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如月ゆすら

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8巻

8-1

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   序章


 大事なものを守るため、本気になることができますか?


 王宮の奥に位置することから、奥宮おくみやと呼ばれる建物。そこは、国王の家族――主に王妃と成人前の王族――が住む一画である。
 本宮からアーチ構造の渡り廊下でつながった建物は、コの字型をしており、建物に囲まれた部分は中庭となっていた。
 芝生の広場を中心とした中庭は、四季折々の花々と手入れのされた芝生を見ることができる。さらに、白いガーデンテーブルも設置されているため、お茶を楽しむことも可能だ。
 うららかな春の昼下がり。
 そのさわやかな空気に誘われてか、クレセニア国王妃キーラは中庭に出た。
 赤みの強い茶色の髪を高く結い上げ、金糸をふんだんに使った豪奢ごうしゃなドレスをまとった彼女の姿は、昼の装いにしてはいささか派手なものだ。
 しかも、王妃に仕える女官たちが、揃って控えめな色合いのドレスを着ているせいで、余計にそれが目立つ。
 だが、この国の至高の女性に対し、あからさまに眉をひそめる者などいない。
 キーラは他者の内心に気づくこともなく、ぼんやりとした眼差しをテーブルの上に向けた。
 レースのカバーがかけられたテーブルの上には、茶器とセットになった三段のティースタンドが置かれ、スコーンやサンドイッチ、ケーキなどが盛られている。
 王妃の傍には、準備を整えている女官が一人いるだけだが、数歩離れた先には護衛の騎士が二人控えていた。
 さらに王妃の視界に入らないほど離れた場所には、数人の護衛が控えている。

「本日のお茶は、キセムより取り寄せたものにございます」

 女官が王妃のカップにお茶を注ぎながら告げる。何気なく口上を述べる彼女だが、心臓は不安のあまり激しく鼓動していた。
 ここ数ヶ月、鳴りをひそめている王妃の勘気だが、だからといって安心できるわけではない。気まぐれな性格であるがゆえ、いつ機嫌が悪くなるかわからないのだ。
 過去には、キーラの好まない銘柄のお茶をれたというだけで処罰された者がいる。今の女官と同じ状況でだ。

「そう……」

 息を殺して反応を待つ女官に、心ここにらずといった様子のキーラが答える。

(ここのところ、激しいご気性がすっかり鳴りを潜めてらっしゃるわね。何かおありだったのかしら……まるで人形のようなご様子だわ)

 顔には出さないよう気をつけながら、女官はキーラの顔を横目で見た。そこには、ここ最近ずっと貼り付いている、ぼんやりとした表情がある。
 不審には思うものの、女官には詮索する権利も勇気もない。疑問は心の奥に仕舞い込み、彼女は自分の仕事に集中した。
 目でうながされる合図を正確に読み取り、女官はタルトをティースタンドから取り分ける。

「どうぞ」

 女官の声に、キーラは無言でうなずいた。優雅な仕草でケーキスプーンを持ち上げた彼女は、自分へと近づいてくる者に気づく。
 新たに現れたのは、地味なドレスに身を包んだ女。その場を離れていた別の女官だった。

「お邪魔をして申し訳ございません。陛下、例のものが手に入りましたわ」

 お茶を飲む邪魔をされ、わずかにゆがんでいたキーラの顔が、女官の言葉を聞いた途端、輝いた。

「そう、ようやく手に入ったのね。ようやく……」

 機嫌よくつぶやくキーラに、女官はそろそろと近づく。そして、ふところから深青色しんせいしょくの小瓶を差し出した。

「こちらがご所望のものとなります」

 掲げられた小瓶を前にしたまま、キーラはまず、ゆっくりと手に持ったティーカップをテーブルに置く。
 そしてもったいぶった仕草で、おもむろに小瓶を手に取った。

「ふふ、これが……そうなのね……」

 小瓶を高く掲げ、キーラは楽しげにつぶやく。
 太陽に向けられたガラスの小瓶は、中の液体を示す濃い青と、小瓶の色そのものの鮮やかな青に分かれていた。表面にほどこされた銀の装飾は、光を浴びてキラリと輝く。
 装飾の絵柄は、四辺の可憐な花から伸びるつたで、蓋部分にも同じく銀で可愛らしい小鳥が描かれている。

