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21. ジャンの存在とは

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 カビルの街での疫病対策を終えて邸に帰ってしばらくはアレクも魔力の回復に時間がかかり、数日はゆっくりと過ごすことになった。

 そのうちティエリー司祭からの手紙が届き、疫病の広がりが止まり、重症化することもなくなったとのこと。各地の教会で疫病対策について布教してくれたおかげで、マスクと灰汁がカビルの街を中心にたくさん作られて、それが商人たちによって各地へ届いているという。
 間接的ではあるが、また新たな産業が生まれたことで雇用につながり、国内の各地で孤児や路上生活者も減ったと書いてあった。

「ユリナのおかげで沢山の国民が救われたな。魔法使いよりも、やはり人間の元ある力の方が偉大だ。」
「そんなことないよ。アレクがいなかったらもっと死者も増えていたし、私だけの力じゃ誰も話を聞いてくれなかった。ジャンやティエリー司祭も含めて皆んなで頑張れたから良かったね。」

 胸がポカポカと温まるような気がして、ソファーで隣に座るアレクにコテンと寄り添った。

――コンコンコン……

「アレクサンドル様、ユリナ、いいですか?」

 ジャンはあれから少し私とアレクに気を遣っている時があって、なんだかそれがむず痒かった。

「入れ。」
「はい。アレクサンドル様、先ほど王城からの呼び出しがありました。ユリナ様も必ず来るようにと。」
「わざわざ言われなくても毎回ユリナも同行しているだろうに。一体今度は何の用だ?」
「さあ……。とにかく午後から王城へ行きましょう。さあさあ、いつまでもくっついてないで支度してくださいよ。」
「べ、別にくっついてないよ!」

 時々こうやってジャンが囃し立てるから、その度顔を赤くする私をアレクとジャンは楽しんでいる。
 絶対、すごく楽しんでる。

 そうやって言いながらも支度を終えて、また王城へと向かった。

「もう何度目なんだろうね、この道のりも。」
「アレクサンドル様はもう数え切れないほど通ってらっしゃいますよね……。」
「まあな。陛下は度々魔法で国内の問題を解決したがるところがあるから仕方あるまい。この国に世界で唯一の魔法使いがいるということを国内外へ知らしめることで、この国の平和は守られているというところもあるからな。」
「やっぱりそうなんだ。国が大きな力を持っていることで無闇に戦争をしかけられたり、王室への不満も減るもんね。」

 なぜか元いた世界の核問題を思い出した。
 強大な力を持った国にはおいそれと手を出せない。
 国が力を持っていれば、王室が国内の問題をスピーディーに解決してくれれば不平不満も出にくく、陛下への求心力も高まるもんね。

「結局は、王室や陛下の為なんだね。」

 これは以前から少し思っていたことで、何となくモヤモヤしているところでもある。

 それでも、アレクがなんだかんだでこの国を大切に思っているから、無理難題でも魔法で解決してきたんだ。

「私は、国とかじゃなくて単純にアレクの為にこれからもやってく。」
「ユリナはそれでいいと思うよ。僕だって、一応これでもこの国の貴族の端くれで役人なんだけど、ハッキリ言って今では個人的にアレクサンドル様を補佐してるようなもんだから。」
「え?ジャンってそんな偉い人だったの?」
「偉いかどうかは別として、はじめは異世界から来たばかりのアレクサンドル様を見守るお役目をしていたんだ。まあ体のいい見張りでもあったけど。」

 ジャンは、はじめ異世界からアレクが現れた時に住むところや王室と魔法使いの繋がりを持つための役目を果たしていたらしい。
 それが何年も経つうちにアレクに懐いてしまって今では国よりもアレク自身の味方だという。

「アレク、良かったね。この世界でジャンみたいにアレクのことを魔法抜きでも親しくしてくれる人がいるなんて幸せだね。私もアレクとジャンがいなかったらきっと今みたいに明るく生活できてないよ。」
「まあそうだな。ジャンにはある程度は感謝している。」
「ある程度って何ですか!?この世界でアレクサンドル様の一番親しい存在は僕だと思っていたのに、最近ではユリナにその座を脅かされるし……。」

 少しいじけた風に見せたジャンは、やっぱり明るくて私とアレクを癒してくれる大切な存在だ。






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