1 / 1
思い出のとんぼ
しおりを挟む
「晴人はへたっぴだなぁ」
そう言ってくしゃっと笑うおじいちゃんが、僕は大好きだった。僕よりも遥かに高くあげられた人差し指は、空にも届いてしまいそうで。
「ほら、簡単だろ?」
しわだらけの右手に一匹の赤とんぼが止まっている。僕は何度やってもできないのに、おじいちゃんはまるで達人のように捕まえた。悔しくて僕もぴんと空へ手を伸ばすけど、ただ夕空を指すだけで飛び交うとんぼは止まらない。
「いつか僕も、おじいちゃんみたいにとんぼ捕まえられるようになる!」
おじいちゃんは楽しみだな、と笑い僕の頭を撫でた。
でも。
ある日を境に、おじいちゃんは、 空に住むようになって会えなくなってしまった。写真の中でくしゃっと笑うおじいちゃんに、戻ってきてほしいと何度も伝えたけど、会える日が来ることは無かった。
どんな形でもいい。もう一度会いたい。だいすきなおじいちゃんとの約束を、どうしても叶えたい。
それから一年ほど経った頃。
「晴人、とんぼ見に行こう」
おばあちゃんは僕を誘って、おじいちゃんと行っていた河川敷へと向かった。
いつもと変わらない景色、変わらない音、変わらない匂い…。思い出の河川敷は一年経っても何も変わっていなかった。唯一変わってしまったのは、今年からはおじいちゃんがいないこと。
「晴人、今日は『お盆』って言ってね、おじいちゃんが帰ってくる日なんだよ」
おばあちゃんの言葉に驚き、僕は思わず辺りを見渡した。おじいちゃんが帰ってきてくれた。戻ってきてくれた…。
「でもね、晴人に会うの恥ずかしいんだって。おじいちゃんは変身して、近くで晴人を見てるよ」
おじいちゃんは何に変身したのだろう。いくつか考えて、僕は正解を見つけた。
「…とんぼ!」
僕は去年よりも高く、まっすぐ天を指した。近くには数匹のとんぼが飛びまわり、近づいたり離れたりを繰り返している。
どのとんぼがおじいちゃんかな。このとんぼかな。あのとんぼかな。
僕は初めて、ひとりでとんぼを捕まえようとした。
「晴人、もう帰ろう?」
どのとんぼも、僕の指を通り過ぎていった。それでも僕は諦めたくなかった。おじいちゃんとの約束を叶えて、成長したよって伝えたかった。
「晴人。もう帰るよ」
おばあちゃんが僕の腕を掴み、引っぱった。天を指し続けていた人差し指がぐらりと揺れ、近くにいたとんぼが驚いて離れていく。
ごめんねおじいちゃん。見つけられなかった。会いに来てくれたのに僕、気づけなかった。
帰ろうとしたその時、僕の頭の上に一匹の赤とんぼが止まった。
「晴人は、やっぱりへたっぴだなぁ」
そう言って僕の頭を撫でる、おじいちゃんの声が聞こえた気がした。
そう言ってくしゃっと笑うおじいちゃんが、僕は大好きだった。僕よりも遥かに高くあげられた人差し指は、空にも届いてしまいそうで。
「ほら、簡単だろ?」
しわだらけの右手に一匹の赤とんぼが止まっている。僕は何度やってもできないのに、おじいちゃんはまるで達人のように捕まえた。悔しくて僕もぴんと空へ手を伸ばすけど、ただ夕空を指すだけで飛び交うとんぼは止まらない。
「いつか僕も、おじいちゃんみたいにとんぼ捕まえられるようになる!」
おじいちゃんは楽しみだな、と笑い僕の頭を撫でた。
でも。
ある日を境に、おじいちゃんは、 空に住むようになって会えなくなってしまった。写真の中でくしゃっと笑うおじいちゃんに、戻ってきてほしいと何度も伝えたけど、会える日が来ることは無かった。
どんな形でもいい。もう一度会いたい。だいすきなおじいちゃんとの約束を、どうしても叶えたい。
それから一年ほど経った頃。
「晴人、とんぼ見に行こう」
おばあちゃんは僕を誘って、おじいちゃんと行っていた河川敷へと向かった。
いつもと変わらない景色、変わらない音、変わらない匂い…。思い出の河川敷は一年経っても何も変わっていなかった。唯一変わってしまったのは、今年からはおじいちゃんがいないこと。
「晴人、今日は『お盆』って言ってね、おじいちゃんが帰ってくる日なんだよ」
おばあちゃんの言葉に驚き、僕は思わず辺りを見渡した。おじいちゃんが帰ってきてくれた。戻ってきてくれた…。
「でもね、晴人に会うの恥ずかしいんだって。おじいちゃんは変身して、近くで晴人を見てるよ」
おじいちゃんは何に変身したのだろう。いくつか考えて、僕は正解を見つけた。
「…とんぼ!」
僕は去年よりも高く、まっすぐ天を指した。近くには数匹のとんぼが飛びまわり、近づいたり離れたりを繰り返している。
どのとんぼがおじいちゃんかな。このとんぼかな。あのとんぼかな。
僕は初めて、ひとりでとんぼを捕まえようとした。
「晴人、もう帰ろう?」
どのとんぼも、僕の指を通り過ぎていった。それでも僕は諦めたくなかった。おじいちゃんとの約束を叶えて、成長したよって伝えたかった。
「晴人。もう帰るよ」
