13 / 30
13. いじめっ子対策
しおりを挟む雫山小学校に通い始めてもう二週間が経った。クラスメイト達ともそれなりに仲良くしているが、やっぱり俺の事を『都会から来たカッコつけた奴』という目で見て、くだらない意地悪をしてくる男子達もいた。
「おい天野! お前ちょっと都会から来たからって調子に乗るなよ!」
「別に調子に乗ってなんかないよ」
「『別に調子に乗ってなんかないよ』だってさ! そういうところがスカしてるんだよ!」
丸本と三谷がいない時を狙ってこんな風に責め立ててくるクラスメイトは、子どもっぽいことを言ってはいるが案外狡猾だ。丸本はクラスでも男子に人気があるし、三谷は学級委員だからこういう事は許さないだろう。
「どうしたらいいの?」
「『どうしたらいいの?』だと? 大人しく殴られてろよ」
そう言って俺に殴りかかってきたのはクラスでも一番身体のでかい島田という生徒だ。周りには三人の男子がいて、そいつらは島田の下僕みたいな奴らだった。
何となく気づいた事は、島田はさやの事が好きなんだと思う。だから隣の席になった物珍しい転校生に話しかけるさやを見て嫉妬しているんだろう。それにしても、いい迷惑だ。
殴りかかってきた島田の手を掴み、小手返しでそのままストンと床に押し倒した。
「え……⁉︎」
驚いた顔で仰向けにすっ転んだ島田は、何が起こったのか分からないと言った表情だ。そのままくるりとひっくり返すと、ますます周囲の生徒はシンと静まり返る。
「俺、こういう事好きじゃないんだ。それに、出来たら六年生も同じクラスなんだし仲良くして欲しい。まだこの雫山村に慣れてないから、気に触る事があったかも知れないけど、良かったらこれからは色々教えてくれよ」
こういう事もあろうかと、夏休みの間にずっと練習してきたセリフを口にする。
「お、おう。なんか……悪かったな」
倒れた島田を抱き起こすようにして起きるのを手伝うと、島田は耳まで真っ赤にして謝ってきた。
案外純粋で単純で、もしかしたらこれからはいい奴になるかも知れない。
「痛かった? ごめん。合気道っていうんだけど、前の学校で友達のお父さんに教えてもらってたんだ」
「へぇ! すっげぇな! 俺にも教えてくれよ!」
流石は小学生。目の前で不思議な事が起きれば、特に自分がその当事者だったらなおさらの事興味を抱く。こんなに身体の大きな島田をいとも簡単に倒してしまった事が効果を発揮していた。
しばらくの間、俺は島田とまだはっきりと名前を覚えられていない三人の男子に合気道の基本を教えた。
俺の『転校して、もしもいじめられたらこうしようリスト』は役に立ったのだと思うと嬉しくて思わずニヤけてしまう。これで、妹だって下のクラスでいじめられる事も減るかも知れない。元々は妹をいじめてる奴らに仕返ししてやろうと思って習い始めた合気道だったけど、思いもよらない効果を発揮してくれた。
それからというもの、クラスで俺に対して意地悪をしてくるような男子はいなくなり、代わりに女子からチラチラと見られる事が増えた。家に帰れば何故か妹までもが、「お兄ちゃんがすっごく強いんだってね! って皆から声を掛けられるんだよ! 何したの?」なんて目をキラキラさせて話しかけてくる。
丸本なんかは「お前モテモテだな」とか言って茶化してくるけど、それよりも俺は転校初日からずっと気になっている事があった。
皆は気づいていないみたいだけど、さや……綾川紗陽は日によって全く雰囲気が変わるんだ。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
アザー・ハーフ
新菜いに/丹㑚仁戻
ミステリー
『ファンタジー×サスペンス。信頼と裏切り、謎と異能――嘘を吐いているのは誰?』
ある年の冬、北海道沖に浮かぶ小さな離島が一晩で無人島と化した。
この出来事に関する情報は一切伏せられ、半年以上経っても何が起こったのか明かされていない――。
ごく普通の生活を送ってきた女性――小鳥遊蒼《たかなし あお》は、ある時この事件に興味を持つ。
事件を調べているうちに出会った庵朔《いおり さく》と名乗る島の生き残り。
この男、死にかけた蒼の傷をその場で治し、更には壁まで通り抜けてしまい全く得体が知れない。
それなのに命を助けてもらった見返りで、居候として蒼の家に住まわせることが決まってしまう。
蒼と朔、二人は協力して事件の真相を追い始める。
正気を失った男、赤い髪の美女、蒼に近寄る好青年――彼らの前に次々と現れるのは敵か味方か。
調査を進めるうちに二人の間には絆が芽生えるが、周りの嘘に翻弄された蒼は遂には朔にまで疑惑を抱き……。
誰が誰に嘘を吐いているのか――騙されているのが主人公だけとは限らない、ファンタジーサスペンス。
※ミステリーにしていますがサスペンス色強めです。
※作中に登場する地名には架空のものも含まれています。
※痛グロい表現もあるので、苦手な方はお気をつけください。
本作はカクヨム・なろうにも掲載しています。(カクヨムのみ番外編含め全て公開)
©2019 新菜いに
授業
高木解緒 (たかぎ ときお)
ミステリー
2020年に投稿した折、すべて投稿して完結したつもりでおりましたが、最終章とその前の章を投稿し忘れていたことに2024年10月になってやっと気が付きました。覗いてくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。
中学校に入学したその日〝私〟は最高の先生に出会った――、はずだった。学校を舞台に綴る小編ミステリ。
※ この物語はAmazonKDPで販売している作品を投稿用に改稿したものです。
※ この作品はセンシティブなテーマを扱っています。これは作品の主題が実社会における問題に即しているためです。作品内の事象は全て実際の人物、組織、国家等になんら関りはなく、また断じて非法行為、反倫理、人権侵害を推奨するものではありません。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる