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41. デイキャンプの回
しおりを挟むデイキャンプ当日の天気は快晴で、早朝にも関わらず少し汗ばむ程の気温はいかにもバーベキュー日和ってやつではないだろうか。
高校生で車も持っていない俺達が選んだのは、自転車で行ける距離にある河川敷だった。川に架かる幾つかの大きな橋の下は日陰になっていて、夏でも涼しく絶好のバーベキュースポットらしい。
「ヒカル、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ほら、筋トレの成果で重い物結構持てるようになったし」
大きなリュックと両手の手提げ袋にテントやバーベキューの道具を持った俺達は、比較的空いている橋の下で荷物を下ろした。賢太郎はいつも俺の事を心配して、過保護過ぎないかと思うくらいに声を掛けてくる。トレーニングの成果で重い物も持てるし、歩くのも自転車も随分と早く移動できるようになったのに。
「じゃあ始めるか。とりあえずテントを張る練習な。泊まりのキャンプに行った時、困んないようにしとかないと」
「了解」
賢太郎をびっくりさせようと前もって動画でテントの張り方を確認していたけど、実際には割とコツがいったりして時間がかかる。だけど何とか賢太郎に指示をもらいながら張り終わった時には、大きな達成感を得た。
「出来たー! 賢太郎、どう? 合格?」
「よくここまで一人で出来たな。合格」
「動画で確認しといたんだよなぁ! 良かったー!」
(やっぱり自然の中で賢太郎と過ごすのはすごく楽しい)
川のせせらぎが聴こえる河川敷で汗だくになりながら作り終えたテントの中に入ってみると、まるで秘密基地みたいな気がして気分が高揚する。ここで賢太郎と綺麗な星空を見た後に眠ったら良い夢が見れそうだ。
「ほら、いつまでも遊んでないで出て来いよ。次はバーベキューだろ」
「よし、やろう!」
初めてのバーベキューは初心者の俺にとって難易度が高い。賢太郎に教えてもらいながら火起こし器を使って炭に火をつけただけでも、きっと普通より随分と時間がかかった。だけど賢太郎はずっと根気よくアドバイスをして、コンロに炭を移した時にはこっちが恥ずかしくなるくらい大袈裟に誉めてくれた。
「賢太郎はいっつも俺に優しいよな」
順調に肉や野菜を焼いて買って来たコンビニのおにぎりもしっかり食べたら、折り畳み椅子に座っているのが辛いくらい満腹になった。それでついつい気が緩んだのか思わずポツリとそう呟く。
「何だよ、突然」
どんなに声が小さくても俺の言葉をいつもしっかりと拾う賢太郎の耳には驚かされる。
「だって子どもの頃からずっと、俺が無茶苦茶な事言ってもいつも付き合ってくれたし。今だって、鈍臭い俺に根気よく接してくれてるじゃないか」
あんまり賢太郎が優しいから、いつもそれに甘え過ぎなのかも知れない。だから相川にも俺が賢太郎に山岳部を辞めるように言ったと、そう見えたんだろう。だからきっと友達として賢太郎の事を心配する相川からあんな風に言われても、それは仕方がないんだと思った。
「まあ、カイルとシャルロッテごっこが大好きなヒカルはとにかく俺に『ああしろ、こうしろ』って強引だったな」
「う……、やっぱり」
「なのに今じゃ俺がヒカルに指示して、それをヒカルが素直に言う事聞いてるんだから面白いよな。そう考えると父親に連れられて始めたアウトドアで、色々な事が出来る様になって良かったよ」
そう言って眦を下げて笑う賢太郎の笑顔は幼い時と変わらない。
「俺、もっと頑張って賢太郎みたいになるから」
「そういうところは相変わらずの負けず嫌いだな」
「だって、俺ばっかりカッコ悪くてずるいじゃないか。賢太郎は何でも出来るし、大人っぽいし、いつも余裕でさ」
何だかいつもアタフタしてるのは俺ばっかりで、賢太郎はまるで保護者みたいに見守ってくれてる気がする。それがちょっと悔しくて、いじけたように唇を尖らせた。
「俺だって引っ越してすぐは心細くてさ。ヒカルには会えないし、知らない奴らばっかりの小学校に上がるのが不安だったよ」
「そっか……。友達、すぐ出来たのか?」
「入学式の直前に、俺の家の二軒隣に同い年の子がいるって母親から言われて。いざ入学してみたらクラスも一緒ですぐ仲良くなった」
引っ越しで不安な気持ちを抱えた賢太郎に友達が出来てホッとした気持ちと、何だか微妙にモヤっとする自己中心的な嫉妬が複雑に胸の中に渦巻いた。そんな俺の自分勝手な感情に気付く事なく賢太郎は話を続ける。
「親同士も意気投合して、家族ぐるみの付き合いっていうかさ。昔はしょっちゅう一緒にキャンプしたり出掛けたりしてた」
思い出を語る賢太郎は、知らない人間に見えた。知らない友人の話をそんな風に優しい表情でされると、何だかとても嫌な気持ちになる。
「昔は……って、今は?」
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