「レミアールの花に小鳥。間違いないわね」
「はい、本日ようやく、融通していただくことができました」

 心なしか誇らしげな女官の言葉に、キーラは鷹揚おうようにうなずいてみせる。

「ひと月にほんの数本しか用意できないと聞いたわ。もう少し時間がかかるかと思っていたけれど、よくやったこと」
「ありがとうございます。直接グレイヴル伯の子息に掛け合ってみたのが功を奏したようですわ」
「そう。『レミアールの調べ』は、かの領地の専売特許ですもの。商会と交渉するより、そちらの方が確実というわけね」

 キーラは上機嫌に笑い、改めて小瓶を見る。その表情は、先ほどまでのぼんやりしたものとは違い、明らかに高揚しているとわかるものだった。
 彼女は中身を確かめるように緩く小瓶を振ると、満足げにうなずく。
『レミアールの調べ』――それが、小瓶に入っている液体の名前だ。
 その名の通り、レミアールという花の蜜を抽出して作った薬である。
 薬といっても、怪我や病気に使用するものではなく、いわゆる美容薬と呼ばれるたぐいのものだ。
 ほのかな甘味のある蜜は、毎日数滴を紅茶などにたらして飲めば、しみやしわ、たるみといった症状に覿面てきめんな効果を発揮する。
 二ヶ月前に王都で発売されてより、貴族夫人や令嬢がやっきになって手に入れようとしている品だ。
 それは、この国一番の貴婦人も例外ではなかった。
 王妃という権力をもって予約の順番を最初にすることはできても、品物がなければ入荷するまで待たなくてはならない。
 そのためひと月ほど経った今日、ようやくキーラのもとに、くだんの薬が手に入ったのだった。

「確か、そう……お茶にたらしてみるのが良いのだったかしらね」
「はい。ほのかに甘く、とてもリラックスできるらしいですわ」
「ならばさっそく試してみようかしら」

 キーラは薬を手に入れてきた女官に小瓶を渡すと、冷めてしまった紅茶を芝生へと捨てた。

「では、失礼いたします」

 そう言って最初からいた女官が、空になったカップへ新たに紅茶を注ぐ。すると、小瓶を受け取った女官がトロリとした液体をカップに一、二滴落とした。

「あら、本当にほんのり花の香りがするわね」

 香りを吸い込んだ後、キーラは洗練された仕草でお茶を口に運ぶ。
 満足する味だったのか、彼女は目を閉じてうなずいた。その上機嫌な様子は、ぼんやりとした無表情が多い、ここ最近の彼女にしては珍しいものだ。

「なかなかの味よ。花の香りが相まって……うっ」

 言葉の途中で、キーラが突然苦しげにき込んだ。それを見て、女官たちが焦りだす。

「陛下、大丈夫ですか?」

 女官の問いに答えることもなく、喉に手を当て、えずくキーラ。その尋常ではない様子に、女官たちの顔が青褪あおざめた。

「陛下? 陛下! どうなさったのですか! 誰かっ! 誰かお医者様を!!」

 キーラはヒューヒューと不自然な呼吸を繰り返す。息ができずに苦しいのか、目を見開き、喉や胸元を両手で掻きむしっていた。

「誰かっ!」
「陛下! しっかりなさって下さい!」

 女官たちだけでなく、騒ぎを聞いて駆け寄ってきた護衛の騎士たちも必死で声をかける。
 しかしキーラは、それらに応えることなく、苦悶くもんの表情でガクリとくずおれたのだった。



