月夜のさや

蓮恭

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13. いじめっ子対策

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 雫山小学校に通い始めてもう二週間が経った。クラスメイト達ともそれなりに仲良くしているが、やっぱり俺の事を『都会から来たカッコつけた奴』という目で見て、くだらない意地悪をしてくる男子達もいた。

「おい天野! お前ちょっと都会から来たからって調子に乗るなよ!」
「別に調子に乗ってなんかないよ」
「『別に調子に乗ってなんかないよ』だってさ! そういうところがスカしてるんだよ!」 

 丸本と三谷がいない時を狙ってこんな風に責め立ててくるクラスメイトは、子どもっぽいことを言ってはいるが案外狡猾だ。丸本はクラスでも男子に人気があるし、三谷は学級委員だからこういう事は許さないだろう。

「どうしたらいいの?」
「『どうしたらいいの?』だと? 大人しく殴られてろよ」

 そう言って俺に殴りかかってきたのはクラスでも一番身体のでかい島田という生徒だ。周りには三人の男子がいて、そいつらは島田の下僕みたいな奴らだった。
 何となく気づいた事は、島田はさやの事が好きなんだと思う。だから隣の席になった物珍しい転校生に話しかけるさやを見て嫉妬しているんだろう。それにしても、いい迷惑だ。

 殴りかかってきた島田の手を掴み、小手返しでそのままストンと床に押し倒した。

「え……⁉︎」

 驚いた顔で仰向けにすっ転んだ島田は、何が起こったのか分からないと言った表情だ。そのままくるりとひっくり返すと、ますます周囲の生徒はシンと静まり返る。

「俺、こういう事好きじゃないんだ。それに、出来たら六年生も同じクラスなんだし仲良くして欲しい。まだこの雫山村に慣れてないから、気に触る事があったかも知れないけど、良かったらこれからは色々教えてくれよ」

 こういう事もあろうかと、夏休みの間にずっと練習してきたを口にする。

「お、おう。なんか……悪かったな」

 倒れた島田を抱き起こすようにして起きるのを手伝うと、島田は耳まで真っ赤にして謝ってきた。
 案外純粋で単純で、もしかしたらこれからはになるかも知れない。

「痛かった? ごめん。合気道っていうんだけど、前の学校で友達のお父さんに教えてもらってたんだ」
「へぇ! すっげぇな! 俺にも教えてくれよ!」

 流石は小学生。目の前で不思議な事が起きれば、特に自分がその当事者だったらなおさらの事興味を抱く。こんなに身体の大きな島田をいとも簡単に倒してしまった事が効果を発揮していた。

 しばらくの間、俺は島田とまだはっきりと名前を覚えられていない三人の男子に合気道の基本を教えた。
 俺の『転校して、もしもいじめられたらこうしようリスト』は役に立ったのだと思うと嬉しくて思わずニヤけてしまう。これで、妹だって下のクラスでいじめられる事も減るかも知れない。元々は妹をいじめてる奴らに仕返ししてやろうと思って習い始めた合気道だったけど、思いもよらない効果を発揮してくれた。

 それからというもの、クラスで俺に対して意地悪をしてくるような男子はいなくなり、代わりに女子からチラチラと見られる事が増えた。家に帰れば何故か妹までもが、「お兄ちゃんがすっごく強いんだってね! って皆から声を掛けられるんだよ! 何したの?」なんて目をキラキラさせて話しかけてくる。
 丸本なんかは「お前モテモテだな」とか言って茶化してくるけど、それよりも俺は転校初日からずっと気になっている事があった。

 皆は気づいていないみたいだけど、さや……綾川紗陽は日によって全く雰囲気が変わるんだ。



 

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