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僕が、東郷さんに恋をしている――?
エリカさんの言葉で頭が真っ白になってしまった僕だけど、あの後一人で考えてみた。仕事が終わった後の夜。ソファの上で、膝を抱えた状態で座って、うんうんとたくさん悩んで考えた。
考えて考えて考えて僕が出した答えは――人を好きになるってどういうことなんだろう? という事だった。
普通は、両親の姿を見て、そして両親から愛されて、人を愛するという事を覚えるのではないかと思う。もしくは、本を読んだりして覚えていくのかもしれない。
本は学校の図書室で読んでいたけど、小説なんてほとんど読んでこなかったし(実用的な料理の本とかばかりだった)両親からの愛情なんて言わずもがなだ。
だから、東郷さんへの気持ちが恋かどうかなんて、僕にはわからないんだ。東郷さんには感謝しているのは当然だし、人として好きだとは思う。でも、それが恋愛感情の好きかどうかが、僕にはわからない。
ここ数日、東郷さんは依頼人に呼び出されて事務所にいない。その間、一人になる僕を心配して、エリカさんが連日事務所に遊びに来てくれる。
エリカさんと他愛のない話をしていると、気が付くと恋愛話になっていて、僕は恋する気持ちがわからない事を素直に吐露してしまった。
「恋する気持ちねぇ。正直、アタシもちゃんとわかってるとは思ってないわ」
「……え、そうなんですか?」
「そうよ~。だって、人間って勘違いもするし、変な思い込みだってするじゃない? だから、これが正しい恋愛です! なんて言われても、わかんないのが当然よ」
「なるほど……」
そうか、エリカさんにも良くわからないんだ、と知って少し安心する。だって、エリカさんて人生経験豊富そうだから
。
「でもね、ああ、この人の傍にいると居心地いいわ、とか、この人の傍にいると何だかドキドキするっていうのは、自分の心がおしゃべりしている状態なんだから、それはちゃんと聞いてあげて欲しいの」
「心のおしゃべり……ですか?」
「そう。アタシ達の心ってね、案外おしゃべりなのよ。人間って脳で色々考える生き物だから、時々心とは反対の行動をしたりする事もあるの。でも、そういう時ね、ちゃんと自分の心が何と言っているのか聞いてあげれば、大丈夫なのよ」
「自分の心の声を聞く、ですか」
「そうよ。侑吾ちゃんはまず自分の心の声を聞いてあげたらいいと思うわ」
「……はい、ありがとうございます」
エリカさんからのアドバイスに、小さく肯いた。
「自分の心の声かぁ……」
エリカさんが帰って一人になった僕は、東郷さんが貯めたレシートをチェックしたのだけど、ふぅと息を吐いて椅子に凭れて天井を見上げた。
僕にだって心があるのはわかっている。だけど、ずっと生きて行くのに精一杯で、自分の心と向き合う事なんて、一度もしたことがなかった。
だって、昔の僕は、自分の心の声なんて聞いてしまったら、多分生きていけなかったと思うんだ。子供の頃は、親の愛情を求めていたはずだから。でも、それは与えられないって事もわかってしまったしね。
「うぅん、難しいなぁ……」
生きる事に余裕が出てきたのは、本当に最近だもんな。それまでは本当に必死だった。だから、東郷さんに出会えて、本当に幸せだなと思う。
……でも、その思いはきっと恋じゃない。
でも、東郷さんの傍にいたいという気持ちも、間違いなくある。でも、これって恋愛感情というより、思慕に近い気がするんだけどなぁ。
「……一番、自分の心の声がわかんないかも」
東郷さんは、好き。でも、エリカさんも好き。木佐さんだって良い人だから好きだ。その好きと、恋愛の好きって何が違うんだろう? やっぱり、僕にはよくわからない。
「……まぁ、いっか。とりあえず置いとこ」
これ以上考えても堂々巡りしかしない気がするので、よし、と小さな声で気合いを入れて、東郷さんが貯めたレシートのチェックを再開した。
その日の夜。
事務所に戻ってきた東郷さんに「話がある」と言われた僕は、事務所のソファに東郷さんと向かい合って座っていた。
いつも飄々としている東郷さんの表情が硬い気がする。
もしかして、僕をもう雇えないとかそんな話だったらどうしよう、と密かに悩んでいると、東郷さんが静かに話しを切り出した。
「正直、侑吾に話を聞かせるか、暫く迷っていたんだが、内緒にしておく事も出来ないと思って話をさせてもらうんだが」
「……はい、何ですか?」
「――侑吾の父親が、自分の借金をお前に肩代わりさせろと訴えてきた」
「…………え?」
東郷さんの口から出た言葉に、僕は頭の中が真っ白になって固まってしまった。
エリカさんの言葉で頭が真っ白になってしまった僕だけど、あの後一人で考えてみた。仕事が終わった後の夜。ソファの上で、膝を抱えた状態で座って、うんうんとたくさん悩んで考えた。
考えて考えて考えて僕が出した答えは――人を好きになるってどういうことなんだろう? という事だった。
普通は、両親の姿を見て、そして両親から愛されて、人を愛するという事を覚えるのではないかと思う。もしくは、本を読んだりして覚えていくのかもしれない。
本は学校の図書室で読んでいたけど、小説なんてほとんど読んでこなかったし(実用的な料理の本とかばかりだった)両親からの愛情なんて言わずもがなだ。
だから、東郷さんへの気持ちが恋かどうかなんて、僕にはわからないんだ。東郷さんには感謝しているのは当然だし、人として好きだとは思う。でも、それが恋愛感情の好きかどうかが、僕にはわからない。
ここ数日、東郷さんは依頼人に呼び出されて事務所にいない。その間、一人になる僕を心配して、エリカさんが連日事務所に遊びに来てくれる。
エリカさんと他愛のない話をしていると、気が付くと恋愛話になっていて、僕は恋する気持ちがわからない事を素直に吐露してしまった。
「恋する気持ちねぇ。正直、アタシもちゃんとわかってるとは思ってないわ」
「……え、そうなんですか?」
「そうよ~。だって、人間って勘違いもするし、変な思い込みだってするじゃない? だから、これが正しい恋愛です! なんて言われても、わかんないのが当然よ」
「なるほど……」
そうか、エリカさんにも良くわからないんだ、と知って少し安心する。だって、エリカさんて人生経験豊富そうだから
。
「でもね、ああ、この人の傍にいると居心地いいわ、とか、この人の傍にいると何だかドキドキするっていうのは、自分の心がおしゃべりしている状態なんだから、それはちゃんと聞いてあげて欲しいの」
「心のおしゃべり……ですか?」
「そう。アタシ達の心ってね、案外おしゃべりなのよ。人間って脳で色々考える生き物だから、時々心とは反対の行動をしたりする事もあるの。でも、そういう時ね、ちゃんと自分の心が何と言っているのか聞いてあげれば、大丈夫なのよ」
「自分の心の声を聞く、ですか」
「そうよ。侑吾ちゃんはまず自分の心の声を聞いてあげたらいいと思うわ」
「……はい、ありがとうございます」
エリカさんからのアドバイスに、小さく肯いた。
「自分の心の声かぁ……」
エリカさんが帰って一人になった僕は、東郷さんが貯めたレシートをチェックしたのだけど、ふぅと息を吐いて椅子に凭れて天井を見上げた。
僕にだって心があるのはわかっている。だけど、ずっと生きて行くのに精一杯で、自分の心と向き合う事なんて、一度もしたことがなかった。
だって、昔の僕は、自分の心の声なんて聞いてしまったら、多分生きていけなかったと思うんだ。子供の頃は、親の愛情を求めていたはずだから。でも、それは与えられないって事もわかってしまったしね。
「うぅん、難しいなぁ……」
生きる事に余裕が出てきたのは、本当に最近だもんな。それまでは本当に必死だった。だから、東郷さんに出会えて、本当に幸せだなと思う。
……でも、その思いはきっと恋じゃない。
でも、東郷さんの傍にいたいという気持ちも、間違いなくある。でも、これって恋愛感情というより、思慕に近い気がするんだけどなぁ。
「……一番、自分の心の声がわかんないかも」
東郷さんは、好き。でも、エリカさんも好き。木佐さんだって良い人だから好きだ。その好きと、恋愛の好きって何が違うんだろう? やっぱり、僕にはよくわからない。
「……まぁ、いっか。とりあえず置いとこ」
これ以上考えても堂々巡りしかしない気がするので、よし、と小さな声で気合いを入れて、東郷さんが貯めたレシートのチェックを再開した。
その日の夜。
事務所に戻ってきた東郷さんに「話がある」と言われた僕は、事務所のソファに東郷さんと向かい合って座っていた。
いつも飄々としている東郷さんの表情が硬い気がする。
もしかして、僕をもう雇えないとかそんな話だったらどうしよう、と密かに悩んでいると、東郷さんが静かに話しを切り出した。
「正直、侑吾に話を聞かせるか、暫く迷っていたんだが、内緒にしておく事も出来ないと思って話をさせてもらうんだが」
「……はい、何ですか?」
「――侑吾の父親が、自分の借金をお前に肩代わりさせろと訴えてきた」
「…………え?」
東郷さんの口から出た言葉に、僕は頭の中が真っ白になって固まってしまった。
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