おばあちゃんが僕の腕を掴み、引っぱった。天を指し続けていた人差し指がぐらりと揺れ、近くにいたとんぼが驚いて離れていく。
ごめんねおじいちゃん。見つけられなかった。会いに来てくれたのに僕、気づけなかった。
帰ろうとしたその時、僕の頭の上に一匹の赤とんぼが止まった。
「晴人は、やっぱりへたっぴだなぁ」
そう言って僕の頭を撫でる、おじいちゃんの声が聞こえた気がした。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
指を数える(冒頭試し読み)
まゆり
青春
睡眠以外のことに切実な欲求を感じたことがないヨリコは、何かを好きになったり、選び取って、えこひいきしてしまわないように注意深く生きている。ある日、同棲相手のユタカから好きなだけ眠っているだけでいいという奇妙なアルバイトを紹介されて…。
冒頭のみの公開です。
さよなら私のドッペルゲンガー
新田漣
青春
「なんとかなるでしょ、だって夏だし」
京都市内で一人暮らし中の高校生、墨染郁人は『ノリと勢いだけで生きている』と評される馬鹿だ。そんな墨染の前に、白谷凛と名乗る少女の幽霊が現れる。
なんでも凛はドッペルゲンガーに存在を奪われ、死に至ったらしい。不幸な最期を遂げた凛が願うのは、自分と成り代わったドッペルゲンガーの殺害だった。
凛の境遇に感じるものがあった墨染は、復讐劇の協力を申し出る。友人である深谷宗平も巻き込んで、奇想天外かつ法律スレスレの馬鹿騒ぎを巻き起こしながらドッペルゲンガーと接触を重ねていく――――。
幽霊になった少女の、報われない恋心と復讐心。
人間として生きるドッペルゲンガーが抱える、衝撃の真実。
ノリと勢いだけで生きる馬鹿達の、眩い青春の日々。
これは、様々な要素が交錯する夏の京都で起きた、笑いあり涙ありの青春復讐劇。
【第12回ドリーム小説大賞にて、大賞を頂きました。また、エブリスタ・ノベルアップ+でも掲載しております】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
変わらない日常
すずねこ脚本リスト
青春
原作:ぽむ
脚色:すずねこ
"ぽむさん"という方が出来心で書いたものを
すずねこが許可を得て脚色した作品です。
物語の流れ、ぽむさんの想いなのであろうと思うところは残しつつすずねこの世界観を入れてみました。
原作の方はすずねこのTwitterの方から
ぽむさんを見つけて頂けると拝読出来ます。
世界観の違いを楽しむのもいいかと思います。
『変わらない日常がそこにある。
きっとそれは簡単には手放せないもので。
でも、お別れはいつもすぐ側にある』
--あなたの大切なものはなんですか?

『10年後お互い独身なら結婚しよう』「それも悪くないね」あれは忘却した会話で約束。王子が封印した記憶……
内村うっちー
青春
あなたを離さない。甘く優しいささやき。飴ちゃん袋で始まる恋心。
物語のA面は悲喜劇でリライフ……B級ラブストーリー始まります。
※いささかSF(っポイ)超展開。基本はベタな初恋恋愛モノです。
見染めた王子に捕まるオタク。ギャルな看護師の幸運な未来予想図。
過去とリアルがリンクする瞬間。誰一人しらないスパダリの初恋が?
1万字とすこしで完結しました。続編は現時点まったくの未定です。
完結していて各話2000字です。5分割して21時に予約投稿済。
初めて異世界転生ものプロット構想中。天から降ってきたラブコメ。
過去と現実と未来がクロスしてハッピーエンド! そんな短い小説。
ビックリする反響で……現在アンサーの小説(王子様ヴァージョン)
プロットを構築中です。投稿の時期など未定ですがご期待ください。
※7月2日追記
まずは(しつこいようですが)お断り!
いろいろ小ネタや実物満載でネタにしていますがまったく悪意なし。
※すべて敬愛する意味です。オマージュとして利用しています。
人物含めて全文フィクション。似た組織。団体個人が存在していても
無関係です。※法律違反は未成年。大人も基本的にはやりません。

adolescent days
wasabi
青春
これは普通の僕が普通では無くなる話
2320年
あらゆる生活にロボット、AIが導入され人間の仕事が急速に置き換わる時代。社会は多様性が重視され、独自性が評価される時代となった。そんな時代に将来に不安を抱える僕(鈴木晴人(すずきはると))は夏休みの課題に『自分にとって特別な何かをする』という課題のレポートが出される。特別ってなんだよ…そんなことを胸に思いながら歩いていると一人の中年男性がの垂れていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます!!!!
ほっこりしていただけたら幸いです(❁´ω`❁)