神蛇の血

ぺんぎん

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忠義と清灯

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「清灯。おい。待てよ清灯」

 足早に先を行く清灯を、忠義が追う。

「おい。待てってば」

「なんだ」

 足を止めず、清灯が聞き返した。

「なんだよ。さっきのは。ちい姫にあんな言い方して。どうしたんだよ」

「……まだ責めてるのか? 親父さんのこと」

「当たり前だ!」

 清灯が声を荒げて振り返った。

「紫野で受けた修行は、忠義。お前が思っているような甘いものではない。ましてや、紘子は、あんな血のせいで、つねに命を狙われて、命を落としかけたことだって、一度や二度じゃないの、お前も知っているだろ?」

「……だからって、お前が自分を責めることないじゃないか。母親と会いたくて泣くちい姫を見るたびに、まるで自分のせいみたいに」

「責めてなんかいない」

「責めてるだろ。その自己嫌悪がちい姫に八つ当たりする原因だろ!……そんなに自分を責めんなよ」

「……俺が、もう少し早く産まれていたら……あの時、怖がらずに逃げ出さなければ……紘子の母宮が死ぬ前に母宮に会わせてやれた。俺が、紘子の中にある守りの「力」を受け継いでやれたら、紘子は今頃誰からも愛され、大切にされていたのに。俺の「力」が足りないばかりに紘子の「力」を受け取れない。あんなにも孤独にさせているのは、俺のせいなんだよ」

「いやいやいや」

 忠義は、はあっとため息をついた。

「お前のせいじゃないから。ちい姫は、自分の身は自分で守れるくらい大きくなったじゃん。お前と、お前の親父さんのおかげだろ?」

 ふるふるふる。

 清灯が子供のように首を振った。

「お前のおかげだって。お前がその身をかけて、あいつを守ったからだよ。もう、あいつは子供じゃない。紫野の大齋院様だって、それを知っているから、ちい姫の帰京を許したんだ」

 わかっているだろ?

 ふてくされたような顔をして、清灯が忠義を見上げた。

「あのな。清灯。お前だって、ちい姫が東宮妃になって、宮中奥深くに押し込められていた方が幸せだなんて、思っちゃいないだろ?」

 忠義の大きな手のひらが、清灯の華奢な肩を軽く叩いた。

 清灯の喉にあったつかえが、すとんと落ちた気がした。

「確かにな」

 清灯はこらえきれなくて、思わず噴き出した。

「兄ちゃんの言うことは聞いとけっていっただろ――? 誰も責めるなよ。何にも生み出さんぞ」

「誰が誰のなんだって?」

「僕だよ。僕が君の兄ちゃん。年上なんだからね。お前が小さい頃、夜中におしっこに行けなくてって、うわ。清灯! この火、消してって。ごめんってば」

 急に空中に現れた青い色の火は、清灯の赤く染まった頬を隠すようにあたりを照らした。





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