49 / 86
水島朔の話 中学
水島朔の話 ~受験~
しおりを挟む
「水島。ほんっと――うに、いいのか?」
担任の山田先生が、定時制高校の願書を受け取りながらそう聞いた。
「はい」
「お前、先月の模試、何位だったよ? もったいないなあ。社長さんに言いづらいなら、俺から言ってやるよ?」
「社長も、お世話になっている「もりしげ」のみなさんも、みんな全日制の高校に行くようにと言ってくださったのですが、わたしが、お断りしたんです」
「仕事か?」
「はい」
「しょうがないか。この間のトーク番組も面白かったぞ。ほら。あの、お笑いの人とでていたヤツ。お前、学校じゃあ、ほとんどしゃべらないけど、実は面白いんだな」
「ありがとうございます」
わたしは、あいまいな笑顔を浮かべながら、お礼を言って職員室を出た。
「あれ? 今日は仕事ないの?」
職員室の前では、満がバスケ部の仲間達と、組んずほぐれつしながらふざけあっていた。
「ううん。今から行くとこ。あんた、またそんなカッコで。風邪引くわよ」
もう雪虫が飛んでいるというのに、満をはじめ、男子達は全員、半袖の体育着を来ている。
「あ、お姉さんだ。お姉さんサインください」
満の友達が、ふざけて言ってくる。
「何枚でも書くわよ。そのかわり、弟をよろしくね」
もっちろんで――す。と、追いかけてくる声に、ひらひらと掌を振りながら、わたしはその場を離れた。
笑った声が後を追っかけてくる。
それだけで、姉さんはがんばれるというものよ。
ほんとうに。
廊下を歩いて行くと、隣の教室にいる玄をみつけた。
机に半分腰掛けながら、友人たちと楽しそうに話をしている。
何を言ったのか、玄の言葉に周りの子達がわっと笑った。
なんであんな人気者がわたしと仲良くしてくれているのかわからなかった。
私たちがどんな時も、いつも一緒にいて、いつも一緒に考えてくれた。
今ここでこうしているのも、彼のおかげだ。
だからこそ。
わたしは、そっとため息をついた。
言わなきゃ。
高校はもう決まったって。
言わなきゃ。
気持ちばかりが焦るが、玄の顔を見ると、どうしても言えなかった。
玄が、教室の中からわたしを見つけて手をあげた。
また、そんなことをする。
だから、みんな誤解をするのだ。
腹立ち紛れた気持ちで、わたしは、自分の教室のドアを思いっきり引いた。
担任の山田先生が、定時制高校の願書を受け取りながらそう聞いた。
「はい」
「お前、先月の模試、何位だったよ? もったいないなあ。社長さんに言いづらいなら、俺から言ってやるよ?」
「社長も、お世話になっている「もりしげ」のみなさんも、みんな全日制の高校に行くようにと言ってくださったのですが、わたしが、お断りしたんです」
「仕事か?」
「はい」
「しょうがないか。この間のトーク番組も面白かったぞ。ほら。あの、お笑いの人とでていたヤツ。お前、学校じゃあ、ほとんどしゃべらないけど、実は面白いんだな」
「ありがとうございます」
わたしは、あいまいな笑顔を浮かべながら、お礼を言って職員室を出た。
「あれ? 今日は仕事ないの?」
職員室の前では、満がバスケ部の仲間達と、組んずほぐれつしながらふざけあっていた。
「ううん。今から行くとこ。あんた、またそんなカッコで。風邪引くわよ」
もう雪虫が飛んでいるというのに、満をはじめ、男子達は全員、半袖の体育着を来ている。
「あ、お姉さんだ。お姉さんサインください」
満の友達が、ふざけて言ってくる。
「何枚でも書くわよ。そのかわり、弟をよろしくね」
もっちろんで――す。と、追いかけてくる声に、ひらひらと掌を振りながら、わたしはその場を離れた。
笑った声が後を追っかけてくる。
それだけで、姉さんはがんばれるというものよ。
ほんとうに。
廊下を歩いて行くと、隣の教室にいる玄をみつけた。
机に半分腰掛けながら、友人たちと楽しそうに話をしている。
何を言ったのか、玄の言葉に周りの子達がわっと笑った。
なんであんな人気者がわたしと仲良くしてくれているのかわからなかった。
私たちがどんな時も、いつも一緒にいて、いつも一緒に考えてくれた。
今ここでこうしているのも、彼のおかげだ。
だからこそ。
わたしは、そっとため息をついた。
言わなきゃ。
高校はもう決まったって。
言わなきゃ。
気持ちばかりが焦るが、玄の顔を見ると、どうしても言えなかった。
玄が、教室の中からわたしを見つけて手をあげた。
また、そんなことをする。
だから、みんな誤解をするのだ。
腹立ち紛れた気持ちで、わたしは、自分の教室のドアを思いっきり引いた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる