上 下
14 / 31

14. 労働の後の

しおりを挟む

 夕方になっても商都であるカビルの街は明るく賑やかだ。

「ねえジャン。今日、夕食はどこで食べるの?」
「教会で準備してもらっても良かったけど、せっかくカビルに来たんだから酒場で美味しい物でも食べて英気を養おう!」
「なるほどー!酒場って初めて!楽しみだなあ。」

 高校生だった私は日本ではもちろん酒場には行ったことがなかったし、この世界に来てからも初めてなのでとても楽しみだ。
 ちなみにこの国では十六歳から飲酒ができるから私も飲めるかもと密かにワクワクしていた。

「そんなに楽しみなのか?」
「うん。だって元の世界では私は高校生でお酒も飲めない年だったから。」
「コウコウセイ?そういえばユリナは一体いくつなんだ?」

 そういえばアレクにもジャンにも年齢の話はしていなかったかも知れない。

「私は十七歳だよ。アレクとジャンもいくつなの?」
「十七?元の世界では十七でも酒が飲めないのか。俺は二十二だ。」
「え?アレク二十二歳なの?もっと年上だと思ってた……。」
「それはどういう意味だ?」
「アレクはすごく落ち着いているから、てっきりそうだと思ったの。すごく頼りがいあるし。」

 澄ました顔のアレクはあまり多くは語らないし、落ち着いた印象だったからもっと年上だと思っていた。
 それに、異世界に来た私にとってはいつも一番頼れる存在で。

「僕は二十六歳。」
「ジャン!同い年くらいだと思ってたのに、十歳近く年上だったの?えー……。」
「なんだよ、えー……って。」
「いやぁ、ジャンがあまりに子どもっぽいから……。」
「すごく失礼な奴だな!ユリナ、罰として今日は酒抜きだぞ。」
「えええ……。楽しみにしてたのに……。ケチ。」

 私とジャンがワイワイ言っている間も、アレクは目を細めて微笑ましいものを見るようで、やっぱり随分落ち着いて見える。

 そのうち賑わった酒場へと到着して、三人で美味しい料理をたくさん食べる。

「あー。やっぱりお酒飲んでみたかった。」
「ユリナはまだお子ちゃまだから、もう少し大人の女になったらな。」
「ジャン!ひどーい。自分だって!」

 食後はジャンとアレクだけがお酒を嗜んでいて、私は果実水で我慢させられた。

 ふと、今日の昼間に気になったことを二人に聞いてみた。

「ねえ、疫病のことだけど。この疫病ってよく流行するの?」
「まあ、寒い時期に流行しやすい疫病ではあるな。通常はあまり多くの犠牲が出るようならアレクサンドル様が対応してくださっているけど。今回は商都であるカビルが発端だから、そこから商人等を経て色々な街へと広がったみたいだ。」

 やっぱり。もしかしてこの疫病って、日本で言う『ウイルス性胃腸炎』みたいなもんじゃないのかな。

「ちょっとお願いがあるんだけど。今から買い物行けるかな?」


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?

イセヤ レキ
恋愛
それは、私が十歳になったばかりのころだった。 流行病で一週間寝込んだ私は、目が覚めた時、目の前にいる母に向かって、こう叫んだ。 「大変、お母様!!私、悪役令嬢のようです!!」 断罪を恐れた悪役令嬢の主人公であるリリールーが、ヒーローを避け続けて断罪回避に成功し、自分だけのヒーローを見つけるまでのお話。 単体でも読めますが、【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】の娘の話となります。 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 全5話、完結済。

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

悪役令嬢扱いの私、その後嫁いだ英雄様がかなりの熱血漢でなんだか幸せになれました。

下菊みこと
恋愛
落ち込んでたところに熱血漢を投入されたお話。 主人公は性に奔放な聖女にお説教をしていたら、弟と婚約者に断罪され婚約破棄までされた。落ち込んでた主人公にも縁談が来る。お相手は考えていた数倍は熱血漢な英雄様だった。 小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【完結】悪役令嬢に転生ですが乙女ゲームの王子が推しです、一目惚れ王子の幸せが、私の幸せ!?

百合蝶
恋愛
 王子との初めての出逢いで、前世の記憶が甦る。  「うっそ!めっちゃイケメン。」京子の理想とするイケメンが目の前に……惚れてまうやろ。  東 京子28歳 普通の会社員、彼氏無しの腐女子(BL好き、TLもおk)。推しカプ妄想しながらの通勤途中にトラックにひきかれ他界。  目が覚めた時何と! 乙女ゲームの「天空の乙女に恋する。」に自分が悪役令嬢クリスティーヌとして転生していた。    内容はこうだ、王太子殿下ルドルフは、公爵令嬢のクリスティーヌと10歳の時婚約していたが、ヒロインアリアが「天空の乙女」に選ばれる。それを気に心をかわせるルドルフはアリアを「好きになった」とクリスティーヌに告げる。王太子ルドルフ殿下を奪われ事を腹正しく思い、アリアを虐め倒した。  ルドルフは「愛するアリアを虐めぬいた罪で、クリスティーヌとの婚約を破棄する」そして断罪される。  攻略対象が三人いる、正統派のルドルフ殿下と殿下の側近アイル、宰相の息子ハーバスどのルートに流れても断罪のフラグしか無い❗ これは、いかーーーん❗ 一目惚れ王子に嫌われたくない❗出来れば好かれたい!   転生先が悪役令嬢、断罪される前にフラグを回避、ヒロインをなんかします。

美食家悪役令嬢は超御多忙につき

蔵崎とら
恋愛
自分が悪役令嬢だと気が付いているけれど、悪役令嬢というポジションを放棄して美味しい物を追い求めることにしました。 そんなヒロインも攻略対象キャラもそっちのけで珍しい食べ物に走る悪役令嬢のお話。 この作品は他サイトにも掲載しております。

処理中です...