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水島朔の話 十六歳

水島朔の話 ~写真~

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「東洋人の、この肌質はなんなのかしらね。そしてこの髪の黒いこと。長いこと。オニキスみたいな瞳と真珠みたいな肌の色と、理想的な膝から下の足」

 ジョルジュと名乗るカメラマンが、まくしたてるようにフランス語を話し、次々とシャッターを切っていく。

 狭いスタジオに、人があふれるくらい入っていた。

 誰かが出入りする度に部屋が明るくなり、ジョルジュがあからさまに舌打ちをした。

「あんたたち! ちょこちょこ出たり入ったりしないで! ダフネ! もう、スタッフは立ち入り禁止にして!」

 ジョルジュが、半ば切れ気味に言った。





「ふふん。どう?」

 出来上がった写真は自分じゃないみたいだった。

 大人にも、子どもにも見えるし、女性にも男性にも見える。

 魅力的な、圧倒的なパワーがあった。

「すばらしいわ」

「あたりまえよ」

 ジョルジュは真っ赤な唇を突き出し、その美しい片目をつぶった。





 パリでエージェントに所属することができたラッキーなモデルは、ブランドのキャスティング日程を教えてもらえる。

 どうやらわたしは、そのラッキーなモデルの一人になれたようだった。

 ブランドの顔とされるモデル以外は、キャリアが長かろうが、短かろうが、全員、キャスティング、つまり、オーディションに参加する。

 パリコレと一言で言っても、かなりの数のブランドがあり、様々な条件がある。

 それらを全部加味して、エージェントは、わたしが参加するキャスティングのスケジュールを組んでくれるのだ。

 ダフネは恐ろしい日程でわたしのキャスティングを組んだ。

 わたしは毎日、必死で時計を見、時間と戦いながらキャスティング会場から会場へと、蜂のように飛び回った。

 見ていると、他のモデルもそんなに変わらないらしい。

 雑誌でよく見る顔も、素人のようなモデルも、同じふるいにかけられる。

 正直、モデル達があんな細い身体の、どこにそのパワーがあるのかと思うくらいのハードなスケジュールだ。

 慣れない土地と水とで体重を落とさないようにするには、かなりの努力が必要だった。

 『もりしげ』のおばさんの愛を、日本食を、どうしてもっと持ってこなかったかと後悔した。

 わたしは、毎日、鍋でお米を炊き、おにぎりを握った。

 玄に電話をすると泣きそうだったので、なるべく彼からのラインも読まないようにした。

 それでも。
 毎日、玄からラインが届いたことを知らせる、携帯電話の甘い金属音が、わたしを奮い立たせた。

 マリーは、わたし達が借りているロフトにも、ほとんど帰ってこなかったので、マリーとわたしは、ほとんど顔をあわせなかった。

 所属しているパリのエージェントが違うので、彼女が、キャスティングにどのくらい行っているのかもわからなかった。

 一回だけ、マリーとキャスティング会場で会うことがあり、遠くからウィンクしてくれた。

 わたしは、たったそれだけで、泣きたいくらい嬉しかった。
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