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32. お母様が一番強かったのです
しおりを挟む私が愛する人ができたとお話した時にも、お父様とお母様は黙って声に耳を傾けてくださいました。
「その人はルーファスと言うのだけれど。」
そう言った時に、お父様がピクリとほんの少しだけ眉を動かしたのが見えました。
私は今までのこと、ジョシュア様とドロシー嬢が私を殺そうとルーファスを放ったことや、ジョシュア様が最後には私を殺そうとしたことを全て話したのです。
きっと隠しても鋭いお母様には露呈してしまうでしょうし、お父様も何かご存知のようですし。
話の途中で、お父様は何度もピクリと眉を動かしておられましたし、お母様はジョシュア様とドロシー嬢のことを殺しかねないような殺気を放たれていました。
「もし許されるならば、私はこれからその人と生きて行きたいの。貴族の義務として、侯爵令嬢としては失格だと分かっているのだけれど、どうかお願いいたします。」
私は寝台に腰掛けたままでお父様とお母様に頭を下げました。
「エレノア、貴女はそれで本当に幸せなの?」
お母様が私に優しく優しく問いかけるのです。
お父様は何もおっしゃいません。
「はい。私はルーファスと生きて行くことが幸せなのです。そして彼のことも幸せにしていきたい。」
それは私の心からの願いでした。
貴族の中でも恵まれた贅沢な暮らしも、煌びやかなドレスや宝石もいらないから、ルーファスと一緒にあの小屋の暮らしのように慎ましく過ごせたらと思うのです。
「分かったわ。貴女の幸せが私たち家族の幸せよ。」
お母様はニッコリと、やはり薔薇の綻ぶような微笑みを浮かべられて頷くのです。
そして、よく見ると隣のお父様の腕を指で摘み上げているようにも見えるのです。
「痛ッ……!エ、エレノアが本当にそれで良いのなら、私は全力で協力することにしよう。」
お父様は少し青いお顔色をしていましたが、私はお二人にきちんと気持ちを伝えることができてホッといたしました。
その時、廊下から家令のジョゼフが声をかけてきたのです。
「旦那様、奥様、エレノアお嬢様。ウィリアムズ公爵様が御三方に是非御目通りなさりたいとおいでです。」
ジョシュア様のお父君であり、王弟殿下がわざわざいらっしゃったと言うのです。
「エレノア、お前はまだ動けないだろう。すまないが、この部屋に殿下をお通ししても良いだろうか?」
お父様がすまなさそうにお尋ねになりますが、私よりも公爵様に失礼ではないでしょうか?
大丈夫なのかしら?
「エレノアはまだ万全ではないので、大変失礼ながらこちらにお通しするように。」
お父様がジョゼフにそう告げると、ジョゼフは一礼して廊下へと消えて行きました。
「失礼する。」
暫くして、このシュヴァリエ王国の王弟殿下でありジョシュア様のお父君でもあるウィリアムズ公爵様が入室されました。
「エレノア嬢、うちの愚息がとんでもないことをしたようで。謝っても済む問題ではないことは重々承知だが、本当に申し訳なかった。」
公爵様は頭を深々と下げられ、侯爵令嬢でしかない私に謝罪なさったのです。
「公爵様、頭をお上げください。私になど、謝ることはおやめくださいませ。」
「いや、愚息がエレノア嬢にどのような仕打ちをしてきたかを考えると、まだ足りぬよ。愚息は廃嫡の上、罪人として終身刑に処することとした。陛下は最後まで反対しておられたが、これも私の咎だ。私は次男に家督を譲り隠居する。どうかこれで許してはもらえぬだろうか。」
ジョシュア様が終身刑に?公爵様も隠居なさるなどと、そのようなこと……。
「そうですわね。そのようにいたしてくださいませ。」
「お母様!」
「エレノア、どこかで折り目をつけなければならないのよ。貴女の新しい人生のためにも。」
お母様の言葉に、私はジョシュア様と公爵様に対して抱いていた罪悪感を隠して、この出来事に区切りをつけることにいたしました。
「公爵様、慎んでその謝罪をお受けいたします。」
こうして、ジョシュア様は廃嫡の上終身刑となることが決まったのです。
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