55 / 86
水島朔の話 十六歳
水島朔の話 ~写真~
しおりを挟む
「東洋人の、この肌質はなんなのかしらね。そしてこの髪の黒いこと。長いこと。オニキスみたいな瞳と真珠みたいな肌の色と、理想的な膝から下の足」
ジョルジュと名乗るカメラマンが、まくしたてるようにフランス語を話し、次々とシャッターを切っていく。
狭いスタジオに、人があふれるくらい入っていた。
誰かが出入りする度に部屋が明るくなり、ジョルジュがあからさまに舌打ちをした。
「あんたたち! ちょこちょこ出たり入ったりしないで! ダフネ! もう、スタッフは立ち入り禁止にして!」
ジョルジュが、半ば切れ気味に言った。
「ふふん。どう?」
出来上がった写真は自分じゃないみたいだった。
大人にも、子どもにも見えるし、女性にも男性にも見える。
魅力的な、圧倒的なパワーがあった。
「すばらしいわ」
「あたりまえよ」
ジョルジュは真っ赤な唇を突き出し、その美しい片目をつぶった。
パリでエージェントに所属することができたラッキーなモデルは、ブランドのキャスティング日程を教えてもらえる。
どうやらわたしは、そのラッキーなモデルの一人になれたようだった。
ブランドの顔とされるモデル以外は、キャリアが長かろうが、短かろうが、全員、キャスティング、つまり、オーディションに参加する。
パリコレと一言で言っても、かなりの数のブランドがあり、様々な条件がある。
それらを全部加味して、エージェントは、わたしが参加するキャスティングのスケジュールを組んでくれるのだ。
ダフネは恐ろしい日程でわたしのキャスティングを組んだ。
わたしは毎日、必死で時計を見、時間と戦いながらキャスティング会場から会場へと、蜂のように飛び回った。
見ていると、他のモデルもそんなに変わらないらしい。
雑誌でよく見る顔も、素人のようなモデルも、同じふるいにかけられる。
正直、モデル達があんな細い身体の、どこにそのパワーがあるのかと思うくらいのハードなスケジュールだ。
慣れない土地と水とで体重を落とさないようにするには、かなりの努力が必要だった。
『もりしげ』のおばさんの愛を、日本食を、どうしてもっと持ってこなかったかと後悔した。
わたしは、毎日、鍋でお米を炊き、おにぎりを握った。
玄に電話をすると泣きそうだったので、なるべく彼からのラインも読まないようにした。
それでも。
毎日、玄からラインが届いたことを知らせる、携帯電話の甘い金属音が、わたしを奮い立たせた。
マリーは、わたし達が借りているロフトにも、ほとんど帰ってこなかったので、マリーとわたしは、ほとんど顔をあわせなかった。
所属しているパリのエージェントが違うので、彼女が、キャスティングにどのくらい行っているのかもわからなかった。
一回だけ、マリーとキャスティング会場で会うことがあり、遠くからウィンクしてくれた。
わたしは、たったそれだけで、泣きたいくらい嬉しかった。
ジョルジュと名乗るカメラマンが、まくしたてるようにフランス語を話し、次々とシャッターを切っていく。
狭いスタジオに、人があふれるくらい入っていた。
誰かが出入りする度に部屋が明るくなり、ジョルジュがあからさまに舌打ちをした。
「あんたたち! ちょこちょこ出たり入ったりしないで! ダフネ! もう、スタッフは立ち入り禁止にして!」
ジョルジュが、半ば切れ気味に言った。
「ふふん。どう?」
出来上がった写真は自分じゃないみたいだった。
大人にも、子どもにも見えるし、女性にも男性にも見える。
魅力的な、圧倒的なパワーがあった。
「すばらしいわ」
「あたりまえよ」
ジョルジュは真っ赤な唇を突き出し、その美しい片目をつぶった。
パリでエージェントに所属することができたラッキーなモデルは、ブランドのキャスティング日程を教えてもらえる。
どうやらわたしは、そのラッキーなモデルの一人になれたようだった。
ブランドの顔とされるモデル以外は、キャリアが長かろうが、短かろうが、全員、キャスティング、つまり、オーディションに参加する。
パリコレと一言で言っても、かなりの数のブランドがあり、様々な条件がある。
それらを全部加味して、エージェントは、わたしが参加するキャスティングのスケジュールを組んでくれるのだ。
ダフネは恐ろしい日程でわたしのキャスティングを組んだ。
わたしは毎日、必死で時計を見、時間と戦いながらキャスティング会場から会場へと、蜂のように飛び回った。
見ていると、他のモデルもそんなに変わらないらしい。
雑誌でよく見る顔も、素人のようなモデルも、同じふるいにかけられる。
正直、モデル達があんな細い身体の、どこにそのパワーがあるのかと思うくらいのハードなスケジュールだ。
慣れない土地と水とで体重を落とさないようにするには、かなりの努力が必要だった。
『もりしげ』のおばさんの愛を、日本食を、どうしてもっと持ってこなかったかと後悔した。
わたしは、毎日、鍋でお米を炊き、おにぎりを握った。
玄に電話をすると泣きそうだったので、なるべく彼からのラインも読まないようにした。
それでも。
毎日、玄からラインが届いたことを知らせる、携帯電話の甘い金属音が、わたしを奮い立たせた。
マリーは、わたし達が借りているロフトにも、ほとんど帰ってこなかったので、マリーとわたしは、ほとんど顔をあわせなかった。
所属しているパリのエージェントが違うので、彼女が、キャスティングにどのくらい行っているのかもわからなかった。
一回だけ、マリーとキャスティング会場で会うことがあり、遠くからウィンクしてくれた。
わたしは、たったそれだけで、泣きたいくらい嬉しかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる