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24. 記憶が戻っても気持ちは変わらないの回
しおりを挟む「俺が好きなのは、昔からヒカルだけだ」
(本当に?)
カイルだった時からずっと、賢太郎に生まれ変わっても、ずっとシャルロッテだけを好きだったって言うのか。
「だけど……傷痕、醜いだろ。俺でも見てて嫌だって思うのに。何でそんなに優しく触れる事が出来るんだ?」
賢太郎からの甘い答えに期待して尋ねるなんて卑怯だけど、それでも傷モノの自分に自信を持ちたかった。胸の傷痕は小学校でも中学校でも友達に忌避された。体育の授業や内科検診で傷痕を露わにした時、皆最初は驚いた顔をして、そこからは理由を聞く者、敢えて触れずに遠巻きに見る者、笑いながら指差す者など様々だったから。
「ヒカルに醜いとこなんかない。今も昔も、ヒカルは俺にとって一番キレイなものだ……」
俺と真っ直ぐに視線を合わせて語る賢太郎は、眉を寄せ薄い唇は一文字に結ばれて、今にも泣き出しそうな顔をしている。俺が欲しがった甘ったるい答えをくれて、それで満足するなんてひどく滑稽だけど。それでも俺にとっては必要な事だった。
昔、と語るのはカイルだった頃を思い出しているのだろうか。
――こんな森の奥のボロ小屋を寝ぐらにしてる俺みたいな奴からしたら、アンタはピカピカした綺麗なお城に住んでる世間知らずのお姫様だ。住んでる世界が違うんだよ。
ああそうだ。あの時、シャルロッテに向かってカイルがそう言ったのを思い出した。
そうして愛するシャルロッテを身分差を理由に突き放そうとしながら、自分の発する言葉に心底傷付いたような顔をするカイル。
それを聞いたシャルロッテは、突然カイルの頬を思い切り引っ叩いたんだ。
映像がそこまでくるといつもの頭痛がして、思わず顔を顰めてしまう。
だけど俺の知らない賢太郎の事をもっと知りたくて、今ばっかりはその警告を無視する事にした。
だって俺は、賢太郎の事を知らなさ過ぎる。
取り戻した記憶もごく一部分で、まだまだ俺の知らない何かがあるはずだ。
賢太郎に聞いても、どこかはぐらかすような態度なのは何故なのか。
目を閉じて記憶を辿る事にした。精神が深く深く沈んでいく……。
――バカ! 離れ離れなんてやだ! 嘘つき! ずっと一緒だって、約束したのに! もう知らない!
(嫌だ、離れたくない)
「ヒカル!」
名を呼ばれ肩をバッと強く掴まれて、深いところにある記憶を引っ張り出そうとしていた俺は無理矢理現実に引き戻される。
「何をしてたんだ⁉︎ 今、目を閉じて何をしようとした⁉︎」
「……賢太郎、なんで……」
物凄い剣幕で怒鳴りつける賢太郎は、痛いくらいに俺の肩を掴んでいた。ギリギリと力がこもっている事に気付かないまま問い詰める表情には、焦りと不安が見てとれる。
「無理に思い出そうとするのはやめてくれ! そのせいでまた体調が悪くなったらどうする? きっとそのうち自然に取り戻せるから。それまでは……」
「俺に記憶が戻ったらマズイ事でもあるのか?」
いつかのように、ヒュッと賢太郎が息を呑む。
「もしそうだとしても、俺は賢太郎の事をもっと知りたいんだ。カイルとシャルロッテの記憶だって途切れ途切れで、賢太郎自身の事も俺はよく知らない」
「俺の事なら過去じゃなくてこれからを知ればいい。無理に記憶を引き摺り出そうとするのはやめて欲しい。体調もおかしくなるんだろ? 心配なんだ」
「どうしてそこまで……」
何故そこまでして俺が記憶を戻そうとするのを拒絶するのか分からなかった。ただ感じ取れるのは、記憶を取り戻す度に体調が悪くなる俺の事をとても心配しているという事。
「自然と思い出す時が来るかも知れない。その時までは……頼む」
懇願する賢太郎を拒否する事なんて出来ない。それに賢太郎の言い方だと、記憶を全て思い出した時にもしかしたら俺達の関係は変わってしまうんだろうか?
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