小さな幸せの見つけかた

なつこ

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幕間 SIDE:東郷貴彦

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※東郷の事務所名を修正しております。
旧:東郷弁護士事務所→新:東郷法律事務所


* * * * * * * * * *


(……アイツ、色々ヤバイな……)

 東郷は煙草を吸いながら、出て来たばかりのビルを見上げる。3階のあの窓の辺りで、きっと侑吾はレシートと格闘しているだろう。育ちの不遇さからは予想出来ないほど真っ直ぐで素直な侑吾だから、休憩も取らず一生懸命レシートの仕分けをしているに違いない。
 それにしても。

(――俺らしくねぇなぁ、マジで)

 頭をガシガシと掻きながら苦笑いを浮かべる。東郷は、あまり人を信用しないタイプだ。ましてや、知り合ったばかりの人間など、世間話をするのも無駄だと思っていたのに。

「な~んか、侑吾だといいかなって思っちまうんだよなぁ」

 ふぅ、と煙草の煙を吐いて、ぽつりと呟いた。
 侑吾は19歳という年齢の割には落ち着いているけれど、どこか危うさも秘めている。恐らく、それは育ちの影響なのだと思うのだが、自己評価の低さの割に、卑屈になっていないのはきっと本人の生来の性格なのだと思う。
 朝食を食べた時も、東郷の何気ない一言に涙を流す姿を見て、湧き上がってきたのは《侑吾を大事にしてやりたい》という想いだった。きっと、甘える事も甘やかされる事もあまりなかっただろう侑吾を、1人では生きていけなくなるほど甘やかしてやりたい。そんな事を思う自分に呆れすら感じるほどだ。
 先ほどだって、「いってらっしゃい」と侑吾に見送られた時、何だか口元がむずむずして笑い出してしまいそうだったのだ。
 別に、侑吾の態度がおかしかった訳ではない。ただ、何気ないやり取りが慣れなくて、ムズムズしてしまっただけなのだ。

(――あ~……こういうのを幸せって言うのかもな)

 トラブルで仕事を辞めて、ビルの一室で何でも屋的な法律事務所を始めてから、自由ではあったけれど幸せは感じた事はなかった。
 やりがいがないとは言わないけれど、自分がやりたかった仕事はこれではなかったのに、という思いがずっと心の奥に澱んで溜まっていた気がしていた。けれど、侑吾と話していると、心の奥に沈んでいた澱みが少しずつ消えていくような気さえしたのだ。何と言えばいいのか……侑吾に恥ずかしくないような仕事をしないと、と気合いが入ったとでも言うべきか。

(まぁ、侑吾を気に入ってるのは間違いないんだよな、俺。我ながら何歳年下だって突っ込みたいが)

 今年で東郷は35歳になる。侑吾とは16歳差だ。自分にロリコンやショタコンの気はないと思っていたが、少しだけ自信がなくなりそうだ。
 この街は、雑多だが色々な人間が住んでいるからか、おおらかな人間が多い。最初こそ戸惑うこともあるだろうが、侑吾に取って住みやすい場所であればいいと願うだけだ。

「――さて、頑張ってお仕事しますかね」

 そう呟いた東郷は、少し前に出て来たばかりの木佐の経営する喫茶店に入っていったのだった。
 
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