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幼馴染 高屋敷玄の話 再び

高屋敷玄の話 ~大天使の名前をもつ弁護士~

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 ミカエル・ル・モンドは、ワインのおかわりを、俺はビールを頼んだ。

「あの、本当に朔の、弁護士さんなんですか?」

 俺は、名刺を何度も見ながら、信じられずに、聞いた。

 弁護士は、中川社長のとこの、あの、喰えない吉田明弘弁護士 のはずだった。

「はい。彼女がまだ駆け出しの頃からの弁護士です。と言っても、朔はすぐに売れっ子になってしまったので、駆け出す間もなかったのですが」

 彼は、そう言って笑った。

「私は、彼女がフランスで所属していたモデル事務所の顧問弁護士なんですよ。モデル達は、様々な問題を抱えていますからね。どうしても、私のようなものが必要になります。美しい女や男にトラブルはつきものだし、美しい人間は得てして傲慢なものです。そして、それが許される」

 ミカエルは、まるでそれが当たり前のように頷いた。

「だが、朔はそんな傲慢さはみじんもなかった」

 あなたも知ってるでしょ?

 彼は、懐かしそうに俺を見た。

「朔は素晴らしかった。誰もが皆、朔に惹かれた。どちらかというと、難しい性格の紳士やレディほど、彼女を好み、愛した。あれは狂信的なと言ってよいほどだった。もちろん。ジョワのジョーも、パウルも……私も。ね」

「彼らをご存じなんですか?」

 朔の話を聞くばかりで、実際に会ったことのない、朔を大事にしてくれた人の名だった。

 最期は朔と家族になってくれた人たちだ。

「もちろんです。私は彼の弁護士でもある。彼というか、ジョンと、パウルと、朔の、マークレー家の顧問弁護士です。はじめはビジネスの関係だったが、そのうち、私達は良き友人となりました」

 細かい泡が入ったビールと琥珀色のワインが運ばれてきたので、俺たちは乾杯をした。

「あなたの話はよく聞きました。一番大変な時を支えてくれた、最も大事な人の一人だと。いつも言っていましたよ」

 熱い塊がのど元までせり上がったので、俺は、あわててビールを流し込んだ。

「結局、何もできなかった。朔が、全部自分でやったんです」

 本当にそうだった。父のように満を助けることもできず、朔を日本にとどめることもできず、俺は安穏と生きていただけだ。

「そんなことはないです」

「いや、俺は、朔が日本に帰ってきてからは一回も会ってないし、なんにも言わず結婚したし」

 そう。何にも。

 俺が、朔をずっと好きだったことも、伝えられなかった。

「あなたが早く結婚したことを言っているのならそれは、しょうがない。えーと、朔はよく言っていました。えーと、円がいや、縁がなかった」

 俺は、彼の言い間違いに少し笑った。

「縁がなかったって、朔はそう言っていたのですか?」

「ええ」

 彼は同情するように俺を見た。

「朔から預かったものってなんですか?」

 これ以上この話をしたくなくて、俺は話題を変えた。

「これを」

 ミカエルは、書類鞄の中から白い封筒を取り出した。

 封筒の住所は、俺の勤めている病院宛てだった。

 朔の字だ。

 俺は久しぶりに見た朔の字を、そっと指で触れた。

「朔のささやかな荷物を整理していたら、それがでてきました。本当は郵送でも良かったのですが、私はあなたに会いたかった。あれだけの素晴らしい男達が、いくら愛を捧げても、朔の心は常にあなたに、ここ日本にあった」

 だから

 ミカエルは続けた。

「どうぞお幸せに。朔はいつもそれを願っていました」

 ミカエルが俺の肩をきつく抱きしめた。
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