上 下
25 / 52

25. 幸せに満ちた夜

しおりを挟む

「ん、うぅぅ……んッ! んぁ……っ、あぁん!」
「アネット……アネット、痛くないか?」
「は……ぁん、いたく……ない。すごく……気持ちいいの」

 ラウルは時折抽送を緩めては、優しくアネットに問う。
 アネットは初めの時のような痛みは感じ無いし、それどころかラウルの熱い杭が自分を貫いているというのに、幸福感と湧き上がる快感で全身を満たされていた。

「く……ッ、そんなに締め上げるな、アネット」
「分からないの。だって……っ、すごく……」
「すごく?」
「離れたくない……。もっと、もっと奥へ……来て欲しい」

 いじらしいアネットに、ラウルは無茶苦茶に腰をぶつけたい衝動に駆られながらも耐える。
 もう二度と、アネットに痛みを与えるような事をしたくない。決して自分だけが快感を得るという事は許せなかった。だから今回は途中で何度もアネットに問い続けたのだ。

「もう、奥を突いても?」

 アネットの耳元で低く囁いたラウルの声は、いつもよりもっと魅力的に感じた。
 声だけで胸と下半身がキュンとなるような、そんな心地にアネットは涙声で答える。
 
「ラウル……聞かないで。ラウルにされる事全て……気持ちがいいの。はしたないって嫌わないで……」

 お願い、と続けたアネットの言葉尻は、ドンという強い衝撃と口付けで掻き消された。
 いつかのような激しい口付けは、アネットの声も呼吸も奪う。同時にラウルの熱い切先が、アネットの胎内まで一気に進み、腹奥のコリコリと硬い入り口を突き上げた。

「はぁ……っ! んんんっ! あァァァ……っ! や、あぁっ!」
 
 何度も、何度も繰り返される動きに、アネットは掠れた嬌声を漏らす事しか出来ない。

「ひ……っ! や……ぁぁ! あ……ん! どうするの……っ、こんなの……知らない……っ」
 
 そのうちラウルにくるりと素早く身体をひっくり返され、まるで森の獣のように後ろから突かれる格好になる。
 尻をラウルに向けるなんて恥ずかしくて堪らないけれど、アネットは当たりどころが変わった熱い杭の動きの方が、よほど気になって仕方がない。

「は……ぁ、これは? 痛くないか?」
「痛く……ない、けど……ぉっ! 変なの……ッ、何か……来そう……ッ! 出ちゃう……ぅっ!」

 そうか、とラウルが笑ったような気がして、アネットはもう訳が分からなくなってしまった。
 ガツンガツンと自分の身体にぶつかる逞しい腰骨に、尻を掴むラウルの熱い手に、自ら尻を押し付け快感を求めてしまう。

 もっと……もっとして……。

 何も考えられない頭で、一人でにそう口にしたかも知れない。
 だからラウルは森の動物のように四つん這いになったアネットの身体を何度も串刺しにするように、熱いモノでナカを擦り上げてくるのだろう。

「いや……ぁ! 出る……ぅぅ! らうる……っ!」

 ピシャリ! と飛沫が飛び散った。何度も、何度も、ぶつかる二人の結合部分からは濡れ音が響く。
 同時に、ラウルは喉の奥で短い呻き声を上げた。

「アネット……っ!」

 そう切なく名を呼びながら、ラウルは膝から崩れ落ちるアネットのナカから熱いモノを取り出し、真っ白な尻や背中に己の白濁を飛ばした。
 ランプの灯りに照らされたフルフルと震える綺麗な背中や、魅惑的な丸い尻を汚した白濁を見下ろし、ラウルは荒い吐息を整える。

 うつ伏せに倒れたアネットはいつの間にやら目を閉じて、スウスウと寝息すら立ててしまっていた。
 白金色のまつ毛に縁取られた眦に、薄らと涙の跡が残っているのを見たラウルは、そっと唇を寄せる。それでもアネットは目覚める事なく、未だ幸せそうな顔で眠っていた。

「愛してる」

 そんな言葉がラウルの口を自然とついて出た。

 ラウルは自分が愛の言葉を口にする時が来るとは思いもよらなかった。あの時、初恋相手を永遠に失ってしまったと思っていたのに。
 それが今、自分のすぐ近くに居て愛を告げてくれる。

「許してくれ」

 ある時から復讐に生きると決めた自分に、本来は愛される権利など無いのかも知れない。幸せになる権利も。
 けれどももう、アネットという存在を決して手離すことは出来ない。出来るはずがない。
 
 いつかラウルの秘密を知ったアネットに恨まれたとしても、決して誰からも祝福されないとしても、それでもラウルはアネットをそばに置く。

「俺は……お前を自由にしてやれない」

 寝台からそっと足を下ろしたラウルは、穏やかな寝息を立てるアネットの身体を濡らした布で丁寧に拭う。
 くったりと弛緩したアネットの身体中に散らばった所有印の多さに自身で呆れつつも、もう一つだけ細い首筋に増やした。
 トクントクンと命の流れが脈打つ首筋。アネットが生きる証を感じるその場所に、誓いの証を立てた。

「アネットを悲しませる事になっても、俺は必ずやり遂げます。ですから母上、この娘を……アネットをお守りください。きっとこの先、危険な目に遭わせる事になるでしょうから」

 首筋にチクリとした痛みを感じたアネットは、薄らと瞼を持ち上げた。

「ん……、ラウル……?」
 
 すぐ近くで自分を見下ろす人物の漆黒の髪が目に入り、嬉しくなって手を伸ばす。

「あぁ、もう疲れただろう。眠れ」
 
 遠くの方で聞こえるラウルの声に、アネットは素直に頷いた。眠くて堪らず、起きろと言われても今は起きられそうもなかった。

 手を差し入れた黒髪の、サラサラとした柔らかな感触を確かめてから、アネットは笑顔のままで再び瞼を閉じた。
 大好きなラウルのすぐ近く、ここが安心できる場所だと分かっていたから、無防備なアネットはまもなく深い眠りにつく。

「おやすみ、アネット」

 幸せそうに眠るアネットを寝台に残して、ラウルは部屋を出て行った。
 彼には会わなければならない相手がいる。真面目で頑固な相手は誰よりも手強いが、今夜くらいは朝まででも大人しく叱られてやろうと思った。
 
 
 

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...