
「えぇ、酷い事言うなぁ……そんな事言って、私を見つけた時しばらく撃たなかったでしょ。──私の身体が、そんなにエッチに見えた?」
身体を変貌させることが可能な『彼女』にとって、感覚器官は文字通り全身にある。360度あらゆる方向を視る事は容易であった。文字通り後ろにも目があるかのように、始めから警備員が近づいて銃を構えていた事には気が付いていたのだ。そして、警備員が撃つことを一瞬躊躇したことも知っている。無論、人を撃つことへの抵抗もあっただろうことは理解していた。だが、あらゆる男を魅了する自らの姿の美しさを理解していたのも『彼女』であって。
「ほらぁ……♡♡ アナタなら分かるでしょ。ココ、ちょうど監視カメラに映ってないの。だから私と一緒に、イイことシましょ♡♡♡」
リーラの身体が近づいた瞬間。警備員は、強烈な匂いを感じた。甘い蜜をどろどろに溶かしたような、濃密な香り。それを知覚した瞬間。強い酒を飲んだ時のような、頭がぼやける感覚に襲われる。全身が、股間が熱い。その場に立っていられなくなり、警備員はよろめきながら壁に倒れこんでしまう。
「うふっ……♡♡♡ 一度嗅いじゃったらもう手遅れ♡♡ 私のフェロモンが身体のナカに入った瞬間、男のヒトは私に逆らえない、本能と肉欲に従うだけのオスになっちゃうの♡♡」
「はぁ゛っ……ぅ、ぅう゛っ……!?」
穿いている制服の中で、自分の肉棒が信じられないぐらいに怒張しているのが分かる。どく、どくと脈打つそれを、無防備な警備員のチャックを開き、あっという間にズボンから取り出してしまう。そして彼女は、笑いながら彼のペニスを握り、しゅ、しゅっと上下に扱き始める。
「ぅあ゛ぁっ……! ゃ、やめ゛っ……!」
「どうかしら♡♡♡ スライムに手コキされる感覚っ♡♡♡♡ ほんとのセックス……いえ、それ以上に気持ちいいでしょっ♡♡♡♡」
変幻自在の肉体を持つリーラ。警備員の男根を包み込むリーラの手の平は、女性の膣内を再現したかのように内側にヒダヒダと、生温かい感触を与えていた。ぎゅう、と時々膣壁が圧迫し、彼の精液を搾り取ろうとする。理性を溶かされた彼は、与えられる快楽にただ悶え、呻くことしかできない。
「にぎ、にぎっ……♡♡♡ ぎゅっ、ぎゅぅ~っ……♡♡♡♡ あはっ♡♡♡ おちんちん、早く射精したいって泣きそうに我慢汁だしてるっ♡♡♡♡」
「あ、あうぅ゛っ……」
手で弄られるだけで、こんなにも気持ちいいなんて。射精したい。我慢なんてできない。彼の頭を占めるのは、早くこの地獄のような責め苦から解放されたいという一心だった。そして。
「は、ぁあ゛っ……! ぅうっ……!」
「んぅう゛っ♡♡♡ んくぅう゛っ♡♡♡♡ あはっ♡♡ おちんちん、びゅるる~って射精しちゃったねぇ……♡♡♡♡」
警備員の男が堪えられず、溜まった精液を放出してしまう。全身が感覚器官であるならば、手で作った性器ですら『リーラ』は感じる事ができる。蕩けた喘ぎ声をあげながら、彼女も同時に絶頂の感覚に酔いしれる。ぷしっ、と直前まで弄っていたおまんこから潮を吹きだし、リーラも官能を愉しんでいた。──だが、彼女の目的はそれだけではなく。
「──なるほどねぇ。流石は天下のヴィスコンティ・グループ。侵入者が各所を同時鎮圧しないと中央を攻撃できないよう、コントロール系は分散しているって訳か」
警備員の精液から読み取ったのは、彼の記憶。この施設の内部情報、警備についての詳細。施設の各地点に並行して侵入しなければ、機密となっている研究室中央部には侵入ができない、というセキュリティに関する重要事項を瞬時に掠め取る。警備員は、苛烈な酔いの感覚と絶頂の余波の中、何とか声を上げる。
「き、貴様……!? 何故それを……」
「はーい、もうキミは良いからさ。そこでしばらく眠ってなよ。ふ~っ……」
「なっ……ぅ、ぁ…………」
彼の顔にリーラが吐息を吹きかける。辛うじて意識を保っていた彼だったが、彼女の吐息に含まれる麻酔作用の影響で、ぐらりと頭が揺らいで倒れる。そのまま、静かに寝息を立て始めた。
「しかも……データ管理センターはかなり別の区画にある、と。これは『1人で』全部やるのは無理かなぁ」
何かを考えこむように目を閉じたリーラは。『無貌』が配管に侵入した時と同じように、精神を統一させ自らの姿を溶かす。ぽたり、ぼたりと全身がスライムへと変化し、白一色の研究室の廊下へと広がってゆく。ぶるり、と震えたそれは。今度は、自然と二つの赤と青の球体に、均等な体積で分離していった。
赤色の球はぽよん、ぽよんと跳ねながら。青色の球は、静かにさざ波を起こしながら。そのスライムたちは、リーラが人間の姿を取った時と同じように変化してゆく。ただし、身長は彼女よりも小さな体躯。健康的な肌色をした脚を付け根まで晒して、赤と青のレオタード衣装に身を包んだ、リーラよりも幾分か幼い少女たちがその姿を現す。
「ぷはぁっ……♡♡ それじゃ、アタシたちの出番って訳ね! ローサはデータセンターに侵入するから、ブラウはセキュリティの破壊をお願いっ!」
「……心配です。ローサ姉はいつもやり過ぎるから、不必要な破壊工作までしてしまいそうで」
緋色の髪をツインテに縛って、桃色のレオタードを着た少女ローサは、いかにもこれからの任務が楽しそうといった表情でぴょんぴょんと跳ねる。そんな彼女を諫めるように、『妹』であるブラウはポニーテールを揺らし、不安げな表情をする。妹のブラウの方が、わずかにおっぱいが大きい。
「そんな事言わないでよ~! どうせこの研究所は全部破壊する予定なんだし!」
「……ローサ姉も『ブラウと同じ』って分かってるから、失敗するかも、なんて心配はしてないですけど。時間は大事です」
「分かってる! ちゃちゃっと終わらせちゃうから!」
きゅ、と内股になったローサは。一瞬、自分のお股の感覚を味わって。──次の瞬間、姿が一瞬で消える。
「ボクも、行きますか」
ブラウも同様に自分の胸元を軽く触り、ナニカを確かめた瞬間。逆の方向に一気に踏み出す。
──そして、『双子』による研究所への大規模攻撃が始まった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!
ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった!
もしかすると 悪役にしか見えない?
私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」
そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる