13 / 31
幕間 東郷貴彦とエリカのぼやき
しおりを挟む「………………」
「………………」
仮眠という名の昼寝に向かった侑吾を見送った東郷とエリカは、目を合わせて同時にため息を吐く。
「……あの、貴ちゃん」
「言うな、わかってる」
「うん、わかってると思うけど敢えて言わせてもらうわ。――ちょっと侑吾ちゃん、無自覚すぎない!? 自分の顔、鏡で見たことないのかしら!?」
「……侑吾は、自分の顔にコンプレックスがあるらしいからな……。自分の顔がどれだけ人目を惹くのか全く理解してねぇんだよ」
「まぁ……」
東郷の言葉に、エリカが困ったような顔でふぅと息を吐いた。
「あんなに可愛くて、何だかほっとけない色気もあるのに、自覚がないなんてねぇ。貴ちゃん、ちょっと何とかしてあげたら?」
「何とかって何だよ」
「そりゃあ決まってるじゃない。手取り足取り……ね」
「まだ未成年だぞ、侑吾は」
「わかってるわよ~でも、18歳にはなってるんでしょ? じゃあ、問題ないじゃない」
「そう簡単にはいかねぇんだよ」
「あら、そう?」
どこか面白がっているエリカの態度に、東郷は若干イラッとしつつ煙草に火を付ける。すぅ、と煙草の煙を吸い込めば、少しだけ苛つきが治まる気がした。
「侑吾は母親似らしくてな。その所為で父親に暴力を受けていたらしいな。高校までは勉強とバイトしかしてねぇって言ってたし、友達なんかもいなかったそうだ」
「……そうだったのね」
東郷も、侑吾の話を聞いた時には、下手なドラマよりも過酷な人生を送ってきた事に衝撃を受けた。本人は、あまり気にしていないようでへらへらと笑っていたが、恐らく侑吾も限界だったのだろう。だから、無意識にビルの屋上へ上がり反射的に飛び降りようとしていたのだ。
(……あの時、侑吾を止めて正解だったな)
あの時は、人のビルで自殺なんぞをされてしまったら評判を落とす上に土地の値段も下がってしまう。だからこそ、引き留めたのだが、今となってはよくやったと自分を褒めてやりたいくらいだ。
そして、今は俺の事務所の従業員として一生懸命働いてくれている。若干、世間知らずな所もあるが良く気が利くし、失敗しても次にはちゃんと改善してくる。正直、いい拾いものをしたと思うほどだ。
侑吾なら、エリカの依頼もちゃんとこなすだろう。そう思っての事だったが、そうは言っても気になる点はある。恐らく、エリカも同じ事を考えているはずだ。
「ところで、侑吾ちゃんをウチの店に寄越してくれるのはいいけれど、フォローはどうするの? さっきも言ったけど、あの子……放っておくのはヤバイわよ」
「わかってるさ。アイツが店にいる時は俺も顔を出す。もちろん、客としてな」
「あら、そうなのね。ちなみに、ただの客として来るわけじゃないわよね?」
「ああ。侑吾の恋人として行くさ」
エリカの問い掛けにはっきりと答える。
侑吾には事後承諾になるが、東郷は元々侑吾を一人で行かせるつもりはなかった。侑吾は全くの無自覚だが、侑吾には人目を惹く美しさと共に妙な色気がある。
それは恐らく、侑吾の不遇とも言える育ちの影響もあるかもしれないが、侑吾の美しさと色気は女よりも男を引き寄せる。本人曰く、クオーターというやつらしいが、本人の儚げな色気と合わさって色々ヤバくなっている。
(多分、アレだな。ガッチガチのゲイよりは、バイやノンケに好かれそうだよな、アイツ)
女性っぽい訳ではない。だが、男性にしか醸し出せない色気が妙にそそるのだ。あれでは、経験値の少ない男ならコロッといく可能性が高い。エリカの店はゲイバーと言っても様々な性癖の人間が訪れる。その中に、侑吾に惚れる人間がいないとは限らないのだ。いや、むしろ確実にいるだろう。
(悪いが、アレを早々奪われるつもりはないからな。こっちはこっちでキッチリ牽制させてもらおうか
)
東郷は、侑吾を手放す気などさらさらない。このまま一生、自分の傍に置いておくつもりだ。その感情がどこから起因しているのかは敢えて考えないが、それでも譲れない。
(侑吾は俺のものだ。それだけは変わらない)
