王妃 ジョア~日本人水島朔が王妃と呼ばれるまでの物語 ~

ぺんぎん

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水島朔の話 十六歳

水島朔の話 ~パリ行き~

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 何かを捨てると、何かが入ってくる。

 十六歳になる頃には、ファッション雑誌の専属やティーンズブランドの契約など、気が付けば、仕事を選ばなければ、毎日が回らないくらいになっていた。

 マネージャーの送り迎えがつき、『もりしげ』の朝の仕込みも、できない日が多くなっていった。

 パリ行きの話しが出たのは、そんな折だった。

「朔、パリではどこに泊まるの?」

 コレクションの打ち上げで、同じ事務所のモデル、マリーが言った。

 マリーは、フランス人で、一年前、日本に来たときからのつきあいだった。

 最初はたどたどしかった日本語も、日本人の彼氏できたとたん、めきめき日本語がうまくなった。

 言語の上達には愛がかかせないものだ。とわたしはしみじみ思った。

 ただ、その愛は、すれ違うことも多かった。

 彼とマリーの間に、ひどい喧嘩が起こった時は、必ずわたしが呼ばれた。

 二人の間に入って、日本語とフランス語で通訳をして、なんだか知らないけど、イチャイチャしはじめて、部外者は退場。となるまで、付き合った。

 マリーは激情型だが、愛情も深かった。

 素直で、性格に表裏がなく、わたしの貴重なモデル友達だった。

「パリ?」

 わたしは、もう一度マリーに聞いた。

「そ。パリ。フランスの時のモデル友達と一緒に、パリコレの間だけ、ロフトを借りたんだけど、その友達がこれで」

 マリーは、自分のぺたんこのお腹の前で、まあるく膨らませるように両手で弧を描いた。

「まだ泊まるところ決まってなかったら、一緒にどう?」

「パリって行ったことないんだよね」

「うそでしょ。あんなに歩けて、その顔と手足を持っていて、行ったことないんですって。何やってるのよ? もったいないわよ。チャレンジするべきよ」

 パリコレクション。

 考えたことがないわけではなかった。

 まだ早いと思っていた。

 でも。

「クソみたいな批評家も、うなるほどいるけど、運良くハイブランドを歩けば一気に世界が注目するわよ」

 マリーは不敵に笑った。

「そうね……マネージャーに相談してみるかな」

 マリーは、そう来なくっちゃ。と笑った。

「決まったら連絡ちょうだい。朔と一緒だったら、あのしんどいセレクションの毎日も乗り切れそう」





 わたしは、マネージャーに言う前に、林鈴相談した。

 林鈴は、わたしの話を聞くなり「何をぐずぐずしていたの? 行きなさい」と、にべもなく言った。

 社長は、向こうでの知り合いの連絡先を、何件も渡してくれ、困ったらこいつらの所に行くように。と何度も言った。

 チケットの手配からパスポートの申請までは、小山さんが手早くやってくれた。

 社長と小山さんに拾ってもらって、本当に良かったと、しみじみと思った。

 おばさんは、心配しながらも、お手製の梅干しやら、お茶やら、果てはしいたけなんかの乾物まで準備してくれた。

「食事が基本だからね。きちんと、三食食べるんだよ」

「はい」

 わたしはそう返事をしながら、洋服より多い食材を、どうやってキャリーバッグにいれようかと頭を悩ました。
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