小さな幸せの見つけかた

なつこ

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幕間 東郷貴彦とエリカのぼやき

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「………………」
「………………」

 仮眠という名の昼寝に向かった侑吾を見送った東郷とエリカは、目を合わせて同時にため息を吐く。

「……あの、貴ちゃん」
「言うな、わかってる」
「うん、わかってると思うけど敢えて言わせてもらうわ。――ちょっと侑吾ちゃん、無自覚すぎない!? 自分の顔、鏡で見たことないのかしら!?」
「……侑吾は、自分の顔にコンプレックスがあるらしいからな……。自分の顔がどれだけ人目を惹くのか全く理解してねぇんだよ」
「まぁ……」

 東郷の言葉に、エリカが困ったような顔でふぅと息を吐いた。

「あんなに可愛くて、何だかほっとけない色気もあるのに、自覚がないなんてねぇ。貴ちゃん、ちょっと何とかしてあげたら?」
「何とかって何だよ」
「そりゃあ決まってるじゃない。手取り足取り……ね」
「まだ未成年だぞ、侑吾は」
「わかってるわよ~でも、18歳にはなってるんでしょ? じゃあ、問題ないじゃない」
「そう簡単にはいかねぇんだよ」
「あら、そう?」

 どこか面白がっているエリカの態度に、東郷は若干イラッとしつつ煙草に火を付ける。すぅ、と煙草の煙を吸い込めば、少しだけ苛つきが治まる気がした。

「侑吾は母親似らしくてな。その所為で父親に暴力を受けていたらしいな。高校までは勉強とバイトしかしてねぇって言ってたし、友達なんかもいなかったそうだ」
「……そうだったのね」

 東郷も、侑吾の話を聞いた時には、下手なドラマよりも過酷な人生を送ってきた事に衝撃を受けた。本人は、あまり気にしていないようでへらへらと笑っていたが、恐らく侑吾も限界だったのだろう。だから、無意識にビルの屋上へ上がり反射的に飛び降りようとしていたのだ。

(……あの時、侑吾を止めて正解だったな)

 あの時は、人のビルで自殺なんぞをされてしまったら評判を落とす上に土地の値段も下がってしまう。だからこそ、引き留めたのだが、今となってはよくやったと自分を褒めてやりたいくらいだ。
 そして、今は俺の事務所の従業員として一生懸命働いてくれている。若干、世間知らずな所もあるが良く気が利くし、失敗しても次にはちゃんと改善してくる。正直、いい拾いものをしたと思うほどだ。
 侑吾なら、エリカの依頼もちゃんとこなすだろう。そう思っての事だったが、そうは言っても気になる点はある。恐らく、エリカも同じ事を考えているはずだ。

「ところで、侑吾ちゃんをウチの店に寄越してくれるのはいいけれど、フォローはどうするの? さっきも言ったけど、あの子……放っておくのはヤバイわよ」
「わかってるさ。アイツが店にいる時は俺も顔を出す。もちろん、客としてな」
「あら、そうなのね。ちなみに、ただの客として来るわけじゃないわよね?」
「ああ。侑吾の恋人として行くさ」

 エリカの問い掛けにはっきりと答える。
 侑吾には事後承諾になるが、東郷は元々侑吾を一人で行かせるつもりはなかった。侑吾は全くの無自覚だが、侑吾には人目を惹く美しさと共に妙な色気がある。
 それは恐らく、侑吾の不遇とも言える育ちの影響もあるかもしれないが、侑吾の美しさと色気は女よりも男を引き寄せる。本人曰く、クオーターというやつらしいが、本人の儚げな色気と合わさって色々ヤバくなっている。

(多分、アレだな。ガッチガチのゲイよりは、バイやノンケに好かれそうだよな、アイツ)

 女性っぽい訳ではない。だが、男性にしか醸し出せない色気が妙にそそるのだ。あれでは、経験値の少ない男ならコロッといく可能性が高い。エリカの店はゲイバーと言っても様々な性癖の人間が訪れる。その中に、侑吾に惚れる人間がいないとは限らないのだ。いや、むしろ確実にいるだろう。

(悪いが、アレを早々奪われるつもりはないからな。こっちはこっちでキッチリ牽制させてもらおうか

 東郷は、侑吾を手放す気などさらさらない。このまま一生、自分の傍に置いておくつもりだ。その感情がどこから起因しているのかは敢えて考えないが、それでも譲れない。

(侑吾は俺のものだ。それだけは変わらない)

 前職を追われるように辞めた時には、一生適当に生きて行くものだと思っていた。幸いにして、弁護士の資格はあったからそれを切っ掛けにして、生前贈与で受け取ったビルの家賃収入を受け取りつつ何でも屋のような仕事をする。適当に欲を発散しつつ、人付き合いも適当にこなし、適当に生きて死んでいく。そんな人生でもいいかと、東郷はどこか投げやりになっていた。
 だが、侑吾と出会って、侑吾と一緒に過ごすうちに、彼の前向きな姿に感化されてきたような気がする。最初の方こそ、東郷に怒られやしないかとビクビク気にしていた侑吾だったが、気が付けば楽しそうに笑いながら、親愛の情で東郷を見つめてくるようになった。

 侑吾にしてみれば、今まで年上に優しくされた記憶があまりないらしく、兄か下手すれば父親のように慕ってくれているのはわかっている。だが、東郷にしてみれば兄はともかく父親の立場になるつもりはない。それが最終的にどういう関係になるのかは、敢えて名言しないが。
 侑吾との事を考えて、無意識に口元がニヤついていたのだろう。エリカが呆れたような顔でため息を吐いた。

「ちょっと~、止めてよ、そんなだらしない顔。まぁ、貴ちゃんが侑吾ちゃんをどう思ってるかわかっていいけど」
「今はまだ明確な答えは出さねぇよ。でも、アイツは俺のものだ。それだけは譲らない」
「全く……ついこの間までは適当だったのにねぇ。まぁ、そっちの方が貴ちゃんらしくていいと思うわよ、ワタシは」

 俺の事情も色々知っているエリカはそう言って笑う。
 東郷自身もこんな自分を悪くないなと思っているからおあいこだろう。

「じゃあ、とりあえず侑吾を店に入れた後の事を決めるぞ」
「わかったわ」

 自分の感情はとりあえず横に置いて、東郷とエリカは窃盗犯を見つける為の作戦会議を始めたのだった。
   
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