   第一章 思いがけぬ来訪者


 主のいない部屋は、ただ静寂に包まれていた。
 ブルーグレイをアクセントに使った壁紙と、金の象嵌ぞうがんほどこされた赤褐色の家具類。決してこれ見よがしではないが、一流の品々だと見て取れるものばかりだ。
 一見すれば堅苦しい室内だが、書棚に無造作に置かれた作りかけのボトルシップや、地方で買い求めたような民芸品があちこちに飾られていることで、部屋の雰囲気をどこか馴染みやすくしている。
 そんな部屋の中央に、突然五人の男女が現れた。室内へと通じる扉から入ったのではなく、文字通り一瞬にして室内へ姿を見せたのだ。
 五人のうち四人が年若い青年。そして唯一の女性は、十代半ばと思われる少女だった。
 少女――ルーナは、ゆっくりと周囲に目を向けると、安心したかのようにほうっと息をついた。

「無事、着いたみたいだね」

 彼女の言葉に、他の四人の青年――リュシオン、カイン、フレイル、ユアンも、強張こわばらせていた表情を緩めた。
 地下水路から一気に〈転移〉したのは、王宮――その一画にある王子宮だった。ルーナが一緒ということもあり、人の出入りの多いリュシオンの自室を避け、客間を選んだのだ。
 とはいえ、客間というには違和感のある、私物によって飾られた室内を見て、ルーナは不安を口にする。

「ここって本当に客間なの?」
「ああ、客間の一つだ。とはいえ、よく使う奴がいるからこんな感じになっている」

 リュシオンは苦笑を浮かべて答える。

「よく使う?」

 ルーナがさらに尋ねると、リュシオンは苦笑しつつ言った。

「多忙を極めると、ここに泊まりこむこともざらだ。だから、この宮の客間は、俺の側近と呼ばれる者たちがよく使用している」
「ああ、そうなるといつも同じ部屋ってことで、自然と個人の持ち物が多くなるんだね」

 納得したのか、ルーナは何度もうなずいてみせる。

「そういうことだ。ここは確か、ホレスがよく使う部屋のはずだったな……」

 リュシオンは改めて部屋を見回し、ここを主に使用するという人物の名をつぶやいた。そんな彼に対し、ルーナは心配そうに問いかける。

「ねえ、リュー。ここ、いつも使ってるホレスさんって人の自室みたいなものなんだよね? だとしたら、わたしたちが勝手にこの部屋へ入るのはよろしくないんじゃ……?」
「褒められたことではないが、客室には変わりない。それに今回は緊急事態だ。問題ないだろう」

 そう言ってのけるリュシオンを、ルーナは半目でじっとりと見据えた。結局、言い訳ではないかと思ったのだ。

「大丈夫ですよ。彼とは少しだけ面識があるんですが、そんなことを気にする御仁ではありませんから」

 ルーナの様子に噴き出しそうになりながら、カインが横から助け舟を出す。

「そうなの?」

 カインの言葉にルーナが目を丸くすると、彼はクスリと笑ってうなずいた。

「ええ。おおらかというか、細かいことはどうでも良いというか……」
「ああ、言い得て妙だな。だが、面白い奴だろう?」

 リュシオンが悪戯いたずらっぽく問いかけると、カインは真面目な顔で同意する。それに笑い声をあげたリュシオンは、さらにホレスという人物について語った。

「カインの本当の身分については、俺の側近たちにはいつわりなく話そうと思っていた。で、紹介した時のことなんだが……」

 リュシオンはくだんの場面を思い出しているのか、目を細めて続ける。

「当たり前のことだが、皆、隣国の第二王子を前にすれば、これまで以上にうやうやしい態度を取る。それを見たカインが普通に接してほしいと言ったところで、はいそうですかとはいかないものだ。だがな、ホレスは違った。『そうおっしゃられるなら、俺の態度については多少お目こぼししてもらえると助かります。堅苦しいのは苦手なんで』などと言い切ったからな」
「それは……」

 思わず驚きの声をあげるフレイルだが、ルーナやユアンとて気持ちは同じだ。
 たとえ本人の許可があろうとも、そう簡単にうなずける頼みではない。身分差が歴然と存在する世界だからこそ、貴族であればなおさら、気安い態度が取れなくなる。
 王太子であるリュシオンに対して、ルーナの兄ジーンが砕けた態度を取れるのは、長い年月をかけて積み上げた関係性があるからだ。
 そう考えれば、ほぼ初対面でありながら、すぐに受け入れたホレスは、なかなかの強者だと言える。

「まぁ、そんな奴だからこそ気に入ったというのもあるんだがな。上辺だけ恭順な態度を取る奴より、ホレスのような奴の方がよっぽど傍に置くには良い」
「本当に裏表のない方ですからね」

 クスクスと笑うカインに、リュシオンもニヤリと笑った。

(今まで、リューの身分に対して礼を取ったり、へりくだる人はたくさんいた。そんな中、きちんとリュー自身を見てくれた上で傍に仕えてくれる人だったら、多少態度が悪いなんて問題じゃなかったんだろうな。そもそも、リュー本人が砕けた態度の方が良いって言ってるくらいなんだから、とがめられるはずがないよね。カインにしても、王子様なのにわたしに敬語とかだし。……うっ、ひょっとしてわたしもホレスさんと同類なんじゃ?)

 顔を引きらせるルーナを見て、彼女が何を考えていたのか察したカインは、こみ上げてくる笑いを必死にこらえる。
 だがリュシオンの方は、カインと違って笑いを堪えきれていない。微妙に崩れた真面目な顔で、ルーナに告げた。

「とにかくそういうわけで、ここに入ったことはたいして問題じゃない。それに、今日あいつは、王都の自邸に戻る予定だ。何も言わなければ、誰かが部屋に入ったことにすら気づかないさ」

(それでいいのかなぁ……)

 何やら納得できたようなできないような、複雑な思いを抱きながらも、ルーナはコクンとうなずいた。
 とりあえずの決着をつけたところで、ルーナは改めて室内をぐるりと見回す。そこで、チェストの上にある、陶器の置き時計に目を留めた。

「まだ夕刻なんだね。ジーン兄様の様子はどうかな?」

 王都の地下に広がる地下水路に長時間いたことと、強大な魔物と戦った疲労のせいで、ルーナの時間感覚はすっかり狂っていたらしい。
 体感時間ではすでに真夜中だったが、実際にはまだ夕刻を少しすぎたところだった。
 真夜中だと感じるほど疲れているとはいえ、ジーンの容体を確認しないことには休む気になれない。
 ジーンが地下水路でヒュドラに襲われてから、すでに五日。
 体内に入り込んだ瘴気しょうきは、性質たちの悪い病原体のようにジーンをさいなんでいたが、ルーナの守護者である水姫すいきをはじめとした精霊たちの尽力のおかげで、ジーンの容体が悪化することはなかった。かといって劇的に良くなったわけでもない。
 ルーナは時計から目をらすと、自分をうかがうように見ている皆に尋ねた。

「これから兄様の様子を見てこようと思うけど、皆はどうする?」
「そうだな、俺も一緒に行こう」

 真っ先にリュシオンが答えると、すかさずカインが続く。

「ええ、僕も行きます。ユアンとフレイルはどうします?」
「あまり時間はないけれど、兄様の顔だけ見て行くよ。フレイルもそうするだろ?」
「ああ」

 ユアンの問いかけに、フレイルは短く答える。
 全員の意見を聞き終えると、ルーナは大きくうなずいた。

「じゃあ、皆で兄様のところに行きましょう」
「いや、ちょっと待てルーナ。普通に廊下に出るな、馬鹿」
「え?」

 さっそく一歩を踏み出したところで出端でばなをくじかれ、ムッとしたルーナはリュシオンを見る。
 そんな彼女に、リュシオンは呆れた表情で告げた。

「忘れているようだが、おまえは学院にいることになっているんだぞ? 休日にジーンと共に王宮を訪れるのとは訳が違うんだ。堂々と廊下に出ようとするな」
「あっ……!」

 リュシオンの指摘に、ルーナは「しまった」とばかりに口に手を当てる。
 地下水路への探索に参加するため、ルーナは同じレングランド学院に通うコーデリアに協力を求めた。そのおかげで、今は『体調を崩して学院の寮で寝込んでいる』ということになっているのだ。
 そんなルーナが、学院以外の場所にいることが知られれば、それだけで問題だ。しかも、その場所がリュシオンの住まう王子宮。
 不用意に人の目に触れてしまえば、どんな噂が立つかわからない。
 もう十歳未満の子供ではないのだ。
 貴族令嬢にとって、異性関係の醜聞しゅうぶんは自分自身の評判を地に落とすと同時に、家名に泥を塗ることにもなる。
 そうなってしまえば、ルーナはおのれの名誉を守るために、リュシオンの婚約者という立場になるしか道はない。彼を嫌っているわけではないが、結婚となれば話は別だ。だからこそリュシオンは、不本意な状況に追い詰められないためにも行動を律する必要があると言ったのだった。

(こういう時、この世界って不便だって思うよね)

 ルーナは心の中でため息をこぼし、『ルーナ』となる前――『高崎たかさき千幸ちゆき』であった頃の自分を思い出していた。

(例えば、放課後に教室で偶然異性のクラスメイトと鉢合わせただけで「婚約間近か」なんて日本じゃありえない話が、この世界じゃまかり通っちゃうわけで……お付き合いも何もかもすっ飛ばして結婚とか、ないわぁ。しかも、わたしって十四歳だよ? 中学生だよ? ……うん、ないわぁ)

 ルーナは「ないない」と脳内で繰り返しつぶやくと、考えを振り払うかのように頭を何度も振った。

「はぁ……わかったようだな」

 リュシオンが確認すると、ルーナはコクコクと素直にうなずく。

「はい、十分に。ということは、廊下に出なくてもなんとかなるってことですね」

 棒読みの敬語でルーナが答えると、リュシオンは満足げにニヤリと笑った。

「まず俺がジーンの部屋まで行ってくる。確認して人がいなかったら合図するから、その後、皆で一緒に〈転移〉してくるといい」
「〈転移〉できるの?」
「ああ。ただし、魔法を使うんじゃないけどな。こっちへ来てみろ」

 ルーナの問いかけに、リュシオンは大きな絵のかかった壁へと一同をうながした。その行動に首を傾げながらも、彼に続いて全員が壁の前に立つ。

「ここに魔力を込めた手で触れれば、ジーンのいる客室に〈転移〉するんだ」
「そんな仕掛けがあるの!?」
「ある。だからこの部屋を転移先にしたんだ」

 リュシオンの説明に、全員が納得とばかりにうなずく。
 王宮は王族が住まう場所だ。
 それゆえに有事の際を想定し、さまざまな仕掛けや工夫がほどこされている。この部屋の仕掛けも、その一つということだ。

(客間ってことは王族本人には関係ないだろうけど、王宮に滞在するような人物となればそれなりの地位があるってことだもん。万が一、賊に襲われても、一瞬で違う部屋に逃げ込めればいろんな意味で安心だよね)

 ルーナは感心しながらも、ふと気づいた考えに「あっ」と小さく声をあげた。

(よく考えたら、この仕掛けについて教えてもらえるのって、わたしたちがすごく信頼されてるってことなんじゃ……)

 リュシオンの示す『信頼』に、ルーナは知らず頬を緩めた。
 ぽっと灯りがともったような、あたたかく誇らしい気持ちが胸に湧き上がる。そしてその思いは、ルーナだけではなく、その場にいた全員が感じていたものだった。
 けれど、そんな気持ちを向けられるリュシオンにしてみれば、気恥ずかしかったのだろう。

「ルーナ、ここに手を」

 リュシオンは仏頂面で告げると、ルーナの伸ばした手を自分の手と重ねるようにして絵画に触れた。


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