前職を追われるように辞めた時には、一生適当に生きて行くものだと思っていた。幸いにして、弁護士の資格はあったからそれを切っ掛けにして、生前贈与で受け取ったビルの家賃収入を受け取りつつ何でも屋のような仕事をする。適当に欲を発散しつつ、人付き合いも適当にこなし、適当に生きて死んでいく。そんな人生でもいいかと、東郷はどこか投げやりになっていた。
だが、侑吾と出会って、侑吾と一緒に過ごすうちに、彼の前向きな姿に感化されてきたような気がする。最初の方こそ、東郷に怒られやしないかとビクビク気にしていた侑吾だったが、気が付けば楽しそうに笑いながら、親愛の情で東郷を見つめてくるようになった。
侑吾にしてみれば、今まで年上に優しくされた記憶があまりないらしく、兄か下手すれば父親のように慕ってくれているのはわかっている。だが、東郷にしてみれば兄はともかく父親の立場になるつもりはない。それが最終的にどういう関係になるのかは、敢えて名言しないが。
侑吾との事を考えて、無意識に口元がニヤついていたのだろう。エリカが呆れたような顔でため息を吐いた。
「ちょっと~、止めてよ、そんなだらしない顔。まぁ、貴ちゃんが侑吾ちゃんをどう思ってるかわかっていいけど」
「今はまだ明確な答えは出さねぇよ。でも、アイツは俺のものだ。それだけは譲らない」
「全く……ついこの間までは適当だったのにねぇ。まぁ、そっちの方が貴ちゃんらしくていいと思うわよ、ワタシは」
俺の事情も色々知っているエリカはそう言って笑う。
東郷自身もこんな自分を悪くないなと思っているからおあいこだろう。
「じゃあ、とりあえず侑吾を店に入れた後の事を決めるぞ」
「わかったわ」
自分の感情はとりあえず横に置いて、東郷とエリカは窃盗犯を見つける為の作戦会議を始めたのだった。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
深夜の常連客がまさかの推しだった
Atokobuta
BL
誰もが知るあの西遊記の現代パロディBLで悟空×玄奘です。もだもだ、無自覚いちゃいちゃ、両片思い、敬語攻、仲間に見守られ系の成分を含んでいて、ハッピーエンドが約束されています。
コンビニ店員悟空の前に現れたのは、推しである読経系Vtuberの玄奘だった。前世の師は今世の推し。一生ついていきますと玄奘に誓った悟空は、仲間の八戒、悟浄も巻き込んで、四人でアカペラボーカルグループJourney to the Westとしてデビューすることに。
しかし、玄奘に横恋慕したヤクザから逃れるために、まずは悟空に求められたのは恋人のふりをしてキスを見せつけること…⁉︎
オタクは推しとつきあってはならないと動揺しながらも、毎日推しの笑顔を至近距離で見せられればドキドキしないはずがなく、もだもだ無自覚いちゃいちゃ同棲生活が今、始まる。
よかったらお気に入り登録していただけると嬉しいです。
表紙は大鷲さんhttps://twitter.com/owsup1 に描いていただきました。
こちらでも公開始めました。https://kakuyomu.jp/works/16817330667285886701
https://story.nola-novel.com/novel/N-74ae54ad-34d6-4e7c-873c-db2e91ce40f0
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
孤独の水底にて心を知る
あおかりむん
BL
「俺って情緒がケツジョ? してるんですか?」
5年前に終結した戦争に少年兵として従軍していたミオ・ヘイノラ。終戦後も政府の監視下に置かれているミオに突然降ってわいたのは、全寮制の魔法学校への入学話だった。
『同世代の人間と交流して情緒を身につけろ』
それがミオに伝えられた政府の意向であった。
親友のサミュエル・アトウッドとともに魔法学校に入学したミオは事件に巻き込まれたり、事件を起こしたり、不思議な先輩に目をつけられたり……。ミオの騒がしい学校生活が始まる。
人間1年生の主人公が魔法学校での交流を通じて心を育む話です。
※カテゴリはBLですが、なかなかBがLしません。
ゆっくりとLが進む予定です。
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる