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4巻
4-3
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†
王妃の部屋から退出したオリバレス子爵は、自身が滞在する客室に戻ってきていた。
彼は子爵という下位貴族ではあったが、王妃の側近という立場ゆえに王城でも上等な部屋が与えられている。
オリバレス子爵は暖炉近くに置かれた長椅子に腰を下ろすと、背もたれに頭を預け、ゆったりと足を組んだ。
「隣国の王太子に、その連れの幼い娘。――さて、鼠はどちらか」
ククッと笑い声を漏らすと、彼は腹の上で両手を組んで目を閉じた。しばらくそのまま思いを凝らしていた子爵は、唐突に開いた扉に気づいてゆっくりと目を開く。
「おまえか」
現れた人物に目を向け、オリバレス子爵は冷たく言い放った。
彼の視線の先には、金茶色の髪に柔らかな茶色の瞳をした少年が一人。
エアデルト国王の庶子であり、近いうちに王族として迎えられると言われているヘクトル・レオン・ロセットだった。
エアデルト国王が病に伏しているため未だ正式には認められていないものの、すでに王城では公然たる立場にある彼に対し、子爵の態度はあまりにも横柄なものだ。
しかしヘクトルはそんなオリバレス子爵の態度を咎めることなく、黙って室内に入ってくると子爵が座る長椅子の横に直立した。
「王太子は一命を取り留めたようだな。……運の良いことに」
ふと零れたオリバレス子爵の言葉に、ヘクトルは何も返さない。そんな彼を気にすることなく、子爵はなおも独りごちる。
「まぁ瀕死では邪魔にもなるまい。むしろ邪魔になるとすれば、あのわずかな痕跡を辿って入り込んできた鼠の方……」
オリバレス子爵はそこで言葉を切り、考え込むように口元に手をやった。
「どちらが鼠にせよ、今の状況では隣国の王太子に手を出すのは少々厄介か。ならばさしあたって小娘の方から排除するのが良策というもの」
彼はフッと口元を緩めると、傍に立ったままのヘクトルを仰ぎ見た。
「都合良くあの娘はここを離れることになっている。それに合わせて罠を張る。いいな?」
「御意」と短く返すヘクトルに、オリバレス子爵は軽く手首を振ってみせる。
まるで野良犬を追い払うかのような仕草だったが、ヘクトルはただコクンとうなずくだけだ。
そのまま黙って部屋を出て行く彼の表情は、やはりどこか人形のように無機質で冷たい。
残されたオリバレス子爵は、長椅子から立ち上がるとコンソールテーブルに近づき、そこに用意された葡萄酒をグラスに注ぐ。一気にグラスを傾けた彼は、赤い液体でうっすらと唇を濡らしたまま、虚空に向けてつぶやいた。
「さて、次の準備を調えねばな……」
第二章 己のなすべきことを
エアデルト王太子が大怪我を負った翌日、ルーナの部屋にはニール侯爵が訪ねて来ていた。
マホガニーのテーブルを挟んで二脚ずつ置かれた絹張りの椅子には、ルーナと侯爵の他に、目付役として押しかけてきたリュシオンとジーンの姿もあった。そして彼女の足下には、シリウスとレグルスが寝そべっている。
「あの……宰相様」
礼儀からいえば、身分の高い者が相手の場合、話しかけられるまで沈黙していなければならないのだが、訊きたいことがあったルーナは恐る恐る切り出した。
「なんだい?」
怒った様子もなく優しく訊かれ、ルーナはホッとしつつ口を開く。
「……あの、王太子殿下のご容態はいかがでしょうか?」
「ああ、今は安定しておられる。これも君のおかげだね」
ニール侯爵が安心させるように笑みを浮かべたので、彼女もホッと笑顔を返す。
「ただ、お命は助かったものの、やはりお身体はかなり弱っておられる。このまま意識が戻らないようなら危険と言えるだろうね」
「そんな……」
「そこまで予断を許さない状況なのか?」
絶句するルーナに代わりリュシオンが口を挟むと、ニール侯爵は固い表情のまま答えた。
「昨日あの場にいらっしゃった方々には、下手な誤魔化しは不要でしょう」
侯爵はそう前置きしてから、おもむろに話し始める。
「ルーナ嬢の行った魔法治療は、我が国の白魔法使いも認めるほど完璧でした。だが失った血は多く、王太子殿下のお身体は衰弱しきっておいでなのです。このまま意識が戻らねば、恐らく殿下は……」
言葉を濁すニール侯爵だったが、この場にその意味を理解できない者はいなかった。
(もしここに、日本のような医療設備があれば……)
侯爵の話を聞きながら、ルーナは心の中で焦燥にも似た思いを抱く。
彼女の前世、高崎千幸が暮らしていた世界――地球。その日本という国であれば、生命維持に必要な医療器具や薬品が発達しており、意識不明の患者であっても命を繋ぐことは可能だ。
しかしここは、サンクトロイメという異世界。医療技術はまだまだ発展途上であり、代わりに魔法が存在しているものの、それも万能ではない。
白魔法によって生命力を高めることは出来るが、ほんの一時的なものであり、傷などを治す場合も、患部に術者の魔力を集中することによって患者の治癒力を高めているに過ぎない。
そのため意識のない人ひとりの生命維持ともなれば、魔法であってもやはり限りというものがあるのだ。魔力は無尽蔵ではないし、治癒魔法を続ければ続けるほど術者の力は奪われていく。継続的に治療を行うには、やはり患者の意識があること、すなわち食事などの栄養を患者自ら摂ることが重要になってくるのだ。
「そのような状況だからこそ、我々としては昨日貴女が言っておられた話をぜひ詳しくお聞かせ願いたいと、こうして参った次第です」
そう言って目を合わせてくるニール侯爵に、ルーナは戸惑いつつ尋ねた。
「神木の実、の話ですね……?」
「ええ。やはりエアデルトでは知る者のいない話だったので」
丁寧に頼み込む侯爵に、ルーナは助けを求めるようにリュシオンを横目で見る。
(わたしが適当に話してリューたちが話を合わせられなくなったらまずいよね? どうしよう……)
彼女の困惑を察したリュシオンは、「まかせろ」とばかりに小さくうなずくと、ニール侯爵に向けて口を開いた。
