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25. 幸せに満ちた夜
しおりを挟む「ん、うぅぅ……んッ! んぁ……っ、あぁん!」
「アネット……アネット、痛くないか?」
「は……ぁん、いたく……ない。すごく……気持ちいいの」
ラウルは時折抽送を緩めては、優しくアネットに問う。
アネットは初めの時のような痛みは感じ無いし、それどころかラウルの熱い杭が自分を貫いているというのに、幸福感と湧き上がる快感で全身を満たされていた。
「く……ッ、そんなに締め上げるな、アネット」
「分からないの。だって……っ、すごく……」
「すごく?」
「離れたくない……。もっと、もっと奥へ……来て欲しい」
いじらしいアネットに、ラウルは無茶苦茶に腰をぶつけたい衝動に駆られながらも耐える。
もう二度と、アネットに痛みを与えるような事をしたくない。決して自分だけが快感を得るという事は許せなかった。だから今回は途中で何度もアネットに問い続けたのだ。
「もう、奥を突いても?」
アネットの耳元で低く囁いたラウルの声は、いつもよりもっと魅力的に感じた。
声だけで胸と下半身がキュンとなるような、そんな心地にアネットは涙声で答える。
「ラウル……聞かないで。ラウルにされる事全て……気持ちがいいの。はしたないって嫌わないで……」
お願い、と続けたアネットの言葉尻は、ドンという強い衝撃と口付けで掻き消された。
いつかのような激しい口付けは、アネットの声も呼吸も奪う。同時にラウルの熱い切先が、アネットの胎内まで一気に進み、腹奥のコリコリと硬い入り口を突き上げた。
「はぁ……っ! んんんっ! あァァァ……っ! や、あぁっ!」
何度も、何度も繰り返される動きに、アネットは掠れた嬌声を漏らす事しか出来ない。
「ひ……っ! や……ぁぁ! あ……ん! どうするの……っ、こんなの……知らない……っ」
そのうちラウルにくるりと素早く身体をひっくり返され、まるで森の獣のように後ろから突かれる格好になる。
尻をラウルに向けるなんて恥ずかしくて堪らないけれど、アネットは当たりどころが変わった熱い杭の動きの方が、よほど気になって仕方がない。
「は……ぁ、これは? 痛くないか?」
「痛く……ない、けど……ぉっ! 変なの……ッ、何か……来そう……ッ! 出ちゃう……ぅっ!」
そうか、とラウルが笑ったような気がして、アネットはもう訳が分からなくなってしまった。
ガツンガツンと自分の身体にぶつかる逞しい腰骨に、尻を掴むラウルの熱い手に、自ら尻を押し付け快感を求めてしまう。
もっと……もっとして……。
何も考えられない頭で、一人でにそう口にしたかも知れない。
だからラウルは森の動物のように四つん這いになったアネットの身体を何度も串刺しにするように、熱いモノでナカを擦り上げてくるのだろう。
「いや……ぁ! 出る……ぅぅ! らうる……っ!」
ピシャリ! と飛沫が飛び散った。何度も、何度も、ぶつかる二人の結合部分からは濡れ音が響く。
同時に、ラウルは喉の奥で短い呻き声を上げた。
「アネット……っ!」
そう切なく名を呼びながら、ラウルは膝から崩れ落ちるアネットのナカから熱いモノを取り出し、真っ白な尻や背中に己の白濁を飛ばした。
ランプの灯りに照らされたフルフルと震える綺麗な背中や、魅惑的な丸い尻を汚した白濁を見下ろし、ラウルは荒い吐息を整える。
うつ伏せに倒れたアネットはいつの間にやら目を閉じて、スウスウと寝息すら立ててしまっていた。
白金色のまつ毛に縁取られた眦に、薄らと涙の跡が残っているのを見たラウルは、そっと唇を寄せる。それでもアネットは目覚める事なく、未だ幸せそうな顔で眠っていた。
「愛してる」
そんな言葉がラウルの口を自然とついて出た。
ラウルは自分が愛の言葉を口にする時が来るとは思いもよらなかった。あの時、初恋相手を永遠に失ってしまったと思っていたのに。
それが今、自分のすぐ近くに居て愛を告げてくれる。
「許してくれ」
ある時から復讐に生きると決めた自分に、本来は愛される権利など無いのかも知れない。幸せになる権利も。
けれどももう、アネットという存在を決して手離すことは出来ない。出来るはずがない。
いつかラウルの秘密を知ったアネットに恨まれたとしても、決して誰からも祝福されないとしても、それでもラウルはアネットをそばに置く。
「俺は……お前を自由にしてやれない」
寝台からそっと足を下ろしたラウルは、穏やかな寝息を立てるアネットの身体を濡らした布で丁寧に拭う。
くったりと弛緩したアネットの身体中に散らばった所有印の多さに自身で呆れつつも、もう一つだけ細い首筋に増やした。
トクントクンと命の流れが脈打つ首筋。アネットが生きる証を感じるその場所に、誓いの証を立てた。
「アネットを悲しませる事になっても、俺は必ずやり遂げます。ですから母上、この娘を……アネットをお守りください。きっとこの先、危険な目に遭わせる事になるでしょうから」
首筋にチクリとした痛みを感じたアネットは、薄らと瞼を持ち上げた。
「ん……、ラウル……?」
すぐ近くで自分を見下ろす人物の漆黒の髪が目に入り、嬉しくなって手を伸ばす。
「あぁ、もう疲れただろう。眠れ」
遠くの方で聞こえるラウルの声に、アネットは素直に頷いた。眠くて堪らず、起きろと言われても今は起きられそうもなかった。
手を差し入れた黒髪の、サラサラとした柔らかな感触を確かめてから、アネットは笑顔のままで再び瞼を閉じた。
大好きなラウルのすぐ近く、ここが安心できる場所だと分かっていたから、無防備なアネットはまもなく深い眠りにつく。
「おやすみ、アネット」
幸せそうに眠るアネットを寝台に残して、ラウルは部屋を出て行った。
彼には会わなければならない相手がいる。真面目で頑固な相手は誰よりも手強いが、今夜くらいは朝まででも大人しく叱られてやろうと思った。
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