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水島朔の話 中学

水島朔の話 ~受験~

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「水島。ほんっと――うに、いいのか?」

 担任の山田先生が、定時制高校の願書を受け取りながらそう聞いた。

「はい」

「お前、先月の模試、何位だったよ? もったいないなあ。社長さんに言いづらいなら、俺から言ってやるよ?」

「社長も、お世話になっている「もりしげ」のみなさんも、みんな全日制の高校に行くようにと言ってくださったのですが、わたしが、お断りしたんです」

「仕事か?」

「はい」

「しょうがないか。この間のトーク番組も面白かったぞ。ほら。あの、お笑いの人とでていたヤツ。お前、学校じゃあ、ほとんどしゃべらないけど、実は面白いんだな」

「ありがとうございます」

 わたしは、あいまいな笑顔を浮かべながら、お礼を言って職員室を出た。

「あれ? 今日は仕事ないの?」

 職員室の前では、満がバスケ部の仲間達と、組んずほぐれつしながらふざけあっていた。

「ううん。今から行くとこ。あんた、またそんなカッコで。風邪引くわよ」

 もう雪虫が飛んでいるというのに、満をはじめ、男子達は全員、半袖の体育着を来ている。

「あ、お姉さんだ。お姉さんサインください」

 満の友達が、ふざけて言ってくる。

「何枚でも書くわよ。そのかわり、弟をよろしくね」

 もっちろんで――す。と、追いかけてくる声に、ひらひらと掌を振りながら、わたしはその場を離れた。

 笑った声が後を追っかけてくる。

 それだけで、姉さんはがんばれるというものよ。

 ほんとうに。

 廊下を歩いて行くと、隣の教室にいる玄をみつけた。

 机に半分腰掛けながら、友人たちと楽しそうに話をしている。

 何を言ったのか、玄の言葉に周りの子達がわっと笑った。

 なんであんな人気者がわたしと仲良くしてくれているのかわからなかった。

 私たちがどんな時も、いつも一緒にいて、いつも一緒に考えてくれた。

 今ここでこうしているのも、彼のおかげだ。

 だからこそ。

 わたしは、そっとため息をついた。

 言わなきゃ。

 高校はもう決まったって。

 言わなきゃ。

 気持ちばかりが焦るが、玄の顔を見ると、どうしても言えなかった。

 玄が、教室の中からわたしを見つけて手をあげた。

 また、そんなことをする。

 だから、みんな誤解をするのだ。

 腹立ち紛れた気持ちで、わたしは、自分の教室のドアを思いっきり引いた。

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