「侯爵の言う通り、エアデルトでは聞かぬ話だろうな。そもそもクレセニアの一地方に伝わる古い伝承だったそうなんだ。それが最近、魔法遺跡から見つかった書物が解読されたことにより、神木の実が伝説の類いではなく、実在するものだとわかった」
「なんと……魔法遺跡の書物から、と」
驚きに目を見開く侯爵へ、リュシオンはもったいぶるように一拍置いて話を続ける。
「書物には場所についての記述もあり、それが言い伝えと一致していたことから、近々レングランドから調査団を派遣する話になっていたのだ」
リュシオンの言葉を補うように、ジーンが口を挟んだ。
「実は、その古い伝承が書かれた本がマティス卿の書斎に埋もれたままになっていたのを、偶然見つけ出したのが娘である彼女なんです。だから神木の実について咄嗟に思い出せたんでしょうね」
ルーナは二人の良く出来た説明に舌を巻きながらも、自分の記憶の中から『魔法遺跡』についての情報を探し出す。
(魔法遺跡って、確か大陸でたまに見つかる古代魔法文明の遺跡だよね。びっくりするようなすごい魔道具や、魔法陣なんかが発掘されたりするから、自国での発見の話はあまり公表されないんだっけ。それならエアデルトに伝わってなくても納得してもらえるよね……)
彼女がこっそり感心している横では、実際納得したらしい侯爵が何度もうなずいてる。
「ただ調査については外交も関わってくるので、これから交渉を……というところだったのですよ」
「外交問題というと?」
ジーンが話を遺跡調査に戻して説明すると、侯爵は不思議そうに聞き返す。
「ああ。書物に記されていたのはエアデルト国内、ジャスディール山脈の北、霊峰ロズワルドだ」
「ロズワルドですと!?」
リュシオンの口から出た自国の地名に、ニール侯爵は驚愕して叫んだ。そんな彼の反応を気にすることなくリュシオンはさらに続ける。
「もっとも場所はわかっているにしろ、神域というのは結界で守られているそうだから、そこに辿り着けるかどうかが問題だがな」
「結界、ですか……。では見つけられないという事態もあり得るということですね」
隣国の王子の言葉に冷静さを取り戻したのか、ニール侯爵は落ち着いた様子でそう確認した。
「ああ。だが、現地に行ってみなければ見つかる可能性も捨てることになるな」
リュシオンは淡々と答えると、あとは自分で決めろとばかりに言葉を切る。
「わずかでも可能性があるのならば、それを選択肢に入れぬ方が愚かでしょう」
「――ならば我々としても、出来うる限りの協力はしよう」
ニール侯爵にリュシオンがそう答えると、侯爵は喜ぶどころか困惑したように眉尻を下げた。その様子にルーナも、そしてリュシオンやジーンも首を傾げる。
「どうかされたのですか?」
何かを言い淀んでいるかのようなニール侯爵に、ジーンが控えめに切り出した。しばらくして彼はようやく重い口を開く。
「実は王妃陛下より、『神木の実』を取りに行くのならば、ルーナ嬢を同行させるようにと命じられているのです」
「なんだと? ルーナが赴く必要などないと言ったのはおまえだろう!」
「冗談が過ぎますよ、ニール侯爵」
ニール侯爵の言葉にリュシオンは思わず声をあげ、ジーンは不快そうに抗議する。一方、ルーナはただ目を瞠るばかりだ。
「残念ながら、冗談ではございませぬ」
リュシオンとジーンの厳しい視線を真っ向から受け止めた侯爵は、表情を崩すことなくそう告げた。そんな彼に苛立ったようにリュシオンが怒鳴る。
「何故ルーナが行かねばならない!」
「そうです。どうしてルーナが同行する必要が? 王妃陛下は一体何を考えていらっしゃるのです」
丁寧な物言いは崩さないものの、さすがにジーンも苛立ちを隠せないようだ。ニール侯爵は目を伏せて彼らの言葉を黙って聞いていたが、やがてゆっくりと息を吐き出すと視線を上げて話し始める。
「王太子殿下の襲撃があった折、ルーナ嬢は賊の名前を叫んだとの報告がありました。王妃陛下はそのことから、ルーナ嬢と賊との関係を怪しんでおられるのです」
「それは……」
言葉に詰まるジーンに、ニール侯爵は厳しい表情で続ける。
「たまたま、とおっしゃられればそれだけの話かもしれませぬ。しかしルーナ嬢がこの城にいらっしゃる間に王太子殿下が傷つけられ、賊は逃走。しかもその者の名前を叫んだとなれば、疑われるも当然のこと」
「確かにそうかもしれんが、ルーナに聞いたところ、あの者とはクレセニアの王都でたまたま知り合ったということだ。もちろんそのような賊であるなど知る由もなく、な」
リュシオンが幾分不機嫌そうに言うと、ジーンが後押しするように口を開いた。
「彼女はクレセニアから我々とずっと一緒に旅をしてきたんですよ。もちろんその間に怪しいそぶりなどはなかったし、そもそも彼女が襲撃に荷担しているなら、我々と一緒に王太子殿下のもとに行くはずがないでしょう? あそこにはエアデルトの兵士や家令もいた。賊の手引きなどどうやってやると言うのです。それなら一人で部屋に残っていた方が良いはずだし、賊の名前を呼ぶなどという失態を犯すはずがない」
二人の弁護を聞きながら、ルーナはどこか他人事のように話の流れを整理していた。
(つまり王妃様は、わたしがカインの名を呼んだから、王太子様の襲撃の関与を疑ってるってことだよね。で、そうじゃなければ疑いを晴らすために、神木の実を取りに行ってこいと)
考え込むように口元に手をやったルーナは、足下に座るシリウスとレグルスをぼんやりと見つめながら、ふうっとため息を零す。
(自分でも宰相様に『行く』って言っちゃったから取りに行くのは別にいいんだけど、疑いをかけられてっていうのはちょっとやだな。そもそも前世の常識で考えちゃだめなんだろうけど、わたしが疑われるってことは、この世界じゃ九歳の女の子を、刺客かもしれない、って普通に考えるってことだよね)
久しぶりにカルチャーショックを受けながらも、ここは黙っていた方が良いだろうと判断し、ルーナはやり取りを続ける三人へと意識を戻した。
「チッ……エアデルトの王妃もろくでもないな」
リュシオンの舌打ちしながらの言葉に、ルーナはギョッと目を剥く。
(リュー……エアデルトの宰相様が目の前にいるのに、そんなこと言っちゃっていいの!?)
あわあわと動揺を隠せないルーナに、落ち着けとばかりにシリウスとレグルスがタシッと前足を彼女の膝にのせた。二匹の仕草に束の間ほっこりしたルーナだったが、すぐに我に返ってニール侯爵へ目を向ける。
しかしルーナの心配をよそに、彼はただ苦笑を浮かべているだけだった。
「お怒りはごもっともなれど、王妃陛下の要請をお断りになれば、どんな言いがかりをつけられるかわかりませぬ。正直に申しますと、ルーナ嬢への風当たりが厳しくなる程度で済めばよろしいですが、下手をすると身の安全に関わります」
「身の安全だと? ルーナに危害が加えられるとでも言うのか」
もはや怒りを隠さないリュシオンの言葉を、ニール侯爵はただ静かに肯定する。
「かの方は、それが出来るお立場でございます」
その答えに、リュシオンは苦虫を噛みつぶしたような顔で黙った。そんな彼に代わり、今度はジーンが口を開く。
「貴方の口ぶりでは、まるでルーナがここに留まるより、旅の一行に加わる方が安全のように聞こえますが……」
「そうですね……少なくとも一行には私の直属の部下を選びます。決してルーナ嬢を危険に晒すようなことはせぬとお約束いたしましょう。けれど、この城に残り王妃陛下のご不興を買った場合、安全は保証できかねます」
平静そのものの声音でありながらも、ニール侯爵の口元は自嘲するかのようにわずかに歪んでいた。
(王太子様までも倒れてしまった今、エアデルトの最高権力者は王妃様。あの人の不興を買っちゃったら、宰相様でも庇いきれるかわかんないんだ……)
ルーナが考えていることは、リュシオンやジーンもわかっているのだろう。ニール侯爵を睨んだまま、リュシオンは苦々しく言い放った。
「先ほどの言葉、違えるなよ」
「はい。腕の立つことはもちろん、信頼できる者を護衛としておつけします」
真摯に答えるニール侯爵に、リュシオンも納得するしかない。彼はため息混じりに前髪を掻き上げると、忌々しそうに再度侯爵を睨みつけた。
こうしてルーナは『神木の実』を求めて、エアデルトの王都からさらに旅立つことが決まったのだった。
†
しん、と静まり返った部屋の中、ルーナは椅子の上で居心地悪く身じろぎする。
ニール侯爵が出て行った後、リュシオンは不機嫌そうに背もたれに凭れかかって黙り込み、ジーンも眉間に皺を寄せたまま無言を貫き通していた。
(誰かこの空気、なんとかしてぇぇぇ!)
ルーナは心の中で叫びつつ、立ち上がって膝に頭をのせてきたシリウスとレグルスの頭を撫でる。
それでもしばらく室内では無言の状態が続いていたが、やがてジーンが大きなため息を一つつき、ポツリと零した。
「王妃ですか……厄介ですね」
「まったくだ。面白くはないが、ここは侯爵に従った方が、ルーナの身の安全は図れるだろうな」
リュシオンは不本意そうに言ってルーナに顔を向けた。
「ルーナ。のほほんとした顔をしているが、わかっているのか? 城にいて王妃の不興を買うよりはましとはいえ、旅となれば魔物や盗賊に出くわすかもしれないんだぞ」
「わ、わかってるよ? でもわたしにはしぃちゃんとれぐちゃんがいるし」
強い視線にたじろぎながらも、ルーナはシリウスとレグルスの背を軽く叩いて言う。それに応えて彼らはリュシオンに向き合った。
「我らがおれば心配ない」
「我らがおれば安全だ」
くわっと口を開けて告げる獣たちを凝視したリュシオンは、やがてフッとその表情を和らげた。
「確かにこいつらなら、下手な護衛より役に立つな」
「そうですね。シリウス、レグルス。どうかルーナをよろしくお願いしますね」
ジーンはクスクスと笑いながらリュシオンに同意すると、二匹に頼み込む。
「ルーナのことは、我らに任せておくがよい」
「うむ。人の子などに遅れはとるまい」
凛々しく言い切る獣たちだが、見た目は子犬と子猫。四肢をピンッと張った二匹の様子に、ルーナは胸の前でぎゅっと両手を組んで叫ぶ。
「二人とも可愛すぎだよっ!」
シリウスとレグルス、それぞれ順番に抱き上げて頬ずりするルーナに、リュシオンとジーンは呆れたように苦笑し、その場の空気は一気に柔らかいものとなった。
「ルーナのことは、ニール侯爵としぃれぐに任せるとして、俺たちの方もその間に調べられることは調べておかねばな」
リュシオンの言葉にジーンは表情を引き締める。彼は顎に手をやり思案しながら口を開いた。
「カインの行方もそうですし、クレセニアでルーナたちを襲った魔法使い、彼が所持していた細工指輪についても調べておきたいですね。何か繋がれば王妃に対抗できる武器になるかもしれませんし」
「そうだな。今回の王太子の事件に限っては王妃は何も知らないようだが、偽王子を容認しているのならばカインについて知らぬはずはない。そう考えればクレセニアでの襲撃に王妃が関わっている可能性は高い。それが掴めれば王妃に対する牽制にもなるだろう」
リュシオンの推測に、ルーナは知らず知らずのうちに眉を寄せる。そして確認するようにおずおずと問いかけた。
「王妃様は自分の息子を確実にエアデルト国王にしたいんだよね?」
「それは確かだろうな」
「ってことは、自分の息子を傷つけるはずがないよね……?」
「ああ、ないだろうな」
ルーナの疑問に一々答えながら、リュシオンは彼女の言いたいことを理解したのだろう。続けて口を開いた。
「カインを襲うならともかく、自分の息子である王太子を襲う理由は王妃にはないな」
リュシオンが言うように、王妃が王太子を襲うことはありえない。では誰が、と考えれば、やはり浮かんでくるのはカインだった。
もちろんルーナは彼が犯人だとは思いたくはない。しかし、状況から推測するならば賊はカインとしか言いようがなかった。
「何があったんだろう……カインが人を傷つけるなんて……」
思わずルーナがつぶやけば、リュシオンが苦い顔でそれに答える。
「考えられるのは王太子がカインに斬りかかってきた、というところか」
自衛のために王太子を傷つけてしまった。それは考えられなくもないが、それでもルーナは今ひとつ納得できなかった。
「でも……今王太子様が死んだとしても、エアデルトの王子として認められていないカインにはなんの得もないよね?」
「そうだな。そう考えれば一番怪しいのはあの偽者――ヘクトルとかいった奴か」
リュシオンはルーナの言葉にうなずき、腕を組んで考え込む。
「でもあの人と王妃様は……仲間? 確か王妃様のお付きの人と一緒にいたよね……」
確信がないため疑問形でつぶやくルーナに、リュシオンは眉間に皺を刻んだ。
「ああ。ということは王妃があいつと繋がっているなら自分の息子を切り捨てたことになる。だがあの時の彼女の様子を見る限り、息子を溺愛してるって感じだったがな……」
「じゃあ、やっぱりカインが……」
俯いて唇を噛むルーナへ、ジーンが気遣わしげに声をかける。
「ルーナ、もしものことを考えても仕方がないし、きりがない。だからこそ、真実を探すために行動するしかないんだよ」
兄の言葉に顔を上げたルーナは、コクンとうなずいた。
「推測ばかりで不安になっても仕方ないよね。兄様の言う通り真実を前にしてから、初めてどうするか決めないと」
「そうだな。それに状況だけ見ればカインが怪しいのは確かだが、少なくとも本当のことを知る王太子は生きている。彼が目を覚ませば状況は必ず好転するはずだ」
リュシオンはルーナに向けてそう言うと、次にジーンへと視線を移す。
「わからないことを推測するより、まずは一番はっきりとした手がかりである指輪から調べることだな。そこから何か大きなものへと繋がるような気がする」
「はい。それについては私が動きます」
「頼む。俺は国王、そして王太子から目を離さないようにせねば。どのような思惑で、誰がやったのかわからなくても、襲われたのは事実だ。もう一度襲撃される可能性は捨てきれんからな」
(そっか……犯人がカインじゃなかった場合、王太子様の命が助かったってことは、彼の死を願っていた人物の計画は失敗ってことだもんね。もう一度命を狙う可能性もあるんだ……)
ルーナの考えを読んだのか、リュシオンは深刻な表情の彼女へ軽い調子で声をかけた。
「心配するな、そのために俺がいる」
自信に満ちたリュシオンの言葉に、ルーナは控えめな笑みを浮かべる。
「いいか。俺は国王や王太子の安全を守る。ジーンは細工指輪の工房から依頼主を探る。そしておまえは王太子を助けるために『神木の実』を取りに行く。それが俺たちがそれぞれ出来ることで、やるべきことだ」
「うん、そうだよね!」
ルーナはリュシオンの言葉にうなずくと、二人に強い眼差しを向けた。
†
エアデルトの王太子ユリウスが襲撃された日より三日後。
その夜ネグリジェにガウンといった寝支度を整えたルーナは、寝室にある出窓に両肘をつき、そこから見える景色をぼんやりと眺めていた。
居間を挟んでロドリーゴの寝室と続き部屋になった彼女の寝室は、城の南端に位置しているため、視線を遠くに向ければ王都の街明かりが見える。
ルーナが前世で目にしたような、煌びやかで明るい夜景ではないが、それでもあたたかみを感じる橙色の灯はどこか幻想的で、心が落ち着き、いつまでも見飽きることがない。
『何か面白いものでもあるのかえ?』
突然不思議そうに尋ねられ、ルーナは「ん?」と小さく応えながら、そちら――彼女の隣で精一杯背伸びをして窓を覗いている風姫――に目を向ける。
『先ほどから、ずっと外を見ておるであろう?』
ルーナの注意が自分に向けられたことに満足したのか、風姫は嬉しそうに尋ねた。そんな彼女の気持ちに気づき、ルーナはふふっと笑いながら風姫の頭を撫でて心の内を明かす。
「明日、出発でしょ。少しだけ……ほんの少しだけ不安になっちゃったの」
エアデルト王太子を救う『神木の実』。それを手に入れるため、ルーナは明日この城を出立することになっていた。
旅はリュシオンたちと共に辿った、クレセニアからエアデルトまでの道程より、さらに過酷なものになるだろう。何より、神木の実を見つけられるかどうか不安だった。
その不安を打ち明けた彼女に、風姫はフッと口角を上げると力強く宣言する。
『心配することはないぞ。ルーナには妾がついておる!』
それですべて解決すると言いたげな風姫に、ルーナは最初目を丸くしたが、次いで花が綻ぶような笑みを浮かべた。その笑顔が嬉しくて、風姫はルーナに抱きつこうとしたが、それより早く彼女とルーナの間に入り込んでくる二匹の獣たち。
「何を言っている! 我らがいればおぬしの出番などないわ!」
「そうとも。我らがついておるゆえ、ルーナに心配などいらぬ!」
『しぃれぐよ、妾が先にそう申したのであろう! 後から真似をするな!』
騒々しく言い合う二匹と精霊に吹き出しつつも、ルーナはその心遣いに感謝する。
「ありがとね。明日からはリューや兄様と一緒じゃないし、少しだけ心細くなっちゃったみたい」
「そうか。だが心細さなど感じる前に、さっさと神木の実を手に入れて戻ってくれば良いぞ」
シリウスはルーナに頭を撫でられ、目を細めながらそう答える。それに負けじと風姫は彼女のネグリジェの裾を引いて訴えた。
『妾たち風の精霊にかかれば、隠されたものを見つけることなど造作もない』
「なに、風の者になど頼らずとも、我が見つける」
レグルスまでも参加しての再度の言い合いに、ルーナは心の内から不安が完全に溶けて消えるのを感じた。
「うん。風姫さんも、しぃちゃんもれぐちゃんもいるんだもんね……よし! ちょっと早いけど明日に備えてもう寝ようか?」
ルーナは明るい調子で風姫と獣たちに声をかける。だが答えはなく、彼らは窓の方へと一斉に目を向け、そのまま動きを止めていた。
王妃の部屋から退出したオリバレス子爵は、自身が滞在する客室に戻ってきていた。
彼は子爵という下位貴族ではあったが、王妃の側近という立場ゆえに王城でも上等な部屋が与えられている。
オリバレス子爵は暖炉近くに置かれた長椅子に腰を下ろすと、背もたれに頭を預け、ゆったりと足を組んだ。
「隣国の王太子に、その連れの幼い娘。――さて、鼠はどちらか」
ククッと笑い声を漏らすと、彼は腹の上で両手を組んで目を閉じた。しばらくそのまま思いを凝らしていた子爵は、唐突に開いた扉に気づいてゆっくりと目を開く。
「おまえか」
現れた人物に目を向け、オリバレス子爵は冷たく言い放った。
彼の視線の先には、金茶色の髪に柔らかな茶色の瞳をした少年が一人。
エアデルト国王の庶子であり、近いうちに王族として迎えられると言われているヘクトル・レオン・ロセットだった。
エアデルト国王が病に伏しているため未だ正式には認められていないものの、すでに王城では公然たる立場にある彼に対し、子爵の態度はあまりにも横柄なものだ。
しかしヘクトルはそんなオリバレス子爵の態度を咎めることなく、黙って室内に入ってくると子爵が座る長椅子の横に直立した。
「王太子は一命を取り留めたようだな。……運の良いことに」
ふと零れたオリバレス子爵の言葉に、ヘクトルは何も返さない。そんな彼を気にすることなく、子爵はなおも独りごちる。
「まぁ瀕死では邪魔にもなるまい。むしろ邪魔になるとすれば、あのわずかな痕跡を辿って入り込んできた鼠の方……」
オリバレス子爵はそこで言葉を切り、考え込むように口元に手をやった。
「どちらが鼠にせよ、今の状況では隣国の王太子に手を出すのは少々厄介か。ならばさしあたって小娘の方から排除するのが良策というもの」
彼はフッと口元を緩めると、傍に立ったままのヘクトルを仰ぎ見た。
「都合良くあの娘はここを離れることになっている。それに合わせて罠を張る。いいな?」
「御意」と短く返すヘクトルに、オリバレス子爵は軽く手首を振ってみせる。
まるで野良犬を追い払うかのような仕草だったが、ヘクトルはただコクンとうなずくだけだ。
そのまま黙って部屋を出て行く彼の表情は、やはりどこか人形のように無機質で冷たい。
残されたオリバレス子爵は、長椅子から立ち上がるとコンソールテーブルに近づき、そこに用意された葡萄酒をグラスに注ぐ。一気にグラスを傾けた彼は、赤い液体でうっすらと唇を濡らしたまま、虚空に向けてつぶやいた。
「さて、次の準備を調えねばな……」
第二章 己のなすべきことを
エアデルト王太子が大怪我を負った翌日、ルーナの部屋にはニール侯爵が訪ねて来ていた。
マホガニーのテーブルを挟んで二脚ずつ置かれた絹張りの椅子には、ルーナと侯爵の他に、目付役として押しかけてきたリュシオンとジーンの姿もあった。そして彼女の足下には、シリウスとレグルスが寝そべっている。
「あの……宰相様」
礼儀からいえば、身分の高い者が相手の場合、話しかけられるまで沈黙していなければならないのだが、訊きたいことがあったルーナは恐る恐る切り出した。
「なんだい?」
怒った様子もなく優しく訊かれ、ルーナはホッとしつつ口を開く。
「……あの、王太子殿下のご容態はいかがでしょうか?」
「ああ、今は安定しておられる。これも君のおかげだね」
ニール侯爵が安心させるように笑みを浮かべたので、彼女もホッと笑顔を返す。
「ただ、お命は助かったものの、やはりお身体はかなり弱っておられる。このまま意識が戻らないようなら危険と言えるだろうね」
「そんな……」
「そこまで予断を許さない状況なのか?」
絶句するルーナに代わりリュシオンが口を挟むと、ニール侯爵は固い表情のまま答えた。
「昨日あの場にいらっしゃった方々には、下手な誤魔化しは不要でしょう」
侯爵はそう前置きしてから、おもむろに話し始める。
「ルーナ嬢の行った魔法治療は、我が国の白魔法使いも認めるほど完璧でした。だが失った血は多く、王太子殿下のお身体は衰弱しきっておいでなのです。このまま意識が戻らねば、恐らく殿下は……」
言葉を濁すニール侯爵だったが、この場にその意味を理解できない者はいなかった。
(もしここに、日本のような医療設備があれば……)
侯爵の話を聞きながら、ルーナは心の中で焦燥にも似た思いを抱く。
彼女の前世、高崎千幸が暮らしていた世界――地球。その日本という国であれば、生命維持に必要な医療器具や薬品が発達しており、意識不明の患者であっても命を繋ぐことは可能だ。
しかしここは、サンクトロイメという異世界。医療技術はまだまだ発展途上であり、代わりに魔法が存在しているものの、それも万能ではない。
白魔法によって生命力を高めることは出来るが、ほんの一時的なものであり、傷などを治す場合も、患部に術者の魔力を集中することによって患者の治癒力を高めているに過ぎない。
そのため意識のない人ひとりの生命維持ともなれば、魔法であってもやはり限りというものがあるのだ。魔力は無尽蔵ではないし、治癒魔法を続ければ続けるほど術者の力は奪われていく。継続的に治療を行うには、やはり患者の意識があること、すなわち食事などの栄養を患者自ら摂ることが重要になってくるのだ。
「そのような状況だからこそ、我々としては昨日貴女が言っておられた話をぜひ詳しくお聞かせ願いたいと、こうして参った次第です」
そう言って目を合わせてくるニール侯爵に、ルーナは戸惑いつつ尋ねた。
「神木の実、の話ですね……?」
「ええ。やはりエアデルトでは知る者のいない話だったので」
丁寧に頼み込む侯爵に、ルーナは助けを求めるようにリュシオンを横目で見る。
(わたしが適当に話してリューたちが話を合わせられなくなったらまずいよね? どうしよう……)
彼女の困惑を察したリュシオンは、「まかせろ」とばかりに小さくうなずくと、ニール侯爵に向けて口を開いた。
「侯爵の言う通り、エアデルトでは聞かぬ話だろうな。そもそもクレセニアの一地方に伝わる古い伝承だったそうなんだ。それが最近、魔法遺跡から見つかった書物が解読されたことにより、神木の実が伝説の類いではなく、実在するものだとわかった」
「なんと……魔法遺跡の書物から、と」
驚きに目を見開く侯爵へ、リュシオンはもったいぶるように一拍置いて話を続ける。
「書物には場所についての記述もあり、それが言い伝えと一致していたことから、近々レングランドから調査団を派遣する話になっていたのだ」
リュシオンの言葉を補うように、ジーンが口を挟んだ。
「実は、その古い伝承が書かれた本がマティス卿の書斎に埋もれたままになっていたのを、偶然見つけ出したのが娘である彼女なんです。だから神木の実について咄嗟に思い出せたんでしょうね」
ルーナは二人の良く出来た説明に舌を巻きながらも、自分の記憶の中から『魔法遺跡』についての情報を探し出す。
(魔法遺跡って、確か大陸でたまに見つかる古代魔法文明の遺跡だよね。びっくりするようなすごい魔道具や、魔法陣なんかが発掘されたりするから、自国での発見の話はあまり公表されないんだっけ。それならエアデルトに伝わってなくても納得してもらえるよね……)
彼女がこっそり感心している横では、実際納得したらしい侯爵が何度もうなずいてる。
「ただ調査については外交も関わってくるので、これから交渉を……というところだったのですよ」
「外交問題というと?」
ジーンが話を遺跡調査に戻して説明すると、侯爵は不思議そうに聞き返す。
「ああ。書物に記されていたのはエアデルト国内、ジャスディール山脈の北、霊峰ロズワルドだ」
「ロズワルドですと!?」
リュシオンの口から出た自国の地名に、ニール侯爵は驚愕して叫んだ。そんな彼の反応を気にすることなくリュシオンはさらに続ける。
「もっとも場所はわかっているにしろ、神域というのは結界で守られているそうだから、そこに辿り着けるかどうかが問題だがな」
「結界、ですか……。では見つけられないという事態もあり得るということですね」
隣国の王子の言葉に冷静さを取り戻したのか、ニール侯爵は落ち着いた様子でそう確認した。
「ああ。だが、現地に行ってみなければ見つかる可能性も捨てることになるな」
リュシオンは淡々と答えると、あとは自分で決めろとばかりに言葉を切る。
「わずかでも可能性があるのならば、それを選択肢に入れぬ方が愚かでしょう」
「――ならば我々としても、出来うる限りの協力はしよう」
ニール侯爵にリュシオンがそう答えると、侯爵は喜ぶどころか困惑したように眉尻を下げた。その様子にルーナも、そしてリュシオンやジーンも首を傾げる。
「どうかされたのですか?」
何かを言い淀んでいるかのようなニール侯爵に、ジーンが控えめに切り出した。しばらくして彼はようやく重い口を開く。
「実は王妃陛下より、『神木の実』を取りに行くのならば、ルーナ嬢を同行させるようにと命じられているのです」
「なんだと? ルーナが赴く必要などないと言ったのはおまえだろう!」
「冗談が過ぎますよ、ニール侯爵」
ニール侯爵の言葉にリュシオンは思わず声をあげ、ジーンは不快そうに抗議する。一方、ルーナはただ目を瞠るばかりだ。
「残念ながら、冗談ではございませぬ」
リュシオンとジーンの厳しい視線を真っ向から受け止めた侯爵は、表情を崩すことなくそう告げた。そんな彼に苛立ったようにリュシオンが怒鳴る。
「何故ルーナが行かねばならない!」
「そうです。どうしてルーナが同行する必要が? 王妃陛下は一体何を考えていらっしゃるのです」
丁寧な物言いは崩さないものの、さすがにジーンも苛立ちを隠せないようだ。ニール侯爵は目を伏せて彼らの言葉を黙って聞いていたが、やがてゆっくりと息を吐き出すと視線を上げて話し始める。
「王太子殿下の襲撃があった折、ルーナ嬢は賊の名前を叫んだとの報告がありました。王妃陛下はそのことから、ルーナ嬢と賊との関係を怪しんでおられるのです」
「それは……」
言葉に詰まるジーンに、ニール侯爵は厳しい表情で続ける。
「たまたま、とおっしゃられればそれだけの話かもしれませぬ。しかしルーナ嬢がこの城にいらっしゃる間に王太子殿下が傷つけられ、賊は逃走。しかもその者の名前を叫んだとなれば、疑われるも当然のこと」
「確かにそうかもしれんが、ルーナに聞いたところ、あの者とはクレセニアの王都でたまたま知り合ったということだ。もちろんそのような賊であるなど知る由もなく、な」
リュシオンが幾分不機嫌そうに言うと、ジーンが後押しするように口を開いた。
「彼女はクレセニアから我々とずっと一緒に旅をしてきたんですよ。もちろんその間に怪しいそぶりなどはなかったし、そもそも彼女が襲撃に荷担しているなら、我々と一緒に王太子殿下のもとに行くはずがないでしょう? あそこにはエアデルトの兵士や家令もいた。賊の手引きなどどうやってやると言うのです。それなら一人で部屋に残っていた方が良いはずだし、賊の名前を呼ぶなどという失態を犯すはずがない」
二人の弁護を聞きながら、ルーナはどこか他人事のように話の流れを整理していた。
(つまり王妃様は、わたしがカインの名を呼んだから、王太子様の襲撃の関与を疑ってるってことだよね。で、そうじゃなければ疑いを晴らすために、神木の実を取りに行ってこいと)
考え込むように口元に手をやったルーナは、足下に座るシリウスとレグルスをぼんやりと見つめながら、ふうっとため息を零す。
(自分でも宰相様に『行く』って言っちゃったから取りに行くのは別にいいんだけど、疑いをかけられてっていうのはちょっとやだな。そもそも前世の常識で考えちゃだめなんだろうけど、わたしが疑われるってことは、この世界じゃ九歳の女の子を、刺客かもしれない、って普通に考えるってことだよね)
久しぶりにカルチャーショックを受けながらも、ここは黙っていた方が良いだろうと判断し、ルーナはやり取りを続ける三人へと意識を戻した。
「チッ……エアデルトの王妃もろくでもないな」
リュシオンの舌打ちしながらの言葉に、ルーナはギョッと目を剥く。
(リュー……エアデルトの宰相様が目の前にいるのに、そんなこと言っちゃっていいの!?)
