飛行機から落ちたら引きこもり王子を外に出す羽目になりました

ぺんぎん

文字の大きさ
上 下
22 / 26

夏至当日~兄さん~

しおりを挟む
シュカ以外の彼氏達は彼らだけで集まって遊び、シュカは俺の家には来るがセイカの頭脳に頼りに来るだけだと言う。

「はぁ~……寂しいなぁ、俺につきっきりで教えてくれる優しい彼氏は居ないのかね」

「教えてあげてもいいけど~、みっつん絶対途中で「君の身体についても知りたいな」なんてイケボセクハラかまして押し倒してくるじゃん」

よく分かっているじゃないか。

「しょうがない……今日は我慢するよ。課題終わらせたら相手してくれよ?」

「もちろん!」

「約束したもんなぁ」

「がん、ばって……ね、みぃくん」

みんな可愛い。

「やる気出るなぁ。あっ、そうだ。みんなちょっとこっちに……こっちこっち」

「何?」

「なんやなんや」

「……? みぃくん……?」

大切なことを思い出した俺は彼氏達を図書館の裏手の人気がなく薄暗い場所へ集めた。ジメジメしているだの虫が居そうだだのと文句が出ている、早いところ用事を済ませてしまわねば。

「コンちゃんについて説明するよ」

「そういや言ってたね~……こんなとこで?」

「まず、俺は京都旅行に行った。ハルと出かけたな、そこで神社に寄って、石像の修理を手伝ったんだ」

「そうそう、首もがれた狐の像があってね~、首どっかやられてたんだけど、みっつんが何かすぐに見つけちゃったんだよね~。すごかったぁ~」

「その件で俺はその石像に気に入られたというか、修理の御礼に来てくれたからそこを口説いたら落ちてくれたというか……そんな感じなんだ。コンちゃん、ちょっと適当に化けてみて」

説明するより見せる方が早い。俺がそう言うとミタマはこくりと頷き、ポンッと軽い音を立てて姿を三尾の狐へと変えた。

「……えっ? な、何? 狐!? えっどこから……えっデカくない?」

「しっぽ、裂け……てる? けが……?」

ハルとカンナは困惑し、リュウはため息をついて「ガチやん……」と頭を抱え、シュカは目を見開いて動かなくなった。

「あれ、コンちゃんどこ? 」

「だから、この狐がコンちゃん」

ポンッと音を立ててミタマが少年の姿へ変わる。季節外れのマフラーを身に付けた、和服の金髪美少年だ。

「ワシは稲荷神社の狛狐の付喪神なんじゃよ。みっちゃんが修理してくれて助かった……じゃからお礼に大金を手に入れさせてやったんじゃが、こやつ金よりワシが欲しいと言い出しての」

「そ、そんな言い方したっけ……?」

「参拝客も来んで寂しいし、正体を知ってもなお口説いてくる人間なんて面白過ぎじゃ。人の子らはみんな可愛らしいし、一時俗世を楽しむのもよかろう。ということでワシはみっちゃんの彼氏じゃ、ヌシらとも仲良うしたい。改めてよろしくなのじゃ」

「つ、つまり……つまり、だよ?」

困惑したままながらハルが状況をまとめようと口を開いた。

「コンちゃんは、マジシャンってこと?」

「む……化ける瞬間を見ても信じんか。昨今の人間は疑り深いのぉ~」

呆れたように言いながらミタマは人の姿のまま狐の耳と尻尾を生やし、ハルの手を掴んで耳に触らせた。

「これが偽物だとまだ思うか?」

「ひっ……あ、あったかい……ぁあぁ震えたぁっ、動いたっ、ぴるぴるしてるぅっ……」

「耳はくすぐったいのじゃ。しーちゃん、しーちゃんも触るかの? しゅーちゃんもどうじゃ?」

カンナは恐る恐る差し出された尻尾を握る。シュカはまだ固まったままだ、瞬きすらしていない。

「……あった、かい。中……骨、ある。ほん、も……の……しっぽ」

「痛た、耳を引っ張るでないぞはーちゃん」

「と、取れないっ、周りの頭皮も引っ張られてる感あるし……マジで生えてるっ」

「……っ、ハル! 引っ張りなや無礼やなほんま! すんません!」

ミタマの耳を力強く引っ張っていたハルの手をリュウが叩き、ハルを羽交い締めにして引き離すと、背に庇うようにしつつミタマに頭を下げた。

「う、うむ……ワシが触れと言うたんじゃし、謝らんでもよいが…………のぅみっちゃん、ワシなんか怖がられとらんか? やっぱりこすぷれ好きの人間としておくべきだったかのぅ」

「途中でバレちゃったら余計怖がられてそこからの挽回難しそうだし、最初にバラした方がいいと思ったんだけどなぁ俺は。そのうち仲良くなれるよ。なっみんな」

「………………ほ、ほんとに、なんか……お化け、なの? 人間じゃ……なくて? 居るんだ、そういうの……」

「……こ、ちゃん」

「うん? 何じゃ、しーちゃん」

「かっぱ、居る?」

「ワシ神社から出たの初めてじゃからのぅ、他のお化けについては詳しゅうないんじゃ。期待に応えられんですまんの」

カンナ、やっぱりなんかズレてて可愛いな。

「じゃあさ……神様は、居るの?」

「居るぞぃ」

「じゃあなんで! 悪いヤツが普通に成功しちゃったりしてんの? おかしくない? なんでこんな正直者がバカ見ちゃうような世界な訳? 神様が本当に居るのにさ!」

「そりゃ人間のやることに手出しする神が少ないからじゃろ。公平性や平和を好む神ばかりという訳でもない……神も多種多様、千差万別……その成功しとる悪人とやらが何かしらの神に愛された血筋なのかもしれんのぅ」

「…………何それ。居ないって思ってたもんが居るって分かっても……居ない方がマシって感じなんだけど」

「神社に居る神は大抵人間に力を貸すのが好きじゃから、その神に合った祈りじゃったらええ方向に進んだりするぞぃ。しかし人間が夢見るような過干渉は神は行わん」

リュウはうんうんと頷いている。流石神社生まれ。

「……じゃがのぅはーちゃん、狐は違うぞぃ? 狐は過干渉など気にせん、対価を寄越すと約束するのなら望むものを与えてやる。それが狐じゃ」

口の端を吊り上げて、細い目を更に細めて、ミタマは極めて胡散臭く邪悪な笑みを浮かべる。

(圧倒的強キャラ感……!)

鼻先が触れ合うほどハルに顔を寄せ、尻尾を妖艶に揺らめかせ、人間を悪の道へ誘うように言葉を紡ぐ。

「平等を好むのならば神へ祈るより狐に頼むのじゃ。悪を、傲慢を、祟ってくれと。人外により人の世の理を歪めるのじゃから、それなりの覚悟と対価が必要じゃがな」

「……コ、コンちゃん! ちょっと、怖いよ。コンちゃん付喪神で正確には狐じゃないでしょ、そんなことしないでしょ?」

ハルが青ざめているのを見て、これ以上はミタマが挽回不可能なほど恐れられてしまうと判断した俺は口を挟んだ。

「稲荷神社に居ったから狐の働きには詳しいぞぃ。確かにワシは狐そのものではないが、狐を模して作られたのじゃ。狐の真似事も可能ではあるし、やりたくなるのじゃ」

「コン、ちゃん……」

この胡散臭い微笑みは、単なる人相の問題ではないのだろうか。人懐っこい善良な普段の言動よりも、見た目の印象の方が彼の本性に近いのだろうか。

「願われれば、祈られれば、頼まれれば、叶えようとしてしまう。じゃからのみっちゃん、他の者も……可愛い人間達の中でも特に可愛らしい、愛しき友人達よ、悪しき思いは抱くでないぞ。叶ってしまえば魂が穢れる」

いや、やはり彼は優しく善良だ。だからこそあえて自分の恐ろしさを垣間見せ、軽はずみに自らの力を使わせないよう牽制してみせたのだ。

「コンちゃん」

「ん? なんじゃみっちゃ……こんっ!? な、なんじゃ、なんなんじゃ……突然っ」

怖がられたくないと言っていたくせに、彼氏達のためにあえて怖がられるよう振る舞った彼が愛おしくて、俺は彼を背後から強く抱き締めた。腹に当たる尻尾達がモゾモゾとくすぐったい。
しおりを挟む
読んでくださって、お気に入りに入れてくださって本当にありがとうございました。毎日励みになりました。暑いのでお身体くれぐれも大事になさってください。
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】 とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。 そこから少女の生活は一変する。 なんとその本は魔法のステッキで? 魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。 異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。 これは人間の願いの物語。 愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに―― 謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...