あわあわと動揺を隠せないルーナに、落ち着けとばかりにシリウスとレグルスがタシッと前足を彼女の膝にのせた。二匹の仕草に束の間ほっこりしたルーナだったが、すぐに我に返ってニール侯爵へ目を向ける。
しかしルーナの心配をよそに、彼はただ苦笑を浮かべているだけだった。
「お怒りはごもっともなれど、王妃陛下の要請をお断りになれば、どんな言いがかりをつけられるかわかりませぬ。正直に申しますと、ルーナ嬢への風当たりが厳しくなる程度で済めばよろしいですが、下手をすると身の安全に関わります」
「身の安全だと? ルーナに危害が加えられるとでも言うのか」
もはや怒りを隠さないリュシオンの言葉を、ニール侯爵はただ静かに肯定する。
「かの方は、それが出来るお立場でございます」
その答えに、リュシオンは苦虫を噛みつぶしたような顔で黙った。そんな彼に代わり、今度はジーンが口を開く。
「貴方の口ぶりでは、まるでルーナがここに留まるより、旅の一行に加わる方が安全のように聞こえますが……」
「そうですね……少なくとも一行には私の直属の部下を選びます。決してルーナ嬢を危険に晒すようなことはせぬとお約束いたしましょう。けれど、この城に残り王妃陛下のご不興を買った場合、安全は保証できかねます」
平静そのものの声音でありながらも、ニール侯爵の口元は自嘲するかのようにわずかに歪んでいた。
(王太子様までも倒れてしまった今、エアデルトの最高権力者は王妃様。あの人の不興を買っちゃったら、宰相様でも庇いきれるかわかんないんだ……)
ルーナが考えていることは、リュシオンやジーンもわかっているのだろう。ニール侯爵を睨んだまま、リュシオンは苦々しく言い放った。
「先ほどの言葉、違えるなよ」
「はい。腕の立つことはもちろん、信頼できる者を護衛としておつけします」
真摯に答えるニール侯爵に、リュシオンも納得するしかない。彼はため息混じりに前髪を掻き上げると、忌々しそうに再度侯爵を睨みつけた。
こうしてルーナは『神木の実』を求めて、エアデルトの王都からさらに旅立つことが決まったのだった。
†
しん、と静まり返った部屋の中、ルーナは椅子の上で居心地悪く身じろぎする。
ニール侯爵が出て行った後、リュシオンは不機嫌そうに背もたれに凭れかかって黙り込み、ジーンも眉間に皺を寄せたまま無言を貫き通していた。
(誰かこの空気、なんとかしてぇぇぇ!)
ルーナは心の中で叫びつつ、立ち上がって膝に頭をのせてきたシリウスとレグルスの頭を撫でる。
それでもしばらく室内では無言の状態が続いていたが、やがてジーンが大きなため息を一つつき、ポツリと零した。
「王妃ですか……厄介ですね」
「まったくだ。面白くはないが、ここは侯爵に従った方が、ルーナの身の安全は図れるだろうな」
リュシオンは不本意そうに言ってルーナに顔を向けた。
「ルーナ。のほほんとした顔をしているが、わかっているのか? 城にいて王妃の不興を買うよりはましとはいえ、旅となれば魔物や盗賊に出くわすかもしれないんだぞ」
「わ、わかってるよ? でもわたしにはしぃちゃんとれぐちゃんがいるし」
強い視線にたじろぎながらも、ルーナはシリウスとレグルスの背を軽く叩いて言う。それに応えて彼らはリュシオンに向き合った。
「我らがおれば心配ない」
「我らがおれば安全だ」
くわっと口を開けて告げる獣たちを凝視したリュシオンは、やがてフッとその表情を和らげた。
「確かにこいつらなら、下手な護衛より役に立つな」
「そうですね。シリウス、レグルス。どうかルーナをよろしくお願いしますね」
ジーンはクスクスと笑いながらリュシオンに同意すると、二匹に頼み込む。
「ルーナのことは、我らに任せておくがよい」
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凛々しく言い切る獣たちだが、見た目は子犬と子猫。四肢をピンッと張った二匹の様子に、ルーナは胸の前でぎゅっと両手を組んで叫ぶ。
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リュシオンの言葉にジーンは表情を引き締める。彼は顎に手をやり思案しながら口を開いた。
「カインの行方もそうですし、クレセニアでルーナたちを襲った魔法使い、彼が所持していた細工指輪についても調べておきたいですね。何か繋がれば王妃に対抗できる武器になるかもしれませんし」
「そうだな。今回の王太子の事件に限っては王妃は何も知らないようだが、偽王子を容認しているのならばカインについて知らぬはずはない。そう考えればクレセニアでの襲撃に王妃が関わっている可能性は高い。それが掴めれば王妃に対する牽制にもなるだろう」
リュシオンの推測に、ルーナは知らず知らずのうちに眉を寄せる。そして確認するようにおずおずと問いかけた。
「王妃様は自分の息子を確実にエアデルト国王にしたいんだよね?」
「それは確かだろうな」
「ってことは、自分の息子を傷つけるはずがないよね……?」
「ああ、ないだろうな」
ルーナの疑問に一々答えながら、リュシオンは彼女の言いたいことを理解したのだろう。続けて口を開いた。
「カインを襲うならともかく、自分の息子である王太子を襲う理由は王妃にはないな」
リュシオンが言うように、王妃が王太子を襲うことはありえない。では誰が、と考えれば、やはり浮かんでくるのはカインだった。
もちろんルーナは彼が犯人だとは思いたくはない。しかし、状況から推測するならば賊はカインとしか言いようがなかった。
「何があったんだろう……カインが人を傷つけるなんて……」
思わずルーナがつぶやけば、リュシオンが苦い顔でそれに答える。
「考えられるのは王太子がカインに斬りかかってきた、というところか」
自衛のために王太子を傷つけてしまった。それは考えられなくもないが、それでもルーナは今ひとつ納得できなかった。
「でも……今王太子様が死んだとしても、エアデルトの王子として認められていないカインにはなんの得もないよね?」
「そうだな。そう考えれば一番怪しいのはあの偽者――ヘクトルとかいった奴か」
リュシオンはルーナの言葉にうなずき、腕を組んで考え込む。
「でもあの人と王妃様は……仲間? 確か王妃様のお付きの人と一緒にいたよね……」
確信がないため疑問形でつぶやくルーナに、リュシオンは眉間に皺を刻んだ。
「ああ。ということは王妃があいつと繋がっているなら自分の息子を切り捨てたことになる。だがあの時の彼女の様子を見る限り、息子を溺愛してるって感じだったがな……」
「じゃあ、やっぱりカインが……」
俯いて唇を噛むルーナへ、ジーンが気遣わしげに声をかける。
「ルーナ、もしものことを考えても仕方がないし、きりがない。だからこそ、真実を探すために行動するしかないんだよ」
兄の言葉に顔を上げたルーナは、コクンとうなずいた。
「推測ばかりで不安になっても仕方ないよね。兄様の言う通り真実を前にしてから、初めてどうするか決めないと」
「そうだな。それに状況だけ見ればカインが怪しいのは確かだが、少なくとも本当のことを知る王太子は生きている。彼が目を覚ませば状況は必ず好転するはずだ」
リュシオンはルーナに向けてそう言うと、次にジーンへと視線を移す。
「わからないことを推測するより、まずは一番はっきりとした手がかりである指輪から調べることだな。そこから何か大きなものへと繋がるような気がする」
「はい。それについては私が動きます」
「頼む。俺は国王、そして王太子から目を離さないようにせねば。どのような思惑で、誰がやったのかわからなくても、襲われたのは事実だ。もう一度襲撃される可能性は捨てきれんからな」
(そっか……犯人がカインじゃなかった場合、王太子様の命が助かったってことは、彼の死を願っていた人物の計画は失敗ってことだもんね。もう一度命を狙う可能性もあるんだ……)
ルーナの考えを読んだのか、リュシオンは深刻な表情の彼女へ軽い調子で声をかけた。
「心配するな、そのために俺がいる」
自信に満ちたリュシオンの言葉に、ルーナは控えめな笑みを浮かべる。
「いいか。俺は国王や王太子の安全を守る。ジーンは細工指輪の工房から依頼主を探る。そしておまえは王太子を助けるために『神木の実』を取りに行く。それが俺たちがそれぞれ出来ることで、やるべきことだ」
「うん、そうだよね!」
ルーナはリュシオンの言葉にうなずくと、二人に強い眼差しを向けた。
†
エアデルトの王太子ユリウスが襲撃された日より三日後。
その夜ネグリジェにガウンといった寝支度を整えたルーナは、寝室にある出窓に両肘をつき、そこから見える景色をぼんやりと眺めていた。
居間を挟んでロドリーゴの寝室と続き部屋になった彼女の寝室は、城の南端に位置しているため、視線を遠くに向ければ王都の街明かりが見える。
ルーナが前世で目にしたような、煌びやかで明るい夜景ではないが、それでもあたたかみを感じる橙色の灯はどこか幻想的で、心が落ち着き、いつまでも見飽きることがない。
『何か面白いものでもあるのかえ?』
突然不思議そうに尋ねられ、ルーナは「ん?」と小さく応えながら、そちら――彼女の隣で精一杯背伸びをして窓を覗いている風姫――に目を向ける。
『先ほどから、ずっと外を見ておるであろう?』
ルーナの注意が自分に向けられたことに満足したのか、風姫は嬉しそうに尋ねた。そんな彼女の気持ちに気づき、ルーナはふふっと笑いながら風姫の頭を撫でて心の内を明かす。
「明日、出発でしょ。少しだけ……ほんの少しだけ不安になっちゃったの」
エアデルト王太子を救う『神木の実』。それを手に入れるため、ルーナは明日この城を出立することになっていた。
旅はリュシオンたちと共に辿った、クレセニアからエアデルトまでの道程より、さらに過酷なものになるだろう。何より、神木の実を見つけられるかどうか不安だった。
その不安を打ち明けた彼女に、風姫はフッと口角を上げると力強く宣言する。
『心配することはないぞ。ルーナには妾がついておる!』
それですべて解決すると言いたげな風姫に、ルーナは最初目を丸くしたが、次いで花が綻ぶような笑みを浮かべた。その笑顔が嬉しくて、風姫はルーナに抱きつこうとしたが、それより早く彼女とルーナの間に入り込んでくる二匹の獣たち。
「何を言っている! 我らがいればおぬしの出番などないわ!」
「そうとも。我らがついておるゆえ、ルーナに心配などいらぬ!」
『しぃれぐよ、妾が先にそう申したのであろう! 後から真似をするな!』
騒々しく言い合う二匹と精霊に吹き出しつつも、ルーナはその心遣いに感謝する。
「ありがとね。明日からはリューや兄様と一緒じゃないし、少しだけ心細くなっちゃったみたい」
「そうか。だが心細さなど感じる前に、さっさと神木の実を手に入れて戻ってくれば良いぞ」
シリウスはルーナに頭を撫でられ、目を細めながらそう答える。それに負けじと風姫は彼女のネグリジェの裾を引いて訴えた。
『妾たち風の精霊にかかれば、隠されたものを見つけることなど造作もない』
「なに、風の者になど頼らずとも、我が見つける」
レグルスまでも参加しての再度の言い合いに、ルーナは心の内から不安が完全に溶けて消えるのを感じた。
「うん。風姫さんも、しぃちゃんもれぐちゃんもいるんだもんね……よし! ちょっと早いけど明日に備えてもう寝ようか?」
ルーナは明るい調子で風姫と獣たちに声をかける。だが答えはなく、彼らは窓の方へと一斉に目を向け、そのまま動きを止